短編:Fireworks

#小説 #ファンタジー #会話SS #カラクリ王国史#革命  

 
 遠い記憶の、声劇。






「囚人10235号は王国史上類例を見ない大罪を犯した。よって、死刑を言い渡す」






「王子、真面目に勉強してくださいよ」
「だって、つまんねぇんだもん」
「あなたは、それでも一応王子なんですよ。第二ですがね」
「そうよー継承権なんかいっちばん低い、妾腹の第二王子なんですからー」
「そう思うんなら、きちんと勉強なさってください。城を追い出されても良いようにね」
「きっついわー。きっついこと平気で言うわー。……ま、大丈夫でしょ。父上は俺に甘いしー」
「……あんたね、」
「ま、呆れて説教は待ってよー。……だってさ。ウチの王様って王族ってだけでいろいろ甘いじゃん。よくもまぁ今まで続いて来たと思わない? 風景ばかり美しい、民は搾取されるだけで貴族は贅沢三昧で王族は貴族の言いなりの無能だけ。こんな何も無い国が」「……賛同はしませんよ。あんたは良いが俺は首が飛ぶ」「あはは、リアルにね。王族は有益無益じゃなくて気に入るか気に入らないかだもんね、生かすも殺すも。ウチの母親みたいに。俺が無礼講をゆるした今の先生みたいに?」


「……」
「でも、思わない? こんな国────


 ぶっ壊れちまえ、て」






◆◇◆◇◆◇



「守備は?」「予定通りに」「心が痛むものだな、甥を利用せねばならないとは」
「……ふ、はははは。ご冗談を。あなたにそんな感傷、在るとは一ミリも思えませんが」


「失礼なヤツだな……─────これでも私はあの子を気に入っていたんだよ?」


「とても良い顔で仰有りますね」






◆◇◆◇◆◇



「なー、先生?」「何ですか」「何で先生はこんなことやってるの?」「あなたが勉強しないから、」「あー、ちょぉ、待って待って。そうじゃなくて」
「……何だ」
「……私語だと判断した瞬間即座に言葉遣いが変わる辺りさすが先生、そこに痺れる憧れ、」
「授業再開しますか」
「嫌ー!すいませんでしたぁっ! ……んな笑顔で威圧しなくたって良いじゃない……ぶーぶー」
「早くしろ。どんだけ遅れてると思ってんだお前」
「あー、はいはい、すんません。……先生はさ、何で俺の先生やってんのかなーって」
「研究費のためだ、と前に言ったはずだが? 答えてからまだ一年経ってないだろう……まさかそんな短期間で忘れるのか? ちょっと一遍頭の構造を調べたほうが良いんじゃないか」「待って止して勘弁して俺は大丈夫ですからぁー。や、そうじゃなくてさー……。だって俺、妾腹じゃん?」「凄い今更だがそれが何か?」
「やぁーさー……何で俺なのかなぁとかさ。先生なら別に会社から融資してもらえたんじゃないの? とかさ」
「“むざむざ第二王子の宮廷教師やる必要性はなかったんじゃないか”と?」
「事実でしょ」
「……お前莫迦だろう」
「な、非道い! つかとうとう『あんた』から『お前』になった! 格下げやー!」
「……」
「溜め息はんたーい」
「……───科学者ったって大した価値は無いんだよ。わかるか? 融資されるってことは平たく言えば利益が見込まれて雇われるってことだ。雇われたら融資側の利益を優先せにゃならない。やりたいことが重なっている内は良いさ。けどな、

 そんなんは縛られるのと変わらない。俺はやりたいことをやりたいんだよ」「……ふーん。随分自由人発想だね」
「自由な発想は閃きに大事なんだよ」
「何だかなぁ……あ、じゃあ! じゃあさっ! 俺科学者向かない? ちょーヒラメキ凄いよ!」
「……はい、じゃあ再開しますよ」
「わーノーコメントだー」






◆◇◆◇◆◇



「……国王は相変わらずだな」「王妃の浪費も変わらず」「どうするか」
「どーもこーも無いでしょー。……やるしかないんでしょ?」
「すまないな……」
「良ーって良ーって

 わかってるから」






◆◇◆◇◆◇



「……せんせーなぁに?」
「こっちだ」
「夜更けに呼び出してー……俺一応王子なんですけど? いろいろ大変なんですけど?」
「残念だがもうみんな寝ているさ。夜間警備兵は俺には反応しないしな」「……もーこれだから機械はー……」
「年寄り臭いこと言うな。この時代、機械が一切入り込まないほうがめずらしい」
「ま、ね。だからこの国は神聖視されるんでしょ? そして、逆行する訳だ、歴史を」
「人間が人間を搾取する?」
「そ。人間でいられるならどんなことも受け入れられるってねー」「……お前さー」「何すか」
「そう言う回転は悪くないのに、何で勉強出来ないの」
「だから頭悪くないの。勉強が嫌いなの!」
「力説すべきことではまったく無いな」
「だいたいねー、俺は勉強したってこの先何の役にも立たないんだからね!」
「お前、どこのガキの論理だ。それはただの我が儘だぞ」
「しょーがないじゃん。本当のことだもーん」「……お前、……

 じゃあ、これも役に立たないな」



「え、───」



「綺麗なモンだろ?」
「……」「おい?」「……」
「どうし、」
「────すっげー!

 何アレ何コレ火!? 先生がしゃがんだと思ったら何か凄いシュワーッて火が散って色も変わるし先生何仕込んでんの! 今の何!?」

「言いたいことはわかった。───今のは『花火』だ。色の変色はアルカリ金属、アルカリ土類金属を多く使った炎色反応が元だな」「……へぇー。よくわかんない」
「だろうな。顔見ればよくわかる。───ま、要は単純な化学反応だ。炎の中にアルカリ金属や土類金属、銅なんかを入れるとそれぞれ金属元素特有の色を示すんだ。金属の定性分析にも利用されてるな。花火にも種類が在って、これは玩具花火の一種で噴出花火だ」「そんなに種類が在るの?」
「ああ。玩具花火ってのは誰でもって言うと語弊が在るが、名前の通り家族、家庭でも用法さえ守れば気軽に扱えるものだ。あとは専門的な打ち上げ花火が在る」
「ん? 二種類だけ?」
「大きく分けて、な。花火にもいろいろ在るけど細かく説明するの面倒臭い」「……本音出たー……」
「俺だって細かな種類は全部把握してないさ。本業じゃないしな」
「ああ、専門的、てヤツ?」
「そ。まぁ打ち上げ花火自体は作ろうと思えば作れるさ。完成度に拘らなければな。爆弾の仲間だから」

「え……そうなの?」
「ああ。原理はいっしょだぞ」
「そうなんだ……」
「───びっくりしたか?」
「まー、ちょっと?」
「爆弾だって花火だって爆発だからな。科学はいつだって紙一重な訳だ」「そっかー。使う人次第ってことね」
「何でもそうだけどな。……この国の空なら綺麗だろうな。打ち上げ花火」
「先生の国では? 花火は先生の国の伝統芸でしょ?」
「滅んだ国だけど。そうだな。小っさな国のくせに綺麗だったよ」
「そっかぁ。……見たかったなぁ」
「見れば良いだろう。

 次は作ってやるよ。
 お前王子なんだからこう言うとき権力使え」

「うーん……そーね」






◆◇◆◇◆◇



「─────捕まえろ!」
「……っち!」
「おとなしく投降なさってください王子!」「お願いします! 我々は王子を傷付けたく有りません!」
「……だったら……見逃せ───よっ!」

「中庭だ! 窓から中庭へ逃げた!」「捜せー! 庭園に逃げ込まれたぞ!」

「……と、見せ掛けて室内に戻ってたりねー」

「バレているがな」
「───」
「一部の兵士は釣られたみたいだけどね」


「……これは、これは。

 叔父上、兄上」

「よくやってくれた、と感謝しよう。本当にお前はよくやってくれた。……思った以上に」
「あぁ実に助かったよ。さすがは半分とは言え僕の弟だね。有り難う────誰か! 王殺しの容疑者だ! 捕まえろ!」

「……ははっ……

 先生ごめん……」






◆◇◆◇◆◇



「王子が……」「第二王子と言えばあの方でしょう?」「そうよ、あの方だわ」
「あの方はよく街に降りてウチの店に来てくださったのよ」
「ウチだって! 子供が視察中の王様のお召し物を汚してしまって……もう少しで私も子供も不敬罪で処刑されそうなところをあの方が庇ってくださったのよ!」
「ウチなんか、王様や貴族が“この景色は自分らのモンだ気に入らねぇ”とか抜かして所有地でもない山の工事止めちまってよ! そこをあの方が兄である第一王子や叔父上の宰相様と如何に“鉄道を敷いたら便利か”って説いてくださって……あの鉄道が在るのはあの方の御蔭なんだぜ!?」

「横暴な王族や貴族が庶民を殺したって咎められないのに!」「だったらあの方だって咎められなくて良いはず!」
「あの方は悪くない!」






◆◇◆◇◆◇



「気分はどうだい?」
「気取った格好したりくだらない王国史学ばなくて良いんで気分は良いです。寒いけど」
「ふっ、結構。しかし────なぜ極刑を望んだんだい? そのせいで朝から抗議が殺到しているよ。“第二王子は悪くない”とね」

「へー。そりゃあ王子冥利に尽きるわー。……人殺しといて有り得ないでしょーよ。ましてや父親なんですけど?」
「お前のそう言う殊勝なところは好きなんだがな。民衆がこうなると見越してお前に白羽の矢を立てたのに。なぜわざわざ……」

「死ななくて済むように? そいつは嘘でしょう? 始めからこのシナリオは決まってた。何年前からなんですか? ─────王妃を、あなたの恋人を寝取られた日からですか?」
「何を、」
「城内は口を噤んでても街はそうは行かないですよー。……それとも兄さんが生まれてからかしら? 誰も気付いてないけど、兄さん、叔父さんそっくりだよねー。髪型って凄いわ」
「……」
「だからね、わかってたよ? 最初から。俺はスケープゴートだって。兄さんを綺麗な身のまま玉座に就ける。そのためには父が邪魔だった。時期も在ったんでしょうけど、何よりも父は感付いていたんじゃない? 兄さんの出自に。片付けるのに、庶子の俺なら、良い生贄だったろうね」
「……始めから、と言う訳じゃないさ。この反応を見ればわかるだろう? お前を助ける術も視野に入れていた」
「それは無理でしょ。そんなの、貴族が黙ってない。希望的観測で物事を動かすなんて叔父さんには土台無理な話だし───時間も無かったよね」
「……」
「この機械と大気汚染と異常気象で壊れた星で、国民が如何にこの美しい国で人間であることを望んだとしても、永く虐げられて行くなんて幾ら何でも無茶苦茶だ。革命が起きるのは時間の問題だった。

 革命が起きてしまえば王様はおろか俺も兄さんも叔父さんも下手すれば殺されてしまう。こんなのは困るよね?

 虎視眈々と自分の息子が玉座に座るの待ってたのにさー。だから巧く緩急を付けたんだ。王様の言いなりになりながらその反面国民の味方も多少した。 そうして国民感情をコントロールして……息子が無事成長した今、俺を使ったんだ」

「……」

「当たりでしょう?」

「お前は、本当に頭の良い子だな。何で勉強が嫌いだったのか。勿体無い」
「嫌いだよー。だって俺死ぬもん。ずっとそのつもりだったもん」

「……私も前王……お前の祖父に当たるな。私も前王の庶子だった。そのせいかもしれないが……私はお前の生きる道も本気で考えていたんだ。実際、お前は私の甥に変わりはないしな」
「そう、ありがとう。だけど俺が死んだほうがきれいに終わるんだよねー。全部。

 て、訳で、

 さよなら」






◆◇◆◇◆◇



「────ったく! 何て日だ!」
「? どったのー?」
「! 王子、や、10235号!」「何か在ったの? 今日王位継承式典だったんじゃなかったっけ?」
「や、あの、───はい、……実は」






◆◇◆◇◆◇



「そー言う10237号は何やったんよー」
「俺か?」
「何やったん?」
「俺は大したことやってない」
「嘘付けー! だったら処刑なんてされないよ!」
「別に大したことじゃない─────ちょっと城下町でパレード中に爆弾を爆発させただけだ」
「……」
「何だ?」
「……そらまた随分とやっちまったのね」
「そんなことはないさ。精々名も無き国民が数十人天に還っただけだ」
「いやいや充分すから」

「……」
「……あー、薬効いて来たかも」
「俺もだ」
「ショボい人生だったなー……次はもーちょいマシなの希望」
「……次なんか在るのか……?」
「わかんねー。でも在るんじゃね?」
「いい加減だな」
「それが俺。────まぁ、良いや。楽しかったよ、

 莫迦な後継者にもなれない王子様の教育係だった不運な科学者さん」

「俺もそれなりに有意義だった。

 クーデターを起こしたら体良く利用され失敗させられた裏切られた王子様」






   【Fin.】

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