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別離家族のためのバーチャル面会交流

 両親の別居後や離婚後に、子どもが別居した親と定期的に交流することを面会交流と呼びます。海外では隔週の週末を別居親と過ごす子どもも多く、コロナウィルス感染が拡大している状況下でも、イギリスのように「面会交流は非常に重要であり、外出制限の例外に当たる」と明示する国もあります。日本では法務省が2020年5月1日にホームページで、直接交流の代替手段として通信機器を利用した交流「リモート面会」(「オンライン面会」とも言います)の利用を呼びかけましたした。
 では、直接会わずに行う交流(以降、バーチャル面会交流という名称で統一します)にはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?「シドニー大学・子どもと家族のための研究センター」が発表したレポート「別離家族のためのバーチャル面会交流 Virtual Visitation for 
Separated Families
」を紹介します。

はじめに

 この「研究から実践へノート」では、別離した家庭の親や他の親戚との交流、そして、養護施設、里親、親族の下で暮らす子どもとその実親との交流を促進するために通信技術を利用する際の、主な課題と利点について簡潔に概要を説明する。その目的は、子どもが親や大切な家族と離れて暮らしているときに、そのつながりを保つための技術的な解決策について、研究結果と証拠に基づいた実践方法を要約することにある。
 バーチャル面会交流は、「バーチャル養育時間」とも呼ばれ、オンラインまたは電子的なコミュニケーションを利用して、子どもとその親や同居していない他の家族との交流を促進することを指す1,2。以前から家庭裁判所は、特に紛争になったリロケーション事件において、親と子の接触を促進するためにバーチャル面会交流の利用を検討してきた3,4,5,6。オーストラリアでは、バーチャル面会交流は、法理論(M対S、ハイト対レット参照)7とバーチャルな面会交流に関する法律の両方に組み込まれている8。2006年、家族法改正(共同親責任)法で1975年連邦家族法を改正し、養育計画における親子間のコミュニケーションの意味を拡大し、「手紙や電話、電子メール、その他の電子的手段によるコミュニケーション」を含むようにした(23条C(2))。
 里親のいない子どもや、オーストラリアで養子縁組をした子どもは、通常、裁判所が承認した交流計画を所有し、予定された面着の面会交流で両親や兄弟姉妹に会うことができる。COVID-19の感染を防ぐために、ケースワーカーは現在、バーチャルな交流の取決めを試している。最近の調査によると、パンデミックの発生により、「ロックダウン」中やそれ以降も、家庭外養育を受けている子どもとその実家族との間の重要な関係を維持するために、面会交流用の通信技術を利用する利点が鮮明化してきているようである9。両親が別離した後のケース、あるいは家庭外養育に移行した後のケースで、子どもが実親や他の家族とのつながりを保つことに共通する点もあれば相違する点もあり、並行する問題もある。
 この研究報告書では、別離中の家族や、法定の家庭外保護を受けている子どもとその実親との間の家庭裁判所制度におけるバーチャル面会交流について文献をレビューする。

推奨事項
1.バーチャルと面着の両方に対応した面会交流計画を作成する。
2.距離の問題を解決するために、例えば移動時間のピークを避けたり、面会交流時間を長くしたりするために、バーチャル面会交流を利用する。
3.バーチャル面会交流を維持するために親と子が必要とする援助のレベルを設定する。
4.バーチャル面会交流中に許可する活動について、明確な境界線を設ける。
5.面会交流を阻害する可能性のある出来事や状況に備えておく。
6.親のスケジュール変更と子のスケジュールの変更の両方を考慮に入れる。
7.バーチャル面会交流の計画を立てる際には、個々の子どもの発達、感情、認知面でのニーズを考慮する。
8.子どもの成長に合わせて計画を変更する。
9.計画作成や情報共有の手段として、デジタルプラットフォームの活用を検討する。
10.紛争解決のために支援が必要な場合は、調停サービスの支援を求める。
11.バーチャル面会交流は、家庭内暴力が判明している、または嫌疑があるなど、紛争の多い状況では適切でない場合がある。

2020年6月

研究結果
バーチャル面会交流が親子やその他の親族と子どもの関係に与える経験や影響に関する研究はそれほど多くない10,11,12。離婚の文脈における研究は幾つか存在するが、結果はまちまちである13。また、軍人家庭、服役中の親、仕事の都合で別居しているケース、子どもが大学に通っているケースなどの関係において、バーチャルな親子交流を調査した研究も幾つか存在する。全体的に見て、このような状況では、親子交流を維持するためにオンライン技術を利用することが支持されている14,15,16,17。しかし、肯定的な側面は、バーチャルでも維持できる親子間の肯定的な関係が既に存在していた場合に多く見られた19,20,21,22,23,24。この事実は、バーチャル面会交流がそれ自体、既に緊張した関係を改善するものではないことを示唆している25。つまり、バーチャル面会交流やデジタル面会交流が子どもと親の関係や子どものウェルビーイングに与える影響は固定的なものではなく、プラスにもマイナスにもなり得るということである。

 裁判所は、親子の接触を強化するために、バーチャル面会交流の可能性をある程度受け入れてきたが、その支持は普遍的なものではない。殆どの場合、バーチャル面会交流は、対面式の面会交流の代わりではなく、補完的なものとして育児計画に盛り込まれている1,7。

離れていても親子関係を維持できる
 両親の別離後、一方の親が他方の親からある程度離れた場所に引っ越した場合、養育計画や子どもが親と過ごす時間はより複雑で難しくなる24,25,26,27。同様に、家庭外養育を受けている子どもや里親家庭と子どもの実家族の居住地が離れているために、子どもと実家族との交流が困難かつ不規則になることがある。
 生みの親と家庭外養育を受けている子どもとの居住地が離れていたり、遠距離にも拘らず共同的な養育を取決めている場合、子どもの発達や愛着のニーズを考慮した、そして、身体的な交流が頻繁でなかったり不定期であったりする期間でも親子関係を維持する様々な解決策が必要である28。
別離家庭の子どもと家庭外養育を受けている子どもの両方にとって、デジタル面会交流は、対面の養育時間が制限されている場合に、家族との定期的かつ非公式なつながりを維持する方法となる。

 最終的には、通信技術を利用することで、子どもと一緒に暮らしていない親が、子どもの日々の生活でより大きな役割を果たすことができる29。

バーチャル面会交流のメリット
 バーチャル面会交流のメリットは、親や他の家族が、他の方法では子どもに会うことができない状況でも、子どもと「対面している」かのような時間を得られることである30,31,32,33,34。更に、バーチャル面会交流を養育計画に組み込むことで、他の方法では不可能な一貫した定期的なレベルの交流を実現できる。例えば、親や親戚が仕事、距離、学校などの理由で平日の夜に子どもと接することができない場合、バーチャル面会交流が別の選択肢を提供する35。デジタルコミュニケーションは、親が子どもの日常生活を把握するのに有効である。
 家庭外養育を受けている子どもや養子と子どもの実家族との間のデジタル面会交流についても、プラスとなる知見が報告されている。例えば、これらの子どもは、デジタル面会交流を通して、より良い関係が築いている38,39,40が、それはこの手段により連絡を取り合う方法が提供され41、孤独感が軽減され、実家族と繋がりが強化され42、家族の絆が促進された43ためである。幾つかの研究は、オンライン・コミュニケーションやデジタル面会交流に形式的なものが存在しないことが、子どもと実家族とのより有機的なつながりを育むのに役立っていると指摘している44,45,46。デジタル面会交流がもたらす即時性は、特に若者に評価されている47。

 通信技術の進歩により、子どもが親や家族と有意義なバーチャル面会交流をする方法は常に拡大している38。例えば、発表会やスポーツの試合などの重要なイベントをライブストリーミングで配信することができれば、居住地が離れていて物理的に参加できない場合でも、親が遠隔地からイベントに参加することができる39。

技術的要件
 バーチャル面会交流に必要な費用は、親や養育者にとって比較的安価で、関連プログラムの多くは無料で利用できる。例えば、スカイプは無料で、小さな子どもでも簡単に使えるようになっている36。しかしながら、ただし、信頼性の高いインターネットサービスやデータプラン付きの電話は勿論のこと、ウェブカメラ付きのパソコンやノートパソコン、タブレット端末などのハードウェアが必要になる。現在、コンピュータは手頃な価格で手に入るようになってきているが、この技術は決して全ての人に行き渡ったり、全ての人が利用できるわけではない。農村部では、高速インターネットサービスが提供されていなかったり、低所得の家庭では、コンピュータやスマートフォンを購入する経済的余裕がない場合もある37。デジタル貧困や技術への不慣れは、養育者、実親、別離中の親にとって、デジタル面会交流を成功させるための障壁となる。

技術力のある若者に向けたオーダーメイドの解決策
 オンライン・コミュニケーションは、現在の子どもや若者の世代に適している。彼らは、技術に慣れ親しんでいることから、「デジタル・ネイティブ」と呼ばれることもある40。FaceTime(フェイスタイム)のようなバーチャル・コミュニケーションや、類似するオンライン・コミュニケーションの「対面式」モードは、彼らが仲間やより広い社会的ネットワークと交流するための主要な手段であることが多い。そのため、バーチャル面会交流は、子どものニーズとスキルセットに配慮した、比較的脅威のない、身近なコミュニケーション手段となり得る41。家庭外養育を受けている子どもや養子の場合、実家族とのデジタル面会交流の意味を探った研究では、子どもの満足度が高いことが報告されている53,54,55。特に、デジタル面会交流は、実の親とオンラインで面会交流を維持している若者に、より大きな制御と自由を与えている56,57,58。ある研究では、若者が自分の技術を使用して、オンライン・ソーシャルメディア・プラットフォームのスクリーニング機能やブロック機能を利用することで、実親との望まない面会交流を管理していることが指摘されている59。更に、家庭外養育を受けている子どもと実親との間のデジタル面会交流やオンライン・コミュニケーションが、子どもの自己意識60や、時間管理、組織運営、社会的スキルなどの主要なスキルに役立つことが研究で示されている61。

子どものための「ネット安全性」
・「ネット安全性」に関する重要なトピックについて子どもと定期的に話し合い、理解と自信を深めること
・オンラインでプライバシーを守る方法、見知らぬ人やマルウェア、怪しいリンクを避ける方法、他のユーザーをブロックしたり報告したりする方法、オンラインでのいじめに対処する方法などについて、子どもと定期的に話し合うこと
・見知らぬ人が近づいてきたとき、家族が不適切な話を始めようとしたとき、ネットいじめに遭ったときには、すぐに監護者に知らせるよう、子どもに伝えることが重要である

バーチャル面会交流に関する考慮事項

親同士の関係
 家庭外養育を受けている子どもや養子縁組をした子どもと、両親が別居または離婚している子どもの家族関係には大きな違いがある62。家庭外で養育されている子どもの場合、生みの親や家族に虐待やネグレクトがあった可能性が高く、生みの親の家族と養育先の家族の間に緊張関係があるケースが存在する。これらの要因はいずれも、交流を複雑にし、子どもの居場所の安定性や、生みの親と預け先の家族の両方との関係に影響を与える可能性がある。更に、デジタル面会交流が子どもと実親や実家族との関係に利益をもたらすことを示唆する研究がある一方で、デジタル面会交流が子どもと里親家庭との関係に与える影響を調査した研究は数が限られている。ソーシャルメディアやモバイル技術を介した、家庭外養育を受けている子どもと生みの親との間のデジタル面会交流を調査したある研究では、オンラインやモバイルでの継続的なコミュニケーションの性質が、里親の安定性を損なう可能性があることが示唆されている63。
 両親が別居または離婚している子どもの場合、親同士の敵意や葛藤の問題があるかもしれない。他の面会交流方法と同様に、バーチャル面会交流は一般的に、協力的な共同養育関係にある別居中の親に最も適している。葛藤関係がある場合に役立つかもしれないが、一部の親は、葛藤を強めるために技術を利用しようとするかもしれない。例えば、相手の親とのバーチャル面会交流時間を不必要に妨害したり、バーチャル面会交流を利用して相手の親についての情報を収集したりすることなどである64,65。従って、葛藤が存在する場合には、バーチャル面会交流はあまり適切ではないかもしれない。高葛藤の場合には、継続的な支援を行うために、調停や子育て支援サービスを利用する必要があるかもしれない66,67。
 最終的には、バーチャル面会交流は、全ての当事者がこの取り決めにコミットし、スケジュールが彼らのニーズを満たす場合に最も効果的である68,69。理想的には、バーチャル面会交流は、子どもとその家族がリラックスし、十分な自由時間があり、疲れていない時間にスケジュールすべきである。

 「私たちのファミリーウイザードOur Family Wizard」のようなプログラムや同様のソフトウェアプログラムは、困難なケースで役に立つ75。これらのプログラムは、スケジュールやカレンダーを共有したり、医師の診察や遊びの約束などの活動に関する情報を交換したり重要なメモを記録したり、子ども関連の支出を記録したりする手段を提供する76。

子どもの年齢と発達状況
 全ての年齢の子どもにとって、交流時間まるまる話し相手でいること要求されるなら、バーチャル面会交流は通常の面会交流より苛酷になる。一方に、対面での面会交流では、子どもは必ずしも相手に対し常に気を配る必要はない71。従って、様々な種類のデジタル面会交流やバーチャル面会交流が適切か否かは、子どもの年齢と発達段階に応じて判断する必要がある72,73。
 バーチャル面会交流は、幼い子どもよりも青年期の若者がうまくいく可能性がある74。10代の若者は、オンライン・コミュニケーションに慣れている傾向があり、現在一緒に暮らしていない親や親戚との関係を維持するための自然な手段として、バーチャル面会交流を見出す傾向がある。また、面会交流の主導権を握っていると感じ、他では話せないような会話にも自信を持って臨むことができる46。

 バーチャル面会交流を含む育児計画では、子どもの年齢、性格、認知能力、発達能力、対処法や回復力などを考慮して面会交流スケジュールを決めるのが理想的である52。

 幼い子どもの場合、予測可能で定期的なバーチャル面会交流を頻繁にスケジュールすることで、親子の愛着を維持することができる。ただし、バーチャル面会交流の交流時間は、子どもの集中力や注意力に合わせて設定する必要がある47,48。画面を共有することで、親は子どもの好きなビデオを見たり、双方向型ゲームを一緒にプレイすることができるが、これは幼い子どもにとってはより魅力的で負担が少ないかもしれない49。

オンラインゲーム
 オンラインで双方向型ゲームをしたり、文書や写真、メッセージを共有したりすることができるため、親は子どもの日々の活動や日常生活に参加し、最新情報を得ることができる53,54。
 このような継続的かつ定期的な関与は非常に重要である。例えば、子どもの宿題に対する親の関与と、学業成績、宿題や学習に対する姿勢などの成果との間には、正の相関関係があることが多くの研究で指摘されている55,56。

 乳幼児は、年長児に比べて、両親との接触に、より一貫性、安定性、予測可能性を必要とする50。乳幼児を対象としたバーチャル面会交流では、親は子どもの発達を観察し、子どもに聴覚や視覚の刺激を与えることができる51。幼い子どものためのバーチャル面会交流のスケジュールは、両親の同意が必要であり、子どもの日常生活に合わせて、より短く、より柔軟に設定する必要がある。
 殆どの研究では、子どもが好むバーチャル・コミュニケーションの形態や、自己意識、ウェルビーイング、人間関係への影響に関する子どもの見解は報告されていない81。バーチャル・コミュニケーションに対する子どもや若者の考え方は、大人とは大きく異なる可能性があるため、彼らの意見を理解することが重要である82。

特別支援を必要とする子ども
 特別なニーズを持つ子どもは、多くの場合、教育、メンタルヘルス、医療の専門家からの支援を必要とするのは勿論のこと、専門的な養育アプローチと高度な監督を必要とする57。両親の別離は、特別支援を必要とする子どものケアを複雑にする可能性がある。特に、経済的資源が不足している場合や、子どもの治療や支援方法について両親の意見が一致しない場合には、そのような事態が発生する可能性がある58,59。
 このような子どもたちの多くは、子どもの発達段階に基づいた従来の育児計画では、子どもの行動や治療の必要性を考慮することが適切でない場合がある。例えば、一貫した日課や安定した住居の必要性が、一緒に暮らしていない親との時間を最大限に確保する養育計画の必要性を上回る場合がある60。対面式の面会交流では、定期的な長時間の移動に耐えることが困難な子どももいるため61、子どもの年齢、発達能力、気質、サポートの必要性に合わせたバーチャル面会交流は、頻度の低い対面式の面会を補うことができるかもしれない。

バーチャル面会交流の障壁

 「バーチャル面会交流」に関連し、幾つかの潜在的な落とし穴がある。まず、親や養育者の間に葛藤があったり、バーチャル面会交流の間にお互いの時間を干渉しようとする場合、バーチャル面会交流は両親間の葛藤を持続または悪化させ、親子関係を緊張させ、子どもの情緒的なウェルビーイングに悪影響を及ぼす可能性がある93。次に、子どもが親とのバーチャルな交流に多くの時間を費やすと、代替の養育者や親が使える時間が制限される可能性がある62。
 第三に、幼い子どもは、親子のアタッチメントを維持するために親との定期的で有意義な接触を必要とするため、バーチャル面会交流の適切性について疑問が呈されている63,64,65。
 第四に、親と子が異なるタイムゾーンにいる場合、親と子の両方の睡眠時間に合わせた時間を確保することが難しく、同期的なオンライン・コミュニケーションは現実的ではないかもしれない66。

 就学前の子どもや注意力の弱い子どもには、バーチャル面会交流は困難かもしれない。幼い子どもは親子の愛着を維持するために両方の親との非常に定期的で意味のある接触を必要とするため、バーチャル面会の適切性について疑問が呈されている95,96,97。

バーチャル面会交流は対面での面会交流に代わるものではない
面会交流の質は、その媒体や交流頻度よりも、親子関係の質にとって重要であることが一貫して判明している99。即ち、子の最善の利益のためには、家族との時間を有意義なものにする必要がある100。一連の研究結果から、両親が子どもの生活に関わることの重要性が引き続き強調されている68。

 家庭外で暮らす子どもと実の親とのつながりを保つことは、子どもの成長とウェルビーイングにとって重要である85。しかし、生みの親とその子どもが直接交流することは、ストレスを感じる86,87だけでなく、論理的にも困難である。バーチャル面会交流は、実の親と子の間でより一貫した「交流」と定期的な接触を可能にするために、対面時間を増やすことができる。

 バーチャル面会交流は、交流時間と交流場所を設定するために必要な大人の組織や監督が少なくて済むため、面会交流の頻度に関する子どもの希望を優先することができる。

 親や他の家族と子どもの間の身体的な面会交流の代わりに、バーチャル面会交流を実施するべきではないということは、広く受け入れられている69,70,71。バーチャル面会交流は、親と子の対面の時間を強化するものとして扱われるべきであり、それ以上のものではない。養育計画は、バーチャル面会交流が親と子の間の個人的な交流の代わりになることを前提に構成されるべきではない71。
 家庭外養育を受けている一部の子どもにとって、バーチャル面会交流は対面での面会交流の代替としては不十分であると報告されており103,104、不満の原因になっていると言われている102。家庭外養育を受けている若者が実家族とのバーチャル面会交流を維持している経験を調査した研究では、親と子の両方が身体的な親密さが失われたことを嘆いていると報告されている109。
 裁判所は、特に子どもと親の関係が良好でない場合に、バーチャル面会交流が親子間の交流の質に悪影響を及ぼす可能性があることを認めている72,73。親とのバーチャル面会交流は、その親が子どもの日常生活の中でもはや身体的な存在を維持してはいないというお決りを形成する可能性がある74。

バーチャル面会交流の実践的意味合い

 実践の推奨事項は、ケースワーカーが子どもと別居親または実親との間のバーチャル面会交流をサポートできる状況に限定されている。家族に家庭内暴力が知られている、または疑われる、または重大な危害のリスクがある子どもの安全とリスクの評価を行う必要がある、紛争の激しい状況では、バーチャル面会交流は適切でない可能性があり、家族と子どもの間の交流を支援および監督するために専門家による調停が必要である。

プライバシーと紛争への対処

 離婚/別居している両親を対象とした家族法に関する限られた証拠から、大人同士の問題がバーチャル面会交流にどのように影響するかが明らかになっている。あるレビューでは、デジタル面会交流は、子どもが親の間の葛藤を避けながら、別居親との関係を維持するのに役立つと結論づけている77。Covid-9のロックダウンの影響を受けた離婚家庭の親子を対象とした最近の小規模な研究では、全員が技術を使ってつながりを保つことについて前向きに語っている78。しかし、子どもたちは、それぞれの親のプライバシーを維持し、プライバシーが侵害された場合に親同士の更なる対立を避けることの難しさについて語った79。
 また、里親や養親は、バーチャル面会交流によって意図的あるいは偶発的に共有される情報の種類をコントロールできないことに関連する懸念を報告している118。例えば、ソーシャルメディアやビデオ通話、デジタル技術によって、保護されている居場所や電話番号、身元確認情報などが実の親族に漏洩する危険性がある。また、規制されていない携帯電話やインターネットの使用と同様に、子どもや若者に性的または犯罪的な搾取のリスクがあるかもしれない119。

安全とウェルビーイングに対する潜在的なリスクの管理
 安全性に懸念がある場合には、バーチャル面会交流が推奨されることがある。ウォルマンとポメランス(2012)は、危害を受ける恐れがあるために直接の面会交流が推奨されない場合、デジタル面会交流によって関係を維持できることを示唆している80。同様に、バーチャル面会交流は、実の親族から身体的な危害を受ける恐れがあると感じている家庭外養育を受けている子どもや、葛藤のために対面での接触を望まない子どもにとって、より脅威の少ない交流方法であると考えられる121,122。
 サイニーらは、面会交流が規定によらず、監視付きでない場合は特に、子どもが依然として言葉や感情による虐待のリスクに晒されている可能性があると指摘している81。実の親族とのバーチャル面会交流が、養子や若者にとって予想外だったり、促されてもいなかった場合、彼らは思わぬ相手との出会い対し心の準備が不足していたと感じたり、情緒的な抵抗を感じたと報告している124。また、個々のケースにおいて、家庭内や家族間に既に存在するリスクと、バーチャル面会交流の潜在的なメリット、そして対面での面会交流の重要性を比較検討することが重要である。過去に家庭内暴力を受けていた場合、別離中の両親間や実親と養育者の間に高いレベルの葛藤がある場合、あるいはバーチャル訪問中に安心して過ごすために大人のサポートを必要とする子どもがいる場合には、バーチャル面会交流を監督・管理し、子どもの安全とウェルビーイングを守るために、専門家による調停が必要となる。

 虐待を経験した、今は家庭外養育を受けている子どもの場合、独立した安全な空間と考えられている監護者の自宅に実家族との交流を持ち込むことには、更なる配慮が必要である131。このような状況でのデジタル面会交流の妥当性を判断し、デジタル面会交流中の規定にまつわる期待を管理するための専門家のサポートが重要である132。

境界線を設定し、期待値を話し合う
 アイラーと同僚による最近のレビューでは、子どもが自己防衛の負担なしに体験を楽しめるように、大人がバーチャル面会交流について適切な境界線と明確な期待を設定することが推奨されている128。このようなオープンな議論の一環として、親や他の家族の複雑なニーズを考慮するのは勿論のこと、通信技術的な点においても、全ての当事者のサポートのニーズを考慮することが重要である。例えば、子どものスマートフォンの使用を規制するための境界線を設定する際に、養育者が直面する緊張感や困難さを強調した研究もある129,130。
 子どもや若者の通信技術使用を規制することは難しいかもしれないが、家庭外養育を受けている子どもの健康を守り、深夜の使用などの不適切な利用を避けることは重要である。養育者、実の家族、監護親/非監護親は、適切なデジタル面会交流の形態を確立し、面会交流の境界を設定・管理するためのサポートが必要になる場合がある。

 距離やその他の事情で頻繁に直接的な面会交流ができない過渡期には、バーチャル面会交流により親子交流を促進できるが、対面での交流時間に代わるものとして頼るべきでないことは科学的に証明されている。

結論

 家族法上で別離している親の子どもや家庭外養育を受けている子どもに関し、子どもと親とのバーチャル面会交流のリスクと影響を探る更なる研究が必要である。更にまた、実の家族や養育者、養親との関係を維持する上でのバーチャル面会交流の有用性と影響を評価する研究も必要である。子どものウェルビーイングと発達に寄与することが意図されているにも拘わらず、このような媒体を使った面会交流や、より一般的な面会交流が、様々な状況にある子どもに時間の経過とともにどのように作用するのかを示す研究が不足している134。
 COVID19ロックダウン中の面会交流に関するニール、コプソンとソレンセン(2020)の新しい報告書では、実親、養親、後見人、親族・里親、専門家の視点から、養護施設にいる子どもや養子縁組のために養護施設を離れた子どもが、親族とのバーチャル面会交流への急速な移行をどのように経験したかを調査した84。彼らは、バーチャル面会交流は今後も続く可能性が高いと結論づけ、実践への影響を強調している。
 バーチャル面会交流は、事情により頻繁に面着した交流ができない場合に、親または親戚と子どもとの定期的な接触を促進することができる。しかし、バーチャルな面会の形での交流は、実際に会う交流に代わるものではなく、幾つかの欠点がある。家庭内暴力が知られていたり、疑われていたり、別離している両親の間や養育者と実親との間に激しい葛藤があったり、子どもが重大な危害を受ける危険性がある場合には、バーチャル面会交流は適切でない可能性があり、面会交流を監督および促進するために専門家による調停または親の調整が必要である。バーチャル面会交流が適切で実現可能な選択肢であるかどうかを判断する際には、親子関係の質、大人同士の葛藤の度合い、子どもの発達年齢やその他のニーズ、両親の家の距離、通信技術やインターネットサービスの利用しやすさなどを考慮することが重要である。

オーストラリア家族法審議会は、バーチャル面会交流を身体的な面会交流の代替としてではなく、それを補強するために利用することの重要性を強調し、バーチャル面会交流は「子どもがある程度離れた場所に住む親と意味のある関係を維持するのに十分ではない」と示唆している133。
ヒントシート
子どもと家族のための研究センターは、このような困難な時期の実践をサポートするための一連のヒントシートを開発した。ヒントシートには、通信技術を利用した面会交流の支援など、子どもと家族のつながりを維持するための革新的で実用的なソリューションを取り上げており、リサーチセンターのウェブサイトで入可能である。
・家族の時間-ビデオチャットを使用するためのヒント
・家族の時間-通信技術を使用せずに遠くから
•会話のきっかけ
•オンライン・ソーシャル・ビデオゲーム

次のアドレスで入手可能
https://www.sydney.edu.au/arts/our-research/centres-institutes-and-groups/research-centre-for-children-and-families.html

その他の関連研究へのリンク
Iyer, P., Albakri, M., Burridge, H., Mayer, M. and Gill, V. (2020). The effects of digital contact on children’s wellbeing: evidence from public and private law contexts. Rapid evidence review. London: Nuffield Family Justice Observatory.
Neil, E., Copson, R., and Sorensen, P. (2020). Contact during lockdown: How are children and their birth families keeping in touch? London: Nuffield Family Justice Observatory/ University of East Anglia.

(了)

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