♛教育省>学校と地方自治体向けガイダンス 親責任に関する問題の理解と対処
この記事はイギリス政府の教育省ホームページの「親責任:学校と地方自治体向けガイド」の一部「親の責任に関する問題の理解と対処」を翻訳したものです。
この書面は、学校運営組織、学校のリーダー、学校職員、地方自治体、教育委員会向けの、公立学校、アカデミーとフリースクール、保育所を対象とした、親責任者、子の監護権争いが生じた場合の対処法、子の教育記録に関するアクセス権に関するガイダンスです。
教育省は児童福祉及び教育(義務教育、継続教育、高等教育)を中心に、イングランドにおける幅広い分野を担当する行政機関で、2010年にキャメロン内閣の下で、既存の子ども・学校・家庭省を母体として設置されました。
タイトルにも使用されている「親責任parental responsibility」とは、日本の「親権」に該当する用語で、イタリア、カナダ、オーストラリア、アルゼンチンも同じ用語を使用しています。因みに、フランスは「親権」、ドイツ、スイスは「親の配慮」、アメリカは「監護権」が日本の「親権」に該当します。今回の法改正に際して、日本でも「親権」という用語の見直しが検討されましたが、結局見直されませんでした。「家庭の法と裁判」51号(2024)の青竹美佳氏の論考によれば、見直さなかったのは下記の理由だそうです。
ところが、法務省ホームページ(法務省>組織案内>内部部局>民事局)に掲載された「民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)」についての概要説明資料・英語版では「親権」に「parental responsibility」を当てています。親としての責任を強調する改正だったので、それに適した用語を選んだという解釈もできます。しかし、改正が諸外国で一般的な原則共同親権制ではなく、父母に判断を委ねる選択的共同親権制に留まった以上、「婚姻状況の如何に依らず、全ての親は親としての責任を果たす義務がある」という理念を唱えていようと、「親権(親責任)」という法律実務上の権限を親の意思のみで自由に放棄できるのですから、不適切な翻訳だと私は思います。
話が逸れてしまいました。それでは教育省のガイダンスをお読みください。
概要
学校は、生徒の親と多くの様々な方法で関わることを、法律により義務付けられています。学校は、多数の大人の間の争いに巻き込まれることがあります。その争いでは、それぞれの大人が特定の子どもに対する親としての責任を主張するのです。また、親は、特に社会福祉施設で暮らす子どもの場合、親責任がわかりにくかったり不明確であったりする複雑な生活の取決めに対処することも求められます。
このガイダンスは、教育法で認められているように、学校が親の権利と責任に関する義務と責任を理解するのに役立てるため作成しました。次の用語を使用します。
「しなければなりません」-学校に義務がある場合
「できます」-成文法または慣習法に基づいて学校に権限(義務ではない)がある場合
「すべきです」-優れた実践に関するガイダンス
「同居」親および「別居」親という用語を、子ども一緒に暮らす親と暮らしていない親とを区別するために使用します。
このガイダンスを、法律の完全かつ権威ある声明として扱うべきではありません。この書面では、学校の法的義務を規定する法律に言及しています。主要な法律の中には、発行後に修正されているものもあるかもしれません。言及している法律について質問がある場合は、まず法律顧問に連絡してください。
子どもの福祉は、学校にとって最優先事項でなければなりません。親が懸念を表明し、どう対応したらよいかわからない場合は、親の権利と責任が侵害されず、学校の行動が教育法に準拠していることを確認するために、法律上の助言を求めるべきです。
見直し日
法律の変更に応じて、2026年9月までにこのガイダンスを見直します。
親の定義
学校や地方自治体は、教育法と家族法では親の認識が異なる場合があることを認識しておくことが重要です。1996年教育法第576条では、子どもや若者に関して、「親」には、親ではない(「実親」と推測できる)が、子どもに対する親責任を有するまたは子どもの世話をしている者が含まれると規定しています。
教育法の目的上、教育省(DfE)は「親」を次の者を含むものと見做します。
結婚しているかどうかに拘らず、全ての実親
実親ではないが、子どもまたは若者に対する親責任を有する者-養親、継親、後見人、その他の親族がこれに該当します
実親ではなく、親責任を有していないが、子どもまたは若者の世話をする者
通常、常時または限られた時間、子どもまたは若者が一緒に暮らし、子どもまたは若者の世話をしている場合、その人と子どもとの生物学的関係または法的関係は親の定義に関係しません。
例
親権を有していないが、子どもに関する日常的な決定を下す責任を委任されている里親または家族や友人の世話人。
ある者が子どもの実親ではなく、子どもの親責任を有しておらず、子どもが既に一緒に暮らしていない場合、その者は親として認められる可能性は低くなります。1996年教育法第576条の意味において、ある者が子どもの「親」であるかどうかに関し意見の相違がある場合は、裁判所が決定を下します。
教育省は、法定および非法定のガイダンス内で「社会的共同親corporate parent」に言及することもあります。この用語は、託置児童、つまり保護命令care orderの対象となっている子どもに提供されるサービスに寄与する地方自治体およびパートナー機関を表すために使用します。保護命令は、1989年児童法第33条⑶に基づき、地方自治体(「社会的共同親」)に親責任を与えます。
親責任を理解する
家族法では、1989年児童法第3条に基づき、親責任は、親が子どもに関して有する全ての権利、義務、権限、責任、権威を意味します。
親責任を有する者は、子どもの養育に関する決定を下すことができ、子どもに関する情報を得る権利があります。例えば、子どもの医療処置に同意したり、子どもの教育に関する決定を下したりできます。また、健康や教育に関する情報を受け取る権利もあります。
学校や地方自治体の一般原則には具体的な例があります。
誰が親責任を有するのか
養子縁組命令adoption orderまたは代理出産後の親権決定命令parental orderによって親責任が取り消されない限り、子どもの実母(子どもを妊娠した者)が親責任を有します。
子どもの父親と母親が子どもの出生時に結婚していた場合、それぞれが親責任を持ちます。両親が子どもの出生時に結婚していなかった場合、子どもの父親は、次の方法で親責任を得ることができます。
母親と共同で子どもの出生を登録する
後で子どもの母親と結婚する
父親と子どもの母親の間で「親責任の合意書」を結び、裁判所に登録する
親責任に関する裁判所命令を得る
不妊治療で2人の女性が子どもをもうけた場合、母親の女性パートナーは父親と同じ扱いを受けます。治療時に母親と結婚または市民パートナーシップを結んでいる場合(または2人の女性が書面で、彼女が子どもの2番目の親になることに同意している場合)、彼女は親責任を持ちます。彼女はまた、子どもの父親と同じ方法で親責任を取得できます。
子どもの実母でない者、父親でない者、2番目の女性親ではない者も親責任を取得できます。
市民パートナーは、親責任に関して既婚者と同等の権利を有します。既婚者と同じ規定が、次の点でも適用されます。
親責任の取得:養子縁組、市民パートナーとの合意、または裁判所の命令による
親責任の保持
子どもに関する保護命令が出された際に指定がされている場合、地方自治体(「社会的共同親」)は、1989年児童法第33条⑶に基づいて親責任を取得します。
父親または2番目の女性の親が親責任を取得した場合の主な影響
父親または2番目の女性の親が親責任を取得すると、その者は
養子縁組法の目的上「親」となり、養子縁組への同意を保留できます
1989年児童法第20条に基づき、子どもが地方自治体の宿泊施設に収容されることに異議を唱え、そのような宿泊施設から退去させることができます(子どもが16歳以上で、宿泊施設の提供に同意している場合を除く)
自動的に養育手続きの当事者になります
後見人を任命することができます
子どもの医療処置に有効な同意を与えることができます(提案されている治療に対し、自身で同意したり、異議を唱えたりする能力が、子どもにあることを条件とします)
子どもの健康記録にアクセスする権利があります
子どもに性教育および宗教教育の授業を受けさせないことや子どもの教育に関して子どもが通う学校に意見を述べることができます
子どものもう一方の親は、その者の同意なしに子どもを管轄区域から退去させることはできません
子どものパスポート申請書に署名したり、パスポートの交付に異議を唱えることができます
子どもとの関係において、国際的な実子誘拐規則を発動するのに十分な権利があります
子どもが16歳または17歳の場合、子どもの結婚に同意することができます
親責任を得る他の方法
親責任は、次の方法を含む他の方法でも取得できます。
養子縁組する。縁組後は養親のみが親責任を有します。
養子縁組を予定している。子どもが養子縁組予定者に預けられている間、親責任が地方自治体などの他の当事者と共有される場合です。
代理出産後に親権決定命令を取得する。
継親になる。子どものもう一方の親もその子どもに対する親責任を有している場合は、子どもの母親とその者と合意によるケース、または裁判所命令の結果として帰着するケースがあります。
子どもが誰と一緒に暮らすべきかを決定する、または親は子どもと一緒に時間を過ごすべきであるが、その子どもは親と一緒に暮らすべきではないことを決定する、子に関する取決め命令child arrangements orderが下される。
後見人または特別後見人に任命される
緊急保護命令に名前が挙がっている-ただし、このような場合の親責任は、子どもの福祉を保護または促進するための合理的な措置を講じることに限定されます。
子どものケア命令care orderに指名されている地方自治体である。
1人の子どもに対して、複数、更には数人が親責任を有し、親責任を行使することができます。別の者にも与えられたからといって、1人の当事者の親責任が必ずしも停止するわけではありませんが、そのようなことは起こり得ます。したがって、場合によっては、数人の者が子どもの代理として親責任を行使することがあります。
里親や施設ケアresidential careのキーワーカーには親責任は与えられませんが、学校がこれらの個人と関わり、ともに課題に取り組むことは不可欠です。これらの個人は、子どもの人生において最も影響力があり、重要な人物であることが多いからです。学校がソーシャルワーカーや子どもの実親とどのように関わるかは、それぞれのケースで地域ごとに定義する必要がありますが、子どもの学校および養護環境をサポートする上で不可欠な部分です。
裁判所命令と親責任
1989年児童法第8条に基づく裁判所命令は、しばしば第8条命令(2014年児童家族法第12条により改正)と呼ばれ、親責任の行使や子どもの養育に関する紛争の領域を解決し、個人が親責任を行使する方法を制限することができます。
第8条命令には様々な種類があり、特定の問題に対処するために発出できます。
特定行為禁止命令 Prohibited steps order
特定行為禁止命令は、責任の行使に特定の制限を課します。これは、親が親責任を果たすために取ることができると裁判所が指定した措置は、裁判所の同意なしには取ることができないことを意味します。
例
一方の親が、子どもを長期間海外に連れて行きたい、または、もう一方の親の意に反して子どもが宗教的な礼拝に参加するのを阻止したい場合。
特定事項命令 Specific issue order
特定事項命令は、親責任のあらゆる側面に関連して発生した、または発生する可能性のある特定の問題を決定するための指示を与えます。
例
一方の親が、もう一方の親の意に反して生徒の転校に同意することを認める命令。
子に関する取決め命令 child arrangements order
子に関する取決め命令は、子どもが誰といつ一緒に暮らすか、また、どちらの親と時間を過ごすか、またはコンタクトするかの取り決めを定めたものです。これは、以前の居所命令residence orderおよびコンタクト命令contact orderに代わるものです。
保護義務に従って、学校は親に対して最新の裁判所命令のコピーを提供するよう求めるべきです。ただし、学校を含む第三者と命令を共有するために、親は先ず裁判所の許可を求める必要があるかもしれません。
ケア命令 care order
ケア命令が発令されている場合、親が子どもの生活や学校教育で果たせる役割が、地方自治体によって制限され可能性があります。
学校は、親の親責任の行使を制限する裁判所命令が、必ずしも学校が教育法に基づく義務を遂行することを妨げたり制限したりするものではないことに留意すべきです。
親責任の取消し
このようなケースは稀ですが、非常に限られた状況では、裁判所は、1989年児童法第4条⑶に基づいて、取得した親責任を取消す命令を発出することもできます。この例外は、父親または2番目の女性の親が子どもの母親と結婚することによって、親責任を取得した場合です。
裁判所命令と事前手続きに関する詳細情報は、こちらで入手できます。
学校と地方自治体の一般原則
教育法で認められている親であれば、誰でも子どもの教育に参加できます。
これは、教育大臣が、教育法に基づくそれぞれの権限と義務を全て行使または遂行する際に、生徒は親の希望に従って教育を受けるという一般原則を考慮する義務を負っていることによって裏付けられています。
公立学校の管理機関は、2006年教育検査法に基づき、登録された生徒の親が表明した意見も考慮しなければなりません。
学校の主な連絡先は、学校のある日に子どもが一緒に暮らす親かもしれませんが、2005年教育(生徒の情報)(イングランド)規制に基づき、全ての親が子どもに関する情報を受け取ることもできます。
子どもの親責任を有する者、または子どもの世話をする者は、実親と同じ以下の権利を有しています。
学校のレポートなどの情報を受け取る
親理事の選挙で投票するなど、法定活動に参加する
子どもが修学旅行に参加する場合などで、同意を求められる
子どもの退学に関する理事会など、子どもに関る会議について通知を受ける
学校および地方自治体の職員は、裁判所命令により親が教育上の決定を下したり、学校生活に参加したり、子どもに関する情報を受け取ることを制限されない限り、全ての親を平等に扱わなければなりません。殆どの場合、学校が決定を下す際に自問しなければならないのは、親が親責任を有しているかどうかだけではなく、教育法の下で親であるかどうかです。
全ての親は、1996年教育法第7条に基づく法的義務も負っています-例えば、義務教育年齢の子どもが適切な全日制教育を受けられるようにする義務などです。
親の行動または行動の提案が、子の最善の利益のために行動する学校の能力に反する場合、学校は親と問題を解決するよう努めるべきですが、如何なる紛争にも巻き込まれることは避けるべきです。ただし、学校が1人以上の親からの行動要請を拒否しなければならない場合もあります。
学校が離別した両親間の葛藤を解決できない場合、学校は、被害を受けた親に家庭裁判所を通じて問題を追求するよう助言すべきです。
情報共有
学校は、親の要請と法定義務のバランスを取ることが重要です。親責任を持っているからといって、法律の下で義務を遂行する学校を親が妨害できるわけではありません。
例
親責任を有する実親が、子どもの公立学校に対し、親責任を有していないものの子どもの世話をしている継親に子どもの教育に関する情報を受け取ってほしくない旨を伝えます。学校は実親に、その要求に応じられない旨を伝えなければなりません。
2005年教育(生徒の情報)(イングランド)規制に基づき、公立学校は、親の要請に応じて、子どもの教育記録へのアクセスまたはそのコピーを親に提供することが義務付けられています。したがって、学校が実親の要請に従うと、教育法に基づく義務に違反することになります。
情報共有法
2018年イギリス一般データ保護規制(UK GDPR)および2018年データ保護法の原則に基づき、子どもまたは若年成人は13歳から自分の個人情報を管理し、自分の個人情報へのアクセスを制限することができます。ただし、子どもが18歳になるまでは、例え子どもがアクセスを望まなくても、子どもの教育記録にアクセスを要求する権利または教育記録のコピーを要求する権利を親は有しています。さは然り乍ら、UK GDPRの下で学校が子どもに合法的に開示できない情報、または2005年教育(生徒の情報)(イングランド)規制の下で子どもがアクセスする権利を持たない情報については、親は権利を有していません。
子どもの親責任を有する地方自治体は、ケア命令の対象となっている子どもの教育記録を閲覧する権利またはコピーを受け取る権利もあります。
例
子どもとのコンタクトが限られている別居親が、子どもの試験の成績を知るために学校に接触します。子どもと同居親はその情報を共有することを望まず、学校にその旨を通知します。学校は、子どもがアクセスを制御できる年齢であるとして、情報の公開を拒否します。そうすると、別居親が権利を有する情報を提供しなかったことで、学校は教育法に違反したことになります。
注:GCSE(中等教育修了一般資格)の結果は生徒の教育記録の一部であるため、要求に応じて親に開示できます。生徒の同意は必要ありません。ただし、学校がこの情報を共有すると生徒または他の個人に深刻な身体的危害または精神的危害が及ぶ可能性があると判断した場合、学校は結果を親に公開しないことを決定する場合があります。このような状況では、学校および影響を受ける親は、独立した法的助言を求めることを希望する場合があります。
UK GDPRの詳細については、情報コミッショナー事務局にお問い合わせください。
情報共有とアカデミー
アカデミーの要件は若干異なり、2014年教育(独立学校基準)規則のスケジュールの第6部から派生しています。
アカデミーは、親が別途同意しない限り、登録生徒の主要科目の進捗状況と達成度に関する書面による年次報告書を親に提供しなければなりません。
別居親への通知
学校が別居親の所在を知らない場合、学校は同居親に、もう一方の親が子どもの教育に関与する権利があることを知らせ、情報を渡すように要求すべきです。同居親が別居親と情報を共有することを拒むか、連絡先情報を知っているのに、連絡先情報を提供して学校が直接対応できるようにすることを拒む場合、学校はそれ以上何もできません。別居親がその後学校にコンタクトして情報へのアクセスを要求した場合、学校は、その人物が実際に子どもの親であることを確認するための合理的な措置を講じた後、その親に直接情報を提供すべきです。
学校は、別居親の連絡先情報を記録したり、子どもの教育情報を別居親に送ったりする前に、同居親の同意を求める必要はありません。別居親がこの情報にアクセスする権利を有している証拠として、別居親から弁護士の公式文書を求める必要はありません。法定情報を受け取る権利のある親に法定情報を提供する前に、裁判所命令は必要ありません。
同意の取得
学校が課外訪問や課外活動に親の同意を必要とする場合、校長は同居親の同意を求める必要があります。ただし、その決定が子どもに長期的かつ重大な影響を及ぼす可能性がある場合、または別居親が全ての事案で同意を求めるよう要求している場合は例外です。
学校が両親の同意が必要であると判断した場合、または両親の同意を求めるよう求められた場合、学校は両親が同意しない限り、親の同意は得られていないとみなすこともできます。このようなアプローチにより、学校はそれぞれの親の意見を平等に扱うことを保証し、例えば子どもが修学旅行中に怪我をした場合など、民事責任に曝される点での立場を守るのに役立ちます。
学校は両親間の意見の相違に巻き込まれることは避けるべきですが、両親が同意できない場合は、それぞれの親が子どもに関してどのような決定を下せるかを明確に規定した特定行為禁止命令または特定事項命令を取得するための独立した法的助言を求めることを提案するとよいかもしれません。
医療処置:事故や怪我の後の同意の取得
子どもが事故に遭い、緊急医療処置に同意が必要な場合、学校は問題に直面する可能性があります。1989年児童法第3条では、親責任を有していないが子どもの世話をしている者は、次のことができると規定しています。
「…子どもの福祉を保護する、または促進する目的で、その事案のあらゆる状況において合理的なことを行う」
これにより、学校は「親の立場で」-即ち、親の代わりに-行動したり、親責任を有していない可能性のある親から同意を求めたりすることができます。
傷を縫う必要がある子どもを学校が病院に連れて行くのは明らかに合理的ですが、親-子どもに関係する出来事について通知を求めている別居親を含む-には、できるだけ早く通知すべきです。
健康と安全の責任に関するガイダンスが利用可能です。
保護措置
全ての学校は、教育における子どもの安全確保に関する法定ガイダンス(KCSIE)を考慮しなければなりません。このガイダンスでは、学校と学校職員が生徒を保護するために何をしなければならないか、何をすべきかが説明されています。
KCSIEでは、保護措置を次のように定義しています。
子どもをマルトリートメントから保護する
子どもの精神的および身体的健康または発達の障害を防ぐ
子どもが安全で効果的なケアの提供と一致する環境で成長することを保証する
全ての子どもが最良のアウトカムを得られるよう行動する
KCSIEは、子どもとその家族にコンタクトする全ての者が保護において果たすべき役割があることを強調しています。学校や大学職員は、懸念を早期に特定し、懸念が拡大するのを防ぐために子どもに支援を提供できる立場にあるため、特に重要です。彼らは常に子の最善の利益を考慮すべきです。
子どもが差し迫った危険にさらされている場合、または危害を受ける恐れがある場合は、必要に応じて、直ちに児童福祉施設または警察に紹介すべきです。児童福祉施設に紹介された場合、学校はケースバイケースで、親に提供する情報のレベル(ある場合)を検討することになります。
全ての学校は、セーフガーディング・リード-この役割の完全な職務記述書は、KCSIEの付録Cに記載されています-を任命すべきです。児童福祉施設と連携して、その職員は、一般的に、保護に関する懸念に関連する情報を子どもの親と共有するかどうかの決定を主導すべきです。
情報共有は常に子の最善の利益のために行うべきです。親と情報を共有すると子どもがより大きな危害を受ける可能性があると考え得る理由がある場合、学校が児童福祉施設と密接に連携して次のステップを検討することが特に重要です。
保護措置と情報共有に関するガイダンスは、次のサイトに掲載されています。
子どもの保護のために一緒に取り組む
弁護士向けの情報共有に関するアドバイス
転校する生徒
離別した両親の場合、判例法は、子どもを学校から退学させる、いつ退学させるべきか、どの新しい学校に通わせるべきかなどの重要な決定を行う前に、親責任を有する全ての者に相談しなければならないと規定しています。
学校は、子どもを学校登録簿から削除する要請を受けた場合、依然として2006年教育(生徒登録)(イングランド)規則を遵守せねばなりません。ただし、一方の親が子どもを退学させることを決定した場合に、もう一方の親に通知する法的義務は学校にはありません。その責任は、別離した両親にのみあります。
とはいえ、子どもの福祉は最優先です。そのため、両親が別居していることを学校が把握し、一方の親が子どもを退学させることを決定した場合、職員はその親に、もう一方の親にそのことを通知して、同意を得られているかどうかを尋ねるのが良いかもしれません。
学校は、親同士の葛藤に巻き込まれるのを避けるべきです。両親が子どもに関する問題についてお互いのコミュニケーションの手段に合意できない場合、独立した法的助言を求め、他の選択肢を検討することをお勧めします。これには、メディエーションなどの法廷外紛争解決に問題を付託したり、家庭裁判所に裁定を求めたりすることが含まれます。
学校は、早期支援の紹介を行うことが適切であると考える場合があります。早期支援とは、子どもの人生のどの時点でも問題が発生するとすぐに支援を提供することを意味します。子どもが協調的な早期支援から恩恵を受ける場合、早期支援の機関間評価を手配する必要があります。子どもを保護するために一緒に取り組むことで、早期支援のプロセスに関する詳細なガイダンスが提供されます。
学校は、このガイダンスや、市民相談やコーラム児童法律センターなどのその他の支援源を親に案内することもできます。
姓の変更
姓の変更は私的な家族法の問題であり、両親間で解決すべきです。私的な家族法に関する政府の政策は法務省が担当しています。公的な家族法の政策責任は教育省が保持しています。
一方の親が、子どもが名乗っている姓を変更しようとする場合、学校は、もう一方の親、または子どもの親責任を有する他の誰かが同意したという書面による証拠がなければ、変更しないようにすべきです。学校は、姓の変更を希望する親とは無関係に、この証拠を入手すべきです。
2006年教育(生徒登録)規則の規則第5条⑴⒜は、学校は入学登録簿に全ての生徒のフルネームをアルファベット順に記録することを求めています。これは、子どもの法律上のフルネームを意味し、子どもが名乗っている他の名前ではありません。
ただし、非公式な姓の変更が既に学校で採用されており、別の姓に戻すことが子の最善の利益にならない場合があります。そのような状況では、学校はどのような対応を取るかを決定すべきですが、子の最善の利益を最優先しなければなりません。
子どもが特別後見命令special guardianship orderの対象である場合、学校が別の姓を使用するように要求されたなら、特別な考慮事項があります。1989年児童法第14C条⑶は、次のように規定しています。
「特別後見命令が児童に関して有効である間、子どもの親責任を有する全ての者の書面による同意または裁判所の許可なしに、子どもに新しい姓を名乗らせることはできません。したがって、学校は、上記の基準が満たされない限り、子どもに別の姓を名乗らせる特別後見人からの要求を拒否しなければなりません」
親理事
学校は、親理事選挙への指名、投票、またはその他の参加の資格を、親責任を有する親に限定すべきではありません。2012年学校統治(憲法)(イングランド)規則では、「親」には親責任を有する者だけでなく、実親や子どもの世話をする者も含まれます。
理事会の役割と義務に関するガイダンスが利用可能です。
運営管理
2013年教育(生徒登録)(イングランド)規則の規則第5条⑴⒞に従い、校長は次の事項を徹底しなければなりません。
入学登録簿に全ての親の名前と住所を記載する
学校の登録簿には、緊急時に各同居親に連絡できる電話番号を少なくとも1つ記載する
したがって、校長は次の事項を確実に行うべきです。
生徒を登録する際に、親または後見人に全て親の連絡先の詳細-名前、住所、電話番号、電子メールのアドレスなど-を尋ねる
生徒の教育記録に裁判所命令の詳細が記載されていることを確認する
このような情報は、より困難な状況で何をするか決定する際は勿論、誰が課外訪問について親の同意を与えることができるのか、子どもが病気になった時に誰に連絡を取るべきなのかを決定せねばならない場合に必要になります。
例
里親ではなく実親が、地方自治体の保護下にある子どもを学校に迎えに来る場合。
学校は、親の個人情報を他の当事者から保護し、偶発的な漏洩を避けるよう注意すべきです。その親がドメスティックバイオレンスの被害者だったり、被害者になるリスクがある場合、これは特に重要です。
例
年次出席簿は学年末の報告書と一緒に発行するが普通ですが、この年次出席簿には、通常生徒の現在の住所が記載されているため、学校はこれを誰に送るか注意すべきです。同様に、学校が一方の親に送ったものをもう一方の親にコピーした場合、一方の親の私的な電子メールアドレスや通信内容を開示してしまう可能性があります。
子どもが養護されている場合、学校は里親や実親に情報を提供する際にも同様の注意を払う必要があります。子どもの保護の一環として、里親の詳細を実家族に公開してはならない場合があります。
ソーシャルワーカーとの連携
ソーシャルワーカーが子どもを学校から迎えに行く場合があります。それには、状況に応じて、実親または里親のいずれかと事前に合意する必要があります。ソーシャルワーカーは、教師、実親または里親、および子ども自身の事前の合意なしに、ケアレビューまたは連絡会議に出席する目的で子どもを迎えに学校の敷地内に入るべきではありません。
学校は、ソーシャルワーカーとのコンタクトが必要になる場合があります-例えば、子どもの健康や学校を欠席することなどに関する件です。ただし、殆どの場合、主たる監護者が学校と話し合い、そのアウトカムをソーシャルワーカーに報告するのが最適です。
[訳者註]イギリス一般データ保護規制 UK General Data Protection Regulation, UK GDPR
イギリスのEU離脱に伴って、EUの一般データ保護規制(GDPR)の内容に基づいて、2021年1月1日に施行されたイギリスの法律。個人データの処理およびイギリス国外への移転を行うための要件を定めるとともに、処理または移転を行う者が遵守すべき規範・義務を定める。
[訳者註]アカデミー academy
教育省から直接支援提供を受け、地方自治体の管理から独立した公立学校。中等学校の80%、小学校の40%、特別支援学校の44%がアカデミーである。
[訳者註]KCSIE Keeping Children Safe in Education
学校や大学に通う18歳未満の児童および若者の福祉を守り、促進するために従わなければならない法的義務を規定している法律。
[訳者註]親理事 parent governor
学校に在籍している生徒の親が選出する学校理事会の一員。親の教育要求を集団化し、親の教育権の実現を図る制度として機能している。親理事の選出条件は、選出時に子どもが在籍していること。候補者がいない場合は、理事会が任命することもできる。イギリスでは組織などの管理者のことをガバナーgovernorと言い、例えば、スクールガバナーというのは、学校を管理する人たちの組織を指す。
[訳者註]セーフガーディング・リード Safeguarding Lead
組織においてセーフガーディングに関する責任を担う人のことを指す。セーフガーディングとは、子どもを虐待や虐待から守ること、子どもが健康や発達に害を被らないようにすること、子どもが安全かつ適切なケアを受けられるようにすることなどを意味する。
[訳者註]コーラム児童法律センター Coram Children’s Legal Centre, CCLC
1981年に設立されたイギリスの慈善団体で、イギリスおよび海外で児童の権利を促進する活動を行っている。CCLCは、中央政府、ユニセフ、慈善信託からの助成金、および寄付によって運営されている。CCLCは、コーラム慈善団体グループの一員であり、児童および若者に影響を及ぼす法律と政策を専門としている。CCLCは、児童、若者、その家族、保護者、専門家に無料の法律情報、アドバイス、代理サービスを提供するほか、児童法および児童の権利に関する国際コンサルティングも行っている。
(了)