SDGインパクト基準について(1)
今月は「SDGインパクト基準」について、2回に渡り掲載します。
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<SDGインパクトの背景>
SDGインパクト基準(SDG Impact Standards)とは、企業や投資家がサステナビリティやSDGsを経営システムや意思決定に取り入れるためのガイドとなるよう設計された、自主的な管理基準です。その名称から、インパクトを測定するための基準、あるいはSDGsへの貢献を報告するための基準と受けとめられがちですが、パフォーマンスの測定やレポーティングの基準を示すものではありません。
この基準は、UNDP(国連開発計画)がOECD(経済協力開発機構)の協力を得て、2020年から2021年にかけて公開されました。UNDPとは国際連合の主要な開発支援機関であり、開発途上国を中心として世界170カ国で事業展開しています。食料、農業、保健、教育といった特定のセクターを専門とするのではなく、貧困削減や不平等の是正に向けた各分野の総合調整を担当しています。そのため、多分野を包括するSDGsとは親和性が高く、世界においてSDGs普及の推進力となっています。
SDGsは、2015年の国連総会において加盟国の代表により合意された、国際的な開発目標です。その達成には、国や国際機関だけの活動では十分でなく、広く社会全体で取り組む必要があります。新型コロナウイルスの世界的感染拡大のなか、SDGs達成に必要な資金不足額は、年間4.2兆ドルに膨らんだと指摘されています。民間企業のSDGsへの取り組みを促すことはこの資金不足を補うために不可欠です。そこで、UNDPは「SDGインパクト」というプログラムを立ち上げ、SDGs達成への民間部門の貢献を加速化させることとなりました。
<UNDP「SDGインパクト」プログラム>
このプログラムには中核的な活動が二つあります。第一は「SDG投資家マップ」です。これは国別に作成された投資案件リストであり、民間企業がSDGsに貢献できる投資案件がセクターごとにリスト化されています。2021年7月の時点で開発途上国を中心に15カ国(インド、トルコ、ブラジル、コロンビア、ケニア、ガーナ、南アフリカ等)で完成し、14カ国で準備中です。
第二が「SDGインパクト基準」であり、これは前述のように、企業や投資家等がサステナビリティやSDGsを経営システムや意思決定に取り入れるための自主的な管理基準という位置づけです。この基準は以下の三部から構成されています。
・債券発行者向けSDGインパクト基準
・プライベート・エクイティ・ファンド向けSDGインパクト基準
・企業・事業体向けSDGインパクト基準
それぞれの概要を次にしめします。
・債券発行者向けSDGインパクト基準
債券発行者(bond issuers)のための基準であり、2021年の3月に第一版が公開されました。これは、金融機関をはじめ、SDGsへの貢献を意図するすべての債券発行者を対象としています。SDGsに積極的に貢献するためのインパクト戦略を策定・実施する社内意思決定フレームワークを定めたものです。この基準に示された項目を注視することにより、SDGsへの貢献を最適化できる場所に資源を配分することが可能となります。
この債券発行者向けSDGインパクト基準は、既に中国上海市に拠点を持つ新開発銀行(New Development Bank)が債券を発行する際に、試験的に使用されています。2021年3月のプレスリリースによると、同行は中国銀行間債券市場において、3年固定金利の50億人民元債を新たに発行する際に、債券発行者向けのSDGインパクト基準および、中国のSDGファイナンス分類法(SDG Finance Taxonomy)を用いました。この基準は中国語版も作成されており、中国国内で関心が高いことが伺われます。
・プライベート・エクイティ・ファンド向けSDGインパクト基準
プライベート・エクイティ・ファンド向けSDGインパクト基準は、持続可能な開発とSDGsの達成に積極的に貢献することを意図するプライベート・エクイティ・ファンドのファンド・マネージャーのためのものです。また、バリューチェーンの他の関係者にとっても、持続可能な開発とSDGsの達成に貢献するファンドの能力と戦略に関する調査、評価、意思決定の枠組みとして有用な指針を提供するものです。
ファンド・マネージャーは、本基準を利用することを通じ、ファンドの目的、戦略、投資判断の中心にSDGsへの貢献を据えることができます。さらに、ファンド内部の意思決定と外部への報告義務の両方をサポートするために、ファンド内部の影響管理システムを設計し、マップを作成することも可能となります。
さらに、投資家はこれを参照することで、自らの投資ガイドラインを策定したり、ファンド・マネージャーに対するSDGs対応に関する質問を特定することができます。あるいは、SDGsへの貢献を主張するファンドの実務や外部評価の標準化を進めるために、これを活用できます。この基準についても中国語版が用意されています。
・企業・事業体向けSDGインパクト基準
企業・事業体向けSDGインパクト基準は2021年7月に第一版が公開されました。この基準については、中国語版と日本語版が作成されています。そのためか、我が国でSDGインパクト基準というと、この企業向けの基準を指すことが多いように思います。
この基準は、SDGsに対する積極的な貢献に尽力しているすべての企業・事業体を対象としています。自社事業に直接関連する事業運営およびサプライチェーン、バリューチェーン上の負の影響を回避または軽減しようとしている企業等、また、現在あるいは将来の顧客や他のステークホルダーに対して、自社の製品やサービスを通じて正のインパクトを与えたいと考える企業等にとって役立つ内容になっています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・次号のSDGインパクト基準について(2)では、 この「企業・事業体向けSDGインパクト基準」に焦点を当てて内容を解説します。
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