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第14章 共有身上監護と子の扶養料の取決め:モデル家族アプローチを用いた13カ国の比較分析

 この記事は「共有身上監護~子どもの監護の取決めにおける学際的な洞察~」の第14章を翻訳したものです。この文献はオープンアクセスです。原題名、原著者名は以下の通りです。
掲載書:Shared Physical Custody
    Interdisciplinary Insights in Child Custody Arrangements
原題名:Chapter 14
    Shared Physical Custody and Child Maintenance Arrangements: A Comparative Analysis of 13 Countries Using a Model Family Approach
原著者:Mia Hakovirta & Christine Skinner
 なお、Child maintenance を子の扶養料、Child supportを養育費、Shared careを共有養育、Joint physical custodyを共同身上監護、Shared physical custodyを共有身上監護と訳出していることを予めお断りしておきます。

第14章
共有身上監護と子の扶養料の取決め:モデル家族アプローチを用いた13カ国の比較分析

ミア・ハコヴィルタとクリスティン・スキナー

要旨 本章では、別離後の家庭の取決め成の変化、特に共有身上監護(SPC)に子の扶養料政策がどのように対応してきたかという問題に対して、新しい知見を提供する。私たちは、13カ国、即ち、オーストラリア、ベルギー、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、アイスランド、ニュージーランド、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、イギリス、アメリカの子の扶養料政策において、SPCがどのように施行され、どのように運用されているかを分析する。比較分析は、2017年に収集したヴィネット方式のアンケート調査に基づいている。各国が子の扶養料政策において、共有身上監護をどのように認め、認識しているかに違いがある。その内容は、義務を完全に無効化する国から、子の扶養料の義務を減らすために細かい調整を行う国、更に、共有身上監護の結果として変更をせず、子の扶養料を支払う親は依然としてその全額を提供しなければならない国まで、様々である。標準的な慣行は存在せず、また、様々な取決めを子の扶養料スキームの類型に簡単に割り当てできるわけでもないようである。後者は驚くべきことである。というのは、類似した構造の子の扶養料スキームであれば、共有身上監護は同じように扱われると予想されたからである。この多様さは、別離後の子育ての取決めにおける男女平等の拡大という現象にどのように対処するかについて、子の扶養料政策全体に一貫性がないことを示すものである。

キーワード 子の扶養料、養育費、共同養育、共同身上監護、共有身上監護、比較研究、ヴィネット方式

14.1 はじめに

 欧米諸国の多くは、両親が別離した後の所得を確保するための様々な政策をとっており、その中には、両親別離後の子どもを養育するために別居親が同居親に支払うべき金銭的負担である「子の扶養義務」を設定している(国際養育費受給学生ネットワーク2019)。世界の大半のケースで、福祉制度に関係なく、これらの支払いは、養育時間の少ない別居親である父親から、養育時間の多い同居親である母親に対してなされるものである。国によっては、親が支払えない、あるいは支払う意思がない場合、国が扶養料を保証したり、前払いする国もある(Corden 1999; Skinnerら2007, 2012)。
 離婚や別居を通して、家庭崩壊の割合が上昇する中、子の扶養政策の対象となる家庭が増え、これは現代の家庭生活においてますます重要な政策的側面となっている。また、本書で紹介したように、別離した家庭においても共有身上監護をすることが一般的になってきている。確かに、別離した親が共同で子どもの世話を、それぞれの親が均等、あるいは少なくとも30%分け合うケースが増えている(Fehlbergら 2011; Trinder 2010; Smyth 2017; HakovirtaとEydal 2020)。この現象には、共同養育、共同居所、あるいは共同身上監護を含む、複数の用語が使用されている¹。標準化のため、本章では共有身上監護(SPC)を使用する。これは、子どもが両方の親と均等な時間を過ごして生活し、両方の親が子どもの身の回りの世話をすることを意味する。
 しかし、共有身上監護は、子どもが両親のそれぞれと暮らし、両親の世帯を行き来することにより、生活の取決めが流動的になるのは勿論のこと、家族の役割と責任がより曖昧になることを意味する(Cancianら2014; CarlsonとMeyer 2014)。
 その結果、家族の複雑性が増し、いやしくも養育の取決めを尊重するのであれば、子の扶養政策に実質的な運用上の課題が生じる。確かに、多くの国では、伝統的な稼ぎ頭である父親は主流ではなくなった。というのも、より多くの母親が出産後も就業し、共働きの家庭が一般的になっているからである。子の扶養政策は、このような養育の取決めにおける流動性や複雑性に対処しなければならず、これが子どもとその親の経済的ウェルビーイングに直接的な影響を与えることから、注目されている。また、このような政策は、別離後の親の責任に関する一連の価値観を体現している(Skinnerら 2007)。しかし、親同士の養育の分担を考慮するというこの課題に各国がどのように対処しているのか、特にその分担がほぼ均等な場合にどうなるのかについては、殆どわかっていない。また、運用の指針となるような政策原則や、政策の適応、それらが国によってどう違うのか、その違いは何を意味するのか、についてもわかってはいない。
 本章は、このような知識のギャップを埋めることを意図している。本章は、子の扶養政策が別離した親の間の責任分担にどのように対処しているのか、また、子の扶養政策におけるガイドラインは、もう一方の親がどの程度養育に携わっているかを考慮しているのか、という疑問に対する答えを提供するものである。私たちは、オーストラリア、ベルギー、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、アイスランド、ニュージーランド、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、イギリス、アメリカの計13カ国を比較対象としている²。次節でより詳細に説明するが、これらの国は、異なる子の扶養料スキームを採用している(SkinnerとDavidson 2009)。
 本分析は、14カ国の子の扶養政策における共有身上監護権の取決めを簡潔ではあるが検討した最初の比較研究の一つを行ったSkinnerら(2007)の研究を更新及び拡張するものである。また、5カ国(フィンランド、アイスランド、オランダ、イギリス、アメリカ)でより詳細に検討したSkinnerら(2012)の研究を拡張するものである。今回報告する研究は、Skinnerら(2007)独自のモデル家族アプローチを当て嵌め、様々な国(現在はスペイン、エストニア、アイスランドを含む)にわたって、共有身上監護の取決めや子の扶養料に関する規則や方式をより詳細に調査している。この2017年の調査で使用したモデル家族メソッドでは、各国の専門家に様々な状況にある架空の家族を提示し、それらの状況に関連する政策対応についての情報を提供するよう求めている。これにより、一連の禁止された状況において、決定、規則、ガイドラインの適用を通じて、違う結果(この場合は子の扶養料の額)を生み出す政策がどのように運用されるかが明らかになる。このメソッドを当て嵌めることで、私たちは、異なる共有身上監護の取決めに対して、子の扶養料の額がどうなるかを調べ、その事実から、ここで報告された研究は、8カ国(カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、オランダ、スウェーデン、イギリス)においてClaessensと Mortelmans(2018)が提供した子の扶養料スキームの文書政策分析を拡張する。
 本章では、社会と政策が別離後の新しい子育ての取決めに適応していくにつれ、各国がどのように家族の複雑性に対処しているのか(あるいは対処できていないのか)についての新たな洞察を提供することで、この新しい一連の比較証拠に追加する。一部の国では政策的関心が高まっており、家族関係や男女関係の性質の変化を探る大量の研究が行われ、子の扶養政策に関する研究も増えている。それにも拘らず、この2つの問題の交わりについては殆ど知られていない。

¹ この取決めを表す用語は幾つかある。ノルウェーでは「共有居所shared residence」が使用される(Haugen 2010)、スウェーデンでは「交代居住alternating residence」(Singer 2008)、イギリスでは「共有養育shared care」(Hauxら 2017)、オーストラリアでは「共有養育shared care」(Smyth 2017)。アメリカでは、「共有養育shared care」は「共有身上監護shared physical custody」、「二重居所dual residence」、「交代居所alternating residence」、「共有配置shared placement」と表現される(Fehlbergら 2011)。
² アメリカの政策は、ウィスコンシン州とスペインのカタルーニャ州について述べている。

14.2 子の扶養料スキームの類型

 別居や離婚後の親同士の関係の再構築は、子どもが両方の親から扶養を受ける権利を前提とする。親の立場からすると、子どもが一方の親の世話になっているか、両方の親の世話になっているかに拘らず、両親がその能力に応じて子どもの養育、教育及び扶養を担当することが両親の法的責任である(Wikeley 2009)。別居や離婚後の親の義務は、その根底にある哲学、構造、規則、組織の点で国によって大きく異なり、特に非常に異なるアウトカムを生み出している。
 特に、MillarとWarman (1996)やCorden (1999)の初期の先駆的な研究を含め、子の扶養料スキームの比較分析を提供する試みが幾つか存在する。MillarとWarmanは、ヨーロッパ9カ国の家族の義務を調査し、家族構造や家族関係の変化の中で、家族の義務の新しい定義に共通の傾向が存在するかどうかを探った。彼らは類型化を行わなかったが、主な結論は、別離後の金銭的な取決めについては、主に親同士の私的な合意に頼っており、国によっては、それらが裁判所によって承認されることもあるということだった。また、標準的なルールやガイドラインを採用している国もあれば、裁量で個別に対処している国もあった。比較した9カ国のうち6カ国は、何らかの形で保証された扶養料スキームを有していた。
 Corden (1999)は、ヨーロッパ10カ国、オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、イギリスの子の扶養料制度を比較した。その結果、それぞれの制度は異なる法的歴史的背景から発展してきたが、一般的なパターンとして、親の婚姻状況に拘らず、子の扶養料に関して全ての子どもが平等に扱われているとがわかった。各国とも構造的、行政的な取決めが異なり、子の扶養料を支払うかどうか、いくら支払うかについての決定は、親自身(援助の有無にかかわらず)、裁判所の裁判官や職員、社会保障や福祉事務所の事務職員が様々に行った。当時のイギリスとオランダは、一般的な社会扶助の給付とは別に、子の扶養料の前払いのための特別な制度がない唯一の国であった。
 前述したように、Skinnerら(2007)は、14カ国の子の扶養料スキームについて大規模なクロスナショナル分析を行った。彼らは、正式な意思決定の論理、子の扶養料の義務の決定、不履行の場合に使用される執行と罰則の規定を検討した。2006年に収集したデータを用いて、子の扶養料命令を決定する際に裁判所かつ/または行政機関がどの程度重視されるかに応じて、国を分類した。その結果、3つの扶養料スキームが浮上し、裁判所、行政機関、ハイブリッドスキームのいずれかを採用していることを確認した。オーストリア、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、スウェーデンでは、裁判所が正式な子の扶養料の義務の決定について主な責任を負っていた。オーストラリア、デンマーク、ニュージーランド、ノルウェー、イギリスでは、行政機関が子の扶養料支払いの養育費の査定、徴収、送金に責任を負っていた。これらの国々は行政機関モデルを代表している。フィンランド、オランダ、アメリカでは、子の扶養料の支払い義務の決定責任は、市町村の福祉委員会かつ/または裁判所など、幾つかの機関にあった。一般に、Skinnerら(2007)は、裁判所に基づくスキームはより裁量的な基盤で運営され、事案は個別に扱われるのに対し、行政機関スキームやハイブリッドスキームはより標準化されたアプローチを取り、意思決定プロセスに公式や規則を適用する傾向があるとしている。
 比較のため、私たちはSkinnerら(2007)が開発した、意思決定の制度的位置づけの違いに基づく類型に従って、各国を分類した。その結果、オーストラリア、デンマーク、ニュージーランド、ノルウェー、イギリスは、従来と同じ行政機関スキームに分類された。ベルギー、エストニア、スペイン、スウェーデン、フランスは、裁判所が正式な子の扶養料の義務の決定について主な責任を負っているため、裁判所に基づくスキームに分類された。フィンランド、アイスランド、アメリカは、子の扶養料に関する決定を裁判所と業績機関を統合した複数の機関に置いているため、ハイブリッドスキームとみなされた。
 私たちがこの類型を使用したのは、制度的背景の違いが、子の扶養料の義務の計算において、養育時間の共有を考慮する方法に関係する可能性があると予想するのが妥当だからである。本研究は探索的かつ記述的なものであるが、裁判に基づく制度はより裁量的であり、共有身上監護を認めやすいと考えることは可能である。それは、当該制度が事案を個別に扱う傾向があり、その点で社会規範の変化に従うことになるためである。一方、行政機関は一般に、より固定的な規則や公式を適用し、社会規範の変化や共有身上監護の取決めの増加傾向に対応する可能性は低いかもしれない。なぜなら、そうするには、運用手続きに法改正が必要となり、対応や適応が阻害される可能性があるからである。しかし、行政機関スキームが共有身上監護を認めている場合、裁判に基づく制度と比較して、より標準化されたアプローチで、国を超えて類似のアウトカムをもたらす可能性がある。

14.3 共有身上監護と子の扶養料に関する先行研究

 多くの国では、家族法における主要な法的前提は、子どもは両親の別離後も両方の親と時間を共有すべきであるというものである(国連・子どもの権利委員会 1989)。
 しかし、伝統的な性別やより限定的な訪問の取決めを超えて、子どもの養育を共有することは、子の扶養料政策における現在のガイドラインが認識するよりも複雑である(MelliとBrown 1994; BeldとBiernat 2002; Bartfeld 2011; Claessens and Mortelmans 2018)。
 ClaessensとMortelmans(2018)による8カ国の文書分析では、共有身上監護の取決めが様々な方法で子の扶養料政策に組み込まれており、その中には、現代の離婚後の家族にとって非常に融和的であるものもあれば不利であるものもあることが明らかになった。また、共有身上監護の取決めにおける男女平等に関する政策は、一貫して子の扶養料政策に反映されるわけではないことが示唆された。アメリカでは、ほぼ全ての州が、子の扶養料ガイドラインにおいて、共有身上監護を明確に取り上げており、通常、他の時間共有の取決めにおける事案よりも低い金額の命令を出している(BrownとBrito 2007)。また、子の扶養料に関する他の研究では、共有身上監護が必ずしも父親が子どもに経済的支援を提供することにつながるとは限らず(即ち、もう一方の親に子の扶養料を支払うという形で)、場合によってはその義務が取り消されることもあるとしている(Singer 2008; Hakovirta and Rantalaiho 2011)。しかし、質的な証拠によると、学校関連費用や医療費、歯科治療費の支払いなど、子どもの日常生活の管理について、母親が元パートナーよりも多くの責任を負っていることが多い(Cashmore et al.2010; Lacroix 2006)。オーストラリアでは、LodgeとAlexander (2010)は、日常生活費は、通常、殆どの時間を子どもと過ごす同居親が支払っていることを発見した。養育時間が等しい場合、青年期の「大多数」が、両方の親が日常生活に必要な費用を負担していると答えている。
 しかし、子の扶養料政策が国内外において実際にどのように機能しているのか、また、子どもが共有身上監護下にある場合、子の扶養料の支払い水準はどの程度なのかについては、殆ど知られていない。Skinnerら(2007)は、2006年に2人の子どもの共有身上監護下における扶養手当を1ヶ月あたりの£ppp³で比較した。彼らは、扶養料の支払いが見込まれる国々で最も扶養手当が高かったのはカナダとアメリカだったと報告した。オーストラリア、フランス、ノルウェー、ニュージーランド、イギリスでは、支払い義務を負う親が少なくなったが、収入の多い親は依然と扶養料を支払っていた。ベルギー、デンマーク、フィンランド、オランダ、スウェーデンでは、扶養料の支払い義務が無効になった。Skinner ら(2012)によるもう一つの研究は、共有養育が子の扶養料の金額に及ぼす影響を比較したものである。週末に2回の訪問がある場合と比較すると、共有身上監護の状況下では、アメリカでは大幅に扶養料が減額され、フィンランドでは少し減額されただけであったが、イギリスでは扶養料支払い義務が完全に消滅した。アイスランドでは、共有身上監護は扶養手当に影響を与えなかった。共有身上監護の推定を家族法や家族政策に組み込むことを主張する支持者は、両親に継続的な子どもへの関与を促し、より平等な子育て責任の共有を奨励することで、子どもたちに利益をもたらすことを期待している。これまでのエビデンスは、より平等な養育の取決めがいかに異なる経済的影響をもたらすかを示しており、2017年に収集した新しい研究データを用いて、より深い体系的な比較分析によってこれを更に調査することを目指している。

³ 購買力平価とは、どの国でも同じ量の商品やサービスを買うことができる為替レートのこと。

14.4 方法

 この節の目的は、共有身上監護の取決めが子の扶養料政策に考慮されているかどうか、考慮されているとすれば、それはどのような方法で行われ、国によってどのように異なるかを探ることである。
 私たちは、「モデル家族アプローチ」を用いた。これは、各国の情報提供者が自国の政策に関する情報を提供する標準化した詳細なアンケートに回答する手法である。情報提供者には、自国の子の扶養料政策を説明し、自国の政策と法的指針に従って、所定の仮想モデル家族における扶養料の金額を計算するよう求めた。この方法は、家族向けの税金や給付金の比較に上手く使われている(例えば、BradshawとFinch 2002; 概説はBradshaw 2009を参照)。モデル家族アプローチの一環として、私たちは多数のヴィネットを作成した。ヴィネットとは架空の家族についての短編小説で、家族状況に関する所定の詳細情報を提供するものである(SoydanとStål 1994; BarterとRenold 1999参照)。ヴィネットはモデル家族アプローチの構成要素であり、子の扶養料政策に関する多くの比較研究で成功裏に使用されてきた(Corden 1999; Skinnerら 2007, 2012, 2017; Meyerら 2011; MeyerとSkinner 2016; HakovirtaとEydal 2020など)。ヴィネットは、意味のある社会状況における現実の状況を表しており、各国の情報提供者(アンケート回答者のこと)は、標準化された家族タイプについて、自国の政策状況の中から観察と解釈を提供することができる。これにより、可能な限り、似た者同士を比較することになり、各国間の標準化された比較が信頼できるものになる。回答の切っ掛となる設定が、各国の情報提供者に対し、国を超え一定に保たれるためである。
 データは2017年末に収集した。研究コミュニティの専門的な人脈を通じて、各国の情報提供者を募集した。殆どの場合、各国から1人の情報提供者がいた。各国の情報提供者の多くは、情報提供者として、あるいは以前の子の扶養料調査でヴィネットデータの収集や分析に携わったか、この分野への以前の貢献に基礎を置く、同様の研究を以前に経験した学識経験者であった。各情報提供者は自国の調査分野の専門家であったため、データ収集と検証の作業が容易になり、それによって政策の枠組みや運用ルール、プロセスをより深く、内部から解釈できるようになった。
 各国の情報提供者は、共有身上監護や子の扶養料政策に関する情報を提供する標準化された詳細なアンケート回答した。また、彼らは自国の政策と法的指針に従って、所定のモデル家族において法律が親に支払うべき子の扶養料の金額を計算するよう求められた。なお、彼らが算出した子の扶養料の計算金額は、モデル家族とその現在の状況に関連しており、ある時点で固定したものであることに留意が必要である。
 ヴィネット方式には幾つかの制約がある。第一の限界は、この種の研究に典型的なことだが、データを各国の政策専門家一人だけから採取したことである。-国内の複数の専門家を含めることで、政策記述の信頼性をより高めることにつながる。第二に、子の扶養料事件の問題を扱う裁判所の専門家からの情報がないことである。最後に、ここでは義務のレベル、つまり支払うべき金額だけに着目しており、この金額が実際に支払われているか、いないかはスコープ外にしていることである。従って、このデータは、このような特殊なモデル家族の状況において、政策がどのように機能するかを明らかにするものである。このヴィネットでは、まず基本的な状況(基本ケースA)を提示した。この状況には、国の情報提供者が自国の政策の仕組みを説明するための情報と、子の扶養料支払い義務を計算するために必要な全ての情報が含まれていた。私たちのヴィネットのストーリーは以下の通りである。
「メアリーとポールは結婚して10年、離婚することになった。二人には子どもが二人いる。エミリーは7歳、ソフィアは10歳。二人とも地元の学校に通っており、学費は無料である。離婚後、メアリーと子どもたちは、子どもたちが家を出なくて済むように、メアリーとポールが婚姻中に共有していた賃貸アパートに住み続けるつもりである。ポールは近くの同じ郊外に新しいアパートを借りる予定である。両アパートの寝室数、家賃、その他の住居費は、あなたの国で代表的な費用の平均値である。ポールは働いており、あなたの国の男性のフルタイムの月収の中央値を得ている。メアリーも働いており、あなたの国の女性のフルタイムの月収の中央値を稼いでいる。メアリーとポールは、子どもたちの「共同法的監護権」を持つことに合意しており、子供たちに影響を与える主要な決定を分担する。生活の取決めに関しては、エミリーとソフィアは、隔週で金曜日の午後から日曜日の午後まで、父親の家に2泊することになる」
 基本ケースでは、両親ともフルタイムで働き、その国の代表的な収入(月収の中央値)を得ている。このように、両親はフルタイム勤務の代表的な賃金を得ているという点で同じ土俵に立っているように見せている。勿論、国によって男女の賃金格差が異なるのは言うまでもない。このような男女間の不平等は、ここでは自動的に再現される。ヴィネットの中で男女別の所得中央値を用いているためである。次に、私たちは情報提供者に、正式な子の扶養料の取決めがあるかどうか、ある場合は、このような状況下で受け取ることができる月々の金額という観点から、結果を計算するように依頼した。同じヴィネットの次のシナリオでは、子どもたちが両方の親とまったく同じ時間を過ごす共有身上監護の取決めをメアリーとポールが結んだ以外は、基本ケース「A」と全く同じ状況である。子どもたちは1週間おきにメアリーかポールと過ごす前提である。私たちは専門家に、両親が均等な共有身上監護の取決めを結んだ場合、結果がどのように異なるか説明するよう依頼した。この均等な養育のシナリオは、養育時間が50:50であることを前提とした平等の理想を表すものであり、両親が完全かつ一貫して行使する前提である。この点で、モデル家族アプローチは、取決めが頻繁に変化する家族の生活の厄介な現実を考慮することはできない。これは、モデル家族アプローチの長所(標準化)であると同時に、現実の近似値しか与えられないという潜在的な短所でもある。
 私たちは、主に3つの方法で分析を実施した:第一に、国の背景を説明し、共有身上監護について、報告されている普及率と定義を示す(表 14.1)。第二に、子の扶養料政策と共有身上監護に関する質問の回答を分析し、それが子の扶養料政策においてどのように認識されているかを調べ、アプローチの違いを浮き彫りにする(表14.2)。第三に、モデル家族の子どもが隔週で別居親のところで2泊した場合の養育費の負担額についての情報提供者の計算を使用し、それを均等な共有身上監護だった場合(親の所得は基本ケースと同じ)と比較する。私たちは、政策の成果を国別に容易に比較するため、各国の子の扶養料を購買力平価(pppUS$)でモデル化し、金銭面での成果を算出した(図14.1)。従って、分析は記述的であり、データはモデル家族に基づくもので、代表サンプルを用いた実際の生きた事例に基づくものではない。

14.5 調査結果

14.5.1 共有身上監護の普及

 私たちは、「養育の背景」と、各国の情報提供者が提供した彼らが知っている共有身上監護の普及に関する情報を提示することから分析を開始する。共有身上監護を定義することは困難である。その定義が広く、様々な養育の取決めをカバーするために使用され得るためである。共有身上監護の取決めに関する比較研究は、様々な用語、定義、時間の閾値、尺度、分析単位によって悩まされることが非常に多く、これはつまり、国を越えた比較や研究の翻訳が手強い課題であることを意味している。一般的に、共有身上監護とは両親間で子どもの養育時間を共有することを指すが、それぞれの親と過ごす養育時間は25%から50%までの範囲を取り得る(Fehlbergら 2011; Smyth 2017; Trinder 2010 を参照)。また、普及率に関する情報源も重要である。-公式統計、行政記録、調査のいずれから得た情報なのか。例えば、多くの研究は、共有身上監護の取決めの発生率を推定するために、離婚記録に依存している。離婚記録では同居関係からの別離を無視しているため、ある程度、共有身上監護の普及率を過小評価している可能性がある。加えて、国によっては、容易に入手できる情報がない場合もある。
 これらの課題を念頭に置きつつ、分析を進める。表14.1は、各国の情報提供者が報告した、共有身上監護の取決めの普及率(1列目)およびそれらの根拠となる様々な個々の時間の閾値(2列目)を示す。情報提供者の報告は、様々な異なる情報源(公式記録、調査)を参照しているため、非常に多様である。それでも、私たちの知る限り、これらは各国の最新の情報源であり、入手可能な中で最も優れたものである。従って、より注意すべき点は、共有身上監護権の定義の仕方に違いがあり、それが提示された普及率に影響を与えるので、その定義が重要だということである。例えば、50:50の割合ではなく、それぞれの親が少なくとも30%の時間を養育していると定義した場合、普及率は高くなる可能性がある。
 今のところ、50:50の共同監護という法的推定を採用している国はごく僅かである;殆どの国では明確な定義がなく、子どもが両方の親と均等な時間一緒に暮らす取決めとだけ言及しているに過ぎない。従って、後者の用語はある種の標準化を暗示しているが、明らかにそうではないため、表14.1の数値はデータそのものではなく、記述的な情報として考える方がよいだろう。私たちは表中の分析結果を報告する際に、各国からの情報ソースについてより詳しく説明している。表14.1の最後の3列目に関連して、共有身上監護に使用される時間の閾値も示しているが、これは各国の子の扶養料スキームから取得したものである。この場合もやはり、行政規則や、法制度や司法判断が実際にどのように機能するかについての知識に基づいて、各国の情報提供者が報告したものである。比較のため、私たちは、報告された有病率(1列目)と異なる子の扶養料スキームで使用される公式な時間の閾値(3列目)の間に共通のパターンがあるかどうかを確認するために、表14.1の国々を子の扶養料スキームの種類でグループ分けした。
 表14.1の結果は、報告された普及率が著しく多様であり、容易に識別できるパターンがないことを示している。これは情報ソースの多様性を考慮すると、驚くべきことではない(エストニアにはデータなし)。しかし、興味深いのは、どの国でも現実の別離家族にとって共有身上監護は少数派であるが、スペインの1地域だけは40%という高い普及率で報告されていることである。次に、子の扶養料スキームに応じた普及率を報告するが、普及率を扶養料の類型に分けるのは容易いことではない。
 行政機関制度で比較的普及率が低い国はイギリスとニュージーランドである。イギリスでは、多くの様々な調査ソースからの報告によると、普及率は情報ソースに応じて3%から17%の範囲であることを示している。しかし、同居親からの報告の中には、50:50の養育時間の取決めが1%程度の低値に留まる可能性があることを示唆するものもある。この点は注目すべきである(引用ソース:Hauxら. 2017)。ニュージーランドでは確実な情報は得られていない。2013年以前の養育費制度では、事案の約5%が共有身上監護の事案だった(即ち、各養育者が少なくとも40%の養育時間を確保していた)が、これには正式な養育費制度の一部ではない私的取決めの事案は含まれていない。5%を下限と見なすこともできるが、親同士の私的な取決めによる共有身上監護は、より緩やかにほぼ均等な養育として定義される可能性があるため、実際の数字がその何倍にもなる可能性は低い。
 行政機関制度の他の国々では、約20~25%が共有養育の取決めをしている。オーストラリアでは、2012年のひとり親調査で報告されたように、18歳未満の子どもの20%が共有身上監護の取決めをしていた(Quら 2014)。デンマークでは、共有身上監護の取決めは行政データに登録されていないため、調査でのみデータの入手が可能である。共有身上監護の取決め率は、子どもの年齢別に記録されている。2013年に報告された離婚した親の子ども全体のうち,親が共有身上監護権を持っている子どもの割合は,3歳児で22%,11歳児で40%,15歳児で32%だった(Ottosenら 2014)。ノルウェーでは、母親と父親の回答を合わせて考慮すると(即ち、子どもの身上監護を共有することに両者が同意する場合)、2012年の調査データによると、別離した親の子どもの25%を占めている(KitterødとWiik 2017)。
 裁判所に基づく制度では、フランスを除き、調査対象国の中で最も高い普及率となった。フランスでは、子どもがそれぞれの親とほぼ同じ時間を過ごす場合に、共有養育とみなされる。2012年、離婚した両親の子どもや婚外子の16.9%が、共有身上監護権の取決めをしていると報告されている。パーセンテージは、家族司法判事が下した決定の調査に基づく(資料引用:Belmokhtar 2014)。スペインもこの下位グループに属すると考えられるが、同時に地域によっては上位グループにも属すると考えられる。スペインでは、別離後の養育の取決めは、両親が裁判所に提出しなければならない養育計画に基づいており、子どもの監護権、養育、教育に関して両親が約束する内容が記載されている。そのため、正確な定義は存在せず、共有身上監護の定義に使われる特定の閾値も存在しない。この数字は、裁判官が共有身上監護とみなす離婚命令の数に基づいている。顕著な地域格差が存在し、2015年にはカタルーニャで40%超の普及率であるのに対し、エクストレマドゥーラでは8%であった。しかし、平均すると、子どもが関係する離婚総数の24.6%が、両親が養育を共有しており(Flaquerら2017)、このことからスペインは普及率の高いグループに入ることになる。ベルギーでは、ここ数十年で共有身上監護(33%から66%の時間をそれぞれの親と過ごすと定義)が普及していることを示す研究がある。具体的には、1990年から1995年にかけて両親が別離した子どものうち、共有身上監護下にいた子どもは10%未満だった。2006年以降になると、37%の子どもが養育時間の少なくとも33%をそれぞれの親の養育を受けていたと報告されている(Vanasscheら 2017)。スウェーデンでは、最高裁が、養育時間を均等未満に分割する取決めは、反対方向を示す特別な要因がない限り、一般にコンタクトと見做さなければならないと定めている(Newnham 2010)。そのため、2012/13年において、スウェーデンでは、別離した親の子どもの35%が共有身上監護を受けていた(SCB 2014)。
 ハイブリッド制度では、アメリカのウィスコンシン州のみ、共有養育が両親別離後の子どもの生活の取決めとして普及している。アメリカでは全国的なデータは存在しない。アメリカ担当の情報提供者は、離婚に関する最新のデータはウィスコンシン州の裁判記録によるものだと注意を促している。Meyerら(2017)は、2010年の離婚では、35~50%が共有身上監護であり、共有身上監護を50/50の時間共有と定義した場合が低い方の普及率、25%の時間共有と定義した場合が高い方の普及率であると報告している。フィンランドでは、共有身上監護の普及率は子どもの約15%であると報告されている。これは、社会福祉委員会に子どもの居所協定を確認した親の、共有身上監護の取決めがあるという記録に基づいている(子の監護と扶養料 2017)。しかし、フィンランドでは全ての親が社会福祉委員会に子どもの居所協定を確認しているわけではなく、このデータが実際の取決めをどの程度反映しているかは不明である。アイスランドでは、調査データによると、離婚した親のうち、24%の子どもが共有身上監護(50/50の時間共有と定義)の下で暮らしていた(Júlíusdóttir 2009)。
 調査や裁判記録(表14.1の2列目に示す)の、共有身上監護の普及率を計算するために使用する時間の閾値は、子の扶養料の義務を決定するために使用する閾値とは必ずしも同じではない。従って、子の扶養料スキームにおける共有身上監護の認定と、調査や行政記録で使用される共有身上監護の認定とで、評価基準がどのように異なるかを見ることが重要であり、表14.1の3列目にそのことを報告している。
 表14.1を見ると、5カ国では、子の扶養料目的の共有身上監護を決定するために、50%という均等な時間を閾値として用いていると報告されている(ノルウェー、イギリス、フランス、スウェーデン、アイスランド)。これは、別離後の親責任を男女平等に分割するという考え方によく合致している。しかし、別の5カ国では、共有身上監護の閾値を決めるために、時間共有に幅を持たせて使用しており、その殆どが、50%の時間共有よりも低い、より寛大なレベルとなっている。つまり、オーストラリア、デンマーク、ベルギーでは、約3分の1の時間時間(それぞれ35%、36%、33%)を下限としているが、ニユージーランドとフィンランドでは若干高い(それぞれ48%、43%)となっている。アメリカ(ウィスコンシン州)の子の扶養料制度は、最も寛大な認定をしているようで、その閾値を養育時間の25%に設定している。国によっては(スペインとエストニア)、標準的な閾値がない、あるいはこの扶養料スキームに養育時間を定める規定がないため、数値的に定義することが不可能である。
 意外なことに、子の扶養料の制度的な取決めの種類によって使用される閾値に明確な類似性はない。例えば、(一般的に裁量が大きい)裁判所に基づく制度は、(より固定的な規則や計算式を適用する)行政機関に基づく制度よりも、共有身上監護を認めるためのより低く、寛大なレベルで運用する傾向があるとは言い切れない。裁判所に基づく制度の裁量性を考えると、
行政機関型の子の扶養料制度の場合よりも、(共有身上監護の取決めの増加傾向のような)社会規範の変化への対応が迅速で、共有身上監護を認定する閾値を低く設定する可能性が高いと考えるのが妥当であろう。しかし、この研究で使用したデータと各国の情報提供者の方法を用いた場合、そのようなエビデンスは存在しない。その上、表14.1の1列目で報告している普及率と3列目の子の扶養料スキームで使用されている閾値を比較すると、ここでも明らかなパターンは存在していない。このことは興味深いことでもある。なぜなら、共有身上監護率が高いと報告された国では、この傾向を認識した上で、養育費制度がより低く寛大な共有時間の閾値で運用していることが予想されるが、そのエビデンスはここにも存在しないからである。しかし、2列目(報告書において共有身上監護を特定するために使用している閾値)と3列目(子の扶養料スキームで使用している閾値)には、何らかの関係があるように思われる。13カ国中6カ国では、両者は直接対応している(オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、ベルギー、スウェーデン、アイスランド)。このことは、子の扶養料スキームが利用可能な報告書を参照して閾値を設定している可能性を示唆している可能性があるが、これが事実であるかどうかはわからない。今のところ、次のことが言えれば十分である;共有身上監護の普及率の報告値と、報告された子の扶養料の目的で使用する共有時間の閾値との間には、明らかな関係はないようである。
 次節では、共有身上監護を考慮した場合の子の扶養料スキームの運用と、共有身上監護の場合に子の扶養料が減額されるかどうかなど、このことがどのような潜在的な影響をもたらすかについてより詳細に検討する。

14.5.2 子の扶養料政策における共有身上監護の会計処理

 まず、扶養料の支払い額を決定する目的で、両親の収入を評価するという観点から、子の扶養料スキームが親を平等に扱っているかどうかを検討することによって、子の扶養料スキームの詳細な分析を開始する。近年、子の扶養料の負担を評価するために両親の収入を計算する、「収入分配」アプローチが人気を集めている。収入配分アプローチは、より柔軟であり、そのため家族の現実の変化に対応しやすいと考えられており、共有身上監護のシフトにより対応しやすいと引用されることもある(CancianとCostanzo 2019)。表14.2の1列目は、実際に、共有身上監護しているとみなされる家族に、両親の収入を計算することが一般的に実施されていることを示している。13カ国中9カ国が収入配分アプローチを採用しており、別居親の収入のみに基づいて子の扶養料の負担を決定しているのは3カ国(デンマーク、イギリス、アイスランド)だけである。アメリカ(ウィスコンシン州)では、両親の収入は共有身上監護の場合のみ計算し、単独身上監護の場合は別居親の収入のみが評価され、両親の収入は計算されない。
 額面通り、収入配分アプローチを考慮すると、少なくとも共有身上監護である場合には、子の扶養料の額を決定する際に、別離後の親の義務について男女平等がより認識されているように思われる。しかし、支払い義務がまだ存在するかどうかも考慮する必要がある。理論的には、収入分配の評価方法を用いることができる-しかし、同時に、共有身上監護であると見做された場合、どちらの親ももはや子の扶養料を支払う義務はないと判断することもできる。事実上、両親の収入格差に関係なく、同等の責任を負っていると見做される。次に、表 14.2 の2列目と3列目でこれを検討し、考えられる3つの結果を示す。⒜共有身上監護であると見做し、子の扶養料を自動的に設定しない(子の扶養料の義務は事実上無効となる)、⒝依然として子の扶養料に関する命令はあるが、金額を調整したり減額する可能性がある、⒞依然として子の扶養料は必要だが、調整はしない。つまり、共有身上監護であることに違いはなく、両親は収入格差に関係なく同じ金額を支払うことになる。
表14.2の2列目と3列目を見渡すと、時間配分が均等な場合、扶養料を支払う義務がないと認め、子の扶養料を無効とするのは2カ国だけ(デンマークとイギリス)である。フランスとスウェーデンでは、両親の収入が等しい場合にのみ、養育費が無効になる。また、エストニアとアイスランドだけは、子の扶養料のガイドラインが子の扶養料の義務を修正する要素として養育の分担を認めていない。そのため、共有身上監護の場合でも子の扶養料の義務は変わらない。しかし、大半の国では、時間配分が均等な場合には支払い義務が残り、その多くは、適用される規則によって金額を様々に減額したり、調整する(オーストラリア、ニュージーランド、ノルウェー、ベルギー、フランス、スペイン(カタロニア州)、スウェーデン、フィンランド、アメリカ(ウィスコンシン州))。
 しかし、そのような国の中には、養育時間の評価と両親の収入の評価との間に複雑な相互関係があり、子の扶養料をどの水準にすべきかを決定しているところもある。そのため、共有身上監護であればそれだけで子の扶養料が減額されるとは限らず、寧ろ両親の間に収入格差があると、共有身上監護であるにも拘らず、より裕福な親がこの扶養料を支払わねばならない場合がある。オーストラリア、ニュージーランド、ノルウェー、ベルギー、アメリカ(ウィスコンシン州)では収入の影響が働いていると考えられる(これについては次節で詳しく述べる)。フランスとスウェーデンでは、表14.2の3列目に、規則に従って子の扶養料が依然として支払われる可能性があると記録した。しかし、フランスとスウェーデンでは、少なくとも2004年と2014年の時点では、共有身上監護権を持つ親のうち子の扶養料を受け取ったり支払ったりする親は殆どいなかったので、(親の所得水準が多少違っても)実際には子の扶養料を支払っている可能性は低い(Moreauら2004;SCB 2014)。従って、表14.2は、共有身上監護の結果として影響を受ける可能性があるかどうかを示しているだけであり、実際に生み出される子の扶養料の金銭的結果は示していない。しかし、次節でモデル家族を用いて算出した実際の子の扶養料の金額を調べることで、その影響の強さを測定することができる。

14.5.3 子の扶養料のレベル

 本節では、2つの異なる養育時間のシナリオで、正式な子の扶養料の義務としてどれくらいの額が決定されるかを示すために、子の扶養料スキームを分析する。私たちは、架空のモデル家族(図14.1)において、養育の責任を負う親が子ども一人に月支払う義務化された金額を算出する。まず、最初の養育時間シナリオである基本ケースについて、各国における子の扶養料の設定額を示す。このケースは、子どもが一方の親と隔週で2泊する場合である。次の養育時間のシナリオでは、子どもが共有身上監護の取決めをしている場合(各国の50/50の時間の閾値を適用)に何が起こるかを分析する。全てのシナリオで、フルタイムで働く人の男女の収入の中央値を使用し、それらを一定に保つ。モデル家族に対して発生した子の扶養料の金額は図14.1に示しており、扶養料は常に支払われていると仮定している(勿論、実際の家族では必ずしもそうであるとは限らない)。
 各国の左側の棒グラフは、2週間に2泊し、両親の収入は中央値であるという最初の養育時間のシナリオで支払うべき子の扶養料の金額を示している。この場合、全ての国で、別居親(2週間に2泊する子どもを持つ親)が子の扶養料を支払うことになる。扶養料の支給額が明らかに最も低い国は、スウェーデンで、次いでフランス、ベルギー(月額200ppp$未満)、一方、アメリカ(ウィスコンシン州)、エストニア、スペイン⁴(カタルーニャ州)は最も高額(月額400ppp$超)を要求している。
 各国の右側の棒グラフは、モデル家族が定期的にコンタクトを取り合っている状態から、共有身上監護の状況に移行した場合(養育時間のシナリオ2:50/50)の子の扶養料の負担額を示している。モデル家族で試されたように共有身上監護は、一方の親が支払うべき金額に多大な影響を与える。このため、それに応じて、各国を3つのグループに分類している。グループ1では、共有身上監護の場合は、全て減額し、子の扶養料の金額をゼロにする(全て減額)。グループ2では、部分的な減額が可能で、国によって扶養料の額が多かれ少なかれ減額される(部分的な減額):グループ3では、共有身上監護を考慮せず、子の扶養料の減額は行わない。
 全て減額グループ1では、デンマーク、イギリス、フランス、スウェーデンの4カ国で、子どもの扶養料の支払い義務はゼロとなる。これは、両親が子の養育を均等に分配する場合(フランスとスウェーデンについては両親の収入もほぼ同じ場合)、子の世話をする費用は両親の間で平等に支払われねばならないという仮定を反映している。
 部分的な減額グループ2は、オーストラリア、ニュージーランド、ノルウェー、スペイン(カタルーニャ州)、ベルギー、フィンランド、アメリカ(ウィスコンシン州)が入る。これらの国の政策や実務ガイドラインでは、共有身上監護の場合に子の扶養料として支払うべき金額を、よりきめ細かく計算している。宿泊を2回する場合と共有身上監護の場合とで、私たちのモデル家族について計算された金額を比較すると、減額のレベルは様々である。オーストラリア、ニュージーランド、ノルウェー、スペイン(カタルーニャ州)、アメリカ(ウィスコンシン州)では、子の扶養料の金額は少なくとも半分超は減額されるが、ベルギーとフィンランドでは半額未満である。
減額のないグループ3は、エストニアとアイスランドである。私たちのモデル家族では、共有身上監護で、両親がフルタイムで働いている場合でさえ、依然として、一方の親が子の扶養料の全額を支払うことになっている。この2カ国では、支払い義務を負う親は常に最低支払額を支払っており、購買力平価ppp$を使用したこのモデル家族に基づく計算によれば、他の国に比べて比較的高額であるようだ。
 全体として、ここでもまた、子の扶養料スキームの種類と3つのグループの間に明確な関係は見られない。ただし、親の収入に関係なく扶養料を全て減額している国は行政機関スキームのデンマークとイギリスの2カ国だけである。これは、どちらの国も債務の計算に収入配分アプローチを使用していないためであり、少なくともイギリスの場合も、その理由は行政制度をシンプルに保つためである。

スペインでは、別居親も子どもの住居費を負担することが予想されるが、これは分析に含めていない。

14.6 結論に至る考察

 本章では、比較研究から得られた新たなエビデンスを用いて、各国の子の扶養料スキームが共有身上監護を考慮する方法について、その知識のギャップを埋めた。この現象を調査している13カ国のデータを分析し、モデル別離家族の両親が仕事と養育時間の面で男女平等であるという理想的な状況を示すモデル家族アプローチを適用した。
 私たちは、国によって非常にばらつきがあり、各国の子の扶養料スキームの種類-行政機関に基づくスキーム、裁判所基づくスキーム、あるいは両者のハイブリッドスキーム-に関連する採用されたアプローチには、明らかなパターンが存在しないことを見出した。そのため、様々な子の扶養スキームとその計算に関する行政規則も司法判断もスキームの種類内または種類間でどんな明確な一貫性も示していない。それにしても、モデル家族を用いてアプローチを標準化した私たちのデータで、何の関係も見いだせないというのは少々驚きである。しかし、制度的かつ行政的な取決めが子の扶養料の結果の違いを完全に説明するものではないことに注意することが重要である(MeyerとSkinner 2016)。たとえそうであっても、この点に関する私たちの調査結果は、別離した両親の間でより平等な養育の取決めがなされるというこの現象に照らして、国際的に、子の扶養料の支払い義務がどうあるべきかということについて、意思疎通がなされていないか、コンセンサスが得られていないことを意味している可能性がある。確かに、共同身上監護権の普及率は伸びているかもしれないが(あるいは少なくとも伸びていると考えられているが)、まだ一般的な取決めではない。これは、各国の情報提供者が、それぞれの国で入手可能な行政や調査の証拠を調べた結果得られたデータによるものである。普及率自体に影響を与える可能性のある要因(国内における無料保育の可用性など)の調査は、本章で報告する研究の範囲外である。
 しかし、私たちが発見したのは、モデル家族の両親が、隔週末に2泊ずつ一方の親の家で暮らすという、より典型的な取決めをしている場合に比べ、共有身上監護の場合は、子の扶養料を部分的に減額する国が最も一般的であるということである。恐らく、このよりきめ細かなアプローチは、他の2つのアプローチ(下記参照)よりも優れていると考えられる。というのも、男女の賃金格差をある程度考慮しており、これは私たちが男女の収入中央値を使用したモデル家族に現れているためである。勿論、これは子の扶養料政策を支える明確な政策意図ではなく、単にそれぞれの親の支払い能力についての判断に基づく運用手続きや司法判断の適用を反映しているだけかもしれない。たとえそうであっても、この結果は、裕福な親が子どもの養育のために貧しい親に子の扶養料を支払うという、再分配効果を生む可能性がある。
殆ど一般的ではないが、均等な共有養育の場合、子の扶養料を全て減額した国が4カ国あった。これにより、このモデル家族の両親の状況は平等であり、従って、どちらも他方に対して子の扶養料を支払う義務はないと仮定している。このアプローチは、これまで2つの主な理由から批判されてき(Melli と Brown 1994 を参照)。第一に、両親の収入が同程度であると仮定していることである。これは、私たちの理想とするモデル家族であっても、収入の中央値における男女の賃金格差を考えると、現実には同程度ではない。現実のケースでは、状況は更に悪化するはずである。確かに統計によれば、両親の別離直後から母親の総収入は減少し、父親の収入よりもはるかに低くなることが非常に多い。実際、父親の収入は別離後に上昇することさえある(例えばAndress ら 2006; MortelmansとDefever 2017)。第二に、子の扶養料を全て減額するというこのアプローチは、費用を両親が均等に負担することを前提としている。しかし、養育時間の分担にかかわらず、子どもを養育する費用の一部は両親のどちらかが不均等に負担している可能性があり、全ての費用が、子どもが親と同居している時間に関連しているわけではない。現実には、学校関連費用や医療費の支払いなど、子どもの日常生活の管理責任の大半を母親が担っていることが多い(Cashmoreら 2010)。そのため、ある国の子の扶養料政策は、同等の養育時間や雇用状況にある両方の親に対して平等な待遇を提供しようとしているかもしれないが、結果への影響は平等ではないかもしれない。CookとSkinner (2018)は、別離家庭において真に男女平等な結果を生むには、経済的に不利な親、社会的には通常母親であるが、を優遇するような、経済的公平性に基づいた解決策が必要かもしれないと指摘している。つまり、私たちの分析との関連では、衡平性に基づく解決策は、きめの細かい部分的削減アプローチに最も適している。しかし、どのような政策的前提があるにせよ、共有身上監護下の家庭環境においては、平等を前提とする方が、より迅速かつ容易な運用プロセスであることは確かであり、それによって子の扶養料の減額計算を回避することができる。
 最後に、共有身上監護下で、子の扶養料の減額がないのは異例であることがわかった(少なくとも私たちのモデル家族では)。これは13カ国中、エストニアとアイスランドの2カ国のみであった。考えられるのは、これらの国の根底にある運営上の前提は、養育時間を共有するか否かに拘らず、父親が扶養料を全額支払う経済的義務を免れないという、強力な男性稼ぎ手モデルに基づいている可能性がある。
 全体として、子の扶養料政策における共有身上監護への対応には標準的な慣行は存在しないようである。均等な養育の取決めを結んでいる場合、子の扶養料を全て減額する、部分的に減額する、あるいは減額しないという3つの異なるアプローチが見られたが、子の扶養料の類型には容易に当てはまらず、異なる制度設定が浮き彫りになった。後者は驚くべきことである。なぜなら、類似した子の扶養料スキームであれば、共有身上監護も類似の方法で扱われるのではないか、あるいは、あるタイプのスキームが-裁判所に基づくものであれ、行政機関に基づくものであれ-、各国における普及率で測定されるような共有身上監護権に関する社会規範の変化に、より敏感に反応する兆候を示すのではないかと予想されていたからである。私たちは、私たちのモデル家族において、子の扶養料の制度設定や共有身上監護の普及率が子の扶養料の結果に重要な影響を及ぼしているというエビデンスを見出せなかった。
 別離家族における両親間の養育責任の分担の認識については、多くの疑問が残っている。その普及率に関する情報は断片的であり、それが何であり、どのようにそれを測定するかについては、国によって多くの解釈がある。そのため、測定が非常に難しいだけでなく、他の家族政策(保育の提供など)に関連する様々な要因を考慮することも難しく、国によって共有身上監護の普及率が違う理由に光を当てることができない。より具体的には、子の扶養料制度において、共有養育を測定するために使用する様々な計算式の基礎となる正当性や、期待される金額の調整や減額を行うかどうか、またどのように行うかの根拠について、より詳しく知ることが有益であろう。こうした制度は、別離した親の家族慣行の変化に一般的に対応しなければならないため、この現象を調査するのに最適な場所であり、それゆえ、養育の取決めをめぐる社会規範の変化について何が起きているのかを理解する上で、最も最短距離にあるのかもしれない。

謝辞 本研究のために情報提供し、扶養料を計算してくれた各国の情報提供者全員に感謝したい。結果として得られた研究におけるデータ解釈の誤りに対する責任は著者にある。
 本章は、オープンアクセスが可能にしたアントワープ大学人口・家族・健康センター(CPFH)の支援からも恩恵を受けた。本研究は、フィンランドアカデミーの助成金(助成番号294648)の資金援助を受けた。

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ミア・ハコヴィルタ フィンランド、トゥルク大学社会研究学部アカデミー研究員、INVESTフラッグシップ上級研究員。家族政策、養育費政策、ひとり親家庭の経済的ウェルビーイングの問題を中心に研究。別離後の家族政策、養育費政策、共有養育、別離後の父子関係、子どもの貧困と子どものウェルビーイングに関する書籍を出版。殆どが国際的な研究である。現在のプロジェクトでは、フィンランドアカデミーの助成を受け、15カ国の複合家族と養育費政策について研究している。

クリスティン・スキナー 別離家族の生活について20年以上の研究している養育費政策の専門家。イギリス経済社会研究評議会および労働年金省において数多くのプロジェクトに携わる。氏の研究はイギリスの政策展開に影響を与え、下院特別委員会、国家監査院、閣僚の「関係支援サービスに関する専門家運営グループ」の専門政策顧問を務めてきた。国際的にも知られ、韓国、フランス、オーストラリアの養育費に関する他の政策立案機関に助言を行い、多くの国の養育費スキームの比較分析を行ってきた。ごく最近では、共有養育政策の比較分析(フィンランド・トゥルク大学のミア・ハコヴィルタ博士との共同研究)や、ドメスティック・バイオレンスがひとり親(母)の養育費請求に与える影響の調査(メルボルン・スウィンバーン大学のケイ・クック教授との共同研究)に携わっている。

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[訳者註]PPP purchasing power parity
購買力平価。購買力平価(PPP)とは、ある国である価格で買える商品が他国ならいくらで買えるかを示す交換レート。例えば、ある商品が日本では200円、アメリカでは2ドルで買えるとすると、1ドル=100円が購買力平価だということになる。基準になるのは、米国での商品価格とUSドルである。

(了)


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