第5章 家族専門家の役割 「私はどうなるの?」両親離別後の家族への支援を見詰め直す
「私はどうなるの?」
両親別離後の家族への支援を見詰め直す
家族問題解決グループの報告書
(私法作業部会のサブグループ)
2020年11月12日
267. この章では、「家族専門家」が別離した家族の傍らで果たす重要な役割について検討します。夫婦関係が破綻した後には、傷つきやすさ、不安、恐怖、怒り、喪失感など、様々な感情が去来します。別離中の親が相談する相手は、家族のニーズを理解し、適切な支援を受けられるようにするために、重要な役割を担っています。「家族専門家」とは、弁護士、法廷弁護士、メディエイター、セラピスト、子育ての専門家、児童相談員など、家族が離別したときに親や子どもにサービスを提供することを専門とする全ての人を指します。
A.「紛争解決」の選択肢をより広く理解する
268. 裁判外紛争解決手続(ADR)という言葉は、家族法を含む全ての法的手続という文脈で広く使われています。最も単純化された形では、しばしばメディエーション、共同法または仲裁のいずれかとして、家族の文脈で要約されます。
269. 私たちは、別離後の問題解決にあたり、両親を支援する方法に、違う言葉と幅広い理解を求めています。
270. まず、私たちは「紛争解決」ではなく「問題解決」という言葉を使用することを勧告します。紛争解決は、解決すべき具体的な紛争を推測させます。また、先に述べたように(223節)、家事事件における「紛争」は、両親間の未解決の感情による葛藤という、より深い問題の症状である可能性があります。
271. 別離後の子育ては何年も、後年や将来の祖父母としての役割も含めれば何十年も続きます。他の法律分野のように、「紛争」という言葉を使うのは有益ではありません。その代わり、両親が一緒に子育てをするときに問題を解決するように、月日が経つにつれて問題を解決していく連続性があるのです。別離中の親にとって、別離の初期段階でどのように問題を解決するかは、その後の数年間の模範となり得るのです。それゆえ、家族専門家は適切な言葉を使い、最初から長期的な展望を提供することが重要なのです。
272. また、私法上の子どもの紛争を他の法的手続きから切り離し、多くの親が抱く、別離後の子どもの取決めに関する議論は主に法的問題であるという認識を覆すことも重要です。
273. 次に、親同士の問題解決方法の違いについてですが、私たちは、利用可能な選択肢をより幅広く理解することを勧告します。多くの家族専門家が、依頼者の問題解決を裁判によらずに支援する方法を見つけるために創造的に取り組んでおり、「リゾリューション」はその方法をリードしてきた長い歴史を持っています。私たちは、以下に選択肢の表を示しますが、これが完全に包括的であるとは考えていません。専門職が家族のニーズに対する新しく創造的な解決策を見出そうと絶えず努力する中で、他の構想とプロセスも進化していくでしょう。それぞれのプロセスにおいて、家族専門家は、子どもに焦点をあてたアプローチを確実なものにするため、前章の冒頭で述べた3つの原則に留意しなければなりません。
・このプロセスで、両親が一緒に働いているのか、それとも別々に働いているのか?
・この問題は、その後の長期的な家族関係という文脈で組み立てられているか?
・このプロセスではどのような言葉が使われているか?
274. コミュニケーションを取り、協力的な子育てを成功させる両親の子どもにとっての利点が確立されていることを考えると、両親が協力して解決を目指すプロセスと、両親が互いに対立しているプロセスを区別することが重要です。弁護士同士は良好な協力関係にあり、依頼者の問題を解決するための礼節をわきまえたプロセスを管理できるかもしれませんが、そのプロセス自体が、両親が互いに代理人を立てるようなものになってしまうかもしれません。
275. 全ての家族専門家が、問題となっている特定の課題の先を見据え、別離後のプロセスが両親間の関係にどのように影響するかを熟考することで、事が上手く運ぶことでしょう。その解決方法で両親間のコミュニケーションと将来の問題を解決する両親の能力を再構築できるのか、それとも悪化させるのか?家族専門家が手続きを終結したとき、両親間の関係をどのような状態にしてしまうのか?両親は引継ぎの際に上手くアイコンタクトできるのか?
276. このような問い掛けは、家族専門家にとって不快なものです。なぜなら、依頼者は精神的に脆く、不安を抱えた状態で専門家のところにやってくるからです。依頼者は、公正な結果を保証し、自分と子どもの安全、適切な取決めを整えることを保証してくれる、頼りとなる人々の信頼と支援を必要としています。将来の協力的な子育てが機能する両親間の関係構築に向け、穏やかで一貫した声を提供すること。両親を互いに対立させるのではなく、その目標を支援するプロセスを奨励することは専門家の責任です。
277. 法定代理人を個人的に雇うことができる私的家族法紛争では、両方の親の利益は法的に代表されますが、子どもの利益は一般的に法的に代表されません。親は「自分の側に」専門家を置くことで安心できるかもしれませんが、これは家族全体のニーズを中心としたシステムではなく、親中心のシステムにつながります。
278. 2020年1月に開催されたカフカス主催の家族司法青年委員会(FJYPB)の会合で、ある若者が、裁判が不要な事件を裁判にかけることが絶対にないよう、私法上の事件に深刻さの「閾値」を設けるべきであると発言したことは注目に値します。これは、裁判にかけるべき事件とそうでない事件(つまり、裁判によらない紛争解決で処理されるべき事件)に関する国の指針についての議論(家族部部長からの提案)へと発展していったのです。これは、(満たされない場合)協力しなかった親に何らかのコストペナルティを課すことができる/すべきであるとする期待声明に変化しました107。
279. 両親が裁判所の扉に近づけば近づくほど、協調的な子育てから遠ざかっていきます。しかし、第三者に判断を仰ぐ必要がある場合でも、裁判ほど敵対的でないプロセスで管理する選択肢もあるのです。
280. 例えば、仲裁は、親が行き詰まったときに、親自身が他の問題に対処できるよう傍らで支援しながら、親同士の特定の問題を解決することを可能にする貴重な役割を果たすことができます。これにより、両親が長引く裁判に凝り固まり、その結果、両親間の関係に悪影響が及ぶことを避けることができます。家族仲裁人協会(IFLA)子どもスキームの詳細は、付属資料6に記載されています。これは、仲裁のプロセスは、第三者に判断を仰ぐとはいえ、裁判手続きよりもはるかに協力的である、という説得力のある指摘です。仲裁人の選任やプロセスなど、幾つかの決定を一緒に行わなければなりません。この全てにおいて、両親が一緒に働いています。裁判よりも遥かに迅速で、高い費用を払って代理人弁護士を雇う必要もありません。それどころか、このプロセスは本人訴訟人(LiP)に適しているのです。IFLAは「リゾリューション」と共同で、特にメディエーションと組み合わせた場合の仲裁の利点を説明するウェビナーを既に幾つか発表しています。IFLAと「リゾリューション」はまた、メディエイター、弁護士、司法関係者が利用できるようにするためのトレーニングフィルムの作成にも取り組んでいます。
B.家族専門家の協力
281. 「道を切り拓く」チームは、家族専門家による連携した支援、そして、メディエイター、弁護士、第三セクター、カウンセラー、ファイナンシャルアドバイザー、児童相談所の協力関係の確立を勧告しています108。他の管轄区域では、家庭崩壊に対する統合的なアプローチに向かって進んでおり、私たちもそれに倣うべきでしょう109。
282. 私たちはこの勧告を全面的に支持します。葛藤状況にある離別している家族には、複数のニーズがあり、1つの専門スキルで十分に対応できるものではありません。
283. この提案を受け入れると、分担に関する難しい問題に直面することになります。誰が何をするのが最適なのか?異なる専門家がどのように協力するのがベストなのか?どのような共通言語が必要なのか?どのように関連するトレーニングのニーズを満足するのか?
284. 上述した問題解決のための選択肢の多くは、メディエイター、事務弁護士、助言弁護人、仲裁人の協力が必要です。また、セラピストや独立系ファイナンシャルアドバイザーも重要な役割を担っています。例えば、仲裁を伴うメディエーションという選択肢は、問題を解決するための一連の選択肢の中で、遥かに重要な役割を果たすことができるでしょう。IFLA付属資料から引用します。
仲裁とメディエーション ~ 最高の組合せ。メディエーションは、当事者が全ての問題に合意できなかった結果、決裂することがしばしばあります。そこで、メディエーションと相性が良い仲裁が登場します。当事者は、単一の問題を仲裁に付託することができます。これは、「細事にこだわり大事を逸する」ことなく紛争を解決する、迅速で、効率的かつ費用対効果の高い方法です。メディエーションで成立した合意は、裁定の一部を形成することができます110。
285. メディエイターと仲裁者が互いに協力し合う取り組みは、メディエーションを行ったものの幾つかの問題で行き詰まった家族に、その家族に合った解決策を提供できるでしょう。
286. 私たちは、「家族専門家」(「リゾリューション」では「紛争解決DR専門家」と呼んでいる)の地域ネットワークへの移行を勧告します。家族専門家とは、協働実務者、メディエイター、仲裁者、家族コンサルタント、子どもコンサルタント、家族の別離を専門とする地元のセラピストのことです。「リゾリューション」は、地方の共同ポッドを裁判によらないDR手続きを提供する人々に開放することを推奨しているので、活発な共同ポッドが存在する一部の地域では現実的な方法となるかもしれません。また、地元のメディエイター、事務弁護士、仲裁人が、地元のネットワークの統合を率先して行うことも考えられます。成功例の1つに、マンチェスターのDRポッドがあります。ここでは、治療的背景を持つ、法律とは無関係のメディエイターがポッドの議長を務めることで、仲間である家族専門家と密接な協力関係を構築し、全員が裁判によらない問題解決をするために、依頼者の支援に取り組んでいます。
287. 現在、事務弁護士や法廷弁護士が問題解決のための選択肢(今のところはDRの選択肢)についての専門的なトレーニングを受けていないことから、家族法の実務家(事務弁護士や法廷弁護士)は、組織内でDR専門家を指名するよう奨励すべきであるという提案111がなされています。DR専門家は、地域の家族専門家のネットワークの一員であり、地域で利用可能な選択肢、あるいはオンラインでより広く利用可能な選択肢を把握する責任を負うことになるでしょう。この専門家がいれば、その手続きの全依頼者が、問題解決のために利用可能な全ての選択肢を、最初から適切に知ることができるようになる。私たちはこの提案を支持しますが、この提案内容が実施されるか否かに拘らず、法律専門家のトレーニングを、家族のニーズをより広く理解し、問題を解決するために利用できる選択肢の範囲を含むところまで拡張することも推奨します(以下の付属資料7を参照)。
[訳者注]イギリスは弁護士の仕事が分業されており、助言弁護士counsel、法廷弁護士barrister,事務弁護士solicitorに区別されています。助言弁護士は学校や職場の相談員、法廷弁護士は法廷での弁論、証拠調べ等を行う弁護士、事務弁護士は依頼人から直接依頼を受け、法的助言や法廷外の訴訟活動を行う弁護士です。lawyerは弁護士の一般的な呼び方です。法律に関する相談に乗ったり、法廷で弁護するような人の事を指します。
288. 理想的なモデルは、手続き1回目で組織内の家族に様々な支援を提供することです。先行研究である「家族への助言と情報提供サービス」FAInS112や「家族の問題」113、そして現在の「心のメディエーション」114はいずれも、弁護士やメディエイター、カウンセラーや他の治療サービスを介した組織内サービスが効果的なモデルであることを示しています。組織内サービスは、包括的なチームワークを仕事に活かすのに最適です。
289. 私たちは、法廷に行く前の期間における改善を直ちに検討し、長期的なものに広げないようにという指示を意識しています。私たちは、家族司法改革実行グループが、議論の中で家族専門家の性質と役割について検討することを願っています。専門家(メディエイター、事務弁護士、法廷弁護士、セラピスト、子育ての専門家)は、別々の異なる専門家の分野で進化した様々な行動規範を持っています。別離中の家族は、学際的な支援を必要としており、それは一人の人間には到底見いだせません。私たちは、様々な専門分野を持ちながら、安全、児童福祉、協力的な子育てアプローチに重点を置いて、基準を共有し、別離している家族の幅広いニーズを満たすという共通の目標を備えた包括的な「家族専門職」への移行を歓迎します。
290. 一方で、異なる職種の間で安全に理解を深め、この最も脆弱な時期に子どもと親を守るために、取り組むべき様々なトレーニングの課題があります。私たちは、メディエイター、法律専門家、裁判官に対するトレーニングの勧告事項を付属資料7に示しました。それぞれの課題毎に、実務家であるメディエイター/法律専門家/裁判官がトレーニング勧告事項を提案しました。
C.説明責任
291. 「リゾリューション」に参加することで、メンバーは以下の行動規範に従うことに同意します。「・・・家族の問題に対して建設的かつ協力的なアプローチを重視し、家族全体のニーズ、特に子の最善の利益を考慮した解決策を推奨します」
292. 「リゾリューション」の行動規範は、「法曹協会の家族法議定書」(2002年初版、最新版は2015年第4版)内で支持され、参照されています。この優れた解説書は、
・現在までに家庭裁判所の全裁判長の支持を得ています
・全ての家族実務家に適用されます
・裁判手続は最終手段であり、裁判以外のルートで解決を図る必要性を強調しています
法曹協会の家族法議定書は標準となるべきものです。
293. 実際には
・法曹協会の家族法議定書は施行されていません
・司法を含む法曹界全体で言及されることは殆どありません
・行動規範に違反するメンバーに対する「リゾリューション」の制裁執行は限定的です
294. その結果、依頼者が示す未解決の感情に対応し、家族の子どもたちに対して何の職業的義務も負わない、規制が施行されていない職業になるのです。
295. 私たちは、法律的であろうとなかろうと、子どもに危害を加える可能性のある業務はすべて規制されるべきであり、実務家はその行為に対して責任を負うべきであると考えています。私たちは、法律専門家に対して法律家協会の家族法プロトコルを遵守する説明責任を導入するよう、法曹協会と家族部部長の両者に要請します。
296. 現在サリー州で試行されている新たな議定書第3部の提案については、付属資料10を参照してください。
D.経済的な事件
297. 私たちのグループは、子どもに関連して別離している両親の間で生じる問題に専ら焦点を合わせて議論してきました。しかし、両親の経済的問題を解決する方法次第では、それにより生じる親同士の関係に及ぼす影響を無視することは不可能です。
298. 別離の経済的影響に対処する親を代理する者は、依頼者である親に対し、その親にとって最良の経済的結果を達成する義務を負っています。このプロセスは、子どもを代理しません。別離後の親にとっての最良の経済的結果を促進するために、業界が存在しています115。相互に有益な経済的取り決めを確保する中に含まれる、家族へのより広い、おそらく非経済的な利益は、依頼者にとって最良の取引を専門的に追求することで簡単に失われてしまいます。
299. 経済的救済の請求を評価する場合、婚姻事件法(Matrimonial Causes Act)の25条⑴は、「家族の子どもが未成年である場合、真っ先に子どもの福祉を考慮する」ことを要求しています。私たちは、経済的救済事件における子どもの「福祉」を、住宅や経済的支援に対する子どもの必要性を超えて、子どもの全体的な福祉を包含するものとして、幅広く理解することを求めます。これには、経済的救済手続きによって悪化したに違いない両親間葛藤が子どもに与える影響も含まれねばなりません。
E.家族専門家の役割~勧告事項の要約
「紛争解決」選択肢のより広い理解
中核をなす勧告
私たちは、別離後の問題を解決するための親の支援方法について、別の言語とより広い理解を求めています。私たちは、「紛争解決」ではなく、「問題解決」という言葉を推奨します。(269節、270節)
300. 私たちは、利用可能な選択肢をより広く理解することを勧告します。それぞれについて、以下の要素を考慮することを勧告します。
・このプロセスで親は一緒に働いているのか、それとも別々に働いているのか?
・この問題は、その後に続く長期的な家族関係の文脈で組み立てられているか?
・このプロセスで、どのような言葉が使われているか?(273節)
301. 家族専門家による優れた仕事では、問題となっている特定の課題の先を見据え、そのプロセスが親同士の関係にどのような影響を与えるかを熟考します。(275節)
一緒に働く家族専門家
中核をなす勧告
葛藤下にある別離している家族には、1つの専門スキルでは対応できない複数のニーズがあります。私たちは、両親間の問題解決のために、セラピスト、子育て専門家、メディエイター、法的サービスとともに、統合的なアプローチを促進する「家族専門家」の地域ネットワークを勧告しました。(282節、286節)
302. 私たちは、メディエイター、事務弁護士、助言弁護士、仲裁人の間の創造的な協力を歓迎します。また、セラピスト(および経済的事件における独立系ファイナンシャルアドバイザー)も重要な役割を果たします。(284節)
303. 私たちは、メディエイター、事務弁護士、司法関係者に向けた更なるトレーニングに関する詳細な提言を付属資料7に記載しました。私たちは、メディエイターのためのトレーニング(特に家庭内虐待に関する安全スクリーニング)、および問題解決のために利用可能なあらゆる選択肢の理解を強化することを勧告します。
304. 私たちは、子どものいる家族と接する全ての法律専門家が、以下の主要分野について必須の核となるトレーニングを受けるべきと考えています。
・継続する親同士の葛藤が子どもに与える影響
・家庭内虐待のスクリーニングと影響(支配的、強圧的な行動を含む)
・夫婦関係の破綻が親に与える心理的影響
・人格障害や依存症などの精神衛生上の問題
・家族問題(家計と子ども)を解決するために親が利用できる裁判以外の選択肢(付属資料7)
305. 私たちは、法律専門家に対して、法曹協会の家族法議定書を遵守する説明責任を導入するよう、法曹協会と家族部部長の両者に要請します。(295節)
306. 私たちは、経済的救済事件における子どもの「福祉」を、住宅や経済的支援に対する子どもの必要性を超えて、子どもの全体的な福祉を包含するものとして、幅広く理解することを求めます。(299節)
(了)