SDGsインパクト評価(2)
前回の投稿「SDGsインパクト評価(1)」では、「インパクト評価の定義」について紹介しました。今回はアウトカムの変化を計測することが困難な場合について解説します。
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企業の事業活動のロジックモデルは、「インプット(投入)」、「アクティビティ」(活動)、「アウトプット(産出)」、「アウトカム(成果)」という流れで構成されますが、SDGsインパクト評価とはこの中のどこの変化を測るものでしょうか。インプットの変化を測るのであれば、アクティビティに投入した資金量や人材の数量を見ることになります。アウトプットの変化を測るのであれば、アクティビティを通じて産出された製品の生産量、サービス提供の数量などを示すことになります。アウトカムの変化を測るのであれば、アクティビティを通じて対象者や社会、環境に生じた変化を確認することになります。
前回の投稿でご説明したように、インパクトをアウトカムの変化と解釈するのであれば、当然ながら事業活動のアウトカムに注目してその変化を計測するのが、SDGsインパクト評価ということになります。しかしながら、事業活動のタイプや取り組むSDGsによっては、アウトカムの変化を計測することが極めて困難な場合が存在します。その際、アウトカムの代替としてアウトプットの変化を示すことが良く見られます。
<アウトプットの計測で代替されるケース>
SDGsインパクト評価をアウトプットレベルで示す場面には、次のようなものがあります。
まず、企業内の人材育成に関わる活動です。SDGsのゴール4は教育全般の拡充を狙うものですが、企業内の技能研修、人権研修のような従業員の能力構築に繋がる活動も含まれます。この場合、研修の実施がアクティビティであり、アウトプットは研修に参加した従業員ということになります。アウトカムは、研修参加によって実際に従業員のスキルや意識、行動の変化、あるいは本人や周りの人々の生活の変化などによって計測されることになりますが、それぞれ容易ではありません。研修参加者の公的な技能試験の合格率などでスキルの変化を確認することもできますが、多くの場合は具体的に測ることが難しいです。したがって、企業内の人材育成に関わる活動の場合、アウトカムの変化ではなく、アウトプットの変化によってSDGsゴール4への貢献を示すことが多いです。アウトプットの変化を測る指標として、例えば研修の参加者数、研修の実施回数等が用いられます。
第二は、企業内の女性従業員の活躍推進に関わる活動です。これはSDGsのゴール5の達成に貢献するものです。女性活躍推進法の成立を契機に、女性従業員の能力構築を進め、リーダーシップの機会を積極的に提供する企業が増えてきています。女性従業員を対象として管理職を育成するための研修を実施するケースも見られます。この女性管理職育成研修の実施をアクティビティとすると、アウトプットは研修を受講した女性従業員になります。そして、アウトカムは実際に管理職に登用された女性従業員ということになります。しかし、管理職へ登用するのは企業自身なので、アクティビティの対象者への変化とは言いにくいです。管理職に登用された後の対象者の変化を確認するのであれば、これも本人や周りの人々の生活の変化などを測ることになりますが、これが困難であるのは、人材育成のケースと同様でしょう。この場合も、女性管理職研修の実施回数、参加者数などを指標として、アウトプットの変化を計測することになります。
第三は、自社のアウトプットの全般のSDGs貢献を示す場合です。例えば、サステナブル商品認定のような制度を設けて、自社の商品に占める当該商品のシェアや売上高比率を報告するといった試みです。環境への負荷を主に考慮する事例が多いですが、社会課題へのソリューションの提供も含めている事例もあります。この場合は、複数のSDGsの達成が意図されているわけであり、アウトカムも様々です。複数のアウトカムの達成状況を貨幣価値で換算して総合的に示すような手法はありますが、煩雑で専門的な作業です。こうした総合的な測定を行わずに、サステナブル認定商品の売上高比率のようなアウトプットレベルの変化でSDGsインパクトを示す事例は多いです。
第四は、何らかのサステナブル認証などを使って調達先を選別する場合です。例えば、農林水産部門では従事者や産物を対象とする各種のサステナブル認証が設けられています。FSC(森林管理協議会)の森林認証、MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)の漁業認証規格 、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)のパーム油認証など、国際的な認証制度が各種設けられています。自社が農林水産物を調達する際に、このような公的認証を受けている業者と優先的に取引をするべくつとめている企業は少なくないです。あるいは、公的認証でなくても、企業自身が独自の調達ガイドラインを設け、財やサービスの調達先に環境面、人権面などでの基準の遵守を求めることもあります。この場合、調達先の中で公的な認証を受けている業者や産物が何割か、あるいは調達ガイドラインの取り決めに同意した業者が何割かといった比率が示されます。
もしも、調達先に対して認証取得のための技術支援などを提供すれば、アウトプットは技術支援を受けた調達先、アウトカムは調達先の認証取得と解釈されます。調達先の農園などに現れた社会面、環境面の変化を計測し、最終的なアウトカムを示すこともできます。しかし、調達先にこうした支援を行わず、単に選別の際の判断基準として認証を使っているのであれば、調達先への影響は不明です。取引先として選別された業者は、既にサステナブルな基準をクリアしていたところかもしれないです。選別行為が、調達先に社会面、環境面の行動変化をもたらしたとまで解釈するのは、少し無理があります。それゆえ、調達先の中でサステナビリティ認証を受けた業者や産物の比率といった、アウトプットレベルの変化を用いて、SDGsへの取組みの成果を示すことが一般的です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11月は「SDGsインパクト評価(1)、(2)」をお届けしました。
企業のSDGs達成への取り組みによって計測された社会や環境に対する変化とは、どこで現れるものなのでしょうか。次回は「SDGsインパクト評価(3)」として、バリューチェーンの観点から、変化が現れる場所、について整理します。
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