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涙が出る日本の原風景~兵庫県餘部鉄橋・鎧(1993年2月)

二つの入江を山陰本線は貫きます

集落を飛び越える餘部鉄橋

餘部鉄橋は鉄道愛好者にはあまりにも有名な撮影スポット。両側を山に囲まれた小さな入り江に餘部の集落がある。山陰本線は、トンネルからいきなり空中に放り出された格好で入り江に飛び出してくる。その高さは41m。残念な事故は1986年12月28日に起きた。餘部鉄橋を通過中のお座敷列車「みやび」の客車7両が、突風にあおられて落下し、真下のカニ缶詰工場を直撃。犠牲者を出してしまった。それ以来防護柵が設置され、撮影しにくくなったようだが、この日も沢山の鉄道愛好者がカメラを構えていた。

餘部駅から撮影
餘部鉄橋を走る列車から
餘部駅を下車して集落に向かう

時刻表上では通過列車は無い筈だと思って餘部駅から下に降りてゆくと、頭上を「欧風客車」といわれたサロンカーが通過していった。集落から見上げる鉄橋は不思議なもので、まるで空中を列車が飛んでいくようである。まさか列車が降ってくるとは誰も思わなかったであろう。慰霊碑に手を合わせてからこの地を去る。

空飛ぶ列車

日本の原風景~鎧

山陰本線でもうひとつ行きたい駅がある。餘部の隣の鎧だが、「湾岸列車」(宮本輝著)という小説を読んでからどうしても訪れたくなった。写真も見た事はない。小説の描写だけで、この場所に憧れた。

そこは無人駅で、東西に低い山があり、北西に暗い口をあける日本海の小さな入江が切り込んでいる。南側にも低い山がつづき、三十数戸の民家は、窮屈な山あいの隙間に、人間の気配を感じさせずに密集している。

湾岸列車  宮本輝


現在、家は少し減ったようです。ホームから撮影


現在海側の線路は撤去されています。


集落に降りました


観光地ではないし、小さな普通の駅だが、駅から見下ろす集落が懐かしいような、切ないような不思議な雰囲気を醸し出していた。小説では、ここがひとつの舞台になっていたが、一目見た瞬間に小説の冒頭を思い出した。小さな入江に集まった集落は、気軽に足を踏み入れてはいけないような気がした。しかし、私は、急な坂道を降りて海岸線の集落に向かった。

海から集落を眺めます

なんでだろう。涙がでた。

ここから先は、追記です。
餘部鉄橋は2010年に新しい鉄橋に変わり、古い鉄橋は一部が展望施設になった。鎧駅は、連ドラの舞台にもなり、青春18きっぷのポスターにもなった。そのキャッチコピーは「なんでだろう。涙がでた」。

当時はネットで情報を得ることもなかった。小説の情報だけで訪れて、初めて見る景色は格別なものがあった。自分だけのお気に入りの場所が出来たと思った。鎧駅が注目を集めたのは嬉しいが、少し残念な気もする。また、ネットに情報があがりすぎ…という自分も情報をあげているひとりではある。ちなみに、現在は上り線は撤去され、少し離れた場所に展望台が出来ているようだ。

訪問日:1993年2月
執筆日:2002年8月3日
追記日:2025年2月17日

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雨男
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