チョコレートと児童労働に思うこと(2020年3月号)

※本記事はIDCJ SDGs室がこれまでのメールマガジンで取り上げた特集です。掲載内容はメールマガジン発行当時の状況に基づきます。

今年もバレンタインデーとホワイトデーが過ぎ、世界中で多くのチョコレートが売れた。バレンタイン前後には、インターネット上で「児童労働をさせているチョコレート製造会社リスト」といった記事をちらほら見かけた。そのには、世界の高級チョコレート菓子メーカーから、スーパーやコンビニの棚に並ぶ身近なブランドまで、名だたるブランド企業の名前が連なっていた。奇しくも夫がホワイトデーに贈ってくれたのはそのリストに名前が挙がっていた企業のチョコレートで、私は複雑な心境になった。

児童労働の問題は複雑だ。途上国の子どもが働く理由は多くの場合、自分自身が食べていくため、または家族を養うためであり、生きていくために教育の機会を捨て、将来を犠牲にして働く。こういった場合、仮に政府が児童労働を禁止し働く機会を失えば食い扶持を失ってしまう。そのため、児童労働の撲滅のためには手厚い社会保障がセットになっていなければならない。

SDGsでは児童労働の問題はゴール8で取り上げられている。SDGsのターゲット8.7は「2025年までにあらゆる形態の児童労働を撲滅する」ことを掲げている。しかし、このターゲットの達成と並行してターゲット1.3「各国において最低限の基準を含む適切な社会保護制度及び対策を実施し、2030年までに貧困層及び脆弱層に対し十分な保護を達成する」や、ターゲット2.1 「2030年までに、飢餓を撲滅し、全ての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにする」といったターゲットが達成されなければ逆に子供の貧困や飢餓を悪化させてしまうだろう。

先ほどのチョコレートに話を戻すと、複雑な心境になった理由は、児童労働をさせている会社のチョコレートの不買運動をしても、子供たちが働き先を失うだけで、問題の根本解決にならないのではないように感じたからだ。

企業においても同様のことが言えると思う。イギリスの「英国現代奴隷法」やフランスの「デューデリジェンス法」が施行されてから、企業の活動において人権侵害が行われていないか、投資家や取引先の目は厳しくなっている。そこで企業は調達先や下請けで児童労働があることが発覚した場合、取引を打ち切るといった対応を取る場合があるだろう。確かにそれで企業のレピュテーション・リスクは回避できるかもしれない。しかし、問題となった農園や工場は取引先を失い、そこで働いていた子供も仕事を失うことになる。残念ながら児童労働が問題となっている多くの途上国の政府は、現状では失業した子供を救済するシステムや財力を持っていない。これでは子供の貧困はさらに深刻になるだけだ。

そこで、調達先や下請けで児童労働が発覚した場合に望まれる対応は「即刻取引を打ち切る」ことではなく、働く子供の待遇改善であるように思える。実際に日本のNGOには途上国で家事労働をする子供たちの雇い主に対し、労働時間の数時間を学校に通うことに充てられるよう交渉をする団体もある。企業もこういった交渉を行うことが可能だと思うし、取引関係にある以上はNGOよりも効果的にできるのではないか。また、賃金の増加や労働環境の安全確保といった待遇の改善についても要求できるはずだ。

児童労働撲滅の究極の目的は、子供たちに働く代わりに教育を受けさせ貧困から脱却をする手段を与えることだ。その目的の達成のために企業ができることは多いと感じる。

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