「電気自動車はSDGs?」その続き(2021年1月号)
※本記事はIDCJ SDGs室がこれまでのメールマガジンで取り上げた特集です。掲載内容はメールマガジン発行当時の状況に基づきます。
前回、電気自動車は、化石燃料であるガソリンを使わないためCO2を発生せず、地球温暖化防止に貢献しているようにみえるが、そもそも、電気自動車が使用する電気がどこから来ているかまで遡って見てみないと本当に電気自動車がCO2を削減しているかはわからないという話をしました。読者からも、「そのとおり!」との反響をいただきました。ありがとうございます。実はこの話は続きがあります。
なぜマスメディアは「電気自動車 = CO2削減 = SDGs貢献」という報道をするのでしょうか? この疑問を社内で共有したところ、いくつかのコメントをもらいました。そのうちの1つが、マスメディアは、どうしても読者や視聴者に対し解り易くするために、物事を単純化する傾向があるのかもしれないというものでした。
SDGsはご存じの通り持続的な成長を実現するために、17のゴールと169のターゲットから構成されています。ここで、仮に169のターゲット1つ1つについて対策を定め、その対策を推し進めていけば、持続的な成長が実現できるというように、単純化してSDGsを考えてみたらどうなるでしょうか。
例えば、SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」では、ターゲット13.2で「気候変動対策を国別の政策、戦略および計画に盛り込む」とされています。各国はCO2削減に向けた政策を掲げ、日本は2020年10月に菅首相が温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を宣言しました。これを進めていけば、このターゲットは2050年に達成できる、めでたし、めでたし、となるのでしょうか。私の個人的な直観では、そうならない気がします。
なぜなら、SDGs目標1「貧困をなくそう」という目標を達成するためには、開発途上国で農作物の作り方を教えたり、医療スタッフが現地で治療を行ったりなど支援が必要で、そのためには、電気が必要となってきます。
一方で、CO2削減のため、CO2を発生する火力発電を止め、太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスといった再生可能エネルギーで発電をすることになると、再生可能エネルギーの方が、発電コストが高く、発展途上国にとっての負担が大きくなります。化石燃料による電気を使った方が、貧困を解決するためには簡単なようにも見えます。もっとも現在は開発途上国における一人当たりの電力消費量は少なく、たとえ火力発電に依存していたとしても環境への影響は限定的です。しかし、今後開発途上国が経済成長を続けると、温室効果ガスの排出が急増することが予想されます。「経済成長と環境悪化の分断を図る」というSDGs 8.3の達成が困難になるでしょう。
また、目標6「安全な水とトイレを世界中に」も複雑です。
2030年までに、汚染の減少、投棄の廃絶と有害な化学物・物質の放出の最小化、未処理の排水の割合半減及び再生利用と安全な再利用の世界的規模で大幅に増加させることにより、水質を改善するという目標です。目標達成に向けた施策を進め、水が手に入りやすい環境が実現したとしましょう。
次に、SDGs目標1「貧困をなくそう」を達成するために、水を使い、農業を発展させるという方向に進み、貧困から脱出するために畜産に着手した場合、どうなるでしょうか。
畜産エサの原料となる穀物を作るために使われる水は、環境省のデータでは、「1kgのとうもろこしを生産するのに必要な灌漑用水(かんがい用水)の量は1,800リットル、牛はこうして育てられた穀物を大量に食べるため、牛肉1kgを生産するには、その約20,000倍もの水が必要になります」と記述されています。ターゲット6.4では「2030年までに、全セクターにおいて水利用の効率を大幅に改善し、淡水の持続可能な採取及び供給を確保し水不足に対処するとともに、水不足に悩む人々の数を大幅に減少させる」とされていて、畜産はもしかすると水利用の効率改善に相反するものとみなされる可能性もあります。
このように、SDGsのターゲットはお互いに関係しており、その関係を深く理解することが必要です。それは、持続可能な成長を達成するための169のターゲットが1つのセットとなっているからなのです。
冒頭に触れた電気自動車ですが、最近では、水素を燃料とし発電・蓄電で走行する水素自動車に関し、水素製造工場で水素ガスを作る際の電力を太陽光やそのほか再生エネルギーに変えていく必要があることが報道されていました。それを聞いて、ひとりでそうだよね、ガッテン!と思いました。
今後、もしSDGsの報道で、あなたが違和感を覚えたとすると、それはマスメディアがSDGsを単純化して報道したことに起因しているかもしれません。
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