【第1回】生物多様性・生態系保全へ向けたグローバルな取り組みの次のステップ(全3回)
※本記事は、3回に分けて掲載させていただきます。
1. はじめに—生物多様性条約第15回締結国会議(CBD COP15)
生物多様性条約第15回締結国会議(CBD COP15)が予定より1年遅れで10月11日〜15日にオンラインで開催される。来年の4月には中国昆明市で対面の会議が行われる予定だ。
英国グラスゴーで11月に開催されるもう一つの気候変動関連のCOP(COP26)の影に隠れがちだが、CBD COP15は、気候変動に続くグローバルな課題として急速に重要性を増している生物多様性・生態系サービス保全の取り組みの今後を決め、企業にも大きな影響を与える可能性のある重要な会議になる。
1992年、地球サミット直前に採択された生物多様性条約(CBD)は、生物多様性の保全、自然資源の持続可能な利用と、遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ公平な配分を目的とした。当初掲げられた「生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という2010年目標は、重要な取組がいくつか促進され、特定地域の生物種や生態系に対して重要かつ目に見える成果がもたらされたものの、国際レベルではどの項目も達成されなかった。続いて同年に日本で開催されたCOP10では、「2050年までに自然と共生する世界の実現」というビジョン(長期目標)と2020年を目標年とする「愛知目標」が採択された。
それから10年、条約締結30年になる現在、目標達成には遠く、むしろそれに逆行する事態が進んでいる。世界の76億人の人口は全生物の0.01%に過ぎないが、人類はすでに野生の哺乳類の83%、植物の半分の喪失させている。現在の絶滅率は過去1,000万年の平均値の数十倍から数百倍であり、さらに加速しているという。世界経済フォーラム(WEF)の「2020年版グローバル・リスク・レポート」(GRR)も、生物多様性の損失と生態系の崩壊を、今後10年間の可能性と影響の観点から、上位5つのリスクの1つに挙げている[1]。
2019年5月に生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学・政策プラットフォーム(IPBES)が公表した「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」は、すべての地域で生物多様性が減少している憂慮すべき傾向に警鐘を鳴らし、世界的な注目を集めた。報告書は4つの重要なメッセージを伝えている。[2]
○ 自然とその人々への重要な寄与(NPC:生物多様性と生態系の機能やサービスとほぼ同義)は、世界的に悪化している。
○ 直接的及び間接的な変化の要因が、過去50年間で増加している。
• 直接的な要因(大きい順): 1)陸と海の利用の変化、2)生物の直接的採 取、3)気候変動、4)汚染、5)外来種の侵入
• 間接的な要因: 1)人口と社会文化、2)経済と技術、3)制度とガバナンス、4)紛争と伝染病
○ 自然の保全と持続可能な利用、及び持続可能な社会の実現に向けた目標は、このままでは達成できない。2030年以降の目標の達成に向けて、経済、社会、政治、技術すべてにおける変革(transformative change)が求められる。
○ これらの目標は、社会変革に向けた緊急で協調した努力によって同時に達成することができる。
2020年9月に生物多様性条約(CBD)事務局が公表した「地球規模生物多様性概況第5版」(GBO5)でも、世界全体では愛知目標の20の個別行動目標で完全に達成できたものは何もないという厳しい評価がなされた。しかし、GBO5報告書は結論で、2050年に向けた将来展望として、「必要な行動の完全なポートフォリオの組み合わせ」による方向転換のシナリオと道筋を示した。
出所:生物多様性条約(CBD)事務局「地球規模生物多様性概況第5版」2020
また、持続可能な経路に向けた道筋を歩むために移行(transition)が必要な分野として、(1)土地と森林、(2)持続可能な淡水、(3)持続可能な漁業と海洋、(4)持続可能な農業、(5)持続可能な食料システム、(6)都市とインフラ、(7)持続可能な気候変動対策行動、(8)生物多様性を含んだワン・ヘルスの8つの分野を提案している[3]。
2021年7月、CBD事務局は「ポスト2020生物多様性枠組の第一次草案」を公表した。草案は、2050年ビジョンに関係する4つのゴール(長期目標)と、2030年にその進捗度を評価するための10項目のマイルストーン(中間目標)、および2030年までの10年間に必要な緊急行動の指針となる21の行動指向型ターゲットを提案している[4]。今後は、GBO5、IPBES地球規模評価報告書その他に示された科学的知見とCBD事務局草案を軸に、政府・国際機関、NGOその他の民間主体の間で協議が進み、COP15の場でポスト2020生物多様性枠組の採択と、関連する具体的な実施手段の検討が行われる予定だ。
続きはお楽しみに!
参考文献
[1] World Economic Forum, The Global Risks Report 2020.
[2] 政府間科学・政策プラットフォーム(IPBES)(環境省訳)「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」2019年5月。
[3] 生物多様性条約事務局「地球規模生物多様性概況第5版」2020年9月。
[4] Open Ended Working Group on the Post-2020 Global Biodiversity Framework, First Draft of the Post-2020 Global Biodiversity Framework, July 5, 2021.
**********************************
IDCJ SDGs室では、毎月1回発行しているメールマガジンにて、SDGsの基礎からトレンドまで最新情報を配信しております。メールマガジン登録ご希望の方は、以下よりご登録ください。購読は無料です。