中国企業とESG情報開示(2019年5月号)
※本記事はIDCJ SDGs室がこれまでのメールマガジンで取り上げた特集です。掲載内容はメールマガジン発行当時の状況に基づきます。
近年になって中国では、グリーンボンド、グリーン産業基金など、環境関連の金融サービスの仕組みが拡充しつつあり、ESS投資への関心が高まっています。大手機関投資家は、意思決定や市場分析にESG要素を採用することが増えているといわれます。その一方で、多くの中国企業は投資家のグリーンファイナンスへの欲求の高まりに反応するのが遅れているようです。
そこで、中国の環境保護省は2018年に、国内の証券取引所の全上場企業に、2020年までに事業に関連する環境、社会およびガバナンス(ESG)のリスクを開示することを義務付けるという新たな要件を導入しました。上場企業に対する環境情報開示は三段階で進められます。まず2017年に主要な公害産業に対する情報開示が求められ、続いて2018年には追加的企業に対して、「環境面の情報開示を行うか、あるいは開示できない理由を説明する」という、いわゆる「comply or explain原則」の適用が求められました。そして、2020年には国内の証券取引所の全上場企業に対し、環境情報の開示が義務化されます。
中国のCSR分野のシンクタンクであるSynTao(商道縦横)は、China Water Riskと共同で「China Prioritizing Environment:More Disclosure Needed to Match Rising Risks」と題した報告書を2018年5月に発表しました。上場企業にESG情報開示が義務化されるタイミングで、現時点で環境面の情報開示がどの程度の状況にあるのか、大手企業を対象にサステナビリティレポートの内容が分析されました。分析対象となったのは、SynTaoのデータベース(MQI: Material and Quantitative Indicators Database)に格納されている、2012年から2015年にかけて発表された、10,000件以上のCSR報告書です。特に、環境面での負荷が大きい「石炭」、「石油&ガス」、「自動車」、「電力」、「精錬業」、「農業」の六業種を対象に分析が行われました。その結果、次のような結果が判明しました。
・業種ごとの開示状況の違い:六業種の中で、情報開示する企業の比率が高いのは「石炭」、「石油&ガス」、「自動車」の三業種であり5割を超えた。一方、「電力」、「精錬業」は4割強にとどまり、「農業」は2割に過ぎなかった。
・不完全なデータ:ESGの情報開示のレベルは依然として低い。一部の情報しか開示されておらず、環境面のインパクトの全体像を把握するのは困難である。環境面の開示情報を「エネルギー利用」、「水使用」、「廃棄物処理」の三点から比較すると、「廃棄物処理」について開示が進んでいない。
・データの不整合:中国ではGRIスタンダードのような国際的な情報開示の枠組みの導入が進んでおらず、各企業は各々の方法で情報を開示する。そのため同じ業種内でも企業にとって情報開示の手法が異なる。例えば、「水使用量」に関し、開示情報の単位が、水道料金、立法メートル表示、トン表示など企業によってまちまちである。
・信頼性の欠如:財務報告書と異なりサステナビリティレポートには第三者機関による監査は求められない。そのため、第三者によって情報の信頼性が確認されているサステナビリティレポートは極めて少なく、情報の信頼性について疑念が生じる。
中国では急激な経済成長とともに、環境対策が焦眉の課題と認識されています。政府の強いリーダーシップのもと、今後ますます多くの企業がサステナビリティレポートを作成し、環境面の情報開示を進めてゆくことになるかと思います。データの整合性や信頼性の問題も、これから国内で整備や対策が進んでゆくのではないかと考えられます。
しかし、今後中国企業がGRIのような国際的な非財務情報の開示の枠組みを導入し、国際的に比較可能な形でESG情報が整理してゆくかどうかわかりません。なぜなら、国際的な枠組みでは、当然ながら環境(E)以外のESG項目、すなわち社会(S)やガバナンス(G)関連の項目も、同等に開示が義務付けられているからです。上記のSynTaoの分析対象からは、社会やガバナンス関連の項目はすべて除外されています。社会やガバナンス面の非財務情報開示に関する記事情報も目につきません。
例えば、GRIの報告枠組みの中では、「労使関係(402)」、「労働安全衛生(403)」、「結社の自由と団体交渉(407)」、「人権アセスメント(412)」、「地域コミュニティ(413)」などは、情報開示すべき重要項目に含まれます。中国企業の第三国での投資事業では、こうした社会面の対策の遅れについて、現地で批判されているケースがしばしば報道されます。中国国内ではどうなっているのでしょうか。中国企業はこういった項目の情報開示を今後進めてゆくのでしょうか。中国経済の影響力を踏まえると、今後、中国企業の非財務情報の開示がどのように進んでゆくかは、継続して注目してゆくべきテーマと思われます。
参考:
SDGsの各ゴールについて解説:Goal13「気候変動に具体的な対策を」
SDGsの各ゴールについて解説:Goal14「海の豊かさを守ろう」
SDGsの各ゴールについて解説:Goal15「陸の豊かさも守ろう」
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