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峠の無人駅。廃校跡の宿で過ごした休日~北海道「ふるさと銀河線」(2003年9月14日)
北見を16時12分に出発し、盆地を淡々と走った列車は置戸から峠越えに挑む。列車の乗客はわずか2人。雨の夕方の峠をディーゼルカーは走る。突然、けたたましい警笛が響き、急ブレーキがかかる。前方をシカが横切った…。
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僅かな乗客を乗せて峠道を行く
1989年6月4日に国鉄池北線から。第三セクターとして再出発した「ふるさと銀河線」。開業時から苦戦が予想されていた。初年度の1990年にこそは102万人の利用があったが、2003年度は53万人まで減ったと聞く。存続に向けて厳しい状況との事である。第三セクター化後は駅のリニュアルに取り組み、置戸の駅舎は図書館のロビーのような立派なものに生まれ変わった。ただし、そこでテレビを見ていた何人かは列車が来ても動かなかった。
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かつての学び舎で見た夢
17時37分。峠越えの途中の小さな駅、小利別で降りる。下車したのは私ひとり、駅は集会所のような立派なものだが、周りは原生林に囲まれた峠の中、付近に人の生活の気配は無く、この集落が無人化して久しいことがわかる。一番近い店まで16㎞とのことである。
遠ざかる列車を眺めて、旅情に浸っていると、いかにも旅人風の男女が歩いてきた。今宵の宿、民宿「夢舎」に泊まっている人が、私を迎えに来てくれたのだ。「夢舎」は、ドミトリー形式の旅人宿。駅近くの廃校を利用したものだった。ユースホステルのような雰囲気が懐かしい。
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今日は3連休の初日。特に行きたい所はないが、札幌に留まっていてもつまらない。それならば池北線時代に乗車した銀河線を再訪したい。そして、単調な感じのする銀河線をただ乗り通すより、途中下車して、峠越えの途中にある、駅近くの廃校を利用した「とほ宿」に泊まろうと思った次第である。
「ねぇ、鉄チャンなの?」
駅に迎えに来てれた女性の問いに、違うと答え、あくまでも偶然、ここを訪れたフリを続けた。私は30歳になったのを機にユースホステルの旅はやめた。若い人の邪魔をしたくないからである。実はここに泊まるのも躊躇していた。
「なんで? 40代でも50代でも旅している人たくさんいるよ」
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この日の宿泊者はライダーとドライバーばかり、鉄道で来たのは私とこの女性だけ。それでも、酒盛りでは旅の話で盛り上がった。この雰囲気懐かしいなぁ…。
途中、宿を抜け出して最終列車を見に行く…。乗客はゼロ。闇に消えてゆくディーゼルカーを眺めて、廃村同然の駅周辺を眺めて、銀河線の厳しい現実を痛感した。
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旅の友とのお別れもまた旅情
民宿での酒盛りや、居心地の良さに、もう一泊しようかという考えも頭をよぎる。すぐには出発せず、10時すぎまで宿でノンビリしていた。ずっと留まっても良いが、他にも行きたい所がある。名残惜しいが出発しよう。
私が乗る10時11分発の池田行きの快速「銀河」が近づいてくる。嬉しいことに、宿のスタッフと、私を鉄チャンと呼ぶ女性が見送ってくれる。ちなみに彼女は、別に何をする事もなくこの宿に連泊している。今朝も、誰もいないホームで優雅にコーヒーを飲んでいた。もしかして鉄子?
「写真、撮らなくていいの?」と言われたが、意地になって「撮らない」と答える。
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少し感傷的になる。そのような気持ちとは無関係に、小利別を出発した快速「銀河」は峠を疾走した。列車が走ると落ち葉が舞い上がり、列車の後方で踊っていた。もう秋が近づいている。列車の利用客は多く、座ることは出来なかったが、活気があるのは良い事。少し安心した。
10時59分。足寄に着いた。銀河線を代表する街のひとつだ。面積は1,400平方㎞と香川県に匹敵する広さを持つが、人口は1万人を切っている。人は少なくても、果てしなく広い大地が広がっている。松山千春の名曲はこの広大な大地で生まれた。ここで途中下車する。
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果てしない大空と広い大地
足寄でまず驚くのが、教会のような立派な塔をもった駅だ。この塔、千春「ありが塔」という。足寄はソークソング全盛期、一世を風靡した松山千春の出身地。この塔は、それにちなんでか、それとも千春が寄贈したのかどちらかだろう。この駅舎の中にミュージアムがあり、千春のレコードジャケットや、愛用していたギターなどが飾られていた。希望すれば映像も見ることが出来る。この日は、私より少し上の世代の夫婦が興奮しながら眺めていた。
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次に松山千春の家を見にゆく。個人の家だったため。写真を撮る事を躊躇していると、車で来た観光客が「写真を撮ってもいいですか」と家から出てきた人に声をかけていた。千春のお母様の姿も拝見する事が出来た。ファンだったら大喜びするのだろうなぁ…。ちなみに私は中島みゆきファンである。
列車の時間が近づいてから、塔に登れる事に気がついた。ダッシュで塔に登ったら息切れし、デジカメの1台を落として操作不能にしてしまった。したがって、「ありが塔」の外観画像は紹介できない。
旅人時代を思い出したローカル線の旅
最終ランナーの14時13分発の池田行きに乗る。峠越えとは雰囲気が変わり、大きなスケールの十勝平野のど真ん中を走る。窓を開けて風に吹かれる旅は久しぶりで、すっかり気持ちよくなる。ただし、快速「銀河」以外は客も少なく、危機説が現実だという事がわかった。
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池田着。昨日の宿が楽しかったので、今夜も旅人宿に泊まりたくなった。休みはあと一日。札幌行きの特急ではなく、新得行きの普通列車に乗り込んだ。
追記
銀河線は2006年4月に廃止されました。
小利別の「夢舎」も過去のものとなりました。
千春ありが塔は、現在登る事はできません。
訪問日:2003年9月14~15日
執筆日:2004年2月29日
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