第9章 ニュージーランド
この記事は、外務省HPの「ハーグ条約関連資料」-「3 子の連れ去りに関する法制度について」-「子の連れ去りに関する各国法令の調査報告書」の「第9章 ニュージーランド 京都大学教授 西谷祐子」を転記したものです。
なお、原文で使用されている豪州をオーストラリアに、英国をイギリスに、米国をアメリカに置き換えています。
Ⅰ.はじめに
ニュージーランドは,かつてのイギリス植民地である。1907年にイギリス自治領となった後,1947年にイギリス・ウェストミンスター法を受諾したことで,イギリス議会から独立した立法機能を取得した。ニュージーランドは,英米法系に属するため,イギリス・アメリカ・カナダ・オーストラリアなどの刑法と類似している。ただし,コモンロ ー上の犯罪が廃止されており,刑法が基本的にすべて成文化されている点でイギリスと異なっている。また, ニュージーランド刑法は全国で統一されているため,カナダ連邦刑法と類似しており,刑事法が基本的に州の立法権限に属するアメリカやオーストラリアとは相違する¹。 ニュージーランドにおいては,1893年にイングランド法(コモンロ―)を基礎として,「刑法」(Criminal Code Act)が制定された²。その後,1908年には「犯罪法」(Crimes Act 1908)³が制定されて抜本的に改正された後,1961年に現行の「犯罪法」(Crimes Act 1961)⁴に取って代わられている。いずれの法典も,実体法としての刑法に関する準則だけではなく,刑事訴訟手続に関する準則も定めていた。しかし,2011年に「刑事訴訟法」(Criminal Procedure Act 2011)⁵が,2012年に「刑事訴訟規則」(Criminal Procedure Rules 2012)⁶が制定されたことで,1961年犯罪法からは,刑事訴訟手続に関する準則が削除されるに至っている。それ以外にも1961年犯罪法は頻繁に改正されており⁷,とりわけ男性同士の性交を合法化した同性愛者法(Homosexual Law Reform Act 1986)⁸,売春を合法化した売春法(Prostitution Reform Act 2003)⁹,中絶を合法化した中絶法(Abortion Legislation Act 2020)¹⁰による改正が特筆される。
ニュージーランドにおいては,子の違法な連れ去りについて,一定要件の下に刑事罰が科されうる。その根拠規定としては,1961年犯罪法208条~210A条による奪取罪(abduction)及び拐取罪(kidnapping)のほか,児童保護法(Care of Children Act 2004)1180条による児童国外奪取罪(taking child from New Zealand)がある。ニュージーランド刑法については,十分に文献を入手できなかったため,制定法の規定及び限られた範囲での裁判例を紹介するにとどまらざる得ない。その背景には,そもそも親同士の子の奪い合いについて刑罰が科されるのは稀であることも関係していると思われる。
以下では,調査が及んだ範囲で,犯罪法上の犯罪類型(Ⅱ)及び児童保護法上の児童国外奪取罪(Ⅲ)について論じた後,ニュージーランドにおける「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(以下,「ハーグ子奪取条約」という)の運用について付言する(Ⅳ)。
なお,本報告書を執筆するにあたって,ニュージーランドにおいて国際家事事件の専門家として活躍しておられるマーガレット・キャシー弁護士(Margaret CaseyQC)から貴重なご示唆を頂戴した。記して御礼申し上げる。
Ⅱ.犯罪法における子の連れ去り
1.婚姻等を目的とした奪取の罪
1961年犯罪法208条は,以下のように規定している¹²。
208条が対象とする実行行為は,同意なしに又は詐欺もしくは脅迫による同意に基づいて,他人を違法に連れ去り又は留置することであり,場所的移動を伴うことを要件とすると解される。また,本罪の成立に必要とされる目的は,自らその者との婚姻もしくは民事パートナーシップの締結,又は性交をもつことを企図すること,又は第三者とそれをさせることである。なお,場所的移動を伴わなくても,他人に対して強制力をもって(たとえば威圧,脅迫,暴力などの手段を用いて)婚姻又は民事パートナーシップを締結させる行為については,別途,婚姻強制罪(犯罪法207A条)が成立し,5年以下の拘禁に処される。婚姻強制罪は,婚姻又は民事パートナーシップがニュージーランド法以外の国の法を準拠法とする場合でも差し支えなく,また法的に有効に締結されなくても,事実上の婚姻関係又は民事パートナーシップ関係に入ることを強制することでも成立することが明文で規定されている(207A条2項)。この点に鑑みれば,208条の奪取罪においても,解釈として,法的に有効な婚姻又は民事パートナーシップ関係の締結を目的としている必要はなく,事実上の婚姻関係又は民事パートナーシップ関係に入ることを目的としていることで成立するのではないかと思われる。 208条の奪取罪の主体及び客体には,特段の制限が課されていない。それゆえ,行為者が親族であっても他人であっても成立し,また被害者が成年者であっても未成年者であっても成立する。ただし,本人が16歳以上の者であれば,連れ去り又は留置に同意することが正当化事由となり,本罪は不成立となるが,本人が16歳未満の若年者であれば,十分な判断能力がなく保護すべき対象であるため,連れ去り又は留置に同意することはできず,本罪が成立する(犯罪法209A条)¹³。
208条の奪取罪が成立すれば,14年以下の拘禁に処される。
2.拐取罪
1961年犯罪法209条は,以下のように規定している¹⁴。
209条の拐取罪が対象とする実行行為は,不正な目的をもって,他人をその同意なしに,又は詐欺もしくは脅迫による同意に基づいて,他人を連れ去り又は留置することであり,場所的移動を伴うことを要件とすると解される。また,本罪の成立に必要とされる目的は,身代金もしくは役務の提供,逮捕もしくは拘禁,又は国外移送もしくは国外への連れ出しである。
209条の主体及び客体については,特に制限が課されていないため,成年者及び未成年者のいずれも被害者となりうる。ただし,本人が16歳以上であれば,十分な判断能力があると解され,その連れ去り又は留置への同意は正当化事由となり,本罪は成立しない。それに対して,本人が16歳未満の児童であれば,連れ去り又は留置に同意することはできず,本罪が成立する(犯罪法209A条)。他方で,被害者が16歳未満の児童である場合に,行為者が児童を自己の占有下に置く権利をもつものと正当に(in good faith)信じていた場合には,児童を占有下に置いても本罪には問われない(犯罪法210A条)。
209条の拐取罪が成立すれば,14年以下の拘禁に処される。この法定刑は,208条の婚姻等を目的とした奪取罪と同じであり,犯罪法210条の児童奪取罪に関する7年以下の拘禁と比べて加重されている。
3.児童奪取罪
⑴ 総説
1961年犯罪法における奪取罪(abduction)には,婚姻の挙行等を目的とする場合のほか(犯罪法208条),16歳未満の児童を奪取する場合(同210条)がある。特に子の奪取との関係で問題となる犯罪法210条は,以下のとおり規定している¹⁵。
⑵ 児童奪取罪の成立要件
⒜ 実行行為
210条の児童奪取罪が対象とする実行行為は,児童を違法に連れ去り,誘い出し,又は留置すること(210条1項),あるいは児童がそのような状態にあることを知りながら,その児童を引き取ること(201条2 項)である。本罪も,208条及び209条と同様に,場所的移動を伴うことを要件とすると解される。また,本罪の成立に必要とされる目的は,親,後見人,又はその他の児童に対する法的監護もしくは責任を負う者から,児童の占有を奪う意図をもつことである¹⁶。これは,文言上,児童を奪取することで,子に対する監護養育を行う権原をもつ者がそれを行使できない状態に置くこと,又はそのような状態にある児童を引き取ることを意味すると解される。本条の文言及びその趣旨に照らせば,本条の保護法益には,親権者,監護者又は後見人等による監護権のほか,合法的な子に対する居所指定権や転居拒否権,面会交流権(訪問権)なども含まれるのではないかと思われるが,この点について論じた学説・裁判例は見当たらなかった。
⒝ 主体及び客体
犯罪法210条による児童奪取罪の主体については,特に限定されていない。したがって,第三者による子の奪取だけではなく,一方の親が子を監護する他方の親から子を奪取する場合も含まれる。本罪の客体については,被害者が16歳未満の児童に限定されており,十分な判断能力をもたないことが前提とされている。したがって,本人である児童が本条に該当する行為に同意していても,また本条に該当する行為を自ら提案していても,本罪の成立には影響せず,抗弁事由とならない(210条3項a号)(抗弁事由の詳細は,⒟参照)。
⒞ 刑罰
210条の児童奪取罪が成立すれば,7年以下の拘禁に処される。前述のとおり,208条及び209条は,不正な目的による奪取又は拐取を処罰するため,14年以下の拘禁としているのに対して,210条は法定刑を軽減している。
⒟ 抗弁事由
上述のように,本人である児童が本条に該当する行為に同意していても,また本条に該当する行為を自ら提案していても,本罪の成立には影響せず,抗弁事由とならない(210条3項a号)。
行為者の事情として,行為者が本人の年齢が16歳以上であると信じている場合にも,抗弁事由とならず,本罪は成立する(201条3項b号)。共犯との関係では,仮にAとBが15歳の少女を両親の占有下から連れ去ることを企図していたとすると,Bが少女の年齢が17歳であると信じていたとしても,児童奪取罪の共犯は成立する(被告人が特定の行為に関与することに合意していれば共犯が成立し,被告人がその行為が犯罪に当たることまで認識している必要はないため)¹⁷。しかし,Bが,15歳の少女が Aの家族ぐるみの友人で,少女の両親がAとBに一時的な子の監護をゆだねることに同意していたと信じていたと証明された場合には,Bについて児童奪取罪の共犯は成立しない。この場合には,BがAと合意して行うことと認識していた事実は,合法的な行為であったからである¹⁸。
他方で,行為者が,児童を自己の占有下に置く権利をもつものと正当に(in good faith)信じていたことを証明しえた場合には,209条の拐取罪の場合と同様に抗弁事由として認められ,児童を占有下に置いても本罪には問われない(権利者抗弁)(犯罪法210A条)。たとえば,行為者が共同親権者として子を監護する権利をもつものと正当に信じていた場合などがそれに当たる。このようにニュージーランドは,オーストラリア(たとえばクイーンズランド刑法363条2項及び連邦家族法65Y条2項・65YA条2項ほか〔前掲参照〕)と同様に,正当な権利をもつと信じていたことを広く抗弁事由として認めている点で特筆され,イギリス(イングランド・ウェールズ)及びカナダの法制とは異なる¹⁹。
この権利者抗弁の成否が問題となった事件が,1996年11月7日のニュージーランド控訴院によるタウイリーリ事件(Rv Tauiliili)判決である²⁰。本件においては,離婚後に母が単独監護権を取得し,父が母との取決めに基づいて隔週末に面会交流を行っていたところ,父が所定の期限を過ぎても子を返還しなかった(4日遅れで返還した)ため,児童奪取罪で起訴された。本件で問題となったのは,子を自己の占有下に置く正当な権限をもっていた父が,期限が過ぎた後も子を留置し続けていた場合にも,当時の犯罪法 210条(2005年改正前)の児童奪取罪が成立するか,という点である。当時の犯罪法210条3項は,現行の犯罪法210A条と同趣旨の規定を置いており,「子の占有について正当な権利をもつと主張して子の占有を取得した者は,本条の罪で処罰されない。」と規定していた。
本判決の法廷意見は,規定の趣旨に照らして「留置」(detain)の意味を制限的に解釈するとし,最初の段階で正当に子の占有を取得した者は,物理的な占有を失うまで,抗弁事由によって保護されるとした。また,裁判所は,「留置」の解釈についてニュージーランドの判例がないため,他の法域を参照するとし,子を監督する又は監護することで監護権者の占有を侵害する意味とするオーストラリアの判例²¹と,子を意図的に引き留めることで監護権者の占有を奪う意味とするカナダの判例²²を比較した。そして,後者のカナダの判例に従い,親である被告人にとって有利な解釈によるとし,「留置」とは,最初に違法に子の物理的占有を取得することを指すとした。その結果,本件では,被告人による最初の子の占有取得が正当な面会交流権に基づいていたため,権利者抗弁が認められ,児童奪取罪は成立しないとした。
そのほか法廷意見は,傍論で,本件のような面会交流の取決めに違反して子が返還されない場合にも,裁判所による子の引渡命令を得たり,法廷侮辱によって制裁を科したりする方法があるとし,これらの法的手段のほうが児童奪取罪による刑罰よりも望ましいと述べている。そして,逮捕状を請求する前に,情報提供,交渉,カウンセリングを受けること,又は子どもの手続補佐人が選任されていれば,その者の関与を求めることなどをすべて試みるべきであるとした。このような考え方は,特に本件のよ うな親同士の子の奪い合いについて,民事法による解決を優先させる趣旨であるといえよう。もっとも,本判決の補足意見が指摘するように,犯罪法209・210 条及び210A条の一般的な解釈として,法廷意見のような留置の制限的解釈に従うと,拐取罪及び児童奪取罪が成立する範囲が不当に狭められるおそれがあり²³,この点はより慎重な判断が必要とされるように思われる。
Ⅲ.児童保護法上の子の国外への連れ去り
1.総説
ニュージーランドにおいては,子に関する家族法上の争いについて,児童保護法が重要な役割を果たしている。児童保護法は,子の福祉及び最善の利益を促進し,子の成長を助け,子の監護養育のため に必要な措置がとられることを確保し,子の権利を承認することを目的としている(1条)。そこで,児童保護法は,子の監護に関する事項,監護権の内容・帰属・行使,及び家事事件手続(監護・養育命令,カウンセリング及び子の養育に関する情報提供,裁判管轄,外国裁判の承認執行も含む)について定めているほか,児童保護法94-124条においては子奪取条約の実施に関する規定を置いている。
その中で,児童保護法78~80条は,裁判所の命令又は係属中の手続に対する違反があった場合に,その者を処罰するための規定を置いており,80条が子を国外に連れ去る行為を対象としている。
2.児童保護法80条
児童保護法80条は,次のように規定している²⁴。
児童保護法80条は,子を国外に連れ去る行為を処罰するものである。この規定は,児童保護法78・79条とともに,裁判所の命令又は係属中の手続に対する違反について処罰するための規定である。具体的には,①児童保護法78条は,故意に裁判所による養育命令(parenting order)もしくは監護命令(guardianship order)に違反する者又はその遵守を妨げる者を対象とし²⁵,②同79条は,裁判所が子の日常的な世話もしくは面会交流のために,又は子のニュージーランド国外への連れ去りを防止するために出した子の引渡令状(warrant)の執行を妨害する者を対象とする²⁶。
③児童保護法80条は,子を国外に連れ去る行為を処罰するもので,法定刑は,①②と同じく,いずれも3ヶ月未満の拘禁又は2500ニュージーランド・ドル以下の罰金である。ただし,①②と異なって,③についてのみ,拘禁と罰金の両方を科すことも認められており,わずかではあるが,刑罰が加重されている。
Ⅳ.子奪取条約との関係
子奪取条約は,1991年8月1日にニュージーランドについて発効した²⁷。ニュージーランドにおいては,インカミング事案において子の返還申立事件の職分管轄及び土地管轄が集中されており,ニュージーランド家庭裁判所及び地方裁判所に限定されている。
アウトゴーイング事案において,子がニュージーランド国外へと連れ去られる現実的な危険がある場合には,裁判所に子の引渡令状や旅券・航空券の引渡命令,出国禁止命令等を申し立てるとともに, 国際刑事警察機構(Interpol)を介して出入国管理局のCAPPSリスト²⁸に子と子の連れ去り親(TP,Taking Parent)の名前を登録してもらい,出国制限を課すのが有効である。そうすれば,職員が空港で見張りをし,子とTPが飛行機に搭乗 するのを止めることができる²⁹。ただし,アウトゴーイング事案において,TPを犯罪法209・210条又は児童保護法80条に基づいて刑事訴追することは困難であり,事案の処理としても適切ではないという。筆者がインタービューしたキャシー弁護士は,子奪取条約の発効以来,同事件を担当しうる弁護士として指名されてきた。同弁護士は通常,残された親(LBP)を代理しており,子奪取条約に基づいて子の返還を求めるのがその主たる役割となっている。キャシー弁護士によれば,これまでの20年にわたる実務経験の中で,検察が犯罪法210条(当時)の児童奪取罪に該当するとしてTPを訴追したことは,1度しか経験していないという。しかも,これは条約発効後まもない初期の事案で,まだ条約が子の連れ去りについてどこまで有効に機能しうるのか,まだ誰も分かっていなかった時期のことであるという。その後は,子奪取条約が子の連れ去りに対応するのにきわめて効果的な手段であることが明らかとなり,検察も犯罪法210条によってTPを処罰することに関心を持たなくなっているとのことであった。また,キャシー弁護士によれば,児童保護法80条は,予防的措置としての意味をもつに過ぎず,同条による処罰はなされていない。つまり,児童保護法80条は,第一義的には,他の親に知らせないまま子をニュージーランド国外に連れ去ろうとする親に思いとどまらせることを目的としたもので,法廷侮辱が適用されうるような事案においては適用される可能性もあるが,本来の意味での刑事法上の処罰としてはほとんど適用されていないという。キャシー弁護士が指摘するように,ニュージーランドがTPの処罰に消極的であることの根底には,一般に家族間の紛争は,刑事裁判所ではなく,家庭裁判所において解決するのが望ましいという発想があると思われる。そして,ニュージーランドには,家事事件に対応するための多数の制定法があり,子奪取条約も,不法に連れ去られた又は留置されている子を,ニュージーランドに又は他の締約国に返還するのにきわめて有効に機能してきた。それに対して,刑事法による訴追は,役に立つものとは見られておらず,実際にも多くの観点で事案の解決には不向きであるという。なぜなら,子奪取条約の事案の多くは,最終的には,両親の合意によって解決されているからである。もしTPに刑事法上処罰される可能性があれば,両親が交渉し,合意によって解決を図ることがきわめて難しくなるであろうという。キャシー弁護士自身も,実務上の経験として,アメリカやカナダのようにTPに対して自明のこととして刑事訴追がなされる締約国に子を返還する際には,両親の交渉がいかに難航するかを目の当りにしてきた。両親の弁護士同士の交渉の際にも,子の返還申立事件を受訴した家庭裁判所にとっても,TPが帰国後に刑事訴追されうると知ることは,事件の解決をきわめて難しくする。そもそも子奪取条約の趣旨 は,原状回復を図るために子を元の常居所地国に返還することにあり,TPが刑事訴追される可能性があるためにその国に戻れなくなるのは本末転倒である,とのご意見であった。
Ⅴ.おわりに
以上のように,ニュージーランドも,他の英米法系諸国と同様に,児童の奪取を処罰するための規定をもっているが,準則の内容も運用も少しずつ異なっている。特にニュージーランドにおいては,犯罪法209・210条の拐取罪及び児童奪取罪について,イギリスやカナダとは異なって,オーストラリアと同じく権利者抗弁が認められていることは興味深い。他方,運用上は,犯罪法209・210条の拐取罪もしくは児童奪取罪も,児童保護法 80条の児童国外奪取罪もほとんど適用されていないという。このように家族間の紛争に刑法が介入することについて,慎重かつ謙抑的な立場が取られていることは,特筆されよう。