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【ぼーっとアート】キース・ヘリング《楽しさで頭をいっぱいにしよう!本を読もう!》

どうも。いかたこです。

ぼーっと眺めるから、見えることがある。
ぼーっとアートは、私の好きなアート作品をぼーっと眺めて、感想や考察をひたすら書くというシリーズです。

※この記事に書かれている内容は個人的な感想であり、美術や歴史的な根拠は一切ありません!

今回の作品は、キース・ヘリング《楽しさで頭をいっぱいにしよう!本を読もう!》です。
写真は、「キース・ヘリング展 アートをストリートへ」で撮影したものです。

それでは、ぼーっと眺めていきましょう。


ポップで可愛らしく、明るい。
キース・ヘリングの絵って、何だかそんなイメージ。
そして、実際に展覧会で作品を見ても、そのイメージは変わりませんでした。
キース・ヘリングの作品の凄さは、そのような純粋さにあると思います。だから、思わず足を止めるし、印象にも残る。

《楽しさで頭をいっぱいにしよう!本を読もう!》

ちょっとマヌケな顔で笑っていて、頭の中にいろいろなものが詰まっています。とっても賑やかで楽しそう。
絵の下には、「FILL YOUR HEAD WITH FUN!START READING!」(楽しさで頭をいっぱいにしよう!本を読もう!)と書かれています。
解説文を読む前は、本の楽しさを伝えるための作品かと思いました。
でも、実はこの作品、ある社会問題の解決を訴えかけています。

本作はニューヨーク公共図書館の依頼で識字率向上のために制作されました。多様な人種・民族で形成されるニューヨークでは、当時から英語でのコミュニケーションに課題を抱える人も多く、日常生活での支障だけでなくコミュニティからの疎外など、多くの困難が生じていました。

《楽しさで頭をいっぱいにしよう!本を読もう!》解説文より引用

キース・ヘリングは、アートを通してメッセージを発信する活動家でもあったそうです。

私がこの絵を好きな理由は、社会問題への訴えが、可愛らしく明るく表現されていたからです。可愛くて明るいからこそ、その訴えを、事実を受け止めようと思えるのです。



少し話が変わります。
私たちは相手に何かを伝えるときに、わざわざ遠回りをすることがありますね。伝えたいメッセージを、小説で、映画で、絵で、表現します。授業でも、生徒に伝えるために教材を工夫します。
例えば、思いやりは大切だ、ということを伝えたいのであれば、「思いやりは大切だよ!」と伝えればいい。そうすれば、伝えたいことがわずか数秒で伝わる。けれど、私たちは思いやりの大切さを伝えるために、様々な工夫をします。道徳の授業でも、物語から考えてみたり、自分の体験を振り返ってみたり。なぜか、遠回りした方が伝わる気がするんです。



話を戻します。
怒られた時にムカッとしてしまうように、みんなきっと、社会問題や悲しい現実の全てを、そのまま受け止めることはできないのだと思います。目をつぶってしまったり、反論してしまったり。

《楽しさで頭をいっぱいにしよう!本を読もう!》

「英語の識字率が低い」という社会問題について、怖い顔した政治家たちが訴えかければ、その重要性は分かると思います。けれど、自分には関係ないなと思ったり、そう言われてもなと反発したり。やっぱり自分の心の中にスッと入ってこない。

でも、この絵を見て、この少しマヌケな顔のポスターで訴えられたら、社会問題と向き合えそうな気がしませんか。楽しそうなものや面白そうなものに、私たちは正直なんですよ、きっと。


他にも、社会問題へ訴えかける、風刺的な作品がいくつもあります。
例えば、こんなのとか、こんなのとか。

《無知は恐怖 沈黙は死》
《南アフリカ解放》


キース・ヘリングの絵には、子どもらしさがあると思います。シンプルな線、平面的な構図、鮮やかで分かりやすい色彩など。これらは、子どものような純粋さを持っています。
時として、大人の論理的な話よりも子どもの純粋なメッセージの方が、相手に伝わって心を動かします。

大人たちが理屈っぽく「こうこうこういう理由で世界平和は実現できる!」と主張しても、「いやいや、それにはこんな問題があってね。それができたら苦労しないよ!」って、反発をくらうことでしょう。でも、子どもたちが素直に「世界が平和になってほしい!」と言った願いは、そうだよねって賛同できるし、どうすればできるかなって実現の方向に少しでも意識が向くと思います。

課題への純粋さや明るさが、《楽しさで頭をいっぱいにしよう!本を読もう!》からたくさん感じられました。


《楽しさで頭をいっぱいにしよう!本を読もう!》

また、悲しい現実への問いかけは、痛みを伴います。
悲惨なニュースを見て、心が擦り切れてしまうように。
向き合わないといけない、と思っていても、自己防衛で見て見ぬふりしてしまうこともあります。

でも、ヘリングの絵にはユーモアというか、救いがあるんです。
ヘリングは、暗い感情や出来事を、明るい色や楽しい動きで表現しています。
これは、つらい現実を背負っている当事者からすれば、気に入らないことかもしれません。でも、私のように、そうしないと社会問題と向き合えない人もいるはずです。

苦しい世界には暗い色を。悲しい出来事には涙を流して。
それが、この世界との正しい向き合い方なのかもしれません。でも、それが全てではないと、ヘリングの作品を見て思いました。直接的な伝え方しか認められないのだとしたら、私たちは何も、表現の工夫をする必要はないのですから。


以上が、《楽しさで頭をいっぱいにしよう!本を読もう!》を眺めながら、思ったことです。

最後までご覧いただきありがとうございました。次回もお楽しみに。


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