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片親疎外(Parental alienation)
2019年5月25日に、世界保健機構(WHO)の世界保健総会は、国際疾病分類ICD-11の最新版を採択しました。
プレスリリースでは、次のように述べています。
WHOメンバーは本日「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)」の第11回改訂版ICD-11を導入すること、並びに、2022年1月1日に発効することに同意したことを明言する。
ICDは健康に関する傾向と統計を世界的に同定するための基礎であり、疾病や健康状態を報告するための国際的基準である。それは全ての臨床と分析査目的における診断上の分類標準である。ICDは、疾病、障害、怪我、そして他の健康状態に関する分野を定義する。
また、ICDは健康、もしくは死亡率や疾病率に関する外的な原因に影響する、健康に作用し得る生活のあらゆる面で全体像を準備する要因を捕獲する。
このICD-11には、コードQE.52「育児介助者と子どもの関係に関する問題」においてインデックス項目「片親疎外(Parental alienation)」を含んでいました。
「片親疎外」が項目として採用されたことは、これまで「似非科学」などと非難されてきた状況からすれば画期的なことでした。「片親疎外は虐待的な元パートナーが離婚後や別居中に使う道具である」と主張し、組織化された女性権利者が、ICD-11に片親疎外を盛り込むことを妨げるためにWHOに提案書と署名を送ってきた中での決定だったのです(盛り込みに反対する方の中には日本人弁護士の名前もありました)。
しかし、プレスリリース後も片親疎外を疾病とすることに反対する声がWHOに寄せられたのでしょう、最終的にインデックス項目「片親疎外」の使用は見送られました。この記事は見送り決定に関するWHOの公式見解です。
なお、見解の中で、「片親疎外」とは違う項目で養育者と子どもの関係における問題を代用できる、と述べているように、「片親疎外」が定義する事象がが存在しないわけではありません。
片親疎外(Parental alienation)
ICDとは何か?
国際分類は、健康および健康に関連する状態を世界的に記録し、報告するためのものです。ICDは、デジタル化された健康データの相互運用性、およびそれらのデータの比較可能性を保証します。ICDには、疾病、障害、健康状態、その他多くの項目が含まれています。ICDに特定のカテゴリーを設けるかどうかは、ICDの様々な用途に対する有用性と、その健康状態が存在するという十分な証拠の有無に左右されます。
片親疎外と親子疎遠
ICD-11の目的は、国際的に標準化された健康診断の分類を提供し、統計目的で健康上の出来事や医療との接触のエピソードをカウントすることです。第24章「健康状態または保健医療サービスとの接触に影響を与える要因」では、個人の健康状態に影響を与えるが、それ自体は病気や怪我ではない状況や問題を記録することができます。この章には「養育者-子ども関係の問題」というカテゴリーが設けられています。
ICD-11の作成中、「片親疎外」という概念や用語は、ヘルスケア用語ではないため、分類を設けないことに決定しました。この用語は、寧ろ法的な文脈で、一般的には、離婚やその他のパートナーシップの解消における監護権紛争の文脈で使用されます。
「養育者―子ども関係の問題」というより広いカテゴリーは、医療サービスの焦点となり得るこの現象の側面を適切にカバーしていると見なされていました。
最近では、「養育者―子ども関係の問題」のインデックス用語として「片親疎外」と「親子疎遠」を設ける提案が提出され、当初は承認されました。オンライン解説に続いて、WHO-FIC医学科学諮問委員会は、検索目的のために用語を掲載することは、その用語またはその使用をWHOが承認することを意味するものではないことを明確にするよう勧告しました。この明確化の後も、子どもとのコンタクトを拒否する理由として虐待を申立てる一方の親の信頼性を低下させ、その行動を犯罪化するような誤った用語の使用に関するコメントや疑問は続いています。
レビュー
以上を踏まえ、WHOは提供された全ての資料を徹底的に検討し、以下のように考えています。
片親疎外は、特定の司法の文脈に関連する問題である。
ICD-11にこの用語を含めても、健康統計には影響しない。
片親疎外に特化した、証拠に基づく医療介入は存在しない。
この用語でラベル付けされた個人がヘルスケアのために来院した場合、他のICD-11の内容で十分にコーディングすることができます。ユーザーは症例を「養育者-子ども関係の問題」に分類することができます。
そこで、インデックス用語「片親疎外」は、並列のインデックス用語「親子疎遠」と同様に削除されました。
(了)