ロジックモデルと成果指標について(2)

 前回の投稿「ロジックモデルと成果指標について(1)」では、インプット、アクティビティ(事業活動)、アウトプット、アウトカムから構成されるロジックモデルについて紹介しました。それぞれの概念について改めて説明します。

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 インプットとは、事業活動を行うために使う資源(ヒト・モノ・カネ)のことで、アクティビティとは、モノ・サービスを提供するために行う諸活動を示します。そして、アウトプットは事業活動によって提供されるモノ・サービスを示します。一方、アウトカムは事業活動を通じて生み出すことを目的としている変化・効果を示します。特にアウトプットとアウトカムは間違えやすい概念であり、それぞれの相違を理解する必要があります。

 アウトプットはインプットと相関する概念であり、インプットの数量を増やせば、アウトプットの数量も増えるはずです。逆に、インプットの数量を減らせば、アウトプットの数量も減るのが必然です。一方、アウトカムはアウトプットと相関してはいるものの、アウトプットの数量を増やせば、それだけアウトカムも増えるといった単純な関係ではありません。アウトカムの発現には外部要因がかなり影響するからです。アウトプットを受け取る人々やその地域社会等に変化が現れるには、社会面、環境面で様々な要素が関わってきます。

 つまり、アウトプットの数量は、インプットの数量を増減することで、ある程度まで企業がコントロールすることができます。一方、アウトカムの数量については、外部要因が影響するので、必ずしも企業がコントロールすることはできません。

 企業が事業活動のサステナビリティへの貢献度を報告する際に、成果指標(KPI:Key Performance Indicator)として何らかの指標を設けて、時系列の変化などを提示することが多いです。その場合、成果指標として用いられるのは、第一に「資本や人材の投入量を示すインプット指標」、第二に「製品やサービスの産出量を示すアウトプット指標」、そして第三に「アウトプットを受け取る人々や地域社会等に現れる変化を示すアウトカム指標」の三者になります。

 本邦企業のサステナビリティ報告書等を見ると、この三つの指標の中で最も多く使われるのはアウトプット指標です。サステナビリティへ貢献する製品やサービスをどれだけ市場に供給したか、サステナブルな活動を何回実施したかといった数量が測定され、報告されています。その一方で、アウトカム指標については、使用されるケースは限られているようです。前述のようにアウトカムの発現には様々な外部要因が影響するので、企業が必ずしもコントロールすることができません。企業が自ら成果を完全にコントロールできない事象について、進捗を報告することはやはり躊躇されるのでしょうか。

 また、アウトカムはアウトプットを受け取る人々や地域社会等の変化を見るものであり、企業自身が数値を直接に把握できないケースが多いです。公的な統計データで代替できるのであれば容易ですが、場合によっては、外部の団体に委託して顧客等のアンケート調査を行ったり、地域の野生動物の生育状況を観察するような追加的作業が必要となります。これも、アウトカム指標の採用を躊躇する理由になっていると思われます。

 しかし、企業のサステナビリティへの貢献を示す上で、インプットやアウトプットの数量を示すだけでは十分でないです。相当な数量の製品やサービスを提供したり、活動を実施したとしても、サステナビリティへの貢献が示されなければ、事業活動を行うことが疑問視されます。SDGsウォッシュとの批判につながりかねないです。成果指標として、アウトプット指標だけでなくアウトカム指標も設定し、サステナビリティへの貢献度を示すことが必要です。

 ここで、最後にアウトプット指標とアウトカム指標の違いを説明するために仮想事例を二つご紹介します。それぞれクイズを出題しますので、答えを考えてみてください。

<事例1>
 Aは調味料を開発している化学企業です。同社が製品を供給しているB県では、高齢者の人口割合が高く、塩分採り過ぎを原因とする脳卒中が住民の間で増加しています。B県はA社と協働で減塩調味料の普及を通じて、脳卒中の発生を抑えるための活動を実施することにしました。

 ここで、A社の事業活動を「減塩調味料の開発、生産、販売」と見なします。すると、アウトプットは「B県の住民に提供される減塩調味料」となります。そして、アウトプット指標としては、当該製品のB県における販売量等が挙げられます。

 それでは、この事業活動のアウトカムとはなんでしょうか。さらに、そのアウトカムを測る指標としては何が適当でしょうか。そのデータはどのように入手できるでしょうか。

<事例2>
 C社は菓子を製造する食品加工企業です。D国の農園から農産物を調達して原材料としています。熱帯に位置するD国では、プランテーション農業による森林生態系の破壊や、児童労働を含む強制労働の存在が懸念されています。そこで、C社は調達先の農園に対して、国際的なサステナビリティ認証を取得することを求め、これを促進するため研修など支援活動を実施しています。

 ここで、C社の事業活動を「調達先農園に対するサステナビリティ認証取得支援活動」と見なします。そしてアウトプットを「認証取得支援研修」とします。この場合、アウトプット指標は当該研修の実施回数や参加者数等になります。

 それでは、この事業活動のアウトカムとはなんでしょうか。さらに、そのアウトカムを測る指標としては何が適当でしょうか。そのデータはどのように入手できるでしょうか。

<回答(案)>
 事例1の場合、まずは減塩調味料を提供して、実際にB県の住民の塩分摂取量がどの程度低下するかがポイントになります。直接的なアウトカムは「住民の塩分摂取抑制」になると考えられます。さらに、B県の課題である「住民の脳卒中防止」が、これに続くアウトカムとして考えられます。これらを測るアウトカム指標としては、「住民の塩分摂取量」、「住民の脳卒中発生率」が適当でしょう。アウトカム指標のデータ源は、B県の健康・保健に関連する部局等が統計データを収集しているのであれば、それを利用できます。こうしたデータが無ければ、住民アンケート調査などを実施する必要があります。

 事例2の場合、まずはサステナビリティ認証取得のための支援活動が、実際に有効であるかがポイントになります。直接的なアウトカムは「支援対象の農園の認証取得」になるでしょう。さらに、こうした認証を取得することで、当該農園のサステナビリティが確保されることが、これに続くアウトカムとなります。

 このサステナビリティの確保が具体的に何を指すかは現地の状況によりますが、たとえば「農園労働者の労働環境の改善」、「児童労働の根絶」、「野生動物の生態系の保全」などが挙げられるでしょう。これらを測るアウトカム指標としては、「農園労働者の感染症罹患率」、「児童労働事例の報告数」、「野生動物の生育数」などが候補となります。アウトカム指標のデータ源は、D国の統計データが一部は使えるかもしれません。しかし、多くのデータは現地のNGOや研究機関等に委託して独自に収集せざるを得ないと考えられます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10月は全2回に渡り、「ロジックモデルと成果指標について」をお届けしました。
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