身近にある困り事とSDGs ~イノシシ被害~(2020年4月号)

※本記事はIDCJ SDGs室がこれまでのメールマガジンで取り上げた特集です。掲載内容はメールマガジン発行当時の状況に基づきます。

前回のチョコレートの話に続き、再び食べ物の話です。今回は海外ではなく日本で起こった、ある農家を襲った困った問題を取り上げます。

日本の野生鳥獣による農林水産物の被害額ですが、平成30年は158億円 (※1)にものぼっています。金額もさるものながらそれ以上に、深刻なのは、鳥獣被害が農山漁村に与える影響です。手塩にかけて育てた農作物が、イノシシやシカに荒らされ、一夜にして全滅、営農意欲は減退し、離農・耕作放棄が増加、さらに森林の下層植生の消失等による土壌流出、希少植物の食害、車両との衝突事故、鳥獣が人間を襲い危険で子供を遊ばせられない等の問題が起きています。熊本にいる知り合いの農業者Mさんも、近隣の農作物がイノシシに荒らされ仲間の農家が苦しんでいる様子を、目の当たりにして、胸を痛めていました。

もし、自分が農業者Mさんだったら、この問題をどう解決しますか。「そんなの簡単だよ、罠をしかけてイノシシを捕まえて、処分すればいいだけだよ」という人もいるかもしれませんが、弊社SDGsセミナーを受講した皆さんからは、少し違った回答が返ってくると思っています。

解決策を考えるにあたっては、まずSDGsのキーワードを思い返してください。

基本キーワード
〇サステナビリティ
将来の世代がそのニーズを満たす能力を損う事無く現代のニーズを満たす開発・発展
〇自分ごととして捉える
自分の子供、孫、ひ孫が安心して過ごせる社会に向け自ら取り組む
〇新規事業・新規開発のヒントとして捉える
慈善事業ではなく、新たな商売のタネとして考える

現状を整理すると、農家が離農し耕作放棄地が増加していく、しかし一度放棄した農地は簡単に元には戻らず、将来の世代が農業を再開したいと考えても簡単に再開することはできない状況です。生活を守るためにイノシシを退治すれば良いのですが、退治する罠を仕掛けるためにはお金が必要で、持続性のある解決にはなりません。

Mさんはまず、自分達の生活を守るために、地域で「農家ハンター」(※2) という組織を立ち上げ、狩猟免許を取り、農作物を荒らしにくるイノシシを捕まえるために銃の使い方と罠の設置方法を学びました。次に、捕獲したイノシシを有効活用するために「ジビエファーム」を立ち上げました。このジビエファームでは、おいしい肉の部分はジビエ料理の材料として販売、内臓は肥料にして畑へ返す、皮は革製品の材料として活用する等で、新規ビジネスとして収益を上げています。この収益で、農家ハンターの活動費を賄うことで、持続可能な取り組みとなっています。

この活動をSDGsの17の目標に照らし見てみると、地域で農家ハンターを組織したことは「ゴール17:パートナーシップで目標を達成しよう」、獣害被害を減らし安全な地域にしたことは「ゴール11:住み続けられるまちづくりを」、農地を守り、イノシシを有効活用することは「ゴール15:陸の豊かさも守ろう」と見事に結びついており、国連のSDGs PARTNERSHIP PLATFORMで優良事例として紹介 されています。

 「SDGsは国連で決めた世界全体の目標なので自分にはあまり関係ないのではないか」という質問を時折受けることがあります。答えはもちろんNOです。SDGsでは、困りごとを自分事として捉えて、解決に当たっては、持続可能な仕組みとなるよう、工夫をしていくことが求められています。

※1「鳥獣被害の現状と対策」令和2年3月 農林水産省 農村振興局

※2 「農家ハンター」ウェブサイト

**********************************

IDCJ SDGs室では、毎月1回発行しているメールマガジンにて、SDGsの基礎からトレンドまで最新情報を配信しております。メールマガジン登録ご希望の方は、以下よりご登録ください。購読は無料です。




いいなと思ったら応援しよう!