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第2章 親同士の関係を強化し、子のアウトカムを向上させるのに有効な事

この記事は、イギリス労働年金省の委託を受け、EIF(早期介入財団)が実施したレビュー「WHAT WORKS TO ENHANCE INTER-PARENTAL RELATIONSHIPS AND IMPROVE OUTCOMES FOR CHILDREN」の第2章を翻訳したものです。

子どものアウトカムにおける両親の間の関係の重要性に関するエビデンス

 この最初のセクションでは、両親間葛藤に関連していることが判明した、子どもや青年の様々なアウトカムについて説明します。両親間葛藤とは、両親や夫婦が頻繁に発生する葛藤で、敵意や憎しみをもって表現され、かつ/または十分に解決されなかったりします。私たちは、原因因子を特定する能力という観点からこのエビデンスの強さを議論し、人生の可能性を改善するためのより広範なアプローチの一環としてこれらのアウトカムが重要である理由を考察します。
 代表的な研究は、本文の囲み込みに詳細に記載しています。これらの研究は、夫婦が夫婦関係の葛藤を管理する際にコミュニケーションの方法と、お互いにに関与する方法の両方が、効果的な子育て実践に取り組む能力にどのように影響を与えるか、幼児期、小児期、青年期の子どものメンタルヘルスのアウトカムに影響を与え、学業/教育の達成、身体的な健康とウェルビーイング、雇用の可能性、そして後年の将来の人間関係の安定性にも影響を与え得ることを強調しています。

文献レビューの方法論

  • 報告書の本セクションでレビューした研究は、親同士の関係(特に夫婦/両親間の葛藤)を子どもの心理的福祉とウェルビーイングの特定の領域に結び付ける公表された調査結果に焦点を当てています。本セクションで説明している「アウトカム」領域はそれぞれ、複数の公表された研究によって裏付けられています。提供された参考文献は、査読済みの出版基準を満たし、親同士の関係の機能と子どものアウトカムに関する同様の指標を測定する研究によって再現された研究を表しています。研究の概要と関連する研究デザイン、分析方法、および関連する統計は、報告書の本セクションでレビューする研究のプロファイルと主要なアウトカムにリンクした情報例を提供することによって提示します。関連する研究が他にも存在するかもしれず、本レビューが必ずしも全ての研究を報告しているわけではありません。

  • 子どもを特定の家庭環境にランダムに割り当てることはできないため、因果関係の方向性に関する仮説を検証するために、シーケンスまたは時間および年齢の動態を使用して、時間と発達にわたる関連性を調べることができる縦断的研究は重要なエビデンスの情報源です。事象が時間的に連続することで、特定の仮説に基づいたプロセス(即ち、順序や事象の連鎖)を検証することができ、考えられる因果プロセスを示すことができます。従って、縦断的研究は介入を試行する前の重要なステップとなります。本報告書を通じて強調されている代表的な研究の大部分は、縦断的デザインを採用しています。このことは、横断的研究よりも原因を推論する上で大きな支えとなります。

  • 本レビューは、遺伝学的感受性の高い研究デザインを使用した研究にも基づいています。遺伝学的感受性の高い研究デザインにより、子どもの発達に対する遺伝学的および環境(養育)の影響を推定することができます。研究では、両親間葛藤と子どものアウトカムとの関連性を説明する際の、共有遺伝子および/または環境経験の相互作用および相対的な役割を理解するために、このようなデザインを使用しました。本レビューでは、特に次の2種類のデザインを参考にしています。

    • 養子縁組の研究:生物学的に血縁のある親族と血縁のない親族の類似性を調べる。養子とその実親との間の類似性は遺伝子の共有によるものと考えられ、一方、養子と育ての親との間の類似性は環境の影響によるものと考えられています。

    • 生殖補助医療によって生まれた子どもの研究:子どもは、配偶子の「養子縁組」に基づいて、養育する親の一方または両方と遺伝的に関係しているか、または遺伝的に関係がありません。このような研究では、遺伝的に関係する親と子と遺伝的に無関係な親と子の関連性を比較し、関連性が主に遺伝的に媒介される(説明される)のか、環境によって媒介されるのか、またはその2つの組み合わせであるのかを調べます。このような研究デザインは、遺伝的に無関係な親と子のサンプルを使用して関連性を調査するため、親と子の類似性の説明として共有遺伝子を排除し、子どものアウトカムに対する育児経験の重要性を強調しています。

子どもが経験するアウトカムの種類

 実験的[1,2]、縦断的[3-5]、および介入[6]の研究デザインを採用して数十年にわたって蓄積された研究エビデンスは、激しい両親間葛藤が特徴的な家庭に暮らす子どもは、乳児期、小児期、および青年期を通じて否定的な心理的アウトカムを引き起こすリスクが高いことを示しています(本章は実験的および縦断的なエビデンスに基づいて説明し、次章では介入のエビデンスをレビューします)。本研究が焦点を当てた子どもの主たるアウトカム領域には、外面化する問題、内面化する問題、学業上の問題、身体的健康上の問題、社会的および対人的問題が含まれており、研究ではこれらの問題が個別にかつ/または累積的に子どもの長期的な人生の可能性、福祉、否定的なアウトカムの世代間伝達(即ち、子ども→親→子ども)に影響を与える可能性があることがますます認識されつつある。更に、このようなアウトカムは、次のような子どもたちでも証明されています。両親が別離や離婚をしている、かつ/またはドメスティックバイオレンスが葛藤の深刻さの特徴である場合だけでなく、通常は子どもを「危険にさらす」と見做されていない家庭環境で両親間葛藤を経験した子どもにおいて証明されており、このような領域は過去の研究や政策上の関心の主な焦点となっていて、両親間葛藤が子どものアウトカムに及ぼす影響は十分に文書化されています[7,8]。両親の別離や離婚かつ/またはドメスティックバイオレンスが家庭生活の特徴ではない両親間の葛藤に焦点を当てた研究では、生後6か月の子どもが、親以外の大人同士の遣り取りと比較した場合、両親の間のあからさまな敵対的な遣り取りに反応して心拍数の上昇などのより高い生理学的苦痛症状が現れることが示されています[2]。5歳までの幼児や子どもは、泣いたり、暴れたり、すくんだりするだけでなく、実際の葛藤自体から距離を置いたり介入しようとしたりするなど、重大な苦痛の兆候を示します[9]。6歳から12歳(幼少期中期)と13歳から17歳(青年期)の子どもも、両親間の継続的で辛辣な遣り取りに曝されると、感情的および行動的苦痛の兆候を示します[3]。本章では、主たる心理学および関連領域についてレビューします。

外在化問題

 深刻かつ/または現在進行中の両親間葛藤を目撃したあらゆる年齢の子どもにとって最も一般的なアウトカムの1つは、外在化問題として知られる幅広い否定的な行動上の問題が増加することです。外在化問題は、攻撃性、敵意、非服従および破壊的な行動、言葉による暴力や身体的暴力、反社会的行動、素行障害、非行、極端な破壊行為などの行動上の困難によって特徴付けられます[10,11]。非常に幼い子どもが3歳未満で癇癪を特徴とする外在化問題の特徴を示すことは比較的一般的ですが[12]、発達上不適切な持続的な攻撃性は、学業の失敗[13]、薬物乱用[14]、仲間の被害[15]、更には後年になってからのうつ病やうつ病性障害の症状の亢進[16]を含む様々な長期的なマイナスの結果と関連しています。両親間葛藤は、感情の調子の管理と人間関係の問題解決の「モデル」を提供するものとして認識されており、両親間葛藤と暴力の拡張モデルを促進する可能性があり[8]、一方で、子どもや青年の欲求不満や不安を促進し、攻撃性や特定の素行問題や素行障害につながります[17]。素行障害は、厳しい両親間葛藤に曝されるなど、崩壊した家庭環境を経験する子どもの重要な要因として認識されています[18]。

外在化問題に関する代表的な調査結果

  • Haroldら(2013):2つの遺伝的感受性の高いサンプルについて報告しました(従って、両親間の敵意/子育てと子どもの外在化問題の間の類似点の説明として共有遺伝子が排除されています)。採用された2つの研究は、⑴体外受精(IVF)によって妊娠した4~8歳の子ども700人以上を対象としたイギリスを拠点とした横断的研究、⑵出生時に養子となり、本研究で6歳時に評価された200人以上の子どもを対象としたアメリカを拠点とした縦断的研究です。本研究では、遺伝的に関係のある、または遺伝的に関係のない母子および父子のグループ間の両親間葛藤、親子の敵意、子どもの外在化問題の関連性を調査しました。遺伝的に関連のある親子と遺伝的に関連のない親子の両方について、両親間葛藤から母子および父子の敵意を介した子どもの外在化問題まで、関連性が観察されました(決定係数R²=0.21~0.26)。両親間葛藤と親子の敵意との関連性は、遺伝的に関連のあるグループと遺伝的に関連のないグループの両方で、母親(β = 0.33/0.37)に比べて父親(β = 0.45/0.58)の方が高い有意性を示しました。

  • Leveら(2012):文化とリスクのレベルの点で異なる以下の2つの少女サンプルを使用した縦断的研究について報告しました:⑴アメリカを拠点とした、中学校への移行を目指している里親養護施設にいる少女100人(11.5 歳)のサンプル、⑵中学校に入学する少女264人(初期評価時11.6歳)のイギリスを拠点とした地域社会サンプル。両方のサンプルにおいて、(小学校から中学校への移行期間にわたる)初期レベルの攻撃性と薬物乱用を調整した後、うつ病症状の増加は、タバコとアルコールの摂取の増加と関連していました。

  • Grychら(2003):イギリス(ウェールズ))を拠点とした298人の子ども(初期評価時11~12歳)を対象とした縦断的研究について報告しました。より激しい両親感葛藤に曝されると、初期のレベルの調整と評価を考慮後、子どもの自責評価がより大きくなることが予測されました。自責のレベルの増加は、外在化問題のレベルの上昇と関連していました(フルモデルの決定係数R²=0.62~0.63)。この調査結果のパターンは、両親間葛藤に関する親子の報告全体でほぼ一貫していました。

内在化問題

 エビデンスは、両親間葛藤に曝されると、内在化問題の発生率の増加も予測されることを示しています。内在化問題は、引きこもり、抑制、恐怖と悲しみ、内気、低い自尊心、不安、うつ病、そして極端な場合は自殺願望などの症状によって特徴付けられます[19-21]。両親間葛藤は子どもの内在化問題の増加と関連しており、進行中の刺々しい両親間葛藤を目撃する青年期前後の子どもにおける、不安やうつ病の発症率が高いことが研究で証明されています[22]。研究は(両親間葛藤が内在化問題につながるという)特定の方向性を仮説としていますが、エビデンスの一部は横断的なデザインを採用しているため、両親間葛藤と子どものアウトカムに関連した方向性を推測することはできません。縦断的研究を使用している場合、それらは、内在化問題、特に不安やうつ病につながる両親間葛藤の方向性を将に裏付けています。
 エビデンスは、両親間の継続的な葛藤と子どもにかかる感情的負担(全ての年齢において)が、不安やうつ病が増大する重大なリスクに子どもを曝していることを示唆しています[23]。内在化問題と外在化問題は、特に子どもが小児期から青年期に進むにつれて、問題の異なるプロファイルを表しますが、最近の理論的観点は、子どもの劣悪な人生アウトカムの長期にわたる後遺症を説明する上で、外在化問題(例えば、反社会的行動)と内在化問題(例えば、うつ病)との関連性を強調しています。PattersonとCapaldi(1990)は、失敗モデルを提案しおり、そこでは、学業の失敗、仲間からの拒絶、家庭内の葛藤の増加を含む、行動問題が青少年の成長にもたらす悪影響のために、反社会的行動の問題がうつ病につながるとしています[24]。例えば、反社会的行動の問題は、有能な社会的スキルを開発する能力を妨げ、その結果、否定的な反応や仲間からの拒絶を引き起こす可能性があります(例えば、Capaldi & Stoolmiller, 1999 [25])。このような行動問題は、子育てに対する敵対的で拒絶的な感情を呼び起こし[26]、自尊心や自己有能感の低下につながる可能性もあります。この低い自己有能感力と他者からの否定的な反応の組み合わせは、広範な適応障害(例えば、学業の失敗、社会的支援ネットワークの構築不能、人間関係の失敗)を引き起こし、子どもをうつ病障害に罹り易くする可能性があり[27-30]、うつ病の経済的影響は、2020年までに世界的に重大な割合に達すると認識されています[31]。幼少期から青年期にかけて、子どもの否定的な内在化問題と外在化問題の両方を促進する親同士の関係の顕著な特性が、最近の幾つかの研究で強調されています(例えば、Haroldら[3, 32-34])。

内在化問題に関する代表的な調査結果

  • Rhodes (2008):子どもの適応と、両親間葛藤に対する子どもの認知的、感情的、行動的、生理学的反応との関係を調査したメタ分析の結果を報告しました。文献調査は2007年9月に実施されました。分析に含める基準は次のとおりでした:⑴英語で出版した研究である、⑵子どもの適応に関する少なくとも1つの尺度が、その研究に含まれている、⑶両親間葛藤に対する子どもの認知的、感情的、行動的、または生理学的反応の少なくとも1つの尺度が、その研究に含まれている。著者は5つのデータベースを調べ、未出版の研究がないかその分野の専門家に連絡しました。71件の研究がメタ分析の一部として検討されました。各研究の方法論的な品質を継続的に採点を行い、以下の点を利用する毎に、その研究に1点を加算しました:⑴日々の日記レポート、⑵両親間葛藤の音声またはビデオの一部始終、⑶子どもの行動問題かつ/また両親間葛藤に対する子どもの反応の観察。子どもの適応と両親間葛藤に対する子どもの反応との関係については、小程度から中程度の効果量が見出されています:(両親間葛藤に関する)認知と子どもの適応(内在化と外在化)との関連性(加重集計効果量)は、r = 0.18、p<.001でした;マイナスの影響と子どもの適応との関連性(加重集計効果量)はr = 0.14、p<.001でした;生理学的反応と子どもの適応との関連性(加重集計効果量)は、r = .12、p<.001 でした。外在化問題よりも内在化問題の方が大きな影響がありました。幼児よりも年長児の方が効果が大きく、年齢を重ねるにつれ、殆どの効果量は大幅に緩和されました。効果に子どもの性別による差はありませんでした。

  • Riceら(2006):うつ病の症状を予測する際の家庭内の葛藤(両親間葛藤を含む)の影響が遺伝的傾向(葛藤環境に曝された影響に対する子どもの感受性を高める遺伝的要因)によって異なるかどうかを調べるために、5~16歳(最初の評価時)の934組の双生児のペアを対象としたイギリスを拠点にした縦断的双生児デザインを使用しました。研究結果は遺伝子と環境の相互作用 (相互作用 b = 0.18) を示唆し、遺伝的にうつ病のリスクがある子どもは、激しい家族内葛藤の状況下で症状が上昇することを証明し、回帰モデルはうつ病の症状の分散の38%を説明しています(R²= 0.379)。この研究は、家庭内葛藤が若者のうつ病の症状を予測することを示しています。うつ病の家族歴を持つ子どもは、両親間の激しい確執を特徴とする家庭内葛藤に反応してうつ病の症状を発症するリスクが高まる可能性があります。

学業上の問題

 両親間葛藤は、イギリスを拠点にした子どもの学力低下など、子どもの学業成績にも関連しています[5]。このようなアウトカムを説明するために、神経生物学的(初期の脳)発達とそれに関連する学力や成績への結果的な影響をもたらす睡眠パターンの初期の混乱、敵対的な親同士の関係に曝された結果として形成された否定的な仲間関係、そして敵対的で険悪な親同士の関係に曝された結果として子どもに生じる否定的な知覚や帰属プロセスを含む、様々なプロセスが仮説として立てられてきました。これらの説明の最初のものは、両親間葛藤の結果としての子どもの睡眠障害に焦点を当てており[35,36]、睡眠パターンの乱れは学校での注意力や集中力の低下を予測しています(非常に早期に乱れたパターンでは、即ち3歳未満の子どもは、認知(理解と学習)に関連する脳の領域に特有の神経生物学的混乱を通じて、脳の発達に影響を与える可能性があります[37])。例えば、ある研究では、睡眠障害は両親間葛藤が小学生の学力に及ぼす影響を説明しており、様々な背景の危険因子を統制すると、高葛藤な家庭で育った子どもは、数学、言語、言葉による学校能力と言葉によらない学校能力の尺度で低いスコアに留まっていることがわかりました[36]。より最近の研究では、生後9〜18か月の子どもの睡眠障害に対する両親間葛藤の影響が強調され、制御された睡眠は子どもの早期脳発達にとって必須の要件であるとの認識のもと、早期の子どもの発達に関わるこの主要領域に対する悪影響が示されています[38]。学業上の困難についての別の説明は、子どもの学校での適応に焦点を当てています[39-41]。親同士の関係(および両親との関係)を否定的に表現する子どもは、仲間との関係を含め、他の関係に対して否定的な期待を抱きやすくなります[42]。アメリカで就学開始(6歳)から子どもを追跡した縦断的データは、2年後までの一般的な情緒障害および教室での困難[39]は勿論のこと、注意力の問題[41]を説明する上で、子どもの親同士の関係の表現が重要な役割を果たしていることを浮き彫りにしています。青年期の子どもたちの間で、特にイギリスを拠点とした青年のサンプルを対象としている場合において、縦断的エビデンスは、両親間葛藤のせいで自分を責める子どもは、両親間葛藤のせいで自分を責めない子どもよりも、初期の行動問題や子育て行動の水準を統制すると、学力が低下する可能性が高くなることを示しています[5]。

両親間葛藤と学業成績に関する代表的な調査結果

  • Haroldら(2007):199年、2000年、2001年に評価された230人の学童(11~13歳)を対象としたイギリスを拠点とした縦断的研究では、複数の情報提供者による評価を使用して、両親間葛藤と子どもの学力成績との関連を調査しました。子どもの攻撃性の初期水準を統制すると、両親間葛藤は子どもの自責の評価と関連しており(ただし、否定的な子育てではない)、それが子どもの学業成績と関連していました(R² = 0.15-0.17)。このことは、激しい両親間葛藤や敵意に満ちた家庭で暮らす子どもの帰属過程が、子どもの長期的な学業の成功に重要な意味を持つことを示唆しています。

  • Manneringら(2011):357家族を対象とした縦断的研究で、遺伝的に感度の高い設計で複数の情報提供者を使用して(従って、子育てと子どもの間の類似性の説明として共有遺伝子を排除します)、生後9か月から18か月の子どもを対象に、婚姻生活の不安定性(例えば、どちらかの親が離婚を考えたかどうか、一般的な口論、夫婦関係の不満)との睡眠障害(例えば、落ち着きのなさ、イラつき)との関連性を調査しました。子どもの生後9か月の時点での婚姻生活の不安定さは、18か月の時点での子どもの睡眠障害を予測しましたが(β = 0.10)、9か月の時点での睡眠障害は18か月の時点での婚姻生活の不安定性を予測しませんでした(β = 0.06)。この効果は、母親と父親に対して別々にモデルを実施したときに判明しました。

  • Sturge-Apple (2008):229人の幼稚園児(初期評価時の年齢6歳)を対象に、3年間の縦断的な複数の方法と複数の情報提供者による研究を実施しました。両親間葛藤は、子どもが親同士の関係を不安定に表現することと関連していました(β = 0.14)。次に、子どもの親同士の関係の不安定な表現は、子どもの感情的な適応(切片β = 0.31; 傾き β =-.24)および教室での困難(切片 β = 0.20)と関連していました。

身体的健康上の問題

 親同士の関係が不安定で崩壊した状況では、子どもの身体的健康も危険に曝されていることを示すエビデンスがあります[9,43]。複数の調査研究は、身体的成長の低下[46]は勿論のこと、両親間葛藤が疲労[44]、腹部ストレス、頭痛[45]を含む、身体的健康上の問題(例えば、病気の進行)と関連していることを示しています。両親間葛藤は、自律神経系(即ち、身体の闘争/逃走システム)や、コルチゾールやアドレナリンなどのストレス反応プロセスを管理するホルモン系などの様々な生理学的反応への影響を通じて、身体的健康に影響を与えると考えられています[47-49]。両親間葛藤は、早期性行為は勿論のこと、喫煙や薬物乱用などの子どもの危険な行動にも影響を与える可能性があります[50-52]。関与するメカニズムには、親子関係の側面や、両親間葛藤によって影響を受ける一貫した親の監視や監護の混乱[53, 54]、あるいは激しい両親間葛藤によって特徴付けられる家庭環境に伴う苦痛に対処するための若者の薬物使用や乱用(「セルフメディケーション」)[52]が含まれると考えられています。

両親間葛藤と身体的健康に関する代表的な調査結果

  • Troxel & Matthews (2004):両親間葛藤と子どもの身体的健康との関連性を調査する文献レビューを実施しました。対象とする研究は、英語で書かれ、婚姻生活の満足度、婚姻生活の葛藤、または婚姻生活の構造を評価し、子どもの身体的健康を評価していることが求められました。認定した論文の参考文献リストも調査されました。ひとり親家庭、児童虐待、既存疾患の症状管理を評価した研究は除外されました。22件の研究が認定され、そのうち10件は横断的研究でした。このレビューでは、婚姻生活の葛藤(および程度は低いが両親の離婚)と子どもの身体的健康との関連を示す一貫したエビデンスが見つかりました。レビューされたエビデンスは、婚姻生活の葛藤と子育てとの関連性も示しており、子どもの健康(身体的健康、認知機能および行動機能、精神的健康を含む)に対する直接的および間接的影響の両方を強調しています。

社会的および対人関係の問題

 両親間葛藤は、子ども自身の社会的および対人関係にも影響を与える可能性があります[55]。高葛藤な家庭で育った子どもは、対人スキル、問題解決能力、社会的能力が低い傾向にあります[56-58]。高葛藤な家庭は、親子の葛藤[59]、兄弟姉妹とのより敵対的な関係[60]、初等中等教育中の仲間と葛藤の増加[58,61]と関連しています。例えば、Fingerら(2010)は、1歳から4歳まで追跡した子どものサンプルにおいて、両親間葛藤と、入学時や小学校低学年の幼児が仲間とうまくやっていく能力との間に関連性があることを発見しました[58]。困難は青年期や成人期にも達し、研究では対人関係および将来の恋愛関係における困難が記録されています[56,62]。例えば、CuiとFincham(2010)は、高葛藤な家庭で育った青年は、葛藤によって特徴付けられる質の悪い恋愛関係に巻き込まれる可能性が高く[63]、険悪な親同士の関係を経験している子どもや青年の間で人間関係の崩壊率上昇が証明されている[64]と発見しました。

両親間葛藤、社会的および対人関係の問題に関する代表的な調査結果

  • Feldman and Masalha(2010):イスラエル人とパレスチナ人の夫婦における子どもの社会的能力の早期先行因子として母子および父子の相互作用行動を調べるため、観察法を用いた縦断的研究を実施しました。その結果、早期の人間関係の経験(親子関係、両親間の結束)と子どもの社会的能力との関連性が浮き彫りになりました。文化的な違いは、特定の子育ての実践や子どもの社会的関与との関連においても観察されました。モデル全体(親の感受性、子どもの社会的関与、ペアレンタルコントロール、互恵性、結束、および相互作用の項を含む)については、R²母親と乳児の相互作用の合計(5か月)= 0.32;R²父親と乳児の相互作用の合計(5か月)= 0.31;R²母親と乳児の相互作用の合計(33か月)= 0.28;R²父親と乳児の相互作用の合計(33か月)= 0.37でした。

  • Lindseyら(2006):離婚家庭と非離婚家庭の白人およびアフリカ系アメリカ人の少年173人(平均年齢8歳)を対象に、面接と自己申告による多方法研究を実施しました。離婚家庭の少年は友達が少なく、友情の質も低位でした。具体的には、非離婚家庭の少年の64%には学校に共通の友人がいたのに対し、離婚家庭の少年の場合、教室に共通の友人がいた割合は僅か37%でした。更に、非離婚家庭の少年の36%には教室に2人以上の親友がいたのに対し、離婚家庭の少年の場合、教室に2人以上の友人がいた割合は19%でした。友情の質の観点から見ると、非離婚家庭の少年は、離婚家庭の少年よりも暖かさ(効果量d = 0.28)と敵意の少なさ(効果量d = 0.32)に特徴付けられる友情を築く可能性が高いことがわかりました。葛藤解決戦略は、両親間葛藤と少年の友情(共通の友人の数と友情の質)との間の関連を媒介しました。

  • Du Rocher Schudlich (2004):観察、アンケート、および「家族の物語」タスクを含む、横断的な複数法のデザインを採用しました。この研究では、5歳から8歳までの47人の子どもを評価しました。この研究では、両親間葛藤と子どもの仲間同士の葛藤戦略との間に関連性があることが実証されました。子どもの親子関係の内的表現は、両親間葛藤と子どもの仲間に対する葛藤行動との関連を媒介していました。母親や父親の隠れた、あるいは剥き出しの葛藤と親子の相互作用に関する否定的な子どもの表現を含む回帰分析では、決定係数R²が0.23~0.40の範囲にあることが示されました。これらの調査結果は、子どもはどちらかの親に向けられた、隠れた両親間葛藤や剥き出しの両親間葛藤を認識しており、それが仲間に向けられた葛藤行動に影響を与えていることを示しています。

将来の人生の可能性
 これまでにレビューしたエビデンスは、家族関係が心理面、社会面、身体的健康、対人関係、学業上のアウトカムを低下させるリスクに影響を与えることを示しています。更に、蓄積されているエビデンスは、これらのアウトカムが幼少期から青年期にかけて収束して蓄積し、個人自身の人生全体の可能性(および社会の関連コスト)を大幅に減少させ、これらの問題や人間関係行動のパターンが、世代を超えて繰り返され複製されるお膳立てをすることを示唆しています。例えば、頻繁で激しく、十分に解決されていない両親間葛藤に曝されている子どもは、より否定的な感情(例えば、不安、憂鬱)や行動問題(例えば、素行の問題、反社会的行動)を引き起こすリスクが高まり、その結果、学業成績の更なる低下、道を外れた仲間との関わり、薬物の使用や乱用、将来の人間関係の可能性の低下、雇用適性の低下、対人暴力の増加、パートナーあるいは夫婦としての習熟度や子育ての習熟度の低下、将来における家庭と子どものアウトカムの崩壊につながる可能性があります。両親間葛藤は現在、家族制度と刑事司法制度は勿論のこと、健康、精神的健康、教育、雇用にわたる経済的および社会的コストを伴う実質的な「下流」(短期および長期)におけるマイナスのアウトカムに対する重要な「上流」(早期)の危険因子として認識されています(Harold & Murch,2005 [65] を参照)。

両親間葛藤と将来の人生の可能性に関する代表的な調査結果

  • Mastenら(2005):縦断的な複数法の研究で、205人の学童(最初は8~12歳)の標準的なアメリカの都市サンプルにおける学力発達のカスケードモデルを調査しました。カスケードモデルでは、機能の1つの領域の変化が、発達に大きな影響を与え得るイベントを連続的に(または段階的に)引き起こす可能性があると仮説が立てられています。外在化問題は子どもの学力を損ない、その後の内在化問題に影響を及ぼしました。影響は性別によって差はなく、IQ、子育ての質、社会経済的差異の影響によるものではありませんでした。

なぜ親同士の関係が重要なのか?

 幼少期、青年期、その後の人生にわたる両親間葛藤に伴うアウトカムに焦点を当てたエビデンスをレビューしましたが、両親間葛藤がなぜ子どもの精神的健康や将来の人生の可能性に影響を与えるのか、特にどのようなプロセスやメカニズムが子どもの与える影響を説明するのか、という問いに対し、研究エビデンスは何を教えてくれるのでしょうか。
 子育てや親同士の関係を含め、家族関係が子どもに与える影響を調査した研究では、歴史的に影響を理解するための「アウトカムを志向した」アプローチが強調されてきました。即ち、「両親の離婚、マルトリートメント、悲観的な経済状況、親の精神病理(例えば、うつ病、反社会的行動問題)、悲観的な子育て、かつ/または両親間葛藤など、特定の家族の危険因子に曝された子どもがどのようなアウトカムをもたらすか」という問い掛けです。この種の研究により、特定の家族の危険因子(例えば、両親間葛藤)の結果として子どもが経験する問題の種類についての理解が進んだ一方で、全ての子どもが同じ経験に対して同じように反応するわけではないことも浮き彫りになりまし。具体的には、同じ出来事やストレスの多い経験に対して子どもがどのように感じ取り、どんな反応をするかには個人差があります。子どもが、ストレスの多い出来事や経験(例えば、ネグレクト、マルトリートメント、悲観的な子育て、両親間葛藤)に曝されていながら、結果として望ましくないアウトカムを示していない場合(例えば、うつ病、攻撃性)、その状態はしばしば「レジリエンス」のエビデンスと呼ばれ、拡大しつつある研究分野を構成しています[66]。大事な点は、この重要な研究分野の本質は、子どもが問題をストレスの多い経験の結果として感じ取るかどうかを説明することではなく、子どもの反応の違いを説明する特定のプロセスとメカニズムを浮き彫りにすることです。言い換えれば、子どもが特定の経験によって他の経験よりも影響を受ける可能性があるかどうかを単純に問うよりも、子どもがストレスの多い出来事や経験によって「なぜ、いつ、どのように」影響を受けるかを説明する要因は何なのか、ということです。従って、子どもに対する家族の影響を調べるためのより現代的なアプローチは、特定の危険因子(例えば、両親間葛藤)に対する子どもの適応における個人差の根底にある特定のメカニズム(媒介因子や緩和因子)を調査し解明するために、所謂「プロセス指向」の視点を採用することです。リスクに関連した適応におけるこの重要な違いを説明するために機能するメカニズムをよりよく特定することにより、
影響が及ぶ特定のプロセスをより正確にターゲットにすることで、子ども、親、そして将来の家族に対する両親間葛藤(および家族の危険因子に関連する他の因子)の悪影響を軽減することを目的とした、より的を絞った介入プログラムを開発する体制が以前より整いました。

子どもに対する他の家族からの影響に関連した両親間葛藤の役割の状況説明

   子どもは、敵対的なレベルの両親間葛藤に特徴付けられる、望ましくない家庭環境で育つ結果、様々な望ましくないアウトカムに様々な形で影響を受けます。実際、過去の研究では、複数の家族の影響が子どもの望ましくない心理的発達の危険因子として機能していることが特定されています。急性または慢性の経済的負担[67]、親の精神病理のレベルの上昇(例えば、うつ病[68])、両親間葛藤と暴力[8,69]、望ましくない親子関係[70]、両親の離婚[71]に曝された家庭で育った子どもは、不安、うつ病、攻撃性、敵意、反社会的行動や犯罪行為、その他のアウトカムの増加を含む。様々な望ましくない心理的アウトカムを経験することが示されています。しかし、研究者らは、これらの要因は、子どもの特定のアウトカム(例えば、子どもの問題を引き起こす経済的圧力経済的問題)に対して単一の影響として作用するよりも寧ろ相互に連携して作用し、厳しい経済状況が親(母親と父親の両方)の精神的健康(特にうつ病の症状)に影響を及ぼし、夫婦関係の質のレベル(即ち、両親間葛藤)に悪影響を及ぼし、それが今度は子育ての実践に影響を及ぼし、更にそれが子どもの心理的苦痛の症状に影響を及ぼすと指摘しています[67]。子どもに対する家族の影響に関するこの「プロセスモデル」の中心的な提案[67,72.73]は、早期の環境的および経済的影響が、子どもの長期的ウェルビーイングに必要な種類の家庭環境を提供する親の能力に影響を与えるという重要な政策メッセージを強調している[17]。過去の研究は、子どもに対する家族のストレスの影響を軽減するための主要な場所として、前向きな親子関係(主に母子関係)を促進することに焦点を当ててきましたが、この国際的に再現された理論モデル(図1を参照)は、初期の家族のストレス(経済的または社会的ストレス、親の精神的健康など)が子育てと子どもの長期的な心理的アウトカムの両方に影響を与える中心的なメカニズム、フィルター、またはパイプとしての親同士の関係の質に焦点を当てています。

図1 家族のストレスが子どもの精神的健康問題に与える影響に関するプロセスモデル:親同士の関係に関する中心的な役割

両親間葛藤と子どもの心理的アウトカム:どのようなプロセスから影響を説明できるのか?

 過去の研究は、両親間葛藤が子どもに影響を与える主なプロセスが2つあることが明らかにしました:⑴親子関係の破綻、⑵険悪な両親間葛藤に曝された結果、子どもに生じる家族関係の望ましくない感情、認識、表現。

両親間葛藤、子育て、そして子どもの発達

 この分野の注目すべきレビュー研究は、敵対的で苦悩する夫婦関係に巻き込まれた親は、通常、子どもに対してより敵対的で攻撃的であり、子どものニーズに対する敏感で感情を込めた反応が殆どないことを強調しています[70]。両親間葛藤が子どもに及ぼす影響を説明することを目的としたこの十分にエビデンスのある理論モデルの主な基礎は、両親間の葛藤の影響は、夫婦関係から親子関係への感情の「溢出」を通じて間接的に発生すると考え、子どもとの関係、自分たちの関係に動揺したりイラつく夫婦は、親としての役割において苦痛を感じる、あるいは攻撃的になる可能性が高いことを示し、親子関係を通じてその影響が伝わるという仮説を立てています。この提案を支持するものとして、親同士の関係における葛藤のレベルと親子関係における葛藤のレベルとの間には強い関連性が存在します[70]。実際、この関連性を裏付けるエビデンスのベースは、家族関係の崩壊(例えば、離婚)を経験している子どもに対する主要な支援メカニズムとして、子育て支援(主に母子の子育て支援)を対象とした介入の主要なプラットフォームとして機能します。1980年代と1990年代におけるこの分野の研究の急増に基づいて、ある研究者グループ (Fauber & Long, 1992)は、両親間葛藤と子どものアウトカムとの関連性のエビデンスは、親子関係の役割を強固に支持すること、影響を説明する中心的なメカニズムは子育てのレベルが主であること[74]、介入は子育ての実践のみを対象とすべきであることを示唆しています[74]。
 しかし、両親間の葛藤が親子関係の崩壊を通じてのみ子どもに影響を与えるのであれば、子どもは、両親の間で起こっている葛藤を実際に目撃したり、認識していたかどうかに関係なく、悪影響を受けることになるでしょう[75]。つまり、両親の間で起こっている葛藤を目撃したり、認識していた子どもと、両親の間で起こっている葛藤を目撃しなかった、または認識していなかった子どもは、同等の影響を受けることになるでしょう-混乱した子育て実践を通じて。以下に説明するように、研究エビデンスはこの結論を裏付けていません。

両親間葛藤、親の行動に対する子どもの認識、および子どもの心理的発達

 過去数十年にわたって実施されてきた研究は、子どもが曝されている明白な両親間葛藤は、子どもが曝されていない隠れた葛藤よりも、子どもの苦痛に大きな影響を与えることを示しています(CummingsとDavies [2, 49]を参照)。この発見により、研究者らは、敵対的な親同士の関係によって特徴付けられる家庭で暮らす子どもの根底に生じる心理的プロセスに焦点を当てた、第二の仮説を検討するようになりました。両親間葛藤が子どもの心理的発達に及ぼす影響を説明する際、親の行動に関する子ども自身の理解、解釈、期待の重要性を強調する3つの主要な理論的観点が明らかになりました。GrychとFincham(1990)は、認知的文脈の枠組みの中で、子どもが両親の関係に関する議論に割り当てる特定の信念と属性が、ウェルビーイングへの影響を説明していると提唱しています[69]。DaviesとCummings(1994)は、心理的アウトカムに対する望ましくない影響を説明する要因として、より伝統的な母子関係への焦点を超え、アタッチメントのプロセスの重要性を強調し、両親間葛藤の状況における子どもの感情的不安定の役割に焦点を当てています[76]。HaroldとConger(1997)は、統合的な理論モデルを提供し、子どもが両親間で起こっている葛藤に割り当てる特定の属性は、親(母親と父親)が自分たちに対してどのように関わったり、どのように行動するか(母子の葛藤、父子の葛藤)に対して抱く期待に影響を与える、それが引いては子どもの心理的アウトカムに影響を与えると提唱しています[75]。

両親間葛藤における子どもの属性の役割
 GrychとFincham(1990)は、認知的文脈の枠組みの中で、両親間葛藤に対する子どもの心理的反応は、葛藤の認知的(属性的)処理を通じて生じると提唱しています[69]。この観点によれば、葛藤が子どもの心理的アウトカムに及ぼす影響は、自分たちのウェルビーイングへの影響をどのように認識するかは勿論、それがどのように表現されるか、子どもがその意味をどのように解釈するかによって左右されます。これらの著者らは、子どもが葛藤に曝されることと、その意味の解釈との間の関係の根底には、認知処理の2つの段階が存在すると示唆しています。これらの最初の段階である一次処理は、葛藤が起こっていることに子どもが初めて気づき、初期レベルの覚醒を経験する段階です。彼らは、親子関係の質、子どもの気質、子どもの性別、葛藤への暴露歴などの状況的要因だけでなく、葛藤頻度、激しさ、解決の可能性などの葛藤エピソードの具体的な特徴が、この初期段階の評価や解釈に影響を与えることを示唆しています。
 この処理の第一段階は、その後、より複雑な第二段階につながる可能性があり、その間、子どもはなぜ葛藤が起こっているのか、そしてそれに応じて自分が何をすべきかを理解しようとします。二次処理には、葛藤にどう対処するのが最善かを検討することは勿論、葛藤の原因を理解し、責任と非難を負わせることが含まれます[69]。葛藤を脅威と見做したり、効果的に対処できないと感じたりする子どもは、より大きな不安や無力感を経験する可能性があります。親の意見の相違で自分を責めたり、親の意見の相違を終わらせる手助けをしなかったことに責任を感じたりする子どもは、罪悪感、恥辱、悲しみや憂鬱を経験します。葛藤が頻繁で激しく、解決が不十分な場合、これらの特性により、子どもが深刻な感情的問題や行動問題を起こすリスクが高まると考えられています[69,77]。
 認知的文脈の枠組みから導かれた仮説の多くは経験的に支持されています(例えば、Kerig, 1998 [78, 79]; Grych, Raynor & Fosco, 2004 [80])。長期的な研究で、Grych, HaroldとMiles(2003)は、子どもの脅威と自責の属性が、親間の対立と子どもの内在化症状(うつ病、不安)および外在化問題(攻撃性、敵意)との関係を説明する(または媒介する)ことを示しました[32]。具体的には、葛藤から生じる脅威に基づく少女の属性は、少年よりもうつや不安の症状(内在化)を悪化させましたが、一方で自責と責任に関する少年の属性は、少女よりも攻撃的、敵対的、反社会的(外在化)を悪化させました[32]。これらの発見は、両親間の葛藤に対する子どもの反応を理解する上で重要な意味を持ち、更に大事なことに、険悪な親同士の関係の中で少年と少女が異なる危険に曝される理由を理解する上で(彼ら自身の将来の人間関係における行動パターンにも影響を与える)重要な意味を持ちます。

両親間葛藤と子どもの情緒的安定性(アタッチメント)プロセス
 
DaviesとCummings(1994)は、両親間葛藤の状況で子どもの「情緒的安定性」の感覚が脅かされることを示唆する補完的な視点を提供しています[76]。アタッチメント理論[81]に基づいて、これらの著者は、破壊的で管理の悪い両親間の葛藤の影響は、家族内での子どもの感情機能と一般的な安心感という概念的に関連する3つの領域の混乱を通じて説明できると提唱しています。第一に、両親間葛藤の状況で、子どもが怒り、悲しみ、または恐怖を感じるなど、情緒的な反応性の感情が影響を受ける可能性があります。第二に、家族システムの別のところ(例えば、親子関係)で葛藤が起こるという子どもの期待に両親間葛藤が影響を与えるなど、家族関係の表現が影響を受ける可能性があります。第三に、両親間の感情に曝されるのを規制したいと感じた子どもが、葛藤に寄り添い直接介入したり、積極的にその場から距離を置いたりする可能性があります。葛藤が子どもたちに与える影響は、情緒的安定性に関するこれらの側面の1つ以上が悪影響を受ける程度と、子どもが全体的な情緒的混乱を如何にして上手く制御できるかによって説明されます。DaviesとCummings(1998)によるこの視点からの最初のテストでは、両親間葛藤に曝されると、子どもが感じる情緒的安定性に違いが生じ、それが子どもの感情的問題や行動問題に及ぼす葛藤の影響を説明できることがわかりました。具体的には、悲しみ、怒り、恐怖を感じ、葛藤のエピソードを他の家族関係(例えば、親子関係)の質に対する差し迫った、そして潜在的に長期的な脅威であると見做した子どもは、感情的および行動的苦痛の症状が高まりました[82]。

別の家族関係に対する子どもの認識の触媒としての両親間葛藤
 両親間葛藤に対する子どもの認識と理解は、それが心理的発達に及ぼす影響を説明する上で重要な因子であるという提案に基づいて、Haroldとその同僚(1997)は、両親間葛藤と親子間葛藤の両方が、子どもの心理的発達に連続的に悪影響を与えることを示唆する「家族全体モデル」を提案しています[3]。しかし重要なことに、この著者たちは、子どもが両親の互いに対する態度をどのように認識するか(即ち、両親間葛藤)によって、両親が自分たちに対しどのように振る舞うと期待しているか(親子間の葛藤)が決まり、それが引いては子どもの心理的苦痛の症状に影響を与えると提唱しています。このアプローチで重要なのは、子育てを通じて子どもに及ぶ両親間葛藤の影響(即ち、夫婦関係から親子関係への否定的な感情の湧出[70])を説明することを目的とした解説と、心理的発達への影響を説明する際に、両親間の行動に対する子どもの認識を考慮する、より最近の理論的観点を組み合わせていることです[69]。このモデルはまた、子どもが険悪な親同士の関係の中で暮らしている場合、または継続する険悪な親同士の関係を経験している場合に、子どもへの影響を説明する際に、母子関係と父子関係の両方を調査することの重要性を強調しています。介入の観点から見ると、このモデルは、両親間葛藤が激しい場合の子育ての効果をターゲットにしたプログラムにとって重要な意味を持ちます。具体的には、両親間葛藤の状況で子育て行動をターゲットにする場合、混乱した子育て実践への影響源が見逃される可能性があり、その結果、子どものアウトカムに影響を与える実際の状態における「原点」、即ち、親同士の関係を見逃してしまう可能性があることを、このモデルは強調しています。
 まとめると、これらの理論モデルは、両親間の葛藤に曝されることが子どもの心理的ウェルビーイングにどのように悪影響を与えるかを説明する際に、子どもの個人的な視点(理解)を考慮することの重要性を強調しています。両親間葛藤に関する子どもの認識と理解が演じる積極的な役割を、子どものウェルビーイングに及ぼす影響を説明する上で強調することにより、なぜ一部の子どもは両親間葛藤の影響を比較的受けていないように見えるのか、その一方で、なぜ他の子どもは長期にわたる深刻な(臨床的に重大な)情緒的および行動的問題や広い範囲の人生の可能性の減少が進展し続けるのかをよりよく理解できるかもしれません。
 この結論は、イギリスの初期青年期の子どものサンプルを対象として、Haroldとその同僚が実施した重要な縦断研究(2007)によって強調されています[5]。この研究は、子どもとその親の地域社会サンプル(n>300)を対象とし、子どもが11歳のときに評価した両親間葛藤(頻度、激しさ、低い解決性)が、子どもが13歳のときの標準学業成績(英語、数学、科学)に及ぼす役割を調査しました。重要なことは、両親間葛藤が子どものアウトカムに影響を与える可能性がある3つの中心的なメカニズムを調査したことです:⑴前向きな子育て行動の混乱(親子葛藤)、⑵子ども自身の行動問題(教師が攻撃性に関して報告)、⑶両親間の葛藤に対する子どもの自責と責任に関する認識と属性。全て、両親間葛藤のレベルを評価した12か月後に評価しました(12歳)。子どもにとって不利な学業のアウトカムは、両親間葛藤やより広範な(親子間の)家族間の葛藤経験よりも寧ろ早期行動問題の産物であるという代替的な説明の可能性を是正するために、子どもの早期行動問題(攻撃性)も11歳の時点で評価しました。結果は、両親間葛藤が子どもの長期的な学業成績(この研究で評価されたように、年齢は11~13歳)に影響を与える中心的なメカニズムは、子育てに対する悪影響や子ども自身の攻撃性や問題行動のレベルによるものではなく、子どもが両親間葛藤の経験に割り当てた特定の自責的帰属によるものであることを裏付けています。従って、敵対的または望ましくない子育て実践をターゲットにした介入プログラムや、両親間葛藤が子どもの生活の要因となっている場合に子どもの特定の行動問題に焦点を当てた介入プログラムは、子どものアウトカムを説明するための中核となるメカニズム、即ち、激しい両親間葛藤に特徴付けられる家庭に住んでいる子どもに生じる特定の帰属プロセスを、実質的に見逃してしまう可能性があります(図2を参照)。両親間葛藤の状況において、子育てスキルだけでなくパートナーシップスキルに関する知識の向上を促進することは、子どものアウトカムに大きな利益をもたらす可能性があります。感情的および行動的アウトカムの改善だけでなく、将来の人生の可能性(例えば、就業、精神的健康[83])の重要な指標である学力の達成にも関連しているのです。

図2 両親間葛藤に対する子どもの認識の役割

両親間葛藤が子どものアウトカムに影響を及ぼすという仮説への挑戦

両親間葛藤に対する子どもの適応の説明における遺伝的要因の役割
 特定の子育て経験(両親間葛藤を含む)が子どもの心理的アウトカムに影響を及ぼすという仮説に対する根本的な課題は、そのような経験と子どもの心理的症状との間の関連性を、親が提供する子育て環境の特定の特徴よりも、親から子に受け継がれる遺伝的要因によって説明し得る可能性があることです。両親間葛藤や望ましくない子育ての実践を含む、子どもの精神的健康アウトカムに対する家族の影響を調査した過去の研究の限界は、研究の大部分が生物学的関係のある親と子どもを対象に実施されていることです。生物学的に関連した家族のみを対象とした研究では、共有された遺伝(即ち、親から子に受け継がれる遺伝子)かつ/または環境経験(例えば、両親間葛藤、望ましくない子育ての実践)の相対的な役割を、子どものアウトカムに与える影響としての理解することが困難になります。つまり、子どもの心理的症状に対する遺伝要因と環境要因(養育経験)の相対的な役割を調べる際、遺伝子(親から子どもに受け継がれる)は、子どもの感情的ウェルビーイングや行動の側面に影響を与えるだけでなく、両親間葛藤や敵対的な子育ての実践に曝されるなど、子どもが経験する家族の状況や環境にも影響を与える可能性があります[84,85]。このことは、両親が離婚した子どもを対象とした研究を参照して説明できます。例えば、以前概説したように、両親が離婚した子どもは様々な望ましくない心理的アウトカムのリスクが高くなります[84,85]。この関連性は、離婚前、離婚中、離婚後の両親間の険悪な葛藤に曝されること(Harold & Murch、2005 [65]参照)と、この葛藤が子どもに向けて生み出す家庭環境や養育条件によって説明し得る可能性もありますが、否定的な感情と人間関係の問題に対する共通の遺伝的素因によって説明し得る可能性もあります[86]。このことから、険悪な両親間葛藤に曝されること自体が、子どもの心理的発達に影響を与えるものとして十分なのか、それとも、この関連性が子どもの遺伝子構造から生じる心理的困難に対する生物学的素因の結果なのかという疑問が生じます。最近の研究では、遺伝的に血縁関係のない親子のサンプルを使用することで、この本質的な問題に対処しようと試みており、それによって、共有/共通の遺伝的要因によって混乱した説明以上に、子どもの心理的発達に対する独自の影響として、家庭環境の役割についての洞察が得られています[38,87,88]。例えば、Manneringら(2011)は、子ども生後9か月と18か月のときのそれぞれで、親同士の関係の不安定性(例えば、一般的な口論や人間関係の不満)と子どもの睡眠障害(例えば、落ち着きのなさやイラつき)との間の影響の方向性を調査しました。研究者らは、子どもが生後9月のときの親同士の関係の不安定性(両親間葛藤)が、生後18か月の子どもの睡眠障害を予測することを発見しました。睡眠障害は人間関係の困難を予測するものではなかったので、人間関係の問題は、子どもの早期の睡眠パターン(早期の脳の発達に不可欠)に影響を与えるのであって、その逆ではないという結論が導き出されました。この研究は、出生時に家族以外の家庭に養子縁組された500人以上のアメリカを拠点にしたサンプルを利用したもので、親同士の関係の不安定性(両親間葛藤)と子どもの睡眠障害との関連性が一般的な遺伝的要因によって説明できないことを意味しています[38]。同様に、Haroldら(2012)は、体外受精(IVF)によって子どもを授かったイギリスの親子のサンプルを利用し、両親間葛藤と子どもの行動問題(例えば、素行の問題)との関連性を説明する際に、思いやりや敵意などの子育て行動が果たす役割に注目しました。結果は、母子や父子の過酷な子育ての実践が、遺伝的に関係のある母子や父子および遺伝的に関係のない母子と父子の組み合わせにおける、両親間葛藤と子どもの素行の問題との関連性を説明し得ることを示唆しました[88]。これらの関連性が、遺伝的に無関係な親子グループ間で統計的に有意であったという事実は、これらの関連性(両親間葛藤、過酷な子育ての実績、子どもの素行の問題)が、根底にある共通の遺伝的要因によって説明できないことを意味し、それによって、子どものアウトカムへの影響として、養育環境の役割、および特に両親間葛藤、望ましくない子育て、子どもの素行の問題とを結び付ける関連性を肯定しています。
 このごく最近開発されたエビデンスに基づいた最も重要なことは、両親間葛藤、望ましくない子育ての実践(親子の葛藤)、および子どものアウトカム(情緒的問題、行動問題)を結び付ける関連性の規模と統計的有意性が、主に生物学的に関連のある親子を対象とした過去の研究からの関連性を再現しているということです。従って、実践レベルでは、私たちは敵対的な親同士の関係と望ましくない子育ての実践が子どものアウトカムに実質的な影響を与える役割について、より大きな自信を持つことができます。というのは、これらの研究により、関連性が共通の遺伝子構造だけでは説明不可能であり、敵対的な親同士の関係によって特徴付けられる環境をターゲットにした介入および支援プログラムは、親子関係の質、子どものアウトカムの大幅な改善につながる可能性があり、否定的な人間関係行動の世代間伝達と同世代および世代を超えた人生の可能性の減少を修復できるかもしれないと結論付けることができるためです。

父子関係の役割 
 
本レビューで以前に概説したように、両親間葛藤と子どものアウトカムとの関連性を調査した過去の研究では、関連性を説明できる仲介者(メカニズム)としての子育ての役割が強調されています。本研究の限界は、子どものアウトカムを調査し、よりよく理解する際に、主に母子関係に焦点が当てられ、父子関係が相対的に無視されていることです。しかし、父親の役割は子どもの発達に重要な影響を与えるものとしてますます認識されています[89]。研究は往々にして、離婚が父子に及ぼす(主に父親の不在または父子関係の崩壊を通じての)悪影響に焦点を当てています[275]。これを踏まえ、家庭崩壊の全期間にわたって、望ましい父子関係を促進、維持できる場合、子どもにとって望ましいアウトカムが促進される可能性があることを研究がますます示唆しています[276]。特に、両親間葛藤、敵対的な子育て、子どもの心理的アウトカムとの関連に関して、最近の研究では、父親の子育ては母親の子育てよりも夫婦関係の問題に敏感である可能性があることが示唆されています。例えば、Harold, Elamら, 2013 は、体外受精と養子縁組研究の研究デザインを用いて、混乱した母子および父子の両方の子育て実践によって媒介される、両親間葛藤と子どもの外在化問題の役割を強調しました。両親間葛藤、母子と父子の敵意、および子どもの外部化問題との関連性は、遺伝的に関係のある親子グループと遺伝的に無関係な親子グループの両方で有意であり、更に注目すべき追加の発見として、両親間葛藤と父子の敵意との関連性は、母子の敵意との関連性に比べて著しく強力でした。 この発見は、遺伝的に関係するグループと無関係なグループにも当てはまります[88]。介入研究の文脈において、CowanとCowan(2002)は更に、父親が家族に焦点を当てた介入(両親間プログラムおよび子育てプログラムを含む)に参加すると、子どもの持続的なアウトカムの関連において有効性が高まることを強調しています[6]。このエビデンスに基づけば、⑴母親と父親の間の力関係、および⑵この力関係が母子と父子の両方の関係およびそれに関連する子どものアウトカムに及ぼす影響は、家族が子どもに及ぼす悪影響に対処する際に母子関係のみに焦点を当てた場合と比較して、子どものアウトカムの改善につながる可能性が高いことを認識したプログラムが提案されるでしょう。

両親間葛藤が子どもに与える影響に作用する可能性のある追加要因の検討

 子どもが敵対的な両親間葛藤に曝される相対リスクに完璧な対処をする上で重要な問題は、子どもに対する影響や衝撃を強化あるいは軽減し得る要因を調査することです。この点は、両親間葛藤に応じた効果的な介入を設計する上で重要です。科学文献では、これらの要因は「緩和」効果と呼ばれています。前述したように、エビデンスは、同じレベルの両親間葛藤や不和に曝された同じ年齢の子どもたちは、全く異なる反応を示す可能性があることを示唆しています。従って、両親間葛藤の影響を包括的に理解するには、なぜ一部の子どもが他の子どもよりもその影響を受けやすいのかを検討する必要があります。これらの要因のプロファイリングは、介入プログラムの有効性にも影響を及ぼします。というのは、プログラムの忠実度は、ターゲットにしているプロセスおよび関連するアウトカムに対するプログラムの効果に作用する可能性のある要因に対応する必要があるからです。科学文献では、敵対的な親同士の関係を目撃した(または目撃していない)子どもへの影響の深刻さに明らかに作用する、影響を和らげる主要な領域を3つ特定しています。これらは、以下の通りです:⑴子どもの固有の特性(例えば、気質)、⑵家族の特性(例えば、親の精神的健康状態、家庭の経済状況)、⑶社会的要因(例えば、仲間)および民族性を含むその他の要因。これらをここで簡単にまとめます。

子どもの特性

子どもの年齢や発達段階
 両親間葛藤に曝されたことに関連した子どものアウトカムに対する子どもの年齢や発達段階の役割は、この分野における新たな知識領域です。乳児期から青年期まで、あらゆる年齢の子どもが険悪な両親間葛藤により悪影響を受けていることがエビデンスによって確認されていますが、これらの影響が生じる具体的なメカニズムは年少児と年長児では異なる可能性があります[22]。子どもの葛藤と対処戦略の評価は、年齢差を説明する際に特に関連すると考えられています。非常に幼い子ども(2歳未満)は、有害な可能性がある親同士の葛藤についての考えや評価を生み出し、処理する認知能力を発達させていない可能性があります[32]。しかし、エビデンスは、両親間葛藤の状況において生理学的覚醒を示しています[44, 90]。また、子ども(1~5歳)は、採用できる対処戦略の種類も、より限定されており(例えば、El-Sheikh & Cummings, 1995 [91])、未就学児は自責、脅迫、葛藤に対する恐怖を抱く可能性が高くなります(例えば、Jouriles et al., 2000 [92])。別の説明によれば、年少の子どもは出来事が起こったときに、その出来事を評価する能力があるかもしれないものの、両親間葛藤が解決すると、その出来事について考えたり悩んだりすることをやめる可能性があるということです[22]。実際、幾つかのエビデンスは、青年は子ども(9歳未満)よりも、両親間関東が解決しているかどうかを確認する手がかりの特定に成功していることを示唆しています[93]。年長の子ども(11歳超)は、親同士の葛藤により長期間曝されているため、より敏感になる可能性があります[94]。

子どもの気質
 両親間葛藤が子どものアウトカムに及ぼす影響を和らげる可能性があるもう1つの重要な子どもの特性は、子どもの気質です。これは、子どもの発達の非常に早い段階(乳児期初期)において観察できる特性です。難しい気質を持つ子ども(例えば、後ろ向き気分を持つ、人より感情が激しい、従順さや柔軟性が人より低いという傾向がある)は、両親間葛藤の悪影響を受けやすいと考えられています[76,95-97]。例えば、研究では、高葛藤な家庭で育ち、イラつき易く、後ろ向きな感情を抱きやすい幼児は、より前向きな気質を持つ子どもに比べて、行動上の問題を発症する可能性が高いことが示唆されています[98]。
 幾つかの特性は、両親間葛藤の悪影響から子どもを保護していると考えられています。両親間葛藤に曝されながらも、人生に対してより前向きな態度をとった青年は、人生に対してそれほど前向きな態度をとらなかった子どもと比較して、内在化問題を発症する可能性が低いことを示唆していました[99]。感情、行動、注意を統制する能力は、両親間葛藤に曝されることを防ぐ効果がある可能性もあります[100]。

子どもの性別
 エビデンスは、両親間葛藤の影響は少年と少女に同様に有害である可能性がありますが、親同士の敵意や葛藤に対して少年と少女とでは異なる反応を示す可能性があることを示唆しています[32]。少年と少女はどちらも両親間葛藤を脅威と見なす傾向がありますが、少年は両親間葛藤を自分自身への脅威として解釈する傾向が高いのに対し[32]、少女は両親間葛藤を家族の調和の脅威として認識する傾向がより高くなります。更に、少年と比べ、少女は両親間葛藤で自分自身を責めたり、葛藤の真っ只中に巻き込まれたと感じたり、葛藤に介入する必要性を感じたりする可能性が高いかもしれません[101-103]。少年と少女の違いは、発達期の違いによっても明らかです。家族のストレスは、青年期の少女にとってより大きなリスクである可能性がありますが、少年の場合、特に発達初期における外在化問題のリスクと関連しています[104]。

親の性別
 親の性別も、両親間葛藤に対する少年と少女の反応に関係します。エビデンスは、親同士の葛藤が母親の子育てと父親の子育てで異なる影響を与える可能性があることを示唆しています。父親は、親同士の意見の相違に対して、距離を置くことで対応する可能性が高くなります[105,106]。従って、父子関係は、母子関係よりも両親間葛藤による悪影響を受けるリスクが高く、両親間葛藤の影響が父子関係に波及する可能性が高いと考えられています[107]。対照的に、母親は、妻としての役割と母親としての役割を分離できる可能性が高くなりますが、(父親と比較して)子どもとの関係に過剰に時間や感情を注いで夫婦関係の困難を埋め合わせるので、子どもに対して干渉的になるリスクがより高くなります[108]。エビデンスは、親同士の関係が悪化している状況では、母親と父親が異性の子どもに対して異なる扱いをする可能性があることも示唆しています[107]。母親は息子に対してより敵対的になり、父親は娘に対してますます距離を置くようになるようです[109,110]。更に、エビデンスは、子どもは同性の親に一体感を抱く傾向があり、そのため同性の親に向けられた両親間葛藤により一層苦痛を感じる可能性があることを示唆しています[104]。

子どもの生理学的プロセスと反応システム

生理学的反応性
両親間葛藤と子どもの心理的発達を結びつける際の生理学的反応の役割は複雑です[111]。一部のシステムは、家庭内で継続的にストレスに曝されることに反応するなど、時間の経過とともに変化し、子どもの機能に影響を与え得る、適応性の低い生理学的ストレス反応を引き起こします[112]。このことにより、両親間葛藤に対する子どもの反応が穏やかになります。自律神経系には、交感神経系と副交感神経系の2つの要素があります。これら2つのシステムは連携して機能し、交感神経系はストレスや脅威に対する体の反応の統制(例えば、心拍数の上昇や生理的覚醒の増加)する役割を果たし、副交感神経系は体を落ち着かせる(例えば、安静状態で身体を維持、生理的覚醒と心拍数の低下)ことに関与します。2つのシステムが効果的に連携している場合、システムが効果的に連携していない子どもと比較して、子どもは家庭内の葛藤に直面した際に外在化問題の発生に対してよりレジリエンスがあると考えられています[48]。
 迷走神経緊張(ベースライン心拍数)など、他のシステムは早期に確立され、時間が経っても比較的安定し続けます[113]。迷走神経の調節とは、ストレスの多い状況において身体が心臓をどのように調節するかを指します。これらのシステムは、両親間葛藤に対する子どもの反応における重要な要素でもあります[111,114]。両親間葛藤に曝されている子どもは、迷走神経緊張が高い場合や迷走神経離脱が増加している場合(過酷な状況に応じて心拍数が増加している場合)、迷走神経緊張が低い、または迷走神経が増大している子どもに比べて、心理的困難に陥るリスクが低くなります[44,111,115,116]。この効果は、子どもどもがストレスの多い状況に直面した際に副交感神経系が効果的に感情を調節するのを助ける仕組みによるものと考えられています[114]。

皮膚コンダクタンス
 皮膚コンダクタンス反応性は、手の汗や手の熱の変化の尺度です。交感神経系(ストレスや脅威に対する身体の反応を担当)は汗腺を活性化し、その結果、皮膚のコンダクタンス反応性を測定することで、身体の脅威の感覚を追加測定することができます。高い皮膚コンダクタンス反応性は、高葛藤の家庭で育った子どもの適応不全と関連しています。但し、この関連性は子どもの年齢と性別に依存する可能性があり、少年よりも少女の方が、より高い皮膚コンダクタンス反応性を示し、より強固な感受性因子になっています[90,111,117]。

その他の生理学的システム
 その他の生理学的システムも、両親間葛藤やそれに関連する子どものアウトカムに関して重要かもしれません。コルチゾールの放出など、ストレスに対するホルモン反応が特に関係します。コルチゾール反応性の低下は、両親間葛藤の状況における行動上の困難と関連しています[118,119]。

その他の家族特性

 既にレビューしたものに加え、仲間関係や社会的支援は勿論のこと、兄弟姉妹の関係、家族機能の他の側面(例えば、子育ての実践)、および特定の家族のストレス要因(例えば、親の精神的健康、薬物乱用)を含めた家族要因も、両親間葛藤と子どものアウトカムを緩和(増加または減少)させる可能性があります。

兄弟姉妹の関係
 兄弟姉妹は、社会的能力や感情的ウェルビーイングを含め、発達の多くの側面にとって重要です[120,121]。同一家庭内の兄弟姉妹は、様々なレベルの両親間葛藤に曝される可能性があり、また、違う形で葛藤を経験することもあります[122]:エビデンスは、年長の子どもと少年は、年少の兄弟姉妹や少女と比較して、露骨な葛藤立や身体的葛藤に曝される可能性が高いことを示唆しています[32]。更に、このように兄弟姉妹で両親間葛藤に曝されるレベルが違うのは、兄弟姉妹のアウトカムの違いと関連していました[122]が、追加されたエビデンスは、兄弟姉妹間のアウトカムの違いを説明できるのは、葛藤に曝されたレベルの違いよりも、寧ろ子どもの特性の違いである可能性があることを示唆しています(上記のセクションを参照)[123]。兄弟姉妹は、両親間葛藤に曝される悪影響から子どもを守ることもできます[124,125]。しかし、両親間葛藤は兄弟姉妹の関係に緊張をもたらす可能性もあります。研究では、両親間葛藤と兄弟姉妹間の葛藤との間に関連性が観察されており[121]、兄弟姉妹が親同士の口論から24時間以内に喧嘩する可能性が高いのです[126]。両親間葛藤と兄弟姉妹間の葛藤の関連性を説明するメカニズムには、兄弟姉妹が両親間の怒りの矛先を自分自身や別の兄弟姉妹に向けることや、兄弟姉妹が一方の親と同盟を結ぶことが含まれます[108]。

より広範な家族機能
 より広範な家庭環境の状況は、両親間葛藤に曝されることに対応して、子どものアウトカムを保護したり、悪化させたりする可能性がある重要な要素です。例えば、エビデンスは、著しく否定的な態度(例えば、著しく否定的な情動と少ない肯定的な情動を表現する)によって特徴付けられる家庭で両親間葛藤に曝された子どもは、否定的な態度が少ない家庭の子どもと比較して、不適応のリスクがより高かったことを示唆しています[127]。同様に、以前にレビューしたように、過酷な子育て[128]や親子の敵意[129-131]などの子育て実践も、両親間葛藤による悪影響のリスクを高めます。あるいは、親子の前向きな関係[95,132,133]と親との安定したアタッチメント[131,134]は、このような状況では、子どもが自分自身を責める可能性が低く、親の意見の相違に介入する可能性も低くなるため、両親間葛藤の影響から子どもを守ることができます[127,134]。また、前向きな両親間関係はより前向きな親子関係と関連しており、逆に、両親間葛藤が進行中の状況で親子関係をターゲットにするだけでは、子どもにとって持続的な望まれるアウトカムにはつながらないことにも注意が必要です[6]。両親の別離は、子どもにとって特有のリスク影響を表しており、進行中の葛藤が子どもにとって親同士の関係の特徴であるかもしれない状況を表しています[8]。離婚が子どもに与える悪影響を説明する際に注目される要因の1つは、母子関係および父子関係の両方において、子どもが経験する一貫した子育ての混乱です。父子関係は、親同士の関係のレベルでの葛藤レベルに特に敏感である可能性があり[277]、子どもは離婚プロセス中および離婚プロセス後に父親のアクセスと関与が減少することで混乱するリスクがあります。実際、両親の別離にしばしば関連するアウトカムとして、子どもと別居親(最も典型的には父親)との間の接触が減少し、一貫性がなくなります。しかし、研究では、同居親と別居親との生産的な関係を維持することが、両親の別離や離婚に対する子どもの適応に役立つことが一貫して証明されています。従って、両親との継続的な接触、および両親の別離中および別離後に生産的な関係が存在する場合、子どもはより良く適応する傾向があります[72,136,137]。

親の精神的健康
 子どもの適応、両親間葛藤、親のうつ病(特に臨床的疾患)との関連は複雑であり、遺伝的要因と環境要因(子育てや家庭の機能など)が重要であるほか、親のうつ病と両親間葛藤の間の影響の方向性も考慮する必要があります[49,135]。うつ病の親を持つ子どもは心理的困難を発症するリスクが高くなりますが、遺伝的影響だけで説明できるものではありません。全体として、エビデンスは、親のうつ病が両親間葛藤を介して子どもにとって望ましくないアウトカムに関連しており[68,136,137]、うつ病の家族歴がある場合、両親間葛藤に曝されることは子どものうつ病と関連している[4]ことを示唆しています。

親のアルコール乱用と薬物乱用
 親のアルコール乱用と薬物乱用はいずれも、子どもの適応不全のリスク増加と関連しています。親のアルコール乱用は、両親間葛藤や子育ての困難を通じて、子どもの内在化問題と外在化問題のリスク増加と関連しており、両親間葛藤は成人のアルコール乱用や薬物乱用にも影響を与えます[138,139]。父親の薬物乱用は、子どもの情緒問題および素行の問題の増加と関連していますが、それは、薬物を乱用する親が暮らす家庭では、子どもが身体的暴力を目撃する頻度は勿論、両親間葛藤を目撃する頻度も高いためです[140]。

その他の関連する個人的および社会的要因

人種と民族
 両親間葛藤が子どもに与える影響を調査する大量の研究は、メキシコ系アメリカ人の家庭に焦点を当てた最近の介入研究は勿論のこと、白人またはアフリカ系アメリカ人の背景を持つ家庭を対象に実施しています[141]。従って、調査結果が他の文化や民族グループにも適用できることを確認する必要があります[139]。より多様な人種的または民族的背景を持つサンプルを使用した研究では、民族に関係なく、両親間葛藤と子どものアウトカムとの間に一貫した関連性が見出され続けています[9,61,140,142]。両親間葛藤と子どもの心理的適応との関連性は、アメリカは勿論のこと、バングラデシュ、ボスニア、中国、コロンビア、ドイツ、インド、パレスチナ、南アフリカの3つの異なる民族グループの青年の間で観察されています[140]。更なるエビデンスは、アメリカとイスラエルの両方の子どもが、両親間葛藤が解決されたかエスカレートしたかに拘らず、両親間葛藤に対し否定的に反応していることを示唆しています[142]。幾つかの研究では、両親間葛藤、子育て、および子どものアウトカムの間に関連の強さに違いがある可能性があることを特定しています[143]。けれども、他の研究では、そのような違いは見出されておらず[9,139,144-146]、両親間葛藤が子どもに与える影響については、文化による相違点よりも類似点のほうが多いと結論しています[9,147]。

仲間関係と社会的サポート
 両親間葛藤は、例えば攻撃性や友情をうまく管理するために必要な社会的スキルの発達の障害などを通じて、子どもの友情に悪影響を与える可能性があります[61]。しかし、仲間の友情や家族以外の協力的な大人との関係などの社会的サポートが、両親間葛藤による悪影響から子どもを守ることができるというエビデンスがあります[142-144]。例えば、5歳児を2年間追跡調査した研究では、ピアサポートによって、両親間葛藤を含む、家族の逆境に曝された子どもが外在化問題を発症するリスクが軽減されることが判明しました。この関連性は、子どもの性別、民族性、気質、認知能力にわたって一貫していました[144]。教師や親戚など、家の外の大人との前向きな関係も、両親間葛藤に曝されることに関連する心理的影響から身を守る効果がありました[145]。
 これらの様々な要因を総合すると、1つの主な結果が得られます。つまり、頻繁で激しく、解決が不十分な両親親間葛藤を特徴とする敵対的な親同士の関係を経験している全ての年齢の子どもは、望ましくないアウトカムを招くリスクが高く、この関連は、子ども、家族、そしてより広範な地域社会に特有の個人的かつ相互作用する要因の結果として、改善または更に悪化します(Harold and Leve,2012[17]を参照)。前述したように、これらの要因のプロファイリングは介入プログラムの有効性にとって重要な意味を持ちます。それは、プログラムの忠実度は、ターゲットにするプロセスや関連するアウトカムにおけるプログラムの効果に対し影響を与え得る要因に対応せねばならないためです。

親同士の関係の改善がもたらす潜在的な経済的および財政的利益

 上記で概説したエビデンスは、親同士の関係が家庭で暮らす子どもの精神的健康に重大な影響を与え得ることを強調しています。特に、以下のように結論付けました。

  • 親のパートナーシップの質は、子どもの精神的健康と長期的な人生の可能性に影響を及ぼします。

  • 頻繁かつ激しく、解決が不十分な両親間葛藤に曝されている子どもは、短期的には生活の質に影響を与えるだけでなく、雇用適性や将来の個人的な人間関係や家族関係の安定性などの長期的なアウトカムにも影響を与える、様々な望ましくないアウトカムに曝されるリスクを抱えています。

  • 夫婦間や両親間のパートナーシップの質と葛藤管理スキルの向上は、子どもの精神的健康と長期的な人生の可能性の向上に関連しています。

 しかし、国際的な研究エビデンスはプラスの影響を示しているにも拘らず、イギリスでは親同士の関係をサポートするための最小限の介入が子どものアウトカムの改善に与える影響を測定するために実施された研究は殆ど存在しません。更に、そのような介入が、将来の子どもの労働市場におけるアウトカムの改善などの経済的利益をもたらすか、あるいは医療、福祉、社会サービスなどの公共支出の需要の減少などの財政的利益をもたらすかどうかについてのエビデンスは限定されています。このような利点を実証するために必要な長期にわたる研究は稀であり、研究自体が困難です。
 それにも拘らず、このような主張をする強力な基盤があることは明らかです。以下では、子どもや若者の精神的健康問題の結果から、社会、国家、個人に予想されるコストを示す実証研究を踏まえて、子どもの精神的健康に関連してこのことについて議論します。このセクションでは、これらのコストに関する最近のエビデンスを要約してまとめます。このエビデンスは、幼児期から成人期まで子どもを追跡し、小児期の情緒的健康および精神的健康と成人期の人生の可能性とアウトカムの両方を測定した長期縦断研究から得られています。私たちは主に(但し、それだけではありません))イギリスの最近のエビデンスに焦点を当てています¹。

¹ 子どもの精神的健康状態の不調は、社会的および財政的コストの潜在的な原因に過ぎず、他にも問題が存在するかもしれません。但し、ここでは、経験的エビデンスの相対的な強さを考慮して、子どもの精神的健康に焦点を当てます。

 この報告書では、親同士の関係に対するサポートの強化による潜在的な経済的および財政的利益の推定を提供することを目的とした、これらの基盤を構築するための十分なモデリングと分析を行っていません。代わりに、このセクションでは枠組みの基本的な概観を提供します。しかし、この枠組みは、潜在的な利益が大きく、質の低い親同士の関係に対処する利点について更なる取組みが必要であることを示しています。

子どもの精神的健康不全がもたらす影響と費用

 若い頃に精神的健康上の問題を経験した子どもは、大人になってから更なる逆境(継続する精神的健康上の問題を含む)を経験するリスクがあることを示す多くのエビデンスが存在します。成人の精神的健康上の問題のかなりの部分は、小児期にまで遡ることができます。成人期の精神疾患(認知症を除く)の50%は、15歳前に始まり、75%は18歳までに発症します[151a]。
 小児期の精神的健康上の問題が成人期にもたらす長期的な個人的コストに関する最新かつ包括的なエビデンスの一部は、Goodmanら(2015)によるものです。彼らは、10歳時点の社会的スキルおよび感情的スキルと42歳時点の様々なアウトカムとの関係を調べるために、イギリス・コホート研究の最新の波を分析しました。特に、彼らは次のことを発見しました[149]:

  • 10歳時点での自尊心は、42 歳時点でのより高い富と、健康上の問題や望ましくない健康上の行動(喫煙、飲酒、肥満を含む)のリスクの低下と関連していました。

  • 10歳時点の善行は、42歳までに学位資格を取得できる可能性が高く、就職できる可能性が高く、地位の高い仕事(専門職または管理職)に就職できる可能性が高く、収入が高いことと関連していました。

  • 10歳時点の善行は、42歳時点での喫煙や飲酒などの望ましくない健康上の行動のリスクの低下と関連していました。

 他の研究、特に全国児童発達調査を使用した研究では、幼少期の情緒的健康が成人期の経済的アウトカムにも影響を与え得ることが実証されています。このデータを使用して、Goodmanら(2011)は、幼少期の感情的不適応と心理的健康状態の不全が、50歳までの収入、賃金、就職、社会的流動性に重大な悪影響をもたらすことを発見しました。著者らは、計算に基づいて、子どもの精神的健康の不全によって生じる収入損失の生涯コストは、最大で38万8千ポンドに達する可能性があると示唆しています。
 一方、Cornagliaら(2015)は、14~15歳の精神的健康の不全は、GCSE試験の成績低下と、16~17歳でニート(雇用、教育、訓練を受けていない)になる可能性が高いことを発見しました。Eganら(2015)も同様の発見に達し、幼少期の情緒的苦痛が若者の失業の一因となる役割を果たしており、その影響は低成長またはマイナス経済成長の時期にはより強くなり得ると結論付けました。労働市場のアウトカムに対するこれらの影響は、子どもの精神的健康の不全、ひいては親同士の関係の不全であることの潜在的な経済的および財政的影響の1つとなり得ます[152]。
 もう1つの潜在的な財政への影響は、小児期の素行の問題に起因する可能性のある、危険な行動に加わることが増えた結果として利用される公共サービスが関係しています。Scottら(2001)は、142人から成る10歳の子どものグループを28歳になるまで追跡し、素行障害のある子どもは、28歳までに公共サービスを受けるのに、子ども1人あたり70千ポンドの累積費用がかかるのに対し、素行上の問題が低レベルの子どもは24千3百ポンド、素行上の問題がない子ども7千4百ポンドで済んでいることを発見しました[153]。ニュージーランドのデータを使用して、Fergussonら(2005)は、7~9歳の子どもを対象とした25年間の研究を実施し、研究開始時の年齢における素行障害が暴力犯罪を行う、10歳代で親になる、または自殺する可能性と強く関連していることを発見しました[154]。これらの研究の分析において、FriedliとParsonage(2007)は、単一コホートの子どもにおいて、重度素行障害を根絶することによる生涯の社会的利益は52億5千万ポンドである一方、より一般的な素行上の問題を根絶することによる利益は236億2千5百万ポンドになると結論付けています[155]。

追加の影響
 親同士の関係の側面が、長期的な経済的または財政的な影響を生み出す形で、子どもの人生の可能性に影響を与える別のルートが存在する可能性があります。子どもの精神的健康による影響はそのうちの1つに過ぎません。ただし、先に見たように、これは比較的よく研究され、十分にエビデンスのあるルートです。
 別の可能性のあるルートは、家庭の安定性と両親の別離によるものかもしれません。家庭崩壊や家族構成が子どものアウトカムに与える影響について、多くの研究が調査しています[156-162]。この研究は、過去に両親が別離した、または幼少期に両親の別離が生じた、両親が揃っていない家庭で育った子どもの平均的なアウトカムは、安定した両親が揃っている家庭の平均的な子どものアウトカムよりも悪いことを示しました。しかし、家族構成と子どものアウトカムとの因果関係の概念は、家族構成が家族関係の質と絡み合っているという事実によって複雑になります。特に、親同士の葛藤や貧弱な親子関係は、家庭崩壊がもたらす将来の害悪は勿論のこと、家庭崩壊のリスクにも影響を与えます(Mooney et al., 2009 [162])。
 リレーションシップス団(2015)[163]は、最近、家庭崩壊により年間470億ポンドの財政コストが生じると推定しました。しかし、公的支出のうちどのくらいの割合が家庭崩壊を経験した人々に直接起因しており、その家庭崩壊が起こらなければ支出されなかったであろう割合を経験的に確認することは困難です。
 上記のように、家族構成と人間関係は絡み合っており、互いに影響を与えたり、強めたりすることがあります。リレーションシップ財団による分析は、一般に、家庭崩壊の代用物としてひとり親の状態に焦点を当てており、親同士の葛藤、親の健康不良、家族の機能不全が果たす役割は含まれていません。これらの要因は、両親の別離前後や、別離していない家庭において、子どもに悪影響をもたらす可能性があり、その結果、公共サービスの需要により財政コストが増大する可能性があります。

今後の研究の可能性

 現在のエビデンス・ベースの研究を補足し、親同士の関係を改善するための費用便益分析に向けて進むのに役立つ更なる研究が行われる可能性があります。特に、今後の研究では、以下の項目を直接定量化することを試みる必要があります。

  • 親同士の関係の質の向上がもたらす経済的および財政的利益(両親が揃った家庭と別離家庭の両方)。

  • 家族の安定性の向上がもたらす経済的および財政的利益。

 分析の有用な出発点は、「社会を理解する」の調査²によって提供される可能性があります。この調査は、世帯とその状況を長期にわたって追跡する全国的に代表的な大規模な調査であり、現在DWPの家族安定指標の基礎を提供しています。重要なことは、「社会を理解する」では、回答者の人間関係、精神的健康、ウェルビーイングに関する情報が収集されているということです。また、しかるべき時期に他の政府データソースとの連携からも恩恵を受けることになるでしょう。既に教育データ(国立生徒データベース)にリンクしており、国民保健サービス(NHS)記録、労働・年金省(DWP)記録、および歳入関税庁(HMRC)記録への更なるリンクを計画しています。このリンクされたデータが利用可能になると、親同士の関係が子どもや公共支出や公共サービスにどのような影響を与えるかを理解するための最も信頼できる選択肢が提供される可能性があります。

² https://www.understandingsociety.ac.uk/ を参照。

結論と勧告

 上記で要約したエビデンスに基づいて、以下のように結論付けることができます。

  • 小児期の精神的健康の改善が、個人と社会全体に将来の利益をもたらすことを示唆するエビデンスが存在します。従って、親同士の関係の改善は、子どもの精神的健康の改善を通じて長期的な社会的利益をもたらす可能性があります。

  • エビデンスは、子どものアウトカムがひとり親家庭や未婚家庭では平均して悪くなる傾向があることを示唆しました。但し、そのような比較では、異なるタイプの家族間で異なる可能性がある社会経済的要因やその他の家庭環境の特徴が考慮されていない可能性があります。家庭崩壊はそれ自体が有害である可能性がありますが、本レビューでは、親子関係の質、親のストレスのレベル、家族機能の質も、両親の揃った家庭と両親が別離した家庭の両方で、子どものウェルビーイングに甚大な影響を与えることがわかりました。家族構成、家庭崩壊、家族関係の質は全て密接に絡み合っているため、各要因の因果関係を区別することは困難です。

  • 家庭崩壊のコストを経験的に見積もることは困難です。家庭崩壊を経験した人々に直接的に起因する公費の割合と、その家庭崩壊が起こらなければ支出されなかったであろう公費の割合を経験的に把握するのは困難だからです。家庭崩壊による財政コストは、最近、年間470億ポンドと推定されています。しかし、この推計には、両親の揃った家庭と両親が別離した家庭における親同士の貧弱な関係や家庭の機能不全から生じる潜在的な財政コストは含まれていません。

  • 家庭崩壊による財政コストをより正確に見積もるためだけでなく、家庭崩壊が発生するかどうかに関係なく、家族機能の不全による潜在的な財政コストを定量化するためには、更なる研究が必要です。この分析のデータ要件には重大な課題がありますが、「社会を理解する」のデータセットの提供は、この問題を更に探究するための最良の選択肢になると思われます。

(了)

[訳者註]生殖補助医療 assisted reproductive technology:  ART
性交によらずに受胎を達成させる様々な方法を総称して用いられる用語で、体外受精(IVF)や配偶子卵管内移植(GIFT)、接合子卵管内移植(ZIFT)など、ドナー卵子あるいは非ドナー卵子と精子を用いた不妊治療に用いられる。

[訳者註]決定係数R² coefficient of determination
重相関係数Rを2乗した値。重回帰分析における実測値のバラツキ(分散)に対する予測値のバラツキ(分散)の割合で,重回帰式の適合性を評価する指標となる。絶対的な基準ではないが,R²≧0.5であれば適合度が高い,つまり重回帰式の予測制度が高いといえる。

[訳者註]セルフメディケーション self-medication
世界保健機関(WHO)による定義では、「自分自身の健康に責任をもち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」とされている。狭義の意味は、自己の健康に自己が最終責任をもつという理念に沿って一般用医薬品の使用などで自己治療をすること。

[訳者註]ペアレンタルコントロール parental control
子どもが教育上望ましくない情報にアクセスしないように親が監視し、制限をかけること。

[訳者註]生理的覚醒 physiological arousal
生理的覚醒は過去の体験に基づき,推測,解釈,意味づけといった認知的解釈が加えられることにより生理的・身体的変化(自律神経系反応),行動的変化(不安行動),心理的変化(不安感情)を生じるというものである。具体的に言えば、胸がドキドキしたり,呼吸が速くなったり,汗をかくなどの反応である。

[訳者註]皮膚コンダクタンス skin conductance
精神活動状態を示すパラメータとして、皮膚電気活動(Electro Dermal Activity)がある。EDAは一般に、エクリン汗腺の活動による電気現象が表皮や汗腺管等の状態によって修飾されて出現すると言われており、発汗現象と深い関わりがあると考えられている。
EDAは、皮膚電位(skin potential activitiy:SPA)と皮膚コンダクタンス(skin conductance activity:SCA)に大別され、皮膚電位活動(SPA)は皮膚電位水準(skin potential level:SPL)と皮膚電位反射(skin potential reflex:SPR)に区別される。

[訳者註]ピアサポート peer support
同じ苦しみや生きづらさを抱える当事者や経験者が互いを支え合う活動。

[訳者註]GCSE試験 GCSE(General Certificate of Secondary Education)
イングランド、ウェールズ、北アイルランドで運用されている学位認定制度である。日本語では文部科学省が中等教育修了一般資格という訳語を充てている。スコットランドの公立学校ではGCSEの代わりにスコットランド資格証明が運用されており、スコットランドの私立学校ではこれとは別の学位認定を利用することもできる。イギリスではこの最終試験に通ると、義務教育を修了したことになる。

[訳者註]ニート NEET(Not in Education, Employment, or Training)
Not in Education, Employment, or Training(学校に通わず、働きもせず、職業訓練も受けない)の頭文字をとってNEETと呼ばれる。無業者とも訳される。元々は、イギリスの労働調査報告書で発表された教育、雇用、職業訓練に参加していない16~18歳の若者を指す言葉である。

[訳者註]コホート cohort
分析疫学における手法の1つである「コホート研究」は、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる観察研究の一種である。ある基盤(地域、職業など)を元に行う研究では、実験的な介入は行わない。主に一回の調査を行う「横断研究」と、二回以上にわたり調査を行う「縦断研究」があり、後者の中で特に最初の調査の対象者集団を「コホート」と呼ぶ。

[訳者註]リレーションシップ財団 Relationships Foundation
「思いやりのある社会のために健全な人間関係を促進」するために、調査、洞察、戦略的計画を提供するイギリスの慈善団体および社会的企業。

[訳者註]社会を理解する Understanding Society
「社会を理解する」は、社会および経済調査をサポートする世界最大のパネル調査の1つ。サンプルサイズは英国の4万世帯、または約10万人。データ収集(フィールドワーク)は、2009年1月に開始。調査参加者に毎年インタビューを行い、調査では参加者の世帯の変化と進化を追跡する。この調査は、同一人物に関して一定の間隔での情報を採取しているため、時間の経過に伴う人々の生活や態度の変化を追跡するために使用できる。また、貧困の継続、失業期間、結婚または同棲期間などの現象を測定し、これらの期間に影響を与える要因を分析するためにも使用できる。この研究により、地域、国内、国際的な変化に対応する人口の幅広いセクションをより深く分析することが可能になる。

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