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100%国産飼料飼育グレインフェッド短角和牛に対する食の専門家の反応/Grain-fed

こんにちは。畜産家の斉藤庸輔です。今日も奥羽山系の北の一角をなす稲庭岳の麓で「短角和牛の100%牧草飼育と100%国産飼料飼育」の二刀流構築に取り組んでいます。

牛への餌の与え方には、大きく分けて2つの道があります。

牧草や干し草だけで育てる「グラスフェッド」と、穀物を主体とした飼料で育てる「グレインフェッド」

同じ品種の牛でも、どんな餌を与えるのかによって、その肉の旨みも、柔らかさも、香りもまったく異なる個性が生まれる(逆に、同じ育て方でも品種が違えばまったく違う肉になる)。

放牧を取り入れつつ国産飼料だけで育てたグレインフェッドの短角和牛は、僕自身がどんな牛を育てたいのか、どんな味わいの牛を食べてみたいのか、自問してたどり着いた目標のひとつ。

それまで繁殖農家だった僕は、放牧地の近くにある耕作放棄地を自ら開墾し、飼料用トウモロコシを栽培し、牛の個体差を見極め、この土地だからこそできる実験を重ね、3頭目でようやく国産飼料100%飼育を実現した。

僕のここまでの実験的挑戦の結果としてのお肉。これから続いていく挑戦のこの地点でどう仕上がっているのか知りたい。そのためには、自分以外の、お肉に精通した人たちに食べてもらい、意見を聞く必要がある。

まず、シェフや料理人など、食のスペシャリストのみなさん。香りや食感、うま味の深さはどうか。さらに良い肉質にするために工夫できることはあるのか。

それぞれからいただいたコメントを振り返りながら、次に取り組むべきことを整理していく。

自分の“今”の実力と向き合うために

率直なフィードバックを集め、評価を客観的に冷静に見つめて、目指すお肉の土台づくりに向き合いたいという気持ちと同時に、どこか腕試しのような緊張も感じていた。

それでも、うまい短角和牛を育てるために僕自身の思い入れや主観は一度除いて、第一線の知識や経験値を持つ人たちがこの肉をどう思うのかを知りたい。そんな思いを巡らせながらそれぞれに肉を届けた。

提供したのはサーロイン。

後日、僕のもとにコメントが届いた。僕にとってとても大切な記録から、一部を振り返ってみる。

まずは、海外で修業を積み、和牛の赤身肉の調理と研究を重ねることで知られるシェフからのコメント。

「脂質は軽やかで、筋繊維の木目や締まりも良い。もう少し吊るすことでうま味や滑らかさが増すのではないか。粗飼料の割合を増やすことで、この牛の個性をさらに引き出せるのではと感じる

本当に良い肉を選び抜くために、自らが各地の生産地を巡り続け、さまざまな生産環境や飼料を観察し、焼き手としてそれらが肉質に与える影響をも見てきたシェフだからこその鋭い視点。飼料設計や熟成期間については、今後個体とのマッチングを重ねて探究していきたい。

続いて、国内外の食通に多様な料理を届けるケータリングの仕事を通じて食べ手のニーズを熟知している料理人からは、世界的な和牛への関心の高さとともに、生産のこだわりをストーリーとして伝える大切さについてコメントをいただいた。

「トウモロコシの甘い香りが広がり、とても美味しかったです。和牛は、外国人の食通のみなさんの関心も高いコンテンツのひとつ。そこに品種の特徴や生産の背景をストーリーとして届け、味わいと結びつけることができれば、食べ手の喜びをさらに深める強みになるのではないかと思います」

食べる体験は、味覚だけでなく、その背景にある物語や生産者の想いを知ることによっても豊かになる。食通たちの間では、産地の気候や風土、伝統、飼育方法・製法、環境への配慮まで、さまざまな観点での物語から食を選び抜くことは、もはや当たり前の時代なのだ。

次に、土地に根ざした食文化を研究し、先人たちの暮らしの知恵を取り入れた料理の楽しみ方を提案し続ける料理家からは、香りの表現についてコメントをいただいた。

「脂は甘さとまろやかさがあって美味しかった。塩胡椒はもちろん、醤油や味噌のような香ばしさが加わると、さらに味わいが広がるはず。香りについては好みが分かれるので、『香りが良い』と表現するときに、その『良い』が具体的にどんなニュアンスなのかを伝え、食べ手がイメージしやすいように導いてあげると、より理解が深まると思います」

特に同じ短角和牛でグレインフェッドとグラスフェッドの両方を育てている僕にとって、この味わいのニュアンスを意識して表現することはとても重要だ。仕入れる人や食べ手の期待と実際の味わいをどう結びつけるのか。

最後に、和牛品種のブランディングに携わる専門家からは、マーケティングの視点でのアドバイスも。

「香りに特徴がある。これはこれで好きな人がいると思います。大事なのはどんな層にこの肉を届けたいのか、ターゲットを明確にすること。こだわりの飼育から生まれた個性をしっかり伝え、納得して食べてもらえると、とても良いマッチングが生まれると思う」

味の魅力を引き出す技術的な視点から、食べ手に伝わるストーリーの構築、香りの表現、さらにはターゲットとの適切なマッチングまで。みなさんからいただいた言葉の一つひとつが、目指すお肉の土台づくりのための大きな糧となる。

今後は、この牛の個性をどのように表現し、誰に届けるのか。そして、その先にある食の体験をどう描くのか。「味わい」と「ストーリー」をどう結びつけて設計するか、という問いへと繋がっていく。

この問いへのヒントを得るために、次は食通のみなさんのもとへこの肉を届ける。100%国産飼料という生産背景にどのような関心が寄せられるのか。そして何より、味に対する反応はどうか。できれば、このお肉を楽しんで食べてほしいし、喜びを感じてほしい。

試食会の様子は、また追って。

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