こんな大人になりたいと思った日のこと
大人になりたくないと19歳の私は思っていた。今では18歳から成人だけれど、私の頃はまだ20歳から成人だった。20歳になれば、大人の仲間入りをしなければならない。私は不安だった。今の自分は、かつて思い描いた大人にはほど遠い。こんなに自分勝手で何もできない人間が、大人になっていいはずがない。20歳になる半年前くらいからは、大人になりたくないモードが暴走していた。
私のそんな不安を、大学の友人であるNくんは聞いてくれた。大人になるというのがいかに恐ろしいことなのかを、私はまるで反大人同盟の代表であるかのようにいつも語っていた。
どれだけ大人になるのが嫌でも、20歳の誕生日はやってくる。大人になりたくない思いも、大人になってしまえば諦めがつく。Nくんは私よりも誕生日が3ヶ月ほど遅かったから、私はNくんに「先に大人になってるね」とドヤ顔で言った。
それからしばらくして、Nくんの誕生日になった。さあ、いよいよNくんも大人になる。大学でNくんに会った時、「誕生日おめでとう。今日から大人の仲間入りやね!」とお祝いの言葉を伝えた。すると、Nくんは「実は今日で21歳になるねん」と言った。えっ、どういうこと? 頭の中でハテナがたくさん浮かんだ。Nくんは未来から来たってことか?
どうやらNくんは大学受験を一浪していたらしく、1歳年上だった。大学ではよくあることだが、私はとても焦った。もちろん、Nくんが年上だと分かったことで、今までの友人関係が不安定になるという可能性もあった。でも、Nくんの性格や今まで一緒に過ごした日々を考えると、年齢なんかで私たちの関係は1ミリも動かない。
それよりも、大きな問題があった。Nくんが21歳になるということは、私が「大人になりたくない!」と言っていた時には、Nくんはもうすでに成人していたのだ。もう大人になった友人に、私は長々と大人への恐怖を話していた。自分勝手な考えを、まるでこの世の真理のように語る私。一方で、友人のよく分からない話を受け止めて聞いてくれるNくん。なんてかっこいい大人だろう。その日から、私は彼のような大人になりたいと思った。
もしかしたら、Nくんは心の中で私の話にむかついていたかもしれない。でも、おそらく彼は面白がってはいたとしても、怒ってはいなかったと思う。それくらい、彼の懐は深くて温かい。今でも私の憧れの大人だ。
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