「働きがいも経済成長も」って!?(2019年4月号)
※本記事はIDCJ SDGs室がこれまでのメールマガジンで取り上げた特集です。掲載内容はメールマガジン発行当時の状況に基づきます。
先日、ある市民講座で講師としてお話をする機会がありました。この講座は、SDGsの各目標について毎月外部から講師を招き、9カ月にわたって全体像を学ぶというもので、中学生から80代まで非常に幅広い年代の方々が受講されているとのことでした。私の担当は、目標8「働きがいも経済成長も」でした。具体的にこの目標は以下のように説明されています。
「包摂的かつ持続可能な経済成長及び全ての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」
講義の前半には、失業や強制労働、児童労働、若者やジェンダーに関わる労働の現状など、世界における様々な問題をお話しました。もちろんこれらの問題は日本にも何らかの関わりがあるものです。それ以外にも、日本では最近、労働に関して様々な話題や問題が論じられていることを念頭に置いて、後半には、目標8の中心テーマといえる「ディーセント・ワーク」について、各人にとって職場で「ディーセント・ワークが満たされている」のはどういう状態なのかを考えていただきました。参加者がいくつかのグループに分かれて議論をしたのち、その内容を全員が共有しました。
それぞれのグループでは活発に話し合いが行われていました。まだ働いたことのない中学生や高校生に、人生の大先輩が「昔の職場では、皆が当たり前と思って夜遅くまで働いていた」などと説明する声が聞こえてきました。全体発表では、ディーセント・ワークの重要な要素として、賃金、労働時間、従業員の意見が通ること、自分が役に立っていること、仲間がいること、などの意見が出されました。その一方で、「若い人の意見が通らないのは日本の会社がなかなかやり方を変えようとしないからでは」などという意見も紹介されました。
皆様の熱心な意見の交換を後で思い返して、講師として少し反省する点もありました。このところ日本では、ブラック企業、パワハラ・セクハラ、過労死など、雇用や労働に関する深刻な問題が日々報道されています。目標8に限らず全てのSDGsの達成とはそもそも社会の課題を解決することであると言えるでしょう。しかし、立ちはだかる問題や課題ばかりを強調していたら、これから社会に出ていく若い人たちが、働くことはとても怖いものであると思ってしまうのではないか、ということでした。
一方で、現役世代からの勇気づけられる発言もありました。
そもそもの話に戻りますが、目標8のスローガン「働きがいも経済成長も」とはどういう意味なのでしょうか?働きがい「も」経済成長「も」とわざわざ強調されているのは、放っておくと「働きがい」と「経済成長」は矛盾する、つまり経済が成長すると働きがいは失われてしまう、という考えが前提にあるからでしょうか?そんな疑問を、講義の冒頭に参加者の皆様に投げかけていました。
それに答えて下さったのは、地域の企業で若手社長として活躍されている参加者の方でした。自身の経営の経験から、「社員が働きがいを感じれば自然に企業も成長する」と力強く語っておられました。経営者がそのような考えをもつ会社であれば、若い人もぜひ働きたいと思うに違いありません。
その時、何やら不安がかき立てられる「働きがいも経済成長も」が安心できる「働きがいも経済成長も」に、鮮やかに転換したような気がしました。年齢幅70歳の、まさに世代包摂的なこの市民講座のすばらしさを感じた瞬間でした。
参考:SDGsの各ゴールについて解説:Goal8「働きがいも経済成長も」
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