2020年家族法改正(リスク・スクリーニング保護)法
この記事はオーストラリアの家族法改正法「Family Law Amendment (Risk Screening Protections) Bill 2020」を翻訳したものです。
この法律の目的は、子どもに安全上のリスクがある場合にはリスク・スクリーニングを実施すること、このスクリーングで得た情報は原則秘匿とすること、子どもを保護する際に他の情報源では不足している場合はスクリーニング情報の使用を許可するという一連の手続きを明文化することです。
第Ⅰ部-主な改正点
1975年家族法
1 第4条⑴
挿入する:
家族の安全のリスク・スクリーニング情報は、第10S条が定める意味を有する。
家族の安全のリスク・スクリーニング担当者は、第10R条が定める意味を有する。
家族の安全のリスク・スクリーニング手続きは、第10T条が定める意味を有する。
2 第Ⅱ部の後ろ
挿入する:
第Ⅱ部A 家族の安全のリスク・スクリーニング
第1段-予備
第10Q条 第Ⅱ部の簡易概要
第10R条 家族の安全のリスク・スクリーニング担当者の定義
家族の安全のリスク・スクリーニング担当者とは:
⒜ 以下の役員または職員:
(i) オーストラリア家庭裁判所、または
(ii) オーストラリア連邦巡回裁判所
⒝ 家族カウンセラー
⒞ (a)項で言及されている裁判所に代わって従事する請負業者
⒟ ⒞項で言及されている請負業者の役員、従業員または下請業者
第10S条 家族の安全のリスク・スクリーニング情報の定義
⑴ 家族の安全のリスク・スクリーニング情報とは:
⒜ 家族の安全のリスク・スクリーニング担当者が、家族の安全のリスク・スクリーニング手続に関連して取得した情報(口頭であるか書面であるかを問わない)、もしくは作成した情報、あるいは取得もしくは作成した文書。
⒝ この家族法に基づく手続の当事者が家族の安全のリスク・スクリーニング手続に参加したか否かに関する情報。
⑵ ⑴項を制限することなく、家族の安全のリスク・スクリーニング情報には、⑴項中で言及した情報の結果として家族の安全のリスク・スクリーニング担当者がまとめた報告書、行った勧告または実施した紹介が含まれる。
第10T条 家族の安全のリスク・スクリーニング手続きの定義
⑴ 家族の安全のリスク・スクリーニング手続とは、家族の安全のリスク・スクリーニング担当者が実施する、または実施しようとする手続をいう:
⒜ この家族法に基づく手続きに関連し、かつ
⒝ 当該手続の当事者との関係において;
その目的のため、あるいは、その目的を含む目的のため、以下の1つ以上を特定すること。
⒞ ファミリーバイオレンスを受ける怖れのある者;
⒟ 虐待、ネグレクト、またはファミリーバイオレンスに晒されるリスクのある、あるいは晒されている子ども;
⒠ 人の安全に対するあらゆるリスク;
手続きの緊急性と優先順位を決定し、ケース管理を支援するためである。
手続きには、リスク・スクリーニング・ツールを使用しなければならない。
⑵ 実施する、または実施しようとしている手続きは、⑶項に基づいて決定されるリスク・スクリーニング・ツールの使用を伴わなければならない。
⑶ 最高責任者は、通知可能な文書により、⑵項の目的のためのリスク・スクリーニング・ツールを決定することができる。
手続きにはリスク・アセスメントを含むこともできる。
⑷ ⑴項を制限することなく、同項の中で言及された手続きには、第Ⅱ部に関連して家族カウンセラーが実施するリスク・アセスメントを含むこともできる。
第2段 家族の安全のリスク・スクリーニング情報の保護
第10U条 家族の安全のリスク・スクリーニング情報の守秘義務
⑴ 家族の安全のリスク・スクリーニング担当者は、本条により開示が要求、または許可された場合を除き、家族の安全のリスク・スクリーニング情報を開示してはならない。
⑵ 家族の安全のリスク・スクリーニング担当者は、連邦、州または準州の法律を遵守する目的で開示が必要であると合理的に判断した場合、家族の安全のリスク・スクリーニング情報を開示しなければならない。
⑶ 家族の安全のリスク・スクリーニングを行う者は、家族の安全のリスク・スクリーニング情報が以下に該当する場合、その情報を当該手続の当事者に開示することができる:
⒜ 当該当事者によって提供された、または当該当事者によって提供された情報から生成もしくは作成された情報。
⒝ 当該当事者に関する情報。
⑷ 家族の安全のリスク・スクリーニング担当者は、以下の条件により、開示への同意が得られた場合、家族の安全のリスク・スクリーニング情報を開示することができる:
⒜ 当事者において、以下の場合:
(i) 当該情報が、当該手続の当事者から提供されたものであるか、または当該当事者から提供された情報から生成もしくは作成されたものである。
(ii) 当該情報が当該当事者に関するものであり、かつ
(iii) 当該当事者が18以上である;
⒝ 裁判所において、以下の場合:
(i) 当該情報が、当該手続の当事者から提供されたものであるか、または当該と自社から提供された情報から生成もしくは作成されたものである。
(ii) 当該情報が当該当事者に関するものであり、かつ
(iii) 当該当事者が18歳未満の児童である;
⑸ 家族の安全のリスク・スクリーニング担当者は、第Ⅱ部に関連する他の家族の安全のリスク・スクリーニング担当者の責任または義務のために、他の家族の安全のリスク・スクリーニング担当者に家族の安全のリスク・スクリーニング情報を開示することができる。
⑹ 家族の安全のリスク・スクリーニング担当者は、以下の目的のために開示が必要であると合理的に判断できる場合、家族の安全のリスク・スクリーニング情報を開示することができる:
⒜ (身体的または心理的な)危害のリスクから児童を保護する。
⒝ 人の生命または健康に対する深刻かつ差し迫った脅威を防止または軽減する。
⒞ 人に対する暴力または暴力の脅威を伴う犯罪の実行を通報、または実行の芽を摘む。
⒟ 人の財産に対する深刻かつ差し迫った脅威を防止または軽減する。
⒠ 人の財産に対する故意の損害、または財産に対する損害の脅威を伴う犯罪の実行を通報、または実行の芽を摘む。
⒡ 第68L条に基づく命令に基づき、弁護士が独立して子の利益を代弁する場合、弁護士が適切に代弁を行うよう支援する。
⑺ 家族の安全のリスク・スクリーニング担当者は、家族に関連する調査のための情報(1988年プライバシー法第6条にいう個人情報を除く)を提供するために、家族の安全のリスク・スクリーニング情報を開示することができる。
⑻ 第10V条により認められない証拠は、本条がその開示を要求または許可しているというだけでは認められない。
注:これは、⑵項、⑶項、⑷項、⑸項、⑹項または⑺項が、他の状況において開示することを要求または許可している場合であっても、家族の安全のリスク・スクリーニング担当者の証拠は法廷において認められないことを意味する。
第10V条 家族の安全のリスク・スクリーニング情報等の許容性
家族の安全のリスク・スクリーニング情報
⑴ 家族の安全のリスク・スクリーニング情報は、以下の場合には認められない:
⒜ 法廷において(連邦管轄権を行使するか否かを問わない)
⒝ 証拠を審理する権限を有する者の面前の訴訟手続きにおいて(その者が連邦、州または準州の法律によって権限を与えられているか、当事者の同意によって権限を与えられているかを問わない)
⑵ ⑴項は、18歳未満の児童が虐待されたこと、または虐待の怖れがあることを示す家庭の安全のリスク・スクリーニング情報については、裁判所の見解において、裁判所が他の情報源から入手可能な十分な証拠がある場合を除き、適用されない。
専門家の面前での発言または自白の証拠
⑶ 家族の安全のリスク・スクリーニング担当者が当該手続の当事者(被紹介者)に医療サービスまたはその他の専門的サービスを紹介した者(専門家)が、紹介された当事者に当該サービスを提供している間に、その専門家により、またはその専門家と共になされた発言または自白の証拠は、以下の場合には認められない:
⒜ 法廷において(連邦管轄権を行使するか否かを問わない)
⒝ 証拠を審理する権限を有する者の面前の訴訟手続きにおいて(その者が連邦、州または準州の法律によって権限を与えられているか、当事者の同意によって権限を与えられているかを問わない)
⑷ ⑶項は、18歳未満の児童が虐待されていること、または虐待の怖れがあることを示す、被紹介当事者(18歳未満の児童を含む)による発言または自白については、裁判所の見解において、裁判所が他の情報源から入手可能な発言または自白に関する十分な証拠がある場合を除き、適用されない。
専門家に対する本条の効果の通知
⑸ (⑶項にいう)専門家に当事者を紹介する家族の安全のリスク・スクリーニング担当者は、その専門家に本条の効果を通知しなければならない。
第10W条 家族の安全のリスク・スクリーニング担当者の免責
家族の安全のリスク・スクリーニング担当者は、家族の安全のリスク・スクリーニング担当者としての職務を遂行する際に、家庭裁判所の裁判官が裁判官の職務を遂行する際に有するのと同様の保護および免責を有する。
3 適用規定
⑴ この一覧で挿入するとした「1975年家族法」第10U条は、この項の施行開始以降における家族の安全のリスク・スクリーニング情報の開示に関し、その情報がその施行開始前、開始以降に取得、生成または作成されたか否かに拘らず、適用される
⑵ この一覧で挿入するとした「1975年家族法」第10V条⑴項は、この項の施行開始以後における家族の安全のリスク・スクリーニング情報の訴訟手続における許容性との関係において、以下のいずれであるかに拘らず、適用される:
⒜ 当該情報が、その施行開始前、開始以降に、取得、生成または作成された。
⒝ 当該訴訟手続が、その施行開始日以降に開始された、または当該開始日の直前に係属中であった。
⑶ この一覧で挿入するとした「1975年家族法」第10V条⑶は、この項の施行開始日以後における、発言または自白の訴訟手続における認容性に関して、以下のいずれであるかであるかに拘らず、適用される:
⒜ その発言または自白が、その施行開始前、開始以降になされた。
⒝ 当該訴訟手続が、その施行開始日以降に開始された、または当該開始日の直前に係属中であった。
⑷ この一覧で挿入するとした「1975年家族法」第10W条は、この項の施行開始以後における家族の安全のリスク・スクリーニング担当者の職務遂行に関して適用される。
第2部-条件付き改正
1975年家族法
4 第10Q条
「オーストラリア家庭裁判所またはオーストラリア連邦・巡回裁判所」を削除し、「オーストラリア連邦巡回・家庭裁判所(第1部)またはオーストラリア連邦巡回・家庭裁判所(第2部)」に置き換える。
5 第10R条⒜(i)および(ii)
(i)および(ii)を削除し、次のように置き換える:
(i) オーストラリア連邦・巡回家庭裁判所(第1部)、または
(ii) オーストラリア連邦・巡回家庭裁判所(第2部)。
6 第10W条
「家庭裁判所」を削除し、「オーストラリア連邦巡回・家庭裁判所(第1部)」に置き換える。
(了)
この法律を翻訳した意図(おまけ)
⑴法律(閣法)ができるまでの流れ
法制審議会は法務大臣に「要綱案」の形で答申し、法務省は要綱案に沿った原案を作成する。(注 要綱案は中間試案と同様の記載形式であるが、中間試案では各選択肢が一つに絞られている)
内閣法制局が原案を審査し、必要があれば修正の上、当該法律案に関し閣議請議する。
異議なく閣議決定が行われると、総理大臣から国会に法律案が提出される。
国会では最初に法律案が提出された議院から審議を行う。担当の委員会で審査、決議を行い、結論を出し、本会議にて議員全員で審議、採決をする。
もう一方の議院でも、同様の手続きで審議、採決を行う。
両議院ともに可決すれば法案は成立。参議院が否決しても、衆議院の出席議院の3分の2以上多数による再議決で法案は成立。
法律案は国会審議の過程で修正、否決があり得る。また、委員会の採決は委員の過半数が賛成であれば可決、本会議の採決は出席議院の過半数が賛成であれば可決となる。
⑵立法の流れから言える事とすべき事
議院内閣制では内閣は与党議員で組織されること、国会の審議は多数決であることから、与党が国会議員の過半数を占める状況下では、与党が支持しない法律は成立しない。与党が党議拘束をかけた法律(例えば選挙公約)は必ず成立する。
従って、望む法律を成立させるためには、その法律を支持する与党議員を増やすこと、或いは、望む法律を支持する政党が与党になることが必要不可欠である。そのためには、その法律の施行で享受できるメリット、懸念事項に対する具体策提示(ネガティブ思考の払拭)、その法律を施行せずにいることによるデメリットを、与党を中心とした議員に理解してもらうとともに、その法律を支持する議員が議員でいられるように、その法律を多くの国民に支持してもらうこと、多くの国民が支持していることを日常的に体感できるポジティブな情報が実社会に溢れていること(大手メディアの好意的な報道)が求められる。
⑶離婚後共同親権制度について
牧原秀樹衆院議員(自民党)は、2023年6月27日のツイッターで「議員で反対される方の1番の理由は本当のDVと単にそう言っている場合との見分けがつかず、本当のDVの場合は危険があるということです。またひとり親でその方が自分の子どもは幸せだと確信されている皆様の反対が強いです。個別にはそれは否定しませんがそれを制度論一般論にするのは違うと思います。」と述べている。
ABEMA TVは、離婚後共同親権制度を2019年9月25日と2023年6月29日に取り上げており、司会の平石直之氏は、それぞれの回で次の様に述べている。「身体的・精神的DVが原因だという人も多い中、それを防ぐ方法が担保されないまま一足飛びに共同親権になってしまうと、今の生活の安定が脅かされる人がいるという危惧もあるのではないか」「やっぱりDVとか虐待から逃れるとかですね、子どもをその危険から離す意味で言うと共同親権であるそのリスクを残してしまう可能性もあると。ここをどう取り除くかってことが、仮に共同親権を実現しようとするならば絶対に乗り越えなければならない壁なんだろうと。」
認定NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の赤石千衣子理事長は、2023年5月23日に記者会見を開き、「共同親権に居所指定権を含めることになれば、子供と逃げているDV被害者は加害者に子の居所を伝えなければならず、居所を隠して逃げられなくなる」と述べている。
法的に離婚したところでDV加害者の接近を排除できないことから明らかなように、親権制度でDVを防ぐことはできない。
DVを訴えているのに調停委員に面会交流を強制されたとの発言が報じられることもあるが、裁判所は調停を話合いと位置付けており、面会交流を強いる調停委員が存在していたとしても従う必要はない。また、調停調書を作成しても、履行しない親も存在しており、実態から乖離した報道である。いずれにせよ、裁判所職員がDVに対する知識や理解がないのであれば、その対策は裁判所職員へのDV教育であって共同親権制度導入阻止ではない。
離婚後共同親権制度の推進者は、DV加害者は親権者にしない、DVを働いた親権者からは親権を停止や剥奪すると述べている。親権喪失、親権停止は既に民法834条で規定されており、今年5月12日に成立した改正DV防止法が施行される来年4月からは、精神的DVに保護命令を出せるようになるので、状況は改善している。
以上より、どのような手法とどのような基準でDVを特定し排除するのか、DVの関与が疑われる離婚に対しどのような手続きで対処するのか、つまり、いつ、どこからDVの懸念のない離婚と別のルートに乗せ離婚手続きを進めるのか、具体的な内容を明文化し情報発信することで、国会議員を含む多くの国民から離婚後共同親権制度に関する理解を得ることができると考えた。
そこで、日本が見習うべき事例として、今回オーストラリアの法律を翻訳紹介した。