離別家庭の子どもと若者:家族法制度の経験とニーズ
最終レポート 2018年
レイチェル・カーソン、エドワード・ダンスタン、
ジェシー・ダンスタン、ディニカ・ルーパニ
オーストラリア家族研究所
この研究に参加した子どもや若者は、別離後の子育ての取決めの発展と調整における継続的な発言権は勿論のこと、支持と理解のある親子関係と複数の社会的支援や精神的支援(例えば、友人、家族、メンタルヘルスサービス)の必要性を表明しています。その他、子どもや若者は、両親間の尊敬に満ちたコミュニケーション、安全で安心できる環境、そして長期的には、変化に対する柔軟性と開放性の必要性などを重要な課題として挙げています。
この章の議論は、別離後の子育てに関する取り決めを行う際に、子どもや若者が最も重要な問題として認識していることを探ることに重点を置いています。これらの問題は、意思決定のプロセスに参加するために自分たちの声に耳を傾け、自分たちを支援することを含め、自分たちのニーズや最善の利益を考慮した決定をするための鍵であると認識されていました。この章では、別離家庭で育つ子どもや若者の生活体験がどのような特徴を持っているかについても、幾つかの洞察を示しています。また、横断的なデータで可能な限り、様々な種類の子育ての取決めの経験、父親、母親、兄弟姉妹、義理の家族との関係、子育ての取決めの変化の根底にある力学、それらの子育ての取決めが子ども中心なのか大人中心なのかについても考察しています。
3.1 別離のプロセスを通じて子どもや若者の声に耳を傾け、支援する
この研究に参加した子どもや若者は、機会があれば、親や他の大人が別離の過程とその後を通じて、自分たちの主張に耳を傾けてくれることを強く望んでいることを示しました。データによると、傾聴とは、時間をかけて彼らの意見を聴き理解すること、別離の過程で何が起こっていたかを彼らに伝えること、意思決定プロセスに貢献し、彼らの経験や感情を処理するための時間と空間を彼らに与えることを意味していました。
研究に参加した子どもや若者の4分の3以上が、親が自分たちの意見に耳を傾け、別離に関して、また子育てに関する取決めの過程でコミュニケーションをとることを望んでいる旨を表明しました。傾聴の重要性は、研究に参加した子どもや若者から寄せられた幅広い回答からも明らかでした。
この知見は、オーストラリア²³と海外²⁴の家族法に関する多くの研究と一致しており、子どもや若者が、自分たちに影響を与える意思決定において、自分たちの意見を聞き、考慮される機会を持つことの重要性を立証しています。特に、研究では、別離後の養育の決定に関連する事項と、両親の別離に伴うより一般的な影響に関する事項の両方について、こうした意見を聞く機会を促進することの重要性が強調されています(例えば、バーンバウムとサイニ、2013、2015;フェルベルクら、2018;フェルナンド&ロス、2018;フォーティン、ハント&スキャンラン、2012;マッケイ、2013;マーシャル、2017;ク&ウェストン、2015;クイグリー&シル、2017;サドウスキーとマッキントッシュ、2016)。例えば、この研究の子どもや若者の観察と一致していますが、バーンバウムとサイニ(2015)が35人の若者の別離後の経験を分析したところ、共通のテーマとして、若者が別離後の養育計画の作成に関与を求めることが確認されました。
この研究に参加した子どもや若者に、それぞれの親と過ごす時間についてどの程度発言権があったか尋ねたところ、殆どの参加者が、「自分の意見は全く影響を与えなかった」(n=17)、または「意思決定の過程で限られた発言しか許されなかった」(n=17)と回答しました。注目すべきことに、9人の研究参加者が、「かなり」の発言権があると報告し、更に13人の参加者が、作成された子育ての取り決めについて「幾らかの」の発言権があることを示しました25。別離の過程で両方の親が自分の意見に耳を傾けてくれたと答えた21%(n=13)のうち、1人を除いて全員が両方の親に対し「かなり親密」、または「とても親密」という感情を抱いていました。このような子どもは、親とコミュニケーションができることに強い自信を示していました。
子どもや若者の視点や経験を受け入れた子育ての取決めをすることは、親密な親子関係と関連するだけでなく、より良い意思決定にも関連していました(例えば、カスピウら、2014; パーキンソン&キャッシュモア、2008)。
しかし、上述のように、若い研究参加者の半数以上が、別離の過程を通じて、親の一方または両方が自分の話を聴いてくれなかったと報告しました。例えば、次のようなことです。
また、先行研究とも一致しますが、子どもや若者のデータから、傾聴とは、彼らの意見を聞き、理解し、尊重すること、別離の過程で何が起こっていたかを伝え、その過程を通じてオープンなコミュニケーションが継続することを意味するだけでなく、子どもや若者がこのコミュニケーションの間に自分の経験や感情を処理するための時間を与えることでもあることが示唆されました。
このような重要な見解は、若者が別離後の子育ての取り決めや、より一般的な別離プロセスについての話し合いで「蚊帳の外に置かれている」(オスカー、男性、15歳以上)感覚を表明したように、この調査を通して木霊していました。殆どの若い参加者は、両親や別離プロセスに関与する他の人々とのより高いレベルのコミュニケーションを望んでいることを示唆しました。研究に参加した子どもと若者の半数以上(55%)は、両親のどちらかまたは両方が自分たちの言うことを聞いていないと報告しました(参加者の3分の1が、「言うことができなかった」「答えたくなかった」と回答しました)。両親の一方または両方が自分の意見を聞いてくれなかったと表明した子どもの中には、混乱、不安、孤立の感情と相俟って、次のように述べていました。
特に、両親が潜在的に一方の親に対して憎しみや怒り、不満の強い感情を抱いていることに関しては、必ずしも「起こっていることを全て知りたいとは思わない」(スカーレット、女性、15歳以上;ローズ、女性、15歳以上)と答えた若者が大半を占めました。面接対象者のスカーレット(女性、15歳以上)はこの感情を更に詳しく説明しましたが、何も知らないことで、子どもや若者はそのギャップを埋めることを余儀なくされ、その過程に関与できず、過程が分からないことに憤りを感じたと述べました。
子育ての取決めに関して自分の意見を述べたり、親と率直に話し合ったりできるようになったと回答した子どもや若者の年齢は様々でした。自分には発言権がなかったと感じた子どもや若者のなかには、自分たちは意見を言うには若すぎると思われていたとの意見もありました。
しかし、子どもや若者に自分の意見を表明する準備ができたと感じたのはいつかと尋ねたとき、このような反省と、自分自身の別離後の子育ての取決めがなされたときに話を聞いてもらったと感じたときとの間には、食い違いがありました。例えば、
実際、多くの若い参加者は、子育ての取決めについて自分の意見を表明する準備が整ったと感じた時期について、かなり明確な考えを持っていた。
また、特定の年齢より寧ろ、時間や支援によって、子育ての取決めに対する考えを持つようになった子どもや若者もいました。
実際、多くの子どもや若者にとって、自分の意見や自分の意見を親に伝えるために必要な自信を育むためのサポートが必要であることが表明されています。研究に参加した子どもや若者の3分の2近く(62%)が、メンタルヘルスサービス(多くは民間のカウンセリングや心理学者)を利用したと回答し、その多くが、このプロセスで別離に取組むための対処法を身につけていました。例えば、
面接を受けた別の子どもは、親や他の人たちに対してより自由に自己表現できるようにするために、カウンセラーや心理学者が不可欠であると述べています。
自分を表現できるようになり、親が自分の意見に耳を傾け、尊重してくれていることがわかると、よりウェルビーイングを感じ、生活状況に満足するようになったという子どもや若者もいた。カウンセラーや心理士が子どもや若者の支援に果たした重要な役割については、第4章と第5章で後述します。
3.2 別離前、別離中、別離後の体験と、それが子育ての取決めに与える影響
研究に参加した子どもや若者は、両親の別離の理由、自分たちが両親の別離を知った方法、その時期に両親が自分たちとコミュニケーションをとった方法が、意思決定プロセスに対する自分たちの反応や、このような子育ての取決めに対する自分たちの見解に影響を与える重要な要因であると認識していました。
この研究に参加した子どもや若者の中には、両親の別離がある程度予想されたことだったという者もいました。
このような経験は様々ですが、どこで誰と暮らしたいかは勿論のこと、別離の過程における、ひいては別離後における子どもや若者の想いに影響を与えるようでした。両親が比較的穏便に分かれた(例えば、親同士の「愛情が冷めた」場合)ことを報告した子どもや若者には、その状況や両親の別離に対する感情を処理する時間が必要であると提言されました。
研究参加者は、目の前の問題から考えをそらすためは勿論、「心の闇を吐き出す」ため、感情的な状態を処理するため、対処戦略を開発するため、親以外の人と話し合うことができねばならないと述べました。このような支援は、学校の教師、友人、大家族、そして特にカウンセラーや心理士といったメンタルヘルスの専門家といった形で得られると一般的に認識されています。これについては、第4章と第5章で詳しく説明します。
両親が険悪な状況で別離している場合、または別離がファミリーバイオレンス(即ち、激しいレベルの身体的、精神的、言語的、その他の虐待)で特徴付けられる場合、子どもや若者は頻繁に、身体的、感情的、その他の必要性を一方の親に大きく依存します。精神的、言語的、身体的、性的虐待が報告されている状況では、面接した子どもや若者は、もう一方の親(即ち、子どもや若者が一緒に暮らしていない親)に対して肯定的な見方をしている可能性が低いことを私たちの研究データは示していました。一方の親と過ごす時間がない(または非常に制限されている)と答えた若者(n=25)のうち、半数強(n=13)が、もう一方の親が在居していたときに虐待を受けたり、著しく危険を感じたりした経験があると回答しました。もう一方の親と過ごす時間が制限されていることを含む子育ての取決めに、その状況がどのように影響したかを説明した者もいました。例えば、
しかし、このような経験がいつも、子どもや若者が一定期間、(単独監護または共同監護の)もう一方の親の世話を受ける障壁になるとは限りません(事例研究1が示すとおり)。
ダニエルのように暴力や虐待を経験した若者は、自分たちの経験の正当性と厳しさを強調し、このような状況下で別離後の子育ての取決めについて決定する際には、若者の意見と経験に耳を傾けることの重要性を断固として主張しました(例えば、タリア、女性、12~14歳)。これまでのオーストラリア(例えば、ベル 2016, 2017;ヘンリー&ハミルトン 2012;カスピウら 2014;カスピウら 2017;パーキンソン&キャッシュモア 2008)および国際的(マクドナルド 2017;ニール 2002;ティスドール 2016)先行研究と一致して、この研究に参加した子どもや若者は自分たちの暴力や虐待の経験が、別離後の子育ての取決めに適切に反映されなかった場合の苦痛を感じたと報告していました。
親や司法、法律サービスや法律以外のサービス提供者は、ファミリーバイオレンス、かつ/または虐待を特徴とする状況に置かれていることから生じるかもしれない被害に子どもや若者をさらすことなく、彼らの主体性や参加権を保護し支援するという課題に直面しています。このような懸念の中で重要なのは、子どもや若者が参加することによって、例えば、親同士の葛藤に晒され続けた結果(例えば、スマートら 2001)、多重面接効果²⁶によって、あるいは親が法的手続きの悪用に子どもを巻き込むことを可能にすることによって、再トラウマを受けないようにすることです(ベル 2016a;ヘンリー&ハミルトン 2012;カスピウら 2017;マクドナルド 2017;ファミリーバイオレンスへの王立委員会 2016;ティスドール 2016)。
親同士の葛藤に子どもが関与することへの懸念は認めるものの、こうした懸念は、このような子どもが親同士の葛藤、あるいは暴力や虐待行為に現在晒されている、あるいは以前から晒されている状況に照らして検討されなければなりません。そのため、子どもたちが将来の子育ての取決めに関する意思決定プロセスに参加する機会を与えることが、極めて重要になります。子どもや若者の声を聴くことは、このような状況において特に重要であると認識されてきました。それは、この参加がUNCRCに基づく義務を果たす上で中心的なものであるだけでなく、証拠としての観点から重要であり、ファミリーバイオレンスや葛藤を特徴とする事件において関連する子どもや若者の表明した意見と一致するからです(例えば、ベル 2015;2016a;2016b;パーキンソン&キャッシュモア 2008;フェルナンド 2013a;2013b;2014a;2014b;フェルナンド&ロス 2018;カスピウら 2013;2014;クゥ&ウェストン 2015;シーハン&カーソン 2006参照)。
国際的な観点からの関連する洞察には、ファミリーバイオレンスにより特徴付けられる問題に関してイギリス家庭裁判所向けに作成されたカフカス²⁷のレポートにあるマクドナルド(2017)の最近の分析が含まれます。この調査は、「大人の門番」と子育て時間の促進を支持する推定の結果として、ファミリーバイオレンスによる被害を表明する子どもの声が故意に過小評価されていることを説明していました。このことは、ひいては、子育ての取り決めに関する報告書の勧告に影響を与えるものとして認識されました(マクドナルド 2017参照。より一般的にはサイニ、バーンバウム、バラ、マクラーティ 2016を参照)。このような性質の懸念に対処する手段として、ティスドール(2016)は、子どもの操作や苦痛に関する懸念によって子どもの意見が損なわれることに対抗するために、子どもを包括するアプローチをより広く採用するよう求めました。その際、ティスドールは、ファミリーバイオレンスを特徴とする状況において子どもが経験する「薄っぺらな」主体性が、「子どもの意見を展開し、耳を傾け、理解するための支援によって厚みを増す」ことができることを特定する手段として、「厚みのある」主体性と「薄っぺらな」主体性の区別を利用しています(p.374)。
子どもや若者が安全かつ効果的に参加できる適切な手段を特定することは、障害のある子どもや多様な文化的背景や言語能力を持つ子どもの文脈でも、これらの子どもや若者の声が故意に過小評価されないようにする観点から特定されています(例えば、ドビンソン&グレイ 2017;家族法評議会 2012;ハリス 2012;カスピウら 2013;テイラーら 2015参照)。
第4章での議論は、家族法制度サービスにおける子どもや若者の経験に焦点を当てているため、裁判所やFDRといったサービス経路を通じて子どもや若者を意思決定に関与させるメカニズムについては、同章でより具体的に検討します。
3.3 別離中のコミュニケーション
これまで述べてきたように、若い参加者は概して、親とのコミュニケーションをより深めたいと強く望んでいました。コミュニケーションは、新しい生活環境を受け入れ、親との新しい関係を構築し(下記3.4参照)、別離のプロセスや子育ての取決めの作成が何を含むのかをよりよく理解するために重要でした。しかし、本研究に参加した何人かの子どもや若者は、両親のコミュニケーションに苦痛を感じる面があると述べました。面接を受けたある子どもは、自分や兄弟姉妹が両親の葛藤の渦中に巻き込まれ、「お互いに使われる道具になってしまった」(ハミッシュ、男性、15歳以上)と述べ、別の子どもは「どちらかの味方をする」ように圧力を感じたと報告しました(パーキンソン&キャッシュモア 2008も参照)。
このような苦境にある子どもや若者には、大きな苦痛と戸惑いがありました。それぞれの親がもう一方の親に対して発した言葉に、多くの者が対処していたからです。実際、多くの若者がこの経験によって、まるで自分が問題であるかのように感じたと強調し、他の子どもたちにアドバイスする際、研究参加者は、親の行動の結果、他の人がこのように感じることがないように注意を促しました。
多くの子どもや若者は、支援によって、両親の問題をお互いに受け入れることができ、両親の別離は自分たちの手に負えないことですと気付きました。面接を受けたサバンナ(女性、15歳以上)は、このような認識に至った経験を詳しく述べました。
幾つかの例では、子どもや若者は、別離が両親にもたらしたストレスを十分に認識していました。
また、このストレスが、親が自分たち前で見せる行動に影響を与えていることを認識している子どもや若者もいました。
二人の若者が、両親が別離中にメンタルヘルスのサービスを利用していたら役に立っただろうと表明しました。
家族のコミュニケーションについての肯定的な振返りでは、両親が友好的に振る舞い、お互いを中傷せず、親が子どもとオープンで協力的な関係を構築している事例が強調されました。
3.4 別離後の関係構築
別離後の子育ての取決めについての子どもや若者の経験に関するオーストラリアや海外の先行研究では、別居後の状況において、量や「時間」に焦点を当てるのではなく、質の高い養育時間を促進することの重要性が指摘されています(更に、フェルベルクら 2018;バトラー、スキャンラン、ロビンソン、ダグラス、マーチ 2003;スミス 2005;トリンダー 2009を参照)。子どもと親との関係の親密さを振り返ると、研究に参加した子どもや若者の多くにとって、親と質の高い時間を過ごすことが不可欠であることが浮かび上がりました。
表2.10に示したデータ(表2.10に付随するテキストも参照)から、本研究の対象となった子どもや若者のかなり大多数は、母親を「とても親密」「かなり親密」に感じている(それぞれ80%、15%)ことがわかります。一方、父親への親密さに関する報告は、母親に関する報告よりもややばらつきがあるものの、大多数の子どもや若者が父親を「とても親密」「かなり親密」に感じていると報告しました(それぞれ22%、35%)。表2.11、表2.12に付随するテキストによると、一緒の時間を過ごすことの障害となるものには、親子関係の質、子どもや若者のスケジュールや約束事、また一緒に過ごす時間を促進するために柔軟に対応しようとする親の意志に関連する問題が含まれています。親と十分な時間がとれていないと感じたと報告した子どもや若者の面接には、欲求不満や失望感が見受けられました。
多くの子どもや若者は、親と過ごす自分たちの時間がステップファミリーのメンバーによって希釈されていることを認識していました(以下を参照)。一方、親と短い時間しか一緒にいられないことが、状況によっては有益であることを述べている参加者もいました。
また、親が自分たちに関係を強要しているように感じたり、養育時間に対する親の行動が、関係の期待について複雑なメッセージを自分たちに送っていると憤慨している者もいました。
実際、多くの若い参加者にとって、別離後に親子関係を再構築したり復活させたりするのは何かと時間がかかるものでした。上述したケースでは、このような親は、子どもの話に耳を傾け、時間をかけて親子関係を発展させていない場合、彼らの行為が子どもとの距離と子どもの憤りを生むことが確認されました。初歩的なレベルでは、子どもや若者が親との関係において何を求め、何を必要としているのか、子どもの生活にただ関心を持つことが重要であることが確認された。ただ子どもの生活に関心を持つことは、子どもや若者が親との関係に何を求めているのか、何を必要としているのかという点で、非常に重要であると認識されました。
この場合、若者は、もう一方の親が自分に関心を持たず、自分の世話をせず、自分に注意を払ってくれないと感じ、親との距離を感じるようになったようです。重要なのは、このことが将来の子育ての取決めをする意思決定において、重要な要因として浮上し、この面接を受けた若者が父親と過ごす時間を減らすことに繋がったことです。別離のプロセスが進行している最中でさえ、親が養育者としての役割に専念する、または継続する必要があることを明確に表明する子どもや若者もいました。
先に述べたように、研究に参加した何人かの子どもや若者が、両親の別離後に両親と前向きで有意義な関係を築こうとする努力と関連し、複雑な問題であると指摘したのは、新しいパートナーの存在でした。一部の子どもや若者にとっては、親に再びパートナーができることはポジティブな経験でした。
しかし、他の参加者にとっては、親に新しいパートナーができることは、子育ての取決めに関連した難しさに繋がっていました。
ルーシー(女性、14歳)の場合、継母との間に特に分裂した関係が生じたのに、父が自分をサポートしてくれなかったと感じていました。
ルーシー(女性、12~14歳)は、子育ての取決めをする過程で、親の新しいパートナーの関与を最小限にする必要があることを示唆しました。
この研究に参加した子どもや若者にとって、親が新しい交際をしながらも、親であるという役割を維持することが重要でした。その目的を達成するためには、両親との関係を強化し、別離のプロセスを乗り越える上で、子どもや若者にとって質の高い時間が重要でした。重要なことは、そのような問題が存在する場合、関係を継続するためには、これらの問題を解決することが不可欠であることが明らかになりました。
3.5 柔軟な子育ての取決めと変更能力
オーストラリアや海外の先行研究では、最初の子育ての取決めに関する意思決定への参加に加えて、子どもや若者の柔軟な取決めへの満足度と、このような取決めを時間の経過とともに変更する際に発言権を持つ能力との関連も指摘されています(例えば、カシュモア、パーキンソン、ウェストン 2010;カンポら 2012;フォーティンら 2012;ロッジ&アレクサンダー 2010;シーハンら 2005;トリンダー 2009)。この研究で面接をした子どもや若者の多くは、時間の経過とともに、子育ての取決めに何らかの変更、特にそれぞれの親と過ごす時間に関連する変更を経験していました。3分の2近く(59%)の参加者が、面接時にそれぞれの親の家で過ごす時間に満足していると回答しましたが、3分の1近く(30%)はこの点に関して変更を望んでいると表明しました。変更が必要だと考えるに至った多くの理由が挙げられました。関わっている親との関係が悪い(または、もう一方の親との関係が強固)、質の高い子育ての時間が不足している、もう一方の親の家庭での仕事が増えた、生活環境が整わない、子育てスタイルに不満があるなどです。
別のケースでは、子どもや若者が、2つの家を行き来しながら、社会的な約束や別の約束を守ることの難しさに、単に不満を感じている報告していました。
面接を受けたゾーイ(女性、12~14歳)やアイザック(男性、12~14歳)は(とりわけ)、各家庭での時間の柔軟性と、両親が必要に応じて調整し、変更を加えられる能力に感謝の意を表しました。一方の親にもっと会えるか、一緒に過ごす週末の計画を変更できるかどうかに拘らず、子どもと若者は、親と一緒に時間を過ごすことになったとき、両親が自分たちの声に耳を傾ける必要性を継続的に表明しました。
取決めを変更したいという希望を表明した後、ある面接者は次のように述べました。
しかし、研究に参加した子どもや若者が自分の意見が取り入れられていないと感じていると報告した多くの場合、明らかに不満が滲み出ていました。
重要なことに、研究に参加した子どもや若者は、両親や他の大人に自分の意見を聞いてもらうための別の方法を開発したと報告しました。一部の子どもは、コミュニケーションの手段として手紙を使用しました。
別のケースでは、安全でない子育ての取決めや、話を聞いてもらえないことへの子どもと若者の不満が、家出(リリー、女性、12~14歳)や親の所有物を破壊する行為にことにつながりました。
前述のように、研究に参加した子どもや若者のほぼ3分の2(62%)が、両親の別離に関連してメンタルヘルスサービスを利用したと報告しており、両親とのコミュニケーションや子育ての取決めがそのきっかけになったと示唆する参加者もいました。また、共同養育の取決めで暮らす子ども8人が、一方の親の家に行くことに不安を感じていると面接時に報告し、自分の症状と関連する親との関わり方の両方を管理するためにメンタルヘルスの専門家と連携していました。後述の考察や本報告書の後の章で示すように、今回対象とした子どもや若者が経験したとされるトラウマや苦痛のレベルは、子どもや若者の意見、経験、ニーズに耳を傾け、子育てに関する取決めを行う際にそれらを認め、相応の重みを持たせることに、より大きな注意を払う必要があることを示唆しています。多くの子どもや若者にとって、親から精神的なサポートを受け、話を聞いてもらうことは、別離後に良好な関係を築くための鍵となりますが、一方で、単に生活環境の中で安全で保護されているという願望を語る子どももいました。このような状況の中で変化を求める能力は、このような苦境にある子どもや若者にとって非常に重要であることが浮かび上がりました。この安全性の問題は、子どもや若者との全ての面接データ中で参加者から53回提起され、研究参加者の3分の1近く(n=18)が、異なる時期にどちらかの親の家庭で「安全だと感じなかった」ことを示唆し、影響を受ける参加者の側に大きな不安を生じさせていました。
別離後の引っ越しで、より大きな安心感を得た参加者もいました。例えば、
研究に参加した子どもや若者は、「安全」と感じるのは、身体的、言語的、精神的、その他の虐待がない、かつ/または身体的、言語的、精神的、その他の虐待への恐怖がない家庭環境であると説明していました。研究参加者の中には、子育ての取決めをしたときの当初置かれていた状況が、既に安全でないと感じている若者もいた。面接を受けたヘイデン(男性、15歳以上)は、父親との共同養育になった直後の体験をこう語っている。
ヘイデン(男性、15歳以上)は、この父親とはもうコンタクトを取っておらず、母親や他の家族と一緒にいる今の家で「安心を感じている」と述べました。しかし、彼は次のように述べた。
「でも、ときどき外出するようなときは、用心しています。(そうだね)外出するようなとき、毎晩、僕はいつもドアや門に鍵をかけてもいるんです。(なるほど)ただ、安全であることを確認します」
面接を受けた若者の中には、子どもコンタクトサービスが提供するものを含め、子育ての取決めをより安全に感じるのに役立つ支援サービスの肯定的な経験を指摘した者もいました。
しかし、警察や関連する児童保護当局の対応によって安全だと感じたのか(例えば、ボー、男性、12~14歳)、または暴力、虐待、またはその他の安全上の懸念について報告したかどうかについて、より曖昧な記憶を持っている者もいました。
別の参加者は、暴力や虐待の訴えに対して信じてもらえなかったことへの苦痛や失望を、子育ての取決めを特徴付けるこのような応答とともに述べました。この参加者は、サービスに対して何を望んでいるかという質問に対して次のように答えています。
3.6 継続的なコミュニケーションと子育ての取決めに関する有意義な発言権
オープンエンド型面接質問において、参加した子どもや若者のかなりの割合(38%)が、別離後の状況で何が起こっているのかをより深く理解するために、継続的なコミュニケーションをどのように望んでいるか述べました。第4章で検討するように、研究に参加した子どもや若者のほぼ3分の2は、家族法制度の専門家が、子育ての取決めに関連する意思決定において、コミュニケーションを改善する必要があると指摘しました。加えて、若い参加者は、質の高い時間とサポートの機会を最大化することを求め、親がもう一方の親の感じ取った動機について解説することに注意を促していました。子どもや若者は、より多くの情報を求めている事項には次のようなものがあることを示しました。
・自分たちに、いつ、どのように発言する機会があるのか?
・自分たちの発言は、手続きにどの程度影響を与えるのか?
・自分たちの考えを代表してくれる専門家がいるか?
・親に自分たちの望む生活の取決めを伝えるために、どのような支援策が考えられるか?
・法的手続きのスケジュールと性質、このような状況での意思決定者、あるいは子育ての取決めの交渉に関連する手順はどのようなものだったか?
・利用可能な支援サービス(例えば、メンタルヘルス専門家、支援団体、ヘルプライン、法律相談)とはどのようなものか。
・自分たちの生活の取決めに、どのような結果が予想されるか、またどのような選択肢があるのか?
情報を入手し続けることで、子どもや若者は、別離に伴う不確実と激動の中で、前途に対しある程度の慰めと確信を得ることができました。何人かの子どもや若者は、両親の別離で何が起こっているのか、最終的な取決めのプロセスに関して「隙間を埋める」必要がないようにしたいと述べました。
前セクションでの議論に基づいて、家族の状況が暴力、虐待、またはその他の子どもの安全懸念事項によって特徴付けられる子どもや若者にとって、有意義な発言権を持つことが非常に重要であることが浮かみあがりました。自分に影響を与える子育ての取決めについて有意義な発言ができることは、殆どの子どもや若者にとって重要であることが明らかになり、自分たちの意見が意思決定プロセスに不可欠で尊重されるものとして扱われるよう求める声もありました。
このような状況において、意思決定過程への参加はより困難であると認識されているかもしれませんが(例えば、パーキンソン、キャッシュモア&シングル 2010;パーキンソン&キャッシュモア 2008;ニール、フラワーデュー、スマート 2003)、研究に参加した子どもや若者のほぼ半数(46%)は、こうしたリスクの高い状況に関連する彼らの見解や経験に更に配慮するよう家族法制度サービス専門家に求めており、より多くの研究参加者がこの目標に支持を示しています。先述したように、子どもや若者は、法的な意思決定や非法的な意思決定の過程から切り離されるより、寧ろ、こうしたハイリスクな状況でさえも(であるから特に)、話を聴いてもらい、真剣に受け止めてもらうことを求めていました。家族が家族法制度サービスを利用した、この研究に参加した子どもと若者の経験は、次の本質に迫る章の焦点になっています。
3.7 まとめ
この章では、子どもと若者の視点から、別離後の子育てに関する取決めに関連する重要な問題に焦点を当てました。殆どの子どもや若者は、両親の別離居が自分たちの生活に大きな影響を与え、この変化の中でどう適応し対処していくか、支援と指導が必要だと述べました。私たちの研究参加者の両親の別離にまつわる状況は多岐にわたりますが、研究に参加した子どもや若者の大多数(76%)は、親がもっと頻繁に、もっと注意を払って自分たちの意見を聞くべきであると表明しました。
また、研究に参加した子どもや若者のコメントには、親は新しいパートナーとの関係は勿論のこと、別離のトラウマや動揺を抱えていようと、できる限り養育者や後見人としての役割を果たすことを求める声が反映されていました。本章の冒頭で述べたように、子どもや若者は、別離中もその後も親から話を聴いてもらっていると感じている場合、その親に対しより親密さを感じていると報告する傾向がありました。逆に、険悪な別離や子どもや若者の意見や経験に耳を貸さない場合、その親との接触がない、あるいは限定的である、あるいはそのような子育ての取決めを望む傾向が見られました。
その他、子どもや若者にとって重要であることが明らかになった因子には、親との感情的な支えとなる関係の発展や再開、親が子育ての取決めに柔軟性を持たせ、将来の変化に対して寛容であることが含まれていました。また、意思決定において有意義な発言権を有するための継続的なコミュニケーション手段と機会は勿論のこと、安全と安心を感じることができる生活環境も、研究に参加した子どもや若者が重要視している因子でした。網羅的ではありませんが、これらの指名された因子は、子育ての取決めに関する若い参加者の見解と経験の報告する上で重要でした。
(了)