TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の概要「背景と目的」
全2回に渡り、TCFDの概要について掲載します。今回は「背景と目的」についてです。
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日本では、2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいて、プライム市場上場会社に対してTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)、またはそれと同等の気候変動の影響の開示が求められることになりました。TCFDに対する関心が改めて高まるとともに、これまで気候変動の影響関連の情報開示をしてこなかった企業が一斉にその準備を始めていることは皆様もご存じのとおりです。
そもそもTCFDは、G20の中央銀行総裁および財務大臣からなる金融安定理事会(FSB) の作業部会の一つでした。投資家等に適切な投資判断を促すため、効率的な気候関連財務情報開示を企業等へ促す枠組みを開発することを目的としています。今回のメルマガではこのタスクフォースが設立された背景と目的についてまとめてみます。
<地球温暖化抑制への国際的取り組み>
地球温暖化による気候変動は、将来の人類の生存基盤を揺るがす深刻な社会課題として理解されています。今後の温暖化の進行が、将来の生態系や人間社会、経済活動に及ぼしうる影響は甚大なものと危惧されています。
地球温暖化を抑制するため、1980年代から国際社会において数々の取り組みが進められてきました。1988年には気候変動に関する政府間の検討の場として「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が設立され、1992 年には「国連環境開発会議(通称:地球サミット)」が開催され、気候変動枠組み条約の署名が進められました。それ以降、毎年開催される同条約の締約国会議(Conference of Parties: COP)の場で、温室効果ガスの排出削減策等が協議されてきました。さらに2015年に合意された「パリ協定」では、途上国を含む全ての参加国と地域に、2020年以降の「温室効果ガス削減・抑制目標」を定めることが求められました。
しかし、実際に各国がこうした削減目標に沿って行動しそれを達成するかに関しては、法的な拘束力はなく、あくまで各国の自主性に委ねられています。ですから、仮にある国が国内の温室効果ガス排出規制を強化しても、その国の企業が生産拠点を規制が緩い国外に移転させてしまえば、世界全体での排出量削減には至らないことになります。国単位で温室効果ガスの排出規制に取り組むにはおのずと限界があることになります。
また、事業活動のグローバル化に伴い企業によっては、その経済規模が国を凌駕するほど大きくなっています。温室効果ガス排出規制の対象を国ではなく個々の企業に定め、企業側の行動変容を通じて、排出削減に取り組むことができれば大きな効果が期待できることになります。加えて、企業の行動変容を促す上で、投資家を含めた金融部門の影響力が大きくなっており、金融部門の主導による温室効果ガスの排出削減を進めることへの期待が高まっていることもTCFD設立の重要な背景の一つであると考えられています。
<金融安定性と気候変動>
金融部門にとっても気候変動対策は重大な関心事です。2015年12月にフランス・パリにおいて、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催され、いわゆる「パリ協定」が採択されることになったのですが、その数か月前に、当時の英国中央銀行総裁及び金融安定理事会(FSB)議長であったマーク・カーニー氏は、英国保険業界への講演の中で、気候変動と金融の安定について見解を示しています。同氏によると、気候変動が金融の安定性に影響を与える可能性は大きく、金融セクターは気候変動が金融システムにもたらすリスクを考慮に入れる必要があるとしています。そのリスクとして次の三つを挙げています。
1)物理リスク:洪水や暴風雨などの気候変動に起因する財の損傷、貿易の混乱から生じる金融資産の価値への影響
2)賠償責任リスク:気候変動の影響から損失または損害を受けた当事者が、彼らがそれに責任を負うべきとするものからの補償を求める場合に発生し得る影響
3)移行リスク:低炭素経済への移行を促進するための政策的な措置の導入等による影響
同氏によると、こうした気候変動のリスクに金融市場が対処するためには、情報の透明性の構築が重要となります。一貫性があり、比較可能で、信頼性があり、そして明解で効率的な情報開示の枠組みが開発されるべきであり、そのためには、民間主導で気候情報開示タスクフォースを設立し、事業会社の気候変動への対応姿勢や成果に関する情報開示の自主的基準を設計し提供することが必要だと述べています。
すなわち、今後の気候変動が金融システムの安定性に及ぼす懸念および、情報開示体制の整備の必要性が、TCFD設立のもう一つの背景であるということです。G20の財務大臣・中央銀行総裁が、金融安定理事会に対し、金融セクターが気候関連課題をどのように考慮すべきか検討するよう要請し、同理事会は2015年のCOP21の開催期間中に、民間主導によるTCFDの設置を表明することに繋がりました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・次回はTCFDの概要「提言内容」について掲載します。
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