SDGsインパクトスタンダードについて(2021年5月号)

※本記事はIDCJ SDGs室がこれまでのメールマガジンで取り上げた特集です。掲載内容はメールマガジン発行当時の状況に基づきます。

持続可能な開発目標(SDGs)が2015年に国連総会で合意されてから5年間が経過しました。2030年までに17項目の目標達成が目指されていますが、余すところ10年となりました。全ての目標を達成するためには、年間5兆ドルから7兆ドルが必要とされています。しかし、各国政府や国際金融機関等よる現在の投資レベルでは十分ではなく、投資ギャップは、年間約2.5兆ドルに達するとのことです。このギャップを埋めるために、民間セクターに大きな役割が期待されています。

2006年に国連事務総長から責任投資原則(PRI)が提唱されたことをきっかけに、今日ESG投資は資産運用の主流になっています。ESG投資はSDGsに資する事業機会に向けられるものであり、SDGs達成に向けて民間資金を動員するための枠組みが整備されつつあります。しかし個々の事業活動がSDGsに資するかどうかについて認証する基準はなく、あくまで事業を実施する側の自己申告となります。SDGsへの貢献を大げさに誇張する、あるいは事実と異なる情報を提示することはSDGウォッシュと批判されています。資金提供者側がSDGsへの貢献を意図していたとしても、事業実施者の選択を誤れば十分に貢献することができません。

SDGsの効率的な達成に向けて民間資金をさらに動員するためには、SDGsへの貢献度合いを事前に的確に把握する基準が必要となります。そこで、国連開発計画(UNDP)は、SDGsに資する投資や事業のガイドラインを示し、これに適合した案件を認証する「SDGインパクトスタンダード(SDG Impact Standards)」の策定を進めています。これは、企業や投資家が、SDGsに資する投資や事業の意思決定を適切に行うための実践的ツールとして位置付けられています。

SDGインパクトの認証を与える対象は、「企業(Enterprises)」、「プライベ-ト・エクイティ・ファンド(Private Equity Funds)」「「債券(Bonds)」の3つであり、それぞれに「スタンダード」草案が策定されています。
例えば、企業向けの「スタンダード」では、事業活動のSDGインパクトを検証する上で、次の4つの判断基準があります。そして各規準に複数の指標が設定されています。

(1) 戦略:持続可能な開発に積極的に貢献し、SDGsを達成することをその目的と戦略に組み込んでいるか。

(2) マネジメントアプローチ:インパクトマネジメントと、持続可能な開発とSDGsの達成に積極的に貢献することを、その事業とマネジメントアプローチに統合していているか。

(3) 透明性:持続可能な開発に積極的に貢献し、SDGsを達成することを、その目的、戦略、経営手法、ガバナンス、意思決定にどのように組み込んでいるかを開示し、そのパフォーマンスを(少なくとも年1回)報告しているか。

(4) ガバナンス:持続可能な開発に積極的に貢献し、SDGsを達成するという企業のコミットメントを、そのガバナンスの実践を通じて強化しているか。

こうした基準は、事業実施者が自主的に自己評価する上で活用されることが想定されています。加えて、第三者認証機関がこの基準を用いて認証する体制も検討されています。また、国連開発計画は認証された事業やファンドに「SDGインパクトシール」を提供することも考えています。なお、このスタンダードは、規模、地域、業種に関係なくSDGsの達成に資する事業活動を進める全ての企業に利用できることとなっています。

この「SDGインパクトスタンダード」は2020年に草稿が公開され、現在は各界からのコメントに基づき最終化作業が進められています。また中国銀行間債券市場においては、草案が試験的に導入され、SDG債の発行の際に利用されているとのことです(2021年4月14日 UNDP News)。今後、近いうちに最終化され、各国の関係者への普及が進むと考えられます。日本においても、今後SDGsに資する事業活動の選別の際に活用され、SDGs達成に向けた民間資金の動員に弾みがつくことになるかもしれません。今後しばらくは、国連開発計画による「SDGインパクトスタンダード」策定の動向や影響に注目してゆく必要があります。

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