日本の第7次定期報告書に関する結論的考察*¹
国連には条約に基づく委員会が6つあり、「児童の権利委員会」「規約人権委員会」は、その中の2つです。
今回の記事は2022年10月に、規約人権委員会の日本に対する勧告の翻訳です。今回のポイントは「実子誘拐 Parental Child Abduction」が明記され、国内事件と国を跨ぐ事件とに限らず、必要な措置を勧告されたことです。
規約人権委員会とは(国際連合広報センターのサイトより抜粋)
規約人権委員会は、市民的、政治的権利に関する国際規約第28条により設置されました。規約の現在の状況は、UNHCHRウェブサイトに掲示されています。委員会は年3回、ニューヨークとジュネーブで会合を開きます。
作業文書は文書記号CCPR/C/-の形で発行されます。最近の文書の全文は、条約機関データベースで閲覧できます。
会合記録の要旨は文書記号CCPR/C/SR.[会合番号]の形で発行されます。(例えば、CCPR/C/SR.2054は、2002年10月22日の第2054回会合の記録要旨を意味します。)最近の会合記録の全文は、条約機関データベースで閲覧できます。
会期報告は総会公式記録の補遺40号として発行されます(A/55/40, vol. Iなど)。これら報告書すべての一覧は、UN-I-QUEデータベースでご覧になれます。最近の報告書の全文は、条約機関データベースで閲覧できます。
委員会に代わる国連本部のプレスリリースは、文書記号HR/CT/-の形で発行され、国連ニュースセンターの検索オプションを通じてアクセスできます。人権高等弁務官事務所からのプレスリリースは、UNHCHRニュースルームで閲覧できます。
CCPR/C/JPN/CO/7
事前編集版 配布:一般
2022年11月3日
原文:英語
人権委員会
日本の第7次定期報告書に関する結論的考察*¹
1. 委員会は、2022年10月13日及び14日に開催された第3925回及び第3926回会合² において、日本の第7次的報告書¹を検討した。2022年10月28日に開催された第3946回会合で、本結論的見解を採択した。
A.はじめに
2. 委員会は、報告前の課題リスト³に対する日本の第7次定期報告書の提出とその中で示された情報を歓迎する。委員会は、規約の規定を実施するために報告期間中にとられた措置について締約国代表団との建設的な対話を更新する機会を与えてくれた事に感謝の意を表する。委員会は、締約国に対し、代表団から提供された口頭での回答および対話の後に書面で提供された補足情報に対して感謝する。
B.肯定的側面
3. 委員会は、締約国が以下の立法的、政策的及び制度的措置を採択したことを歓迎する。
⒜2020年(令和2年)の第5次男女共同参画基本計画
⒝2019年(平成31年)の旧優生保護法に基づく優生手術を受けた者に対する補償一時金支給に関する法律
⒞2018年(平成30年)の女性のエンパワーメントを加速するための集中政策
⒟2018年(平成30年)の政治分野における男女共同参画の推進に関する法律
⒠2018年(平成30年)の男女の婚姻最低年齢を等しくするための民法731条改正
⒡2017年(平成29年)法律第72号の採択、性犯罪に係る刑法の一部改正
⒢2016年(平成28年)刑事訴訟法改正、「特定の種類の犯罪における取調べのビデオ録画の義務化」を含む取調べ実務の新たな義務付けが認められる
⒣2016年(平成28年)の技能実習生の適正な実習及び保護に関する法律
⒤2015年(平成27年)の矯正医官等の兼業及び勤務時間の特例に関する法律
C.主な懸案事項および勧告
規約が施行される憲法上及び法律上の枠組み
4. 委員会は、締約国から提供された、規約の規定に言及した裁判例に関する情報、かつ、規約および委員会の一般的意見によるその解釈を含む、国際人権法に関する裁判官や弁護士に提供される継続的な研修に関する情報に留意する。しかしながら、規約及び規約の国内法におけるその適用性について、法執行官、治安部隊、市民社会関係者及び一般市民の間で継続的な訓練と意識向上を提供する努力に関する具体的な情報が欠如していることに引き続き懸念を抱いている。更に、委員会は、規約の第一選択議定書(第2条)の批准を真剣に検討するという締約国の度重なるコミットメントを認めるものである。
5. 委員会は、これまでの勧告⁴を想起し、締約国に対し、裁判官、検察官、弁護士、法執行官、治安部隊、市民社会の関係者及び一般市民の間で、規約及び規約の国内法におけるその適用性について継続的に研修を行い、認識を高める努力を継続することを要請する。また、締約国は、国内法秩序において規約を完全に実効化し、国内法が規約上の義務に適合するように解釈され適用されることを確保すべきである。更に、締約国は、規約の下で保護される権利の侵害に対して有効な救済措置が利用可能であることを確保すべきである。締約国は、個別通報の検討を規定する規約の第一選択議定書の承諾を視野に入れ、さらなる措置を講じるべきである。
国内人権機関
6. 独立した国内人権機関の設立に関する継続的な議論に関して締約国から提供された情報を認めながらも、委員会は、提供された情報の曖昧で一般的な性質と、人権の促進及び保護のための国内機関の地位に関する原則(パリ原則)(第2条)に沿ったその機関の設立に向けた明確な進展がないことを遺憾とする。
7. 委員会は、これまでの勧告⁵を繰り返すとともに、締約国に対し、人権の促進と保護のための国内機関の地位に関する原則(パリ原則)に従い独立した国内人権機関を設立し、優先事項として国内人権機関に十分な財源と人的資源を割り当てることを求める。
反差別の法的枠組み
8. 憲法第14条が全ての個人のために法の下の平等を確立する一般的な非差別条項を含むことに留意しつつも、委員会は、規約の規定に沿った包括的な反差別立法がないことに引き続き懸念を抱いている。委員会は包括的な反差別法(第2条、第20条、および第26条)を採択する計画に関する締約国からの情報が不足していることを遺憾に思う。
9. 締約国は、包括的な反差別法の採択を含め、その法的枠組みが、体の色、意見、出生、性的指向、性自認及びその他の地位を含む規約上の全ての禁止事由に基づく、私的領域を含むあらゆる形態の直接、間接及び複合差別に対して、差別の被害者のための有効かつ適切な救済措置へのアクセスを提供するのは勿論のこと、十分かつ実効的で実体的な手続的保護を提供することを確保するため、必要な全ての措置をとるべきである。
性的指向や性自認に基づく差別
10. 委員会は、性的指向及び性自認に基づく差別と闘い、平等な取り扱いに関する意識を高めるために締約国がとった措置に留意する。それにも拘らず、性的指向と性自認に基づく差別を禁止する明確な法律が存在しないことに懸念を抱いている。更に、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの人々が、特に公営住宅、戸籍上の性別の変更、法律婚へのアクセス、矯正施設での扱いにおいて差別的な扱いに直面していることを示す報告に懸念を抱いている(第2条、第26条)。
11. 委員会のこれまでの勧告⁶に沿って、締約国は次のことを行うべきである。
⒜レズビアン、ゲイ、バイセクシャル及びトランスジェンダーの人々に対する固定観念及び偏見と闘うための意識向上活動を強化すること。
⒝同性カップルが、公営住宅へのアクセスおよび同性婚を含む規約で規定されたすべての権利を、締約国の全領域で享受できるようにすること。
⒞生殖器又は生殖能力の除去を含む性別変更を法的に承認するための不当な要件及び同性婚を認めることを検討すること。
⒟矯正施設におけるレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの受刑者の公正な扱いを確保するために、トランスジェンダーの受刑者に対する標準的な治療として独居房が使用されないように、2015年の「トランスジェンダーの受刑者の治療に関するガイドライン」とその実施を見直すことを含め、必要な措置を講ずること。
ヘイトスピーチとヘイトクライム
12. 2016年に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(ヘイトスピーチ解消法)及び「部落差別の解消の推進に関する法律」の採択、教育や意識向上キャンペーンによるヘイトスピーチの解消への取組など、差別やヘイトスピーチと戦うために締約国がとった措置を歓迎しつつ、委員会は以下の点を懸念している:⒜オンライン、オフラインの両方で引き続き少数民族や外国人に対する差別言動が広く行われていること、特に、中国人、部落民、琉球人、その他の少数民族や先住民族、そして、特に、朝鮮人及び在日朝鮮人をターゲットにしている組織や政治団体、メディアのプラットフォームが、デモ、街頭抗議行動、政治的演説を通じて差別を扇動し、そのうちの幾つかは選挙キャンペーンの名の下に実施されたことを含むこと。⒝締約国は、ヘイトスピーチ、ヘイトクライム、差別扇動行為を明確に犯罪とする措置をとっておらず、人種差別的な動機は、裁判官によって決定される、刑罰を加重する可能性のある事由としてのみ定義されている。⒞現行法では、被害者に対する十分な救済措置がとられていない。被害者への十分な救済措置がないこと。(第2条、第19条、第20条、第27条)。
13. 委員会は、これまでの勧告⁷を繰り返し、締約国に対して次のことを要請する。
⒜出自に拘らず、全ての人に対する差別的な言動をカバーするために、ヘイトスピーチ解消法の適用範囲拡大を検討すること。
⒝規約第19条及び第20条並びに意見表明と表現の自由に関する委員会の一般的意見第34号(2011)に従い、ヘイトクライムの別個の定義及び禁止を導入し、性的指向及び性同一性を理由とするものを含む規約で禁止されている全ての理由によるオンライン及びオフラインのヘイトスピーチの行為を明確に犯罪とするための刑法の改正を検討し、ヘイトクライムとヘイトスピーチの報告を奨励するとともに、包括的な細分化されたデータ収集システムの確立を通じることを含め、このような犯罪が確実に特定及び登録されるようにすること。
⒞とりわけ、法執行官、検察官、司法官に対する研修を強化し、一般市民の感受性と多様性の尊重を促進する意識向上キャンペーンを実施することにより、民族的少数派や宗教的少数派、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーを含む脆弱な集団に対する不寛容、固定観念、偏見、差別と闘うこと。
⒟ヘイトクライムやヘイトスピーチに関する法執行官の捜査能力を強化し、全ての事件を体系的に捜査し、加害者が責任を負い、被害者が完全な補償を受けられるようにすること。
男女共同参画
14. 委員会は、民法731条及び733条の改正、男女の婚姻最低年齢の平等化、離婚後の女性の再婚禁止期間の6ヶ月から100日への短縮など、男女平等の分野でとられた措置をそれぞれ歓迎する。更に、委員会は、2022年2月に、女性の離婚後の再婚待ち期間を廃止するための法案の概要が提案されたという締約国から提供された情報を歓迎する。しかしながら、委員会は、民法内の規定が引き続き男女間の不平等を助長する可能性があること、とりわけ、夫婦が同じ姓を持つことを求める750条は、実際にはしばしば女性に夫の姓の採用を強いることを引き続き懸念している。2018年5月に公布、施行された「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」の採択と、2015年12月に承認された「第4次男女共同参画基本計画」に留意しつつも、行政機関や司法機関のあらゆるレベルの意思決定機関や民間部門の意思決定機関に女性が十分に存在しないことを懸念し、部落、アイヌ、在日朝鮮人の女性を含む少数民族の女性の参加に関して入手できる情報がないことを遺憾とする(第2条、第3条、第23条、第26条)。
15. これまでの勧告⁸を想起し、締約国は以下を行うべきである。
⒜社会と生活のあらゆる領域において、男女間の効果的な平等を確保するための努力を強化すること。特に、行政機関や司法機関のあらゆるレベル、および民間部門における意思決定の地位にある、少数民族の女性や住民族の女性を含めた女性の代表を増やすための具体的な措置をとるべきである。
⒝「男女共同参画計画」更新版の作成と実施を通じてを含め、法の正しい解釈を確保し、 実務における男女間の不平等を回避するための情報提供と擁護キャンペーンを通じて、家庭における、そして社会における性差の固定観念との戦いという観点から国民の意識を高めるための戦略を強化すること。
⒞社会における女性と男性の役割に関する固定観念が、法の下での平等に対する女性の権利の侵害を正当化するために使用されないよう、民法733条と750条の改正を通じてを含め、闘う努力を継続すること。
テロ対策
16. 委員会は、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(共謀罪法)が、テロリズムや組織的犯罪とは一見無関係な犯罪を含む277の行為を犯罪範囲として設定していることに懸念を抱いている。また、委員会は、共謀罪法が表現の自由、平和的集会の権利及び結社の自由等の規約に規定された基本的権利を不当に制限し、自由及び安全に対する権利並びに公正な裁判を受ける権利(第4条、第9条、第14条、第17条、第19条、第21条及び第22条)の侵害につながり得ることを憂慮している。
17. 締約国は、テロや組織犯罪と無関係な行為を犯罪とすることを排除するために、共謀罪防止法の改正を検討すべきである。また、共謀罪法の適用が規約上のいかなる権利も不当に制限することのないよう、適切な保護措置及び予防措置を採用すべきである。
性的暴力やドメスティックバイオレンスを含む、女性に対する暴力
18. 委員会は、2017年6月に性犯罪に関する刑法が改正され、加害者と被害者の性別にかかわらず強制性交等罪への適用を含むとともに、他の形態の性交も取り込み、被害者の刑事告訴がなくても性犯罪を起訴できるようになったことを歓迎する。また、ドメスティックバイオレンスや性的暴力の被害者のための保護措置が整備されていること、刑法に明示されていないものの、夫婦間レイプも法律で罰せられることに関する情報を受け取ったことに留意している。しかし、委員会は、女性、特に性暴力とドメスティックバイオレンスの犠牲となっている移民女性に対する虐待と再犯につながる法執行機関の認識不足と適切なジェンダーに配慮した訓練の不足に関する報告、また、女性の失踪事件の調査は勿論のこと、女性に対する暴力事件の調査に当局が最小限の努力しかしていないという報告にに懸念を抱いている。更に、被害者が利用できる支援やサポートが限定的であるという報告にも懸念を抱いている。委員会は、女性に対する暴力に関する詳細なデータの欠如と、締約国が性的同意年齢を13歳以上に設定することを進めていないことを遺憾とする(第2条、第3条、第6条、第7条、第26条)。
19. これまでの勧告⁹を想起し、締約国は、女性と女児に対するあらゆる形態の暴力の防止、暴力との戦いおよび暴力の根絶のための努力を強化すべきである。特に、以下のために必要な措置を講じるべきである。
⒜法執行官、検察を含む裁判官、入国管理局、及び他の関係省庁および一般市民に対するドメスティックバイオレンス対策に関する研修、教育および意識向上プログラムを更に強化すること。
⒝被害者による苦情の提出を促進、奨励し、失踪の事例を含む、女性および女児に対する全ての暴力行為が、迅速かつ徹底的に公平に調査され、調査中に被害者の再犠牲化を避けるための措置がとられ、加害者が起訴され処罰を受け、被害者が完全な賠償を受けることを確保すること。
⒞移民の地位にかかわらず、すべての被害者に迅速かつ適切な援助、支援サービスおよび保護が提供されることを確保すること。
⒟女性に対する暴力について、その保護を確保するための措置に効果的に的を絞るため、人種または民族ごとに区分した統計データを収集するための信頼できるシステムを確立すること。
⒠性行為の同意年齢をこれ以上遅滞なく引き上げること。
生命に対する権利、拷問及びその他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰の禁止
20. 委員会は、締約国が死刑を廃止するため、または死刑の数を制限するための措置を講じていないこと、またそうする意図がないことを遺憾に思う。委員会は、19の死刑犯罪のうち幾つかは、死刑を「最も重大な犯罪」に限定するという規約の要件を満たしておらず、死刑囚が、執行までの最長40年を含め、長期間の独房に置かれ続け、24時間の迷惑なビデオ監視にさらされていることに引き続き懸念を抱いている。また、受刑者とその家族の「心理的安全および心の平和」を守るために、死刑執行日の事前通知を拒否しており、当該方法は「やむを得ない」とする代表団の声明に懸念をもって留意するものである。更に、委員会は、再審請求の慎重な修正に関する提供された情報に留意しつつも、再審請求がまだ保留されている間に死刑が執行されたという報告に深く懸念を抱いている。また、死刑囚のメンタルヘルスを監視する独立したメカニズムだけでなく、死刑事件における再審査制度が義務化されていないことにも懸念を抱いている(第2条、第6条、第7条、第9条、第14条)。
21. 委員会の一般的意見第36号(2018)を念頭に置き、これまでの勧告¹⁰を想起して、締約国は以下を行うべきである。
⒜死刑の廃止を検討し、必要に応じて、死刑廃止に向けた世論を動員するための適切な啓発措置を通じて、廃止の望ましさについて国民に周知すること。それまでの間、締約国は、一時休止の確立を検討し、優先事項として、死刑罪の数を減らし、規約に従って、死刑が最も重大な犯罪に厳格に限定されることを確保すべきである
⒝死刑囚及びその家族に対し、死刑執行に備える機会の欠如による心理的苦痛を軽減する観点から、死刑執行予定日時を合理的に事前通知し、長期の独房監禁を行わず、死刑囚に対する24時間のビデオ監視をどうしても必要な時及び期間にのみ使用するなど、死刑囚の制度が残虐、非人道的又は卑劣な取扱い又は刑罰とならないよう保証すること。
⒞死刑囚の再審請求や恩赦に停止効果を持たせ、死刑囚のメンタルヘルス状態を独立した方法で審査し、再審請求に関する死刑囚とその弁護士との全ての会合の厳格な機密保持を保証する、強制的かつ効果的な再審制度を確立すること。
⒟死刑の廃止を目的とする規約の第二選択議定書への加入を検討すること。
22. 委員会は、福島原発事故による国内避難民に対して、「自主」「強制」の区別なく支援を行うとの締約国の確約を歓迎しつつも、締約国が福島に設定した被ばく量の高い閾値や避難地域の一部解除の決定が、人々に高濃度汚染地域に戻る以外の選択を与えないことに懸念を抱いたままである。また、避難区域外に住む避難民に対する無償の住宅支援が打ち切られたこと、加えて、実際に、全ての国内避難民が、自分の土地に戻るかどうかに拘らず、必要な支援を受けられるようにするための措置に関する情報が不足していることを懸念している。更に、委員会は、災害後、福島で甲状腺がんと診断された、あるいはそう思われる子どもたちが多数いるという報告に懸念を抱いている(第6条、第12条、第19条)。
23. これまでの勧告¹¹を繰り返し、締約国は以下を行うべきである。
⒜福島の原子力災害の影響を受けた全ての人々の生活を保護し、放射線レベルが住民を危険にさらさない場合に限り、汚染された場所の避難場所としての指定を解除すること。
⒝放射線レベルの監視を継続し、その情報を被災者に適時に開示すること。
⒞「自主的」「強制的」避難者としての区別や、自分の土地に戻るか否かに拘らず、全ての国内避難民が、避難区域外に住む避難民のための無料住宅の再開を含め、必要な全ての財政、住宅、医療、その他の支援を受けられるようにすること。
⒟子どものがんの多発との相関の可能性を含め、原子力災害が被ばく者の健康に及ぼした影響の評価を継続し、子どもを含む全ての被ばく者に対して無料の定期的かつ包括的な健康診断を提供することを検討すること。
人の自由と安全および自由を奪われた者の処遇
24. 委員会は、非自発的入院を決定するための厳格な手続き、および、退院を含む個人の治療改善のための命令を出すことができる独立した精神医学審査委員会による全ての入院中の精神障害者の審査に関する締約国によって提供された情報に留意している。それにも拘らず、委員会は、精神科施設での入院が増加しているという報告に懸念を抱いている。また、障害者虐待に対処するための締約国の努力を認める一方で、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援に関する法律」が医療機関で起こる虐待に及ばないことを懸念している(第7条、第9条、第10条)。
25. 委員会のこれまでの勧告¹²を想起し、締約国は以下を行うべきである。
⒜精神障害者のために地域ベースのサービスまたは代替サービスを提供する努力を継続すること。
⒝強制入院は、最後の手段として、必要最小限の期間だけ、また、当該者を危害から保護し、又は他人への危害を防止する目的で、必要かつ相応の場合にのみ行われるようにすること。
⒞全ての障害者の自由意思に基づくインフォームド・コンセントの権利を保護するために、法的支援および他の全ての必要な支援を含むセーフガードを確保すること。
⒟「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援に関する法律」の対象を医療機関に拡大することを検討することを含め、公私を問わず精神医療機関における障害者に対するあらゆる形態の虐待を監視、防止、根絶するための取り組みを強化すること。
⒠虐待の効果的な調査と制裁を、関連するすべての医療サービス提供者や機関に保証し、被害者とその家族に十分な補償を行うこと。
26. 拘留制度に関して締約国が提供した情報に留意しつつも、委員会は、自由の剥奪の当初から保釈の資格または国選弁護人の権利がないこと、および締約国が起訴前保釈制度の実施は不要であると表明していることに引き続き懸念を抱いている。また、国内法に定められた期間を超えて公判前勾留されており、拘留の延長や再延長の要求が高い確率で受け入れられているという報告や、実際に、取調べの実施に関する厳しい規制がないこと、取調べのビデオ録画が義務付けられる範囲が限定的であることが引き続き懸念される。更に、委員会は、拘留の条件、特に長期の独居房の使用と被拘留者に対する適切な医療サービスへのアクセスの欠如、ならびに弁護士との接触や家族との連絡といった手続保障の否定、投票権の否定にも引き続き懸念を表明するものである(第7条、第9条、第10条、第14条、第25条)。
27. これまでの勧告¹³を想起し、締約国は、逮捕または拘禁された者が、自由を奪われた当初から、規約第9条および第14条に謳われている全ての基本的な法的保障を実際に享受し、拘禁が、弁護士との接触、家族との連絡権および必要時の医療の提供に関するものを含め、国連被拘禁者処遇最低基準規則(ネルソン・マンデラ規則)に完全に適合していることを保証するのに必要な措置を採用するべきである。また、以下のことを確保する必要がある。
⒜取調べは、正式な逮捕の前も含め、全てビデオ録画し、全ての刑事事件において取調べの録音録画が適用されるよう、十分な検討をすること。
⒝過度の期間にわたる拘禁を防止するため、公判前拘禁の規定期間を尊重すること。
⒞起訴前の拘留においては、保釈等の拘留ではない代替手段を正当に考慮すること。
⒟最後の手段の措置として使用する場合であっても、再拘留された被拘留者に対する許容される独居房の総拘留期間を検討するとともに、独居房での拘留を更に削減し、必要に応じて代替措置を開発するために、定期的にその効果を評価すること。
⒠取調べの際の拷問及び虐待の申し立てを迅速、公平かつ効果的に調査する権限を有する都道府県公安委員会から独立した苦情審査機構があること。
⒡公務への参加と投票権に関する委員会の一般的意見第25号(1996)に鑑み、有罪判決を受けた受刑者の投票権を否定する自国の法律の見直しを検討すること。
奴隷制、隷属、人身売買の撤廃
28. 委員会は、「慰安婦」に対する人権侵害への対処に向けた努力に関して締約国から提供された情報に留意する。しかしながら、締約国が委員会のこれまでの勧告に関して進展をさせず、規約に従って、被害者の人権に対する継続的な侵害に対処する義務を否定し続けていることを遺憾とする。また、加害者の刑事捜査と訴追を行っていないこと、過去の人権侵害の全ての被害者に対する効果的な救済と完全な賠償を行っていないことを遺憾とする(第2条、第7条、第8条)。
29. 委員会は、これまでの勧告¹⁴を繰り返し、締約国に対し、以下のことを確保するための即時かつ効果的な立法上および行政上の措置をとるよう要請する。
⒜戦時中に日本軍が「慰安婦」に対して行った人権侵害の全ての申し立てが、効果的、独立的かつ公平に調査され、有効な全ての証拠が開示され、加害者が起訴され、有罪となった場合には、処罰を受けること。
⒝他国出身の被害者を含む全ての被害者とその家族に対する裁きを受け、完全な賠償をすること。
⒞教科書で適切に言及することを含め、この問題に関する教育を行い被害者を中傷したり出来事を否定したりするいかなる試みに強く非難すること。
30. 委員会は、締約国によって提供された情報に留意し、人身売買と闘う努力を歓迎する一方で、多くの有罪判決が執行猶予付き判決または軽微な罰金の賦課に終わっており、犯した行為の重大性に見合った処罰がないことを懸念している。技能実習生プログラムに関して、委員会は、労働者人身売買及びその他の労働違反の可能性に対する予防措置としての立入検査の回数の増加に関する情報を歓迎するが、技能実習生プログラムという名の下に強制労働が継続しているという報告については、依然として懸念を抱いている(第2条、第7条、第8条)。
31. これまでの勧告¹⁵を想起し、締約国は以下の努力を継続すべきである。
⒜技能実習生訓練プログラムを含め、特に強制労働の被害者に関して、被害者特定手続きを強化し、労働検査官を含む全ての法執行官に専門訓練を提供すること。
⒝独立した苦情処理機構を設立し、労働者人身売買およびその他の労働違反の事例を含むあらゆる形態の人身売買について、技能実習制度も含め、効果的に調査し、加害者を起訴し、有罪の場合には、犯した行為の重大性に見合った刑罰を科すこと。
32. 委員会は、難民及び庇護希望者を含む外国人の処遇に関する締約国の回答に留意し、収容施設における処遇に関する改善計画の策定に関する情報、及び退去強制手続の改正により退去強制予定日が決定通知の送達から少なくとも2ヶ月後とされたことを歓迎する。委員会は、締約国が、出入国管理及び難民認定法改正案を提案し、収容に代わる代替手段を規定するとともに、補完的保護のための資格認定制度の導入を検討していることに関心をもって留意する。更に、委員会は、締約国が長期拘留を回避するための措置を検討する意思を有していることを歓迎する。しかしながら、2017年から2021年の間に3人の被収容者が死亡するなど、入国管理局収容施設における劣悪な健康状態による苦痛に関する憂慮すべき報告や、居住資格やビザを失い、労働や収入を得る選択肢がない「仮放免者」の不安定な状況については、引き続き懸念を抱いている。委員会は、難民認定率の低さについての報告にも懸念を抱いている(第7条、第9条、第10条、第13条)。
33. これまでの勧告¹⁶を考慮し、締約国は以下のことを行うべきである。
⒜国際基準に沿った包括的な庇護法を早急に採用すること。
⒝移民が不当な扱いを受けないことを保証するために、適切な医療支援へのアクセスを含む拘留施設での処遇に関する国際基準に沿った改善計画の策定を含め、あらゆる適切な措置を講じること。
⒞「仮放免」中の移民に必要な支援を提供し、収入を得るための活動に従事する機会の確立を検討すること。
⒟ノンルフールマン原則が実際に尊重され、国際的な保護を申請する全ての人に、否定的な決定に対する効力を停止する独立した司法上訴機構へのアクセスが与えられることを確保すること。
⒠行政拘禁の代替手段を提供し、移民拘留に拘留期限を導入するための措置を講じ、拘禁は最も短い適切な期間にし、行政拘禁の既存の代替手段が十分に検討された場合にだけ実施し、拘留の合法性を決定する裁判所に移民が効果的に訴訟手続きを行うことができるようにするための措置を講じること。
⒡規約および他の適用可能な国際基準に基づく庇護希望者の権利の完全な尊重を確保するために、国境警備職員および入国管理職員の移住に関する適切な訓練を保証すること。
プライバシーに関する権利
34. 委員会は、警視庁から個人情報が流出した個人に対する補償を行う努力に関して締約国から提供された情報を歓迎し、デジタル改革関連6法及び個人情報保護委員会の役割に関連して提供された情報に留意する。しかし、監視の権限が広範囲に及んでいること、および、独立した司法監視の欠如を含め、監視、傍受活動、個人データへのアクセスという形でプライバシー権が恣意的に干渉されることに対する十分な保護措置がないことを懸念している(第17条)。
35. 締約国は、データの保持およびアクセス、監視および傍受活動を管理する規制を規約、特にその17条に適合させるべきである。そして、合法性、比例性および必要性の原則の厳格な遵守を確保すること。プライバシーの権利に対するいかなる干渉も、裁判所からの事前承認を必要とし、効果的かつ独立した監視機構の対象となること、および、影響を受ける人々が、可能な場合には、彼らが受けている監視および傍受活動について通知を受け、乱用の場合には効果的な救済措置へのアクセスを有することを保証するべきである。また、締約国は、虐待の全ての報告が徹底的に調査され、そのような調査が、正当化される場合には、適切な制裁につながることを保証するべきである。
思想、良心および宗教の自由と表現の自由
36. 委員会は、思想、良心及び宗教の自由又は表現の自由の権利の制限につながり得る「公共の福祉」の曖昧で決まりのない概念、並びに特定秘密保護法における秘密として分類できる事項及び分類の一般的前提条件の幅広い定義についてのこれまでの懸念を再度表明する。締約国から提供された、今日まで放送免許の停止が行われていないという情報に留意する一方、委員会は、特定秘密保護法に定められた高い刑事罰と、放送法および電波法の中で放送局の業務を停止するために政府に与えられた広範な権限が、ジャーナリストおよび人権擁護者の活動に対する萎縮効果を生み、自己検閲につながることを懸念する(第18条、第19条)。
37. 委員会は、これまでの勧告¹⁷を想起し、締約国に対し、以下のために必要なすべての措置を講じるよう求める。
⒜「公共の福祉」を理由とする思想、良心、宗教の自由または表現の自由に対するいかなる制限も、規約の中で許容されるものと一致することを確保するために、「公共の福祉」の概念を明確に定義すること。
⒝「特定秘密の保護に関する法律」とその適用が、規約第19条の厳格な要件に適合すること、とりわけ、分類されうる情報のカテゴリーが狭く定義され、情報を求め、受け取り、伝える権利に対するいかなる制限も、国家の安全に対する特定かつ識別可能な脅威を防ぐための合法性、比例性、必要性の原則に準拠し、国家の安全を害さない合法的公益情報の流布によって個人が処罰されないことを保証すること。
⒞メディアにおける意見の多元性を促進し、メディアおよびメディア労働者が国家の不当な干渉を受けずに活動できることを確保すること。
⒟放送免許機関の独立性を確保するために必要な全ての措置を講じること
⒠独立したジャーナリストやメディア関係者をあらゆる形態の脅迫から効果的に保護することを確保し、過激主義に関する規定を含む民事および刑事規定やその他の規制を、公共の利益に関する批判的な報道を抑圧する手段として用いることを控えること。
38. 委員会は、締約国において思想及び良心の自由が制限されているとの報告に懸念をもって留意する。学校の式典で、国旗に向かって起立し、国歌を歌う規則に教師が従わず、その消極的ではあるが破壊的でない行為により、一部の者が最長6ヶ月の職務停止の処分を受けたことを懸念している。更に、委員会は、式典中に生徒を強制的に起立させるために力を行使した疑いがあることを懸念している(第18条)。
39. 締約国は、思想及び良心の自由の効果的な行使を保障し、規約第18条の下で許される狭義の制限を超えてこれを制限するような行動を慎むべきである。締約国は、自国の法律および慣行を規約第18条に適合させるべきである。
平和的な集会の権利
40. 締約国によって提供された情報に留意しつつも、委員会は、利害関係者から受領した、特に国会に対する抗議行動及び沖縄における抗議行動に対し課された、抗議者に対する過剰な力の行使及び録音を含む、法執行機関による抗議行動及びデモに対する不当かつ不均衡な制限、並びに抗議者及びジャーナリストに対する逮捕の懸念を示す情報に関して引き続き懸念を表明する(第19条、第21条)。
41. 規約第21条に基づき、また平和的集会の権利に関する委員会の一般的意見第37号(2020)に照らして、締約国は以下を行うべきである。
⒜平和的集会中の法執行官による過剰な武力行使および恣意的な逮捕や拘留の全ての申立てが、迅速、徹底的かつ公平に調査され、責任者が起訴され、有罪となった場合には処罰され、被害者が十分な補償を得られるようにすること。
⒝法執行官に、「法執行官による武力と武器の使用に関する基本原則」および「法執行における非致死性兵器に関する国連人権ガイダンス」に基づき、武力の使用に関する適切な訓練を提供すること。
⒞平和的なデモの参加者、人権擁護者、および平和的なデモを報道するジャーナリストを、民間主体の脅迫、威嚇、嫌がらせおよび攻撃から確実に保護すること。
少数民族の権利
42. 2019年のアイヌ施策推進法に留意しつつ、委員会は、先住民族としてのアイヌの権利に対する差別と否定、琉球先住民族共同体とその権利に対する認識の欠如、沖縄の共同体が彼らに影響を与える政策に自由、事前かつ十分な情報を与えられた上で参加する権利、彼らの伝統的土地と天然資源に対する権利、彼らの子どもを彼らの母語で教育する権利に対する否定に関する報告について、引き続き懸念を抱いている。更に、委員会は、伝えられるところでは、植民地時代から日本に居住している一部の在日朝鮮人とその子孫であり、国家的または民族的少数派として認識されるべき人々が、社会保障制度や政治的権利の行使から排除されるという結果になっているとされる差別的な政策運用の報告について懸念している(第26条、第27条)。
43. 締約国は、アイヌ、琉球その他の沖縄の共同体の伝統的土地および天然資源に対する権利を完全に保証し、彼らに影響を与えるあらゆる政策に自由かつ事前に情報を与えられた上で参加する彼らの権利の尊重を確保し、可能な限り彼らの母語による子どもたちの教育を促進するために、更なる措置を講じるべきである。また、植民地時代から日本に居住する在日朝鮮人およびその子孫が、とりわけ、彼らに有用な支援プログラムや年金制度を利用することを妨げている障壁を取り除き、在日朝鮮人およびその子孫に地方選挙の投票権を認めるよう関連法の改正を検討すること。
子どもの権利
44. 委員会は、特定の公式書式において婚姻関係にないカップルの子どもを「非嫡出子」と定義する用語の使用に関する締約国の説明に留意し、締約国が全ての児童の平等な権利を確保しつつ、かかる用語の削除を検討する意思があるとの代表団の確約を歓迎する。委員会は、児童福祉法の改正と改定に関して締約国から提供された情報に留意しつつも、裁判所の命令と親による虐待の明確な証拠なしに子どもが家族から連れ出され、児童相談所で一時保護され、しばしば長期にわたっていること、裁判官が一時保護の令状を出す必要があるかどうかを検討する上訴手続きにおいて親自身が自分の主張を提出できないことについての報告に懸念している。更に、この問題に関して締約国が提供した回答を認める一方で、委員会は、国内および国際的な「実子誘拐」の頻繁な事例と締約国による適切な対応の欠如に関する受け取った報告に懸念を抱いている(第17条、第23条、第24条)。
45. 締約国は、以下を行うべきである。
⒜自国の法律および慣行が規約の第24条に完全に準拠していることを確認し、全ての子どもに対するあらゆる差別および偏見を取り除くことを目的とした保護措置を採用すること。
⒝子どもを家族から引き離すための明確な基準を設けるために法律を改正し、その正当性を判断するために、全ての事件に必須の司法審査を導入し、子どもの保護と子どもの最善の利益のために必要な場合にのみ、子どもおよび両親の意見を聞いた上で、最後の手段として、子どもが両親から引き離されることを確保すること。
⒞「実子誘拐」の事件に適切に対応するために必要な措置を導入し、国内事件か国際事件かに拘らず、子の監護に関する決定が子の最善の利益を考慮し、実際に完全に実施されるようにすること。
D.普及とフォローアップ
46. 締約国は、司法、立法及び行政当局、国内で活動する市民社会及び非政府組織並びに一般市民の間で、規約で謳われた権利の認識を高める観点から、規約、第7次定期報告及び本最終見解を広く普及させるべきである。締約国は、定期報告書及び本最終見解が締約国の公用語に翻訳されることを確保すべきである。
47. 委員会手続規則第75条第1項に従い、締約国に、2025年11月4日までに、上記第7項(国内人権機関)、第33項(難民及び庇護希望者を含む外国人の待遇)及び第45項(児童の権利)における委員会が行った勧告の実施に関する情報を提供するよう要請する。
48. 委員会の予測可能な審査サイクルに沿って、締約国は報告書の提出に先立って2028年に委員会の問題リストを受け取る予定である。1年以内に第8次定期報告書を構成する回答を提出することを期待する。委員会はまた、報告書の作成にあたり、締約国に対し、同国で活動する市民社会および非政府組織と広く協議するよう要請する。総会決議68/268に基づき、報告書の字数制限は21,200語である。締約国との次回の建設的対話は、2030年にジュネーブで開催される予定である。
(了)