スーダン:不適切な水料金の設定(2019年9月号)
※本記事はIDCJ SDGs室がこれまでのメールマガジンで取り上げた特集です。掲載内容はメールマガジン発行当時の状況に基づきます。
水資源の豊富な国でなぜ水不足が起きるのか
筆者は最近8年間、アフリカのスーダンでJICA技術協力プロジェクトに参加しました。スーダンは「砂漠の国」というイメージがもたれていますが、二つの大河を有します。白ナイルと青ナイルです。水資源は豊富です。しかしスーダンの多くの住民は水不足と言います。特に気温が摂氏50度近くになる夏はシャワー、飲料水の需要が増え、浄水場から水が届かない家庭が多くあります。水資源の豊富な国でなぜ水不足が起きるのかを考えると、「不適切な水料金」の問題に直面します。
水不足の原因は経営の問題
住民の水不足の原因は配管網の老朽化による漏水が多く、浄水場から送る水は半分しか住民に届かないからと推定されます。次に水料金が低く、この老朽配管網の取替・新設を行う財源の不足が挙げられます。さらに漏水修理が不十分であり、修理箇所から再び漏水することが挙げられます。このように考えると、水不足が起きるのは、配管網の老朽化に伴う漏水が原因ですので、適正な料金を設定し、配管網の新設を行えば、水不足が解消されます。
経営の問題は不適正な水料金設定
東京都水道局は次の「従量制」の水道料金を採用しています。
・トン当たりの生産コストを算出し、その費用を回収できるトン当たりの料金を設定。
・顧客に水道メーターを設置し、その消費量を測定する。
・各顧客の消費量に応じて請求書を送り、料金回収。
しかしスーダンではメーターの設置、各住民の消費量の記録、請求書の送付等の経営管理が難しいのです。従ってスーダン18州の水公社の多くは、水消費量に関わらない「定額制」になっています。「定額制」はトン当たりの生産原価を算出し、それを上回る料金を設定することが難しくなります。さらに住民は水消費量に関わらず、定額を払えばよいので「節水意識」や「支払うべき水料金を抑える」動機は持ち得ません。
水料金設定の見直し
そこでパイロット州であるカッサラ州水公社を取り上げ、各顧客の毎月の水消費量を調査し、料金設定の見直しを試みました(2013年)。カッサラ州水公社は家庭、商業施設、政府施設と三つのカテゴリーに分けて水料金を設定しています。さらに「家庭」は配管の口径によりClass 1(大口径の配管), Class 2(中口径), Class 3(小口径)と分けて設定しています。これは口径が大きいほど、多くの水使う、という前提です。カッサラ州水公社はこれらの顧客に55個の水道メーターを設置して毎月の水消費量を一年間測定・記録しました。
次の表に示すとおり、小口径の家庭Class 3は料金が20SDGです。毎月の水消費量実績平均が23トンですので、トン当たりの実払い料金は0.87SDG(スーダンポンド)となります。一方、商業、政府施設のトン当たりの実払い料金は0.48 SDG、0.25 SDGとなります。家庭Class 3がトン当たり、商業の2倍、政府施設の3倍の料金を払っていることになります。カッサラ州水公社職員の多くは「現在の料金は不公平」と指摘しました。
そこで州水公社はカッサラ州政府に料金値上げ、不公平是正を提案しました。州政府はこの提案を承認し、2014年からの値上げが実施されました。カッサラではメーターが設置されていないので、この値上げは現行の定額制の不公平是正にとどまりました。カッサラ州水公社は将来、多くのメーター設置と従量制の導入を検討しています。
参考:
SDGsの各ゴールについて解説:
□Goal6「安全な水とトイレを世界中に」
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