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20代男性ピアスを開ける話

雲ひとつない澄んだ青空だった。新橋に着いたのは予約の時間よりも1時間も前だった。大型連休が終わった後の休日だったが、駅前は多くの人で賑わっていた。心配性を煮詰めたような性分なので小学生の頃から今日まで嘘偽りなく1度も遅刻というものしたことがない。それを差し置いても、この日予定の1時間も前に目的地に到着したのは一世一代のイベントを控えていたからだ。

事前にインターネットで各病院の口コミと費用をくまなく調べ上げ、選んだのは東京のとある街の名前を冠したクリニックだった。関東圏にいくつか分院があったが新橋を選んだのは交通の便なんかではなく、もちろん陽気な若者が少なそうだと考えたからだ。近くのカフェで時間を潰し、いよいよ予約の10分前となった。身なりを整えエレベーターで受付に向かう。

ウィーーーンッとエレベーターが開く。決して広くはなく、長椅子が何列か並ぶ如何にも病院の待合室という感じであり他に患者はいなかった。書き終わった問診票を受付の女性に渡すと、ファーストピアスはどれにしますかと尋ねられる。どれもカラフルな石がついていたり、明らかにピアスを開けたことが一目瞭然のものばかりであった。おかしいと思った。事前に確認していたシークレットピアスがないのだ。ダメ元で「あの、、できるだけ目立たないのがいいんですけど、透明のってないんですっけ」と聞いてみた。「あるんですけど、シークレットピアスだと+1,000円です。」いや、あるなら載せといてくれよとツッコミを入れたくなる気持ちを抑え、追加料金に若干気が引けるものの、当たり前のように透明のものを選ぶ。

5分ほど拳を固く握りながら待っていると、〇番様どうぞと呼ぶ声が聞こえた。担当しますAですと言った女性の看護師は、女優と言っても違和感のないくらい綺麗な人で、これから穴を開けるというのに耳がボッと紅潮するのを感じた。いやこれ今から針刺すのに血行良くなったら血が止まらなくなるじゃんと心の中でぷつりと唱えなかまら、注意事項に耳を傾ける。一度穴を開けると場所は変えられないこと、1ヶ月は外せないが問題ないか等、念入りに確認してもらい、最後にそれでは開けたい場所にペンで印を付けてくださいとネームペンのようなものを渡された。こだわりもないので、「どういうところがいいんですかね」と尋ねると、「お兄さん耳の形が綺麗なので、どこに開けても比較的正面からも見えやすいと思います」と言われた。別に人に見せたいから開けるのでもないし、逆に開けたことが見つかりやすいと困るのだがと思ったが、一応ありがとうございますと謎の感謝を伝え、分からないのでおすすめのところに印を付けてもらった。

使用するのは医療用のピアッサーということだった。印をつけて保冷剤のようなものを渡され、しばらく冷やすように言われる。3, 4分経ったくらいだろうか、ではこれから開けますねと宣告される。いやいやまだ感覚ありますよと言いたいところだったが、そんな女々しいことは言えないので、お願いしますと伝える。まさに死刑台に立ったような気持ちだった。

「バッチィッンッ」と小さな処置室に音が響いた。想像の何倍もあっけなく、刹那の出来事であり何も感じず自分の痛覚を疑うくらいだった。お風呂に入る時に軽くシャワー流してくださいねという言葉に押されるように待合室に戻り、その後すぐに手入れの仕方が書かれた紙とクロロマイセチンという抗生物質を貰い会計を終えた。

それから3ヶ月経って今では3つピアスを購入し、平日はセカンドピアスとして購入したシークレットピアス、休日はフープピアスを着けている。開けてどうかと聞かれたら大きく頷ける。街を歩くことが楽しくなった。開けるまでは全く気にしていなかった、いやあったとしても見ることのなかったアクセサリー専門店を覗いたり、他人がどんなデザインのピアスをしているのかよく観察するようになった。またピアスをするとオンオフの切り替えが以前よりも明確になり、休日を平日とは別の人間として生きられるようになった。今のところ後悔はない。あえてあげるのであれば、欲しいピアスがどんどんと出てきて浪費が加速したくらいである。今更か、怖いなと思って躊躇している人に言いたい。死ぬまでにピアスを楽しめる時間が1分ずつ減っている。今すぐ予約してほしい。

ちなみにシークレットピアスといえど、ファーストピアスは穴を固定する為ある程度大きく作られてある為に3割の人に気づかれたが、1ヶ月後に更に小さいシークレットピアスを購入し替えてからは一度もバレていない。

おすすめはこれだ!(筆者はピンクを使用)
https://item.rakuten.co.jp/rinrinrin/h1132-285/


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