TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の概要「提言内容」
前回掲載したTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の概要「背景と目的」に続き、今回は「提言内容」について見ていきましょう。
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TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)とは、
・G20の中央銀行総裁および財務大臣からなる金融安定理事会(FSB)
の作業部会の一つ、
・2017年に「TCFD最終報告書:気候関連財務情報開示タスクフォース
の提言」を公表、
・2021 年 10 月には「提言」が一部改訂され、新たなガイダンスも
示された
と、お話しました。今回は、このTCFD提言の概要に触れていきます。
<TCFD提言の構成>
一般に「TCFD提言」と呼ばれる「TCFD最終報告書」は投資家向けの気候関連情報の開示フレームワークを示したものです。投資家等に適切な投資判断を促すため、効率的な気候関連財務情報開示を企業等へ促す枠組みを開発することを目的とします。投資家との対話のみならず、自社として気候変動のリスク・機会を認識し、これらを織り込んだ経営戦略を立案するためのツールにもなります。
「TCFD最終報告書」は、企業に対して次の4項目での情報開示を求めています。
1)ガバナンス:気候関連リスクと機会を経営戦略に反映するため、いかに経営陣を巻き込んだ体制がつくられているか、さらに、リスクと機会に対する取締役会の監督体制、経営者の役割について開示が求められます。
2) 戦略:短期・中期・長期のリスクと機会、およびこれが事業、戦略、財務に及ぼす影響、気候関連シナリオを考慮した組織戦略の開示が求められます。
3) リスク管理:リスク識別と評価のプロセス、リスク管理のプロセス、組織全体のリスク管理への統合状況について、開示が求められます。
4)指標と目標:組織が戦略・リスク管理に則して用いる指標、GHG排出量、リスクと機会の管理上の目標と実績について、開示が求められます。
<気候変動のリスクと機会>
企業は気候変動が事業活動にもたらす潜在的なリスクと機会を把握する必要があります。リスクには、異常気象による自然災害や農産物不作といった「物理的リスク」と、GHG排出に関する各国の規制の強化、消費者選好の変化などといった「(脱炭素社会への)移行リスク」の二つがあります。
物理的リスクについては、例えば長期的な気候変動により食品産業であれば原材料となる農産品や畜産品を安定的に調達することが困難になります。あるいは、暴風雨や洪水によって輸送・物流インフラが機能不全に陥り、機械メーカーなどは国内外からの部品調達が滞るかもしれません。
移行リスクとは政策や市場の変化といった非物理的なリスクであり、例えば、エネルギー産業であれば、政府が炭素価格や排出権取引を導入することで、火力発電のコストが増加することになります。あるいは住宅メーカーの場合、森林伐採への批判や政府の政策変更などにより木造住宅へのニーズが減少するかもしれません。
一方で、気候変動は事業活動にリスクだけでなく機会(ビジネスチャンス)ももたらします。機会はリスクと裏腹な関係にあり、リスク対応の過程で生じることも少なくありません。例えば、低炭素型商品やサービスの開発、低炭素エネルギー源の利用、再エネプログラム、省エネ対策の推進などが機会として挙げられるでしょう。
<気候変動のシナリオ分析>
TCFD提言における4項目のうち「戦略」では、さまざまな気候関連シナリオの検討を踏まえて、組織の戦略におけるレジリエンス(回復力)を説明することが求められます。
気候変動の影響といっても、地球温暖化など規模が極めて大きな話です。これが企業の財務面に及ぼす影響は不確実、不明瞭であり、また実際に影響が現れるのは10年先といった遠い将来になるかもしれません。しかし、判断が難しいからといって検討を先送りできるものではなく、不確実な将来に備えて事前に対策を考えなければなりません。
そこで、複数の気候関連シナリオを想定し、気候変動のリスクと機会がどのように現れるか、さらに、財務的にどの程度のインパクトを及ぼすことになるか検討することが求められます。例えば、2030年あるいは2040年までに、気温上昇が産業革命時期比較で「4℃上昇するシナリオ」、「2℃上昇するシナリオ」の2つを想定します。それぞれのケースで、上記のリスクと機会は具体的にどのように現れるかを検討します。そして、それぞれが自社の事業と財務にどういった影響を与えるかを、定性的、可能ならば定量的に推測します。
「4℃シナリオ」は現状の気候変動対策をそのまま続けるシナリオであり、温暖化のペースを落とすことができないため、自然災害による経済被害は甚大なものとなり得ます。石炭火力発電など従来型のエネルギー事業は主に新興国において維持拡大します。「2℃シナリオ」はパリ協定の合意を受けて気候変動対策を世界規模で強化するシナリオであり、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が進み、EVやZEH(Net Zero Energy House:
ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)といった低炭素型商品の需要が増加します。企業はこうしたシナリオ分析を通じて、将来の不確実性に対応した戦略を立案し、これを投資家等と対話してゆくことになります。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・TCFDの概要「背景と目的」「提言内容」を2回に渡り、お送りしました。
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