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読書記録 -夢の上 多崎礼-

非常におすすめ。
「レーエンデ国物語」の美しく儚く、人間の感情の機微が繊細に表れた多崎礼先生の文章に引き込まれ、今ではすっかり虜になっている人間です。

夢の上3巻が12/6に発売されるのでまずは1巻をおすすめしたい。

あらすじ

始まりは広間。
夜を統べる王と夢売りの会話のやり取りから始まる。

夢利き」とは「彩輝晶(さいきしょう)」に秘められし人の夢を利く嗜みのこと。
彩輝晶」とは叶うことのなかった夢の結晶。
彩輝晶」に封じられし夢を、己が見た夢として再現するのが「夢利き」、そしてその手伝いをするのが「夢売り」である。

今回の単行本で収録されていたのは

・若草萌ゆる春の野原のような翠輝晶(すいきしょう)
・深い海のように暗く凍てついた蒼輝晶(そうきしょう)

舞台はイーゴゥ大陸という架空の大陸、そして大陸の全土を覆う灰色の巨大な時空晶。
サマーア聖教会の司教はその巨大な時空晶を「光神サマーア」と呼ぶ。

順を追って感想を言うのでネタバレ注意⚠️

・第一章 翠輝晶

第一章の主人公アイナはナダル地方の小領主カシート•ナダルの一人娘。
飢えで苦しむ領民達、容赦なく税を取り立てていくサマーア聖教会。

カシートは領民たちの苦労を鑑み、ギリギリまで税金を減らしていたため小領主といえど贅沢は許されなかった。食事は一日二回、貴族が嗜むお茶会など夢のまた夢。それでもアイナは幸せだった。

ある日アイナに十諸侯であるツァピールから
「嫡男オープの伴侶として当家に迎えられたい」
と縁談が舞い込む。
初めは不安でしかなく、まして雲の上のような存在である家柄の嫡男がなぜ?と疑問を抱いていた。
実際に会ったオープに聞いたところ、働き者で器量良しのアイナに一目惚れをし、実直に結婚の申し入れをしたとのことだった。
不器用でちょっと老け顔、とても一生懸命で誠意のあるプロポーズにアイナはこう思った。

なんて誠実な人なんだろう。
この人なら、私を生涯愛してくださるだろう。
そしてプロポーズを受けた。
幸せが待っていると思っていた。あのときまでは...。


 第一章読み終わった感想

あれ、後半から目に汁が...。
特にラストのオープとアイナが馬に跨り、自軍を鼓舞して笑いながら戦場を駆け抜けるシーンが印象的でした。

「ああ、アライス。貴方が作る国を見てみたかった」
「溢れる涙で視界がキラキラと輝きます。目映い光が私を包みます 。嬉しくて、誇らしくて、眩しくて――
ああ、もう何も見えません。」

夢の上 第一章より

涙腺崩壊、涙腺ぶわっ!!
とはまさにこのこと。実際はダム決壊寸前だった。

翠輝晶が睡蓮のつぼみに似たような形と書かれていたように、オープとアイナ、そして影である〇〇も「一蓮托生」という言葉がぴったりだと思った。
(〇〇に関してはネタバレになるので伏せました。気になる方は購入推奨です)

人の死に際について書くのもあれだが、こんなに美しく死を幻想的に書く人は中々いないと思う。
それほど魅力的な文章にどうしても心惹かれてしまう。

希望と言う輝かしい光を浴びながら、美しく砕ける宝石のようなラストシーンは感涙ものです。


・第二章 蒼輝晶


努力をしなくても1つ理解すればたちまち自分の物にできる「天才」がいる。
そういう人間は存在する。
それが第二章の主人公、アーディン。

切れ長の目に涼やかな美貌、すらりと背が高く、その声音も立ち振る舞いも隙もなく洗練されていて、舞台役者だと言われても信じてしまいそうです。

夢の上 第一章より

彼は天才ゆえに何でも手に入った。望んだものも何でも。
真剣に努力をしたことはない。
なぜなら簡単に習得してしまうから。
だから夢を見る必要がないと思っていた。あのときまでは。

アーディンは元々流民の旅芸人である。その父トラグティはどんな暴れ馬でも彼の手によればたちまち言うことを聞く馬の調教に長けていた。

毎年4月の終わりに行われる豊穣祭のときに出会ったケナファ領主エズラ・ケナファにより、父と一緒にケナファ家で軍馬の調教をすることになったのだ。

そんなアーディンの運命を変えたとも言える出来事、彼が8歳の頃、6歳の誕生日を迎えたばかりの少女イズガータとの出会いだった。

アーディンが子馬の世話をしていたとき、その人は現れた。

ぞくっとするような青い瞳を持つ少女、エズラ・ケナファの一人娘イズガータ・ケナファ。

甘い甘い、砂糖菓子のような幸福の日々。
それが終わった日のことを俺はきっと忘れない。


 第二章読み終わった感想

イヤァ〜〜〜...!!悲しい...!!

両想いなのは分かっているのに、相手が相手を大切に想うばかりにすれ違う。
その選択をしたのは自分でもあり、相手の決断。

あのとき強引にでも手を掴んでいれば。
あのときの後悔が襲ってきても、時は無情に進み続ける。

読み続けていてお互いの気持ちには気づいているのに!ともどかしくも感じていたが、これに言及するのは甚だおかしい。決めたのはあくまで多崎先生であり、登場人物の気持ちである。
第三者がとやかく言うことではない。

彼らがどのような道を歩んでいくのか、どんな思いを抱えながら生きるのかは彼ら次第なのだ。


まとめ

多崎先生の作品が好きな私ですが、毎回心を鷲掴みにされます。冒頭から優しく手を引っ張られ「おいで」と世界観へ誘ってくるような感覚。

読了後は一気に現実に戻されて放心状態に。
そしてもう一度あのファンタジーを味わいたい、もう一度読みたいと思わせてくる。

たまにはファンタジーの世界へ飛ぶのもありです。現実に疲れてしまったという方におすすめです。

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