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「ドイツにおける非同居親の扶養義務と養育費立替法」を読む前に

はじめに

 近年、養育費不払い問題に関しては、一刻でも早く受給率を上げるべき¹⁾とし、現行の離婚後親権制度を維持したまま養育費制度を見直すことが提案されている。しかし、養育費制度と離婚後親権制度は密接な関係にあり、抜本的対策を講じる際は勿論のこと、差し当たっての対策を積み重ねていくにしても、両者の関係、両面からのアプローチの必要性を理解しておく必要がある。
 そこで、養育費制度と離婚後親権制度とをセットで俯瞰できるよう、この記事を作成した。日本が養育費立替法を採用するのであれば、先に何を為しておくべきか理解できるよう、国立国会図書館「ドイツにおける非同居親の扶養義務と養育費立替法」の転載記事と同時にこの記事を公開設定した。国立国会図書館の文献だけでなく、こちらも併せて読んで頂きたい。
 なお、この記事では「共同親権」という用語を用いているが、世間一般で使われている定義と同様に監護権を含んでいることを予めお断りしておく。

1.各国の養育費受給率/親権制度/養育費制度

 20年以上前の古いデータだが、OECDの公開データと資料(最終更新2010年)を用いて、各国の養育費受給率をグラフにした(OECDのオリジナルでは表)。

 日本の受給率はOECDの資料に掲載されていないため、厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果」の父母別受給率と父母別世帯数から求めた平均値を記入している。グラフのオレンジの横線は、2023年4月に小倉こども政策担当相が発表した、2031年時における「母子世帯の給付率」の政府目標値40%である。
 このOECDのデータは過去に多く紹介されており²⁾、下夷教授は、「OECDの受給率データは手当を含めている国とそうでない国が混在しているなど、厳密性を欠くため、大まかな傾向としてしかみることができない」としながらも、どの国でも不払いが生じている、日本の受給率は国際的にも低水準であると指摘している(その他の文献でも、日本の受給率の相対的ポジションを掴むため、下夷教授と同様に厚生労働省の受給率を一旦同列で扱っている)。

各国の養育費受給率(2000年)

 次に、G7と養育費制度の成功例として知られているオーストラリアの離婚後親権制度/養育費受給率/養育費制度を一表に再編集した。OECDの資料にはない各国の親権制度、イタリアの養育費制度、日本のひとり親家庭の割合と養育費受給率は、私が調べて追記している(日本のひとり親家庭の割合は、令和2年の国勢調査の「ひとり親と子供から成る世帯」を「一般世帯」の総数で除して算出)。
 更に、OECDオリジナルに対し、カナダ(オンタリオ州)の行政機関関与を「✕」から「○」に、ドイツの婚内子と婚外子の取決めの違いを「あり」から「なし」に修正している。オンタリオ州には、裁判所から養育費や配偶者扶養費の支払い命令が下されると、自動的に命令が州政府のプログラム「家族責任局(FRO,Family Responsibility office)」に提出され、FROが養育費を徴収する仕組みがあること、ドイツでは1998年に婚外子も婚内子と同じ義務が親に課されるよう規定を統一したことを反映した。
なお、イギリスとオーストラリアは、既に養育費庁を廃止しており、労働年金省と社会福祉省が養育費業務を担当している。
 表から明らかなように、G7+オーストラリアの中で、離婚後単独親権制度を採用しているのは日本だけである。また、イタリアと日本以外は、行政機関が受給に関与するか、前払い制度が存在している。イタリアは離婚後共同親権制度であること、ひとり親世帯率が低い(3.7%)ことを考慮すると、日本が最も養育費制度整備遅れの影響を受けていることが理解できる。

G7+オーストラリアの離婚後親権制度/ひとり親の割合/養育費受給率/主要な養育費制度

 なお、行政が関与していながら受給率が低いアメリカ、イギリスについては、下夷教授は次のように分析している。

 アメリカ、イギリスでは行政による養育費の支払い強制が強力になされているが、それにもかかわらず、受給率は低い。それには、データの厳密性の問題の他、これらの国には未婚のひとり親世帯が多いことが影響しているとみられる(離婚に比べて未婚の場合は支払い率が低い)。そのほか、福祉受給者の場合、行政により徴収された養育費は福祉給付の償還に充てられるため、養育費が支払われている場合でも、そのことが子どもの監護親に認識されないという問題も考えられる。

2.行政機関利用に求められる養育費請求の正当性

 養育費の受給率を上げるためには、養育費の取決めをし、その取決めに法的効力を与えて債務名義とし³⁾、効率的かつ確実に債権回収できる仕組みが必要である。取決めから債務名義までが主として親権制度がアプローチの対象とする課題の範囲である。債券回収の仕組みについては、海外を含め従来より多くの研究がなされている⁴⁾。行政機関による養育費請求手段がない日本では、当事者が一連の司法手続きにより養育費請求をせざるを得ないが、手間がかかる上に受給に漕ぎ着けるまでに時間を要するので、海外諸国のように行政機関を利用して手続きの負担を軽減し、効率的な給付を実現するのが最善の解決策とされている⁵⁾。
 しかし、行政を利用して、全てのひとり親世帯を対象に標準化したなサービスを提供するには、普遍的な法的根拠が必要であり、法的な観点から解決すべき具体的な課題が何点か存在する⁶⁾。その中で最も重要な課題が「離婚後の子どもの監護権と扶養義務との法的関係を『明確化』」することである。
 法的関係を明確にするには、「親権」という用語を「親責任」に変更し、義務の側面を強調するテクニカルな対策とともに、離婚後親権制度を現行の「一律」単独親権制度から「原則」共同親権(親責任)制度に改正し、「子の利益を損なう親に限り監護権を剥奪」する必要がある。そうすることで、離婚後も親責任を果たすために、一律別居親から養育支払いを請求することに「正当性」を持たせることができる⁷⁾。
 次節で詳述するが、ドイツは「血縁」に基づく「親子関係の永続性」を前提にし、法制度に一貫性を持たせることで、婚姻関係や監護権の有無に拘らずに扶養、つまり養育費支払いを義務化することの「正当性」を保証している。具体的には、

  • 親の扶養義務が婚姻関係に左右されないように、離婚後も原則共同配慮(親権)を維持する

  • 単独配慮にするには申立が必要で、「子の最善の利益」に適う場合には、例外として同居親の単独配慮とするが、親の扶養義務は監護権の有無に左右されず、別居親は面会交流権(子どもの権利であり親の権利でもある)と養育費支払い(親の義務)を、そのまま維持する

 一方、日本の法制度は、旧来の条文に親の努力義務を付け足し弥縫した枠組みになっている(「努力義務」は、「義務」とは違い、法的拘束力はなく、違反をしても罰則は科されない)。

  • 離婚と同時に必ず一方の親だけが親権者となり(一律単独親権)、もう一方の親が婚姻期間中に負っていた「義務」(身体的な監護と経済的な監護)を免除し、「努力義務」に変更する

  • 扶養の義務化(面会交流や養育費支払い)を望む親は、裁判所に申立てることができる(申立てた内容が認められるとは限らず、認められたとしても履行されるとは限らない)

 ドイツは離婚後も親の義務が継続する枠組み。かたや日本は、離婚と同時に子どもと別居親との関係をご破算にし、どちらかの親が請求すれば親の義務の復活を検討する枠組み。行政機関を利用した養育費制度にするには、ドイツと同じく原則として離婚後も親権を共有し、扶養義務を果たせる環境に両方の親を置き続ける制度でなければ、「正当性」を得ることは困難である。

3.正当性を損ねる離婚後単独親権制度

 ドイツと日本の扶養に関わる法律を条文で比較することにより、離婚後の子どもの監護権と扶養義務が、日本において不明確な法的関係にあることが具体的に理解できる。以下に、ドイツと日本に共通する法律、ドイツの法律、日本の法律の3ケースで各々の条文を紹介し、その後、日本の離婚後単独親権制度の問題点を指摘する。

⑴ドイツと日本に共通する子どもの養育に関する法律

 「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」は、子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた条約である。18歳未満の人たちを子どもと定義し、世界のすべての子どもたちに、自らが権利を持つ主体であることを約束している。1989年の第44回国連総会において採択され、1990年に発効した。
 2021年11月現在、子どもの権利条約は、国連加盟国数を上回る196の国と地域で締約され、世界で最も広く受け入れられている人権条約となった。ドイツは1992年、日本は1994年に批准した。[日本ユニセフ協会より抜粋、敬体を常体に変更するとともに、一部加筆修正]
 当該条約を締約したEU諸国は、条約と国内の法制度との整合性がとれるように国内の法制度を見直したが、日本政府は批准にあたり、新たな国内立法措置は必要ないとして法整備を怠ってきた⁸⁾。平成5年(2017)に施行された改正児童福祉法に初めて子どもの権利条約が理念として明記され、子どもの権利が主体に位置付けられた。

児童の権利に関する条約第9条【親子の不分離】
第1項 締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。このような決定は、父母が児童を虐待し若しくは放置する場合又は父母が別居しており児童の居住地を決定しなければならない場合のような特定の場合において必要となることがある。
第2項 すべての関係当事者は、1の規定に基づくいかなる手続においても、その手続に参加しかつ自己の意見を述べる機会を有する。
第3項 締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。
第4項 第3項の分離が、締約国がとった父母の一方若しくは双方又は児童の抑留、拘禁、追放、退去強制、死亡(その者が当該締約国により身体を拘束されている間に何らかの理由により生じた死亡を含む。)等のいずれかの措置に基づく場合には、当該締約国は、要請に応じ、父母、児童又は適当な場合には家族の他の構成員に対し、家族のうち不在となっている者の所在に関する重要な情報を提供する。ただし、その情報の提供が児童の福祉を害する場合は、この限りでない。締約国は、更に、その要請の提出自体が関係者に悪影響を及ぼさないことを確保する。

児童の権利に関する条約第27条【生活水準の確保】
第1項 締約国は、児童の身体的、精神的、道徳的及び社会的な発達のための相当な生活水準についてのすべての児童の権利を認める。
第2項 父母又は児童について責任を有する他の者は、自己の能力及び資力の範囲内で、児童の発達に必要な生活条件を確保することについての第一義的な責任を有する。
第3項 締約国は、国内事情に従い、かつ、その能力の範囲内で、1項の権利の実現のため、父母及び児童について責任を有する他の者を援助するための適当な措置をとるものとし、また、必要な場合には、特に栄養、衣類及び住居に関して、物的援助及び支援計画を提供する。
第4項 締約国は、父母又は児童について金銭上の責任を有する他の者から、児童の扶養料を自国内で及び外国から、回収することを確保するためのすべての適当な措置をとる。特に、児童について金銭上の責任を有する者が児童と異なる国に居住している場合には、締約国は、国際協定への加入又は国際協定の締結及び他の適当な取決めの作成を促進する。

⑵ドイツにおける子どもの養育に関する法律

 ドイツでは、1982年に離婚後の単独監護を定めた規定を、連邦憲法裁判所が違憲判決を下したことをきっかけに、1998年以降、離婚後の共同配慮(親権)が認められるようになった。条文は「婚姻の如何に拘らず共同配慮を継続」という直接的な表現ではなく、「単独配慮を申立て、認められた場合には全て、あるいは一部が単独配慮になる」という表現になっている。

①条文
ドイツ基本法(憲法)第6条【子の監護及び教育に対する親の権利と義務】
第1項 婚姻及び家族は、国家秩序の特別な保護を受ける。
第2項 子の監護及び教育は、親の自然の権利であり、かつ何よりもまず、親に課せられた義務である。この義務の実行については、国家共同体がこれを監視する。

BGB(民法)第1601条
直系血族は、相互に扶養の義務を負う。

BGB(民法)第1602条
第1項 自らの生活を維持できない者は、扶養を受ける権利を有する。
第2項 未成年の子は、財産を保有している場合にも、財産からの収入または労働による収入が生活を維持するのに不十分な場合、両親から扶養を受けることができる。

BGB(民法)第1603条
第1項 他の債務を考慮して、自身の適切な生活維持に支障を来すことなく扶養することができない者は、扶養の義務を負わない。
第2項 両親はこのような状況にある場合でも、未成年の子に対しては、あらゆる利用可能な手段を用いて、自らと子の扶養について同等である義務を負う。未婚の子は、両親の双方若しくは一方と世帯を同じくし、かつ一般学校教育を受けている限りにおいて、21歳に達するまでは、未成年の未婚の子と同等とみなされる。この義務は、他の扶養親族がいる場合や子の保有財産で生活を維持できる場合は生じない。

BGB(民法)第1606条【扶養義務の順位】
第1項 卑属は、尊属に優先して、扶養の義務を負う。
第2項 卑属間、または尊属間では、親等の近い者が遠い者より優先して扶養義務を負う。
第3項 同親等の血族が複数いる場合には、その収入および資産の割合により、按分的に扶養の義務を負う。未成年の子を養育する親は、原則として、その子を世話し、育てることにより、その子の扶養義務を果たさねばならない。

BGB(民法)第1626条【身上配慮と財産配慮】
第1項 親は、未成年子を配慮する義務を負い、権利を有する。親の配慮(権)は、子の身上並び子の財産を配慮するから成る。
第2項 親は、子を世話し育てるにあたって、子の成長する能力および自立し責任を持って行動する必要性を考慮する。親は、子の発達段階に応じて適切な範囲で、育児に関する問題について子と話し合い、合意を得るよう努める。
第3項 子の福祉には、原則として、両方の親との交流が含まれる。その維持が子の成長にとって必要であるときは、子が絆を有する者との交流も同様である。

BGB(民法)第1627条【共同行使】
両親は、自己の責任において、相互の合意を基礎として、子の福祉のために親の配慮を行使する。意見の相違がある場合は、合意に至るよう努めねばならない。

BGB(民法)第1629条【法定代理】
第1項 親の配慮には、子の代理を含む。親は、共同で子を代理する;子に対して意思表示が行われるときには、親の一方に対して行われれば足りる。親の一方は、単独で親の配慮を行使するとき、または第1628条によって決定が委ねられているときにかぎり、単独で子を代理する。危険が迫っている場合には、親はいずれも、子の福祉のために必要なすべての法的行為を行う権限を有する;親の他方は遅滞なく通知されなければならない。

BGB(民法)第1671条【共同配慮の終了】
第1項 両親が一時的にではなく別居しており、共同で親の配慮を有しているときには、親はいずれも、自己に親の配慮または親の配慮の一部を単独で移譲するように、家庭裁判所に申し立てることができる。この申立は、以下の場合に限り認められる。
 1. 親の他方が同意しているとき。ただし、子が満14歳以上であり、反対をしている場合は、この限りではない。
 2. 共同配慮の取り止めおよび申立者への移譲が最も子の福祉にかなうと期待されるとき。
第2項 親が一時的にではなく別居しており、第1626a条第3項によって母が親の配慮を有しているときには、父は、自己に親の配慮または親の配慮の一部を単独で移譲するように、家庭裁判所に申し立てることができる。その申立は、以下の場合に限り認められる。
 1. 母が同意しているとき。ただし、移譲が子の福祉に反する場合、または子が満14歳以上であり、移譲に反対をしている場合には、この限りではない。
 2. 共同の配慮が考慮されず、かつ父への移譲が最も子の福祉にかなうと期待されるとき。
第3項 第1751条第1項1文によって母の親の配慮が停止している場合には、第1626a条第2項による共同配慮の移譲に関する父の申立は、第2項の申立とみなされる。父への親の配慮の移譲が子の福祉に反しないかぎり、申立は認容される。
第4項 親の配慮が他の規定に基づいて、異なって規律されなければならない場合には、第1項および第2項の申立は認められない。

BGB(民法)第1684条
第1項 子どもはあらゆる親と交流する権利を有する。あらゆる親は子どもとの交流を義務付けられかつその権利を有する。
第2項 親は、子どもと他方の親との関係を害し、または教育を妨げる行為は全て行ってはならない。前文は子どもが他の者の下にいるときに準用される。
第3項 家庭裁判所は交流権の範囲と交流権の行使について決定することができる。またこれを第三者に対してより詳細に規制することができる。家庭裁判所は命令により、関係者に対して前項で定められた義務の履行を促すことができる。
第4項 家庭裁判所は,子どもの福祉のために必要な限りにおいて、交流権または交流権に関する以前の決定の執行を制限し、または排除することができる。交流権またはその執行を相当長期間もしくは永続的に制限または排除する決定は,そうしなければ子どもの福祉が脅かされるときに限り、下されることができる。家庭裁判所はとりわけ,協力の用意のある第三者が立ち会う場合に限って交流を命ずることができる。

 このようにドイツでは、子どもの権利条約が謳っている「親子の不分離」と「親の子に対する一義的な扶養義務」を具体的な表現で民法に明示し、養育支払いや面会交流の義務を果たさない親にはサンクションを用意している。

➁養育費請求の法的根拠
 フォルカー・リップ教授は、ドイツ扶養法における法的根拠の必要性について以下のように述べている⁹⁾。なお、ここでいう扶養は金銭面の扶養、即ち養育費と読み替えて頂きたい。

 裁判所により強制可能な扶養義務は,債務者の人格的自由に介入する。憲法から見れば,法律上の扶養義務は基本法2条1項〔人格の自由な展開への権利〕への介入であり,憲法上支持できる正当化が必要である。基本法6条1項における婚姻と家族の保護の単なる参照指示と,それにより示唆される家族的結合だけでは理由づけとして十分でないことは確かである。まさに一定の法律上の扶養義務が債務者に負わされてよいのか,また負わされてよいのはどの程度においてなのか,ということがむしろ問題なのである。以上のことにより,実定扶養法の根拠への,すなわち法律の構想と基本思想への問いが投げかけられるのである。

 続いて、子の扶養義務については以下のように述べている。

 BGBは,子に対する親の扶養義務を血族扶養の一部として扱っている。(中略)つまり,自分の子を,それも自己の親権下にあるかどうかに関わりなく,自分の労働力と資産によって自立に導くことが親の任務なのである。
このことから,血族扶養の一般準則とのきわめて重要な違いが出てくる。(中略)
連邦憲法裁判所は,現在,子の扶養を包括的な親責任(基本法6条2項1文)の一部と捉えているが,それはまったくもってこの線上にある。それゆえ子の扶養は,たしかに,規律の技術上は血族扶養の一部であるが,実質的には親責任に基づいており,そこからその正当化が引き出される。したがって,子に対する扶養義務は,子に対する親の包括的責任の一局面なのである。

⑶日本における子どもの養育に関する法律

 平成24年(西暦2012年)の4月1日に改正民法が施行された。改正前の第766条では「その他監護について必要な事項は」とだけ記載されていた条文の前に、「父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担」という文言が置かれ、条文の最後には「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」が追加された。また、この改正案の国会での可決にあたり、附帯決議中に「親権制度については、今日の家族を取り巻く状況、本法施行後の状況等を踏まえ、協議離婚制度の在り方、親権の一部制限制度の創設や懲戒権の在り方、離婚後の共同親権・共同監護の可能性を含め、その在り方全般について検討すること」が盛り込まれた。

①条文
憲法第25条【生存権】

すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

民法第766条【離婚後の子の監護に関する事項の定め等】
第1項 父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者,父又は母と子との面会及びその他の交流,子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は,その協議で定める。この場合においては,子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
第2項 前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が,同項の事項を定める。
第3項 家庭裁判所は,必要があると認めるときは,前二項の規定による定めを変更し,その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
第4項 前三項の規定によっては,監護の範囲外では,父母の権利義務に変更を生じない。

民法第818条【親権者】
第1項 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
第2項 子が養子であるときは、養親の親権に服する。
第3項 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。

民法第819条【離婚時の親権者】
第1項 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。

民法第820条【監護及び教育の権利義務】
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

民法第824条【財産管理と法定代理】
親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

民法第877条【扶養義務者】
第1項 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

➁養育費請求の法的根拠
棚村正行教授は、以下のように述べている¹⁰⁾。

 子の監護に要する費用」(民法766条)のことを「監護費用」と呼ぶが(最判平成19年3月30日家月59巻7号120頁)、実務では一般に「養育費」と呼び、家庭裁判所の書式でも,「養育費請求」と表記されている。
 民法766条に基づく申立ての場合,子自身ではなく監護親が非監護親に対して養育費を請求するが、その元となる根拠は親子間の扶養義務(民法877条)にある。

 民法877条で親子間の扶養義務を謳いながら、離婚する場合は、民法819条で子の利益を害する親でなくとも、子の最善の利益に資する親であっても、どちらか一方の親の監護権(身体的扶養と経済的扶養)を奪い、民法766条では離婚時には子の監護について必要な事項を定めるとしながらも、養育費や面会交流の取決めを義務化していない¹¹⁾。取決めをして、法的効力を持たせる手続きは存在するが、養育費に関しては申立手続きの負担が大きく¹²⁾、面会交流に関しては取決めに違反した際の罰則、サンクションの実効性が不十分である。

⑶まとめ(日本の離婚後単独親権制度の問題点)
 ドイツは、離婚後は原則として全家庭が共同親権となる制度を採用しており、子の最善の利益に適う場合には申立てにより、全て、あるいは一部の親権を一方の親に移譲することが可能である(一方の親が主たる親権を有する単独親権家庭となる)。この単独親権家庭における扶養を、ドイツでは次のように考えている。即ち、親は原則としてそれぞれの資産及び収入の比率に応じて子の生活費を負担しなければならない。同居親は子の監護により扶養義務を果たしているという前提の下に、別居親は金銭によって扶養義務を果たすことを求められる(監護と養育費支払の価値は等しいという前提の下に、同居親が二重に負担を負うことを回避)¹³⁾。
 日本は、離婚後は一律全家庭が単独親権制度なる制度を採用し、子の利益を害する親でなくとも、子の利益に資する親であろうとも、どちらか一方の親が親権を喪失し、もう一方の親の単独親権家庭になる。日本では、父母は離婚後も子を扶養する義務があるという道徳規範が確立されてはいるものの、「扶養」を経済的扶養に限定しがちで、非親権者になった親は法的に身体的扶養義務、即ち監護権を剥奪されながらも、経済的扶養義務を果たすことが求められる。
 ドイツのように、子の最善の利益という観点からの裁判所の審理を経たわけでもないのに、条文にそう書いてあるという理由だけで監護権を失った親が、事実上も子の監護から排除されたなら、心情的に養育費の支払いを背理に感じること、法律上も正当性を欠いていることは誰にでも分るだろう。法の正当性は、その法を遵守する動機の一因であることは良く知られており¹⁴⁾、このことも養育費受給率が低位である理由の1つであろう。
 いずれにせよ、日本の養育費支払に関しては、法規範が十分に確立しておらず、親の扶養義務に正当性を欠く根本原因は、離婚を事実上親子の縁切りにする離婚後単独親権制度にある。
 なお、離婚後単独親権制度は、「家」制度、家父長制の残滓であり¹⁵⁾、養育費支払いだけでなく、親子交流にも悪影響を与えている。松嶋教授は次のように述べている¹⁶⁾

 親が離婚した場合に子の親権者を決めるが,親権者となった親は別れた相手方に子供を会わせない考え方が強い。つまり,親の離婚は,子供にとっても一方の親との縁切りにさせられる場合が多い。法的に面接交渉権は認められるが全体として消極的な考え方があるのは,子供の養育を父母の共同責任とするよりも,共同生活をしている父叉は母の責任と考える思想に「家」的家族観の名残りがあるように思う。

 詳細は次節で述べるが、面接交渉(面会交流の昔の呼称)の実施率と養育費の受給率には、正の相関があり、面接交渉の実施有無は養育費支払いに強い影響を与えている。ここでも離婚後単独親権制度はネガティブな要素に結び付いている。
 総括すると、日本が採用している離婚後単独親権制度にメリットを見出すことができないことから、行政を利用した養育費制度に必要な法の正当性の保証、養育費支払動機の提供、面会交流促進による支払動機向上のため、離婚後共同親権制度を早急に導入すべきと考える。

[追記]
NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむは令和2年(2020)に森法務大臣に下記の「養育費の取り立て確保に関する要望」を提出している。3つ目の要望で、養育費の立替払い制度の導入を求めていながら、4つめの要望で、共同親権制度など親権の在り方とはリンクさせないことを求めている。離婚後共同親権制度は養育費立替払い制度を設ける上での基礎であり、この2つの要望に同時に応えようとしたなら、未来永劫にわたり養育費立替払い制度は実現しないであろう。

   養育費の取り立て確保に関する要望
                        2020年1月
  シングルマザーサポート団体全国協議会   (全国23団体)
                      代表 赤石千衣子
1、養育費の(債務名義のある)取り決めの促進と支援を行うこと
  調停、公正証書等の作成の支援
  無料法律相談ほか
2、養育費の取り決め後の取り立て確保
  民事執行法に基づく支払い義務者の情報の取得支援と方法の周知 
  養育費差押えの支援
3、養育費の立替払い制度を導入すること
  (養育費立替払い制度導入は児童扶養手当制度との連携はしないこと)
4、共同親権制度など親権の在り方とはリンクさせないこと
5、DV・虐待等の被害者が安全に養育費を受け取れること

以上要望いたします。

シングルマザーサポート団体全国協議会HPより

4.離婚後共同親権制度の波及効果

 法(規範)は、裁判規範(法律違反に対し裁判所がサンクションを加える際の基準となる規範)、組織規範(国家機関に権限や組織構成等を定める規範)と行為規範(国民が社会生活を送る上での行動の基準)として作用する。前2つは前節までで触れてきたので、この節では、3つ目の行為規範に重点を置き、離婚後共同親権制度の波及効果について考察する。

⑴社会通念の変化による養育費受給率の改善

 前出の下夷教授は、日本が別居親に対して養育費の支払を促進する政策に消極的だった理由は社会規範の不在であると指摘し、その背景には、①家制度的な離婚観・親子観、➁世帯に射程を定めた対策、の2つにあると考えた。前者は「離婚により親子関係にないので非監護親は政策対象外」、後者は「母子世帯の問題であって、親子関係があろうと同一世帯ではない非監護親は政策対象外」という意味である。特に前者については、次のように詳述している¹⁷⁾。

 これには、日本の「家」制度的な離婚観・親子観の影響が考えられる。家制度下の離婚は、妻(子の母)が家の成員資格を喪失することであり、離婚した妻(子の母)は家との関係が断たれる。一方、子どもは親の離婚にかかわらず「家の子ども」であり、その親権者は家にいる父である。「離婚したら一切の縁を切る」「夫婦の別れは親子の別れ」という考え方は、こうした家制度に基づくものとみられるが、この家制度的な離婚観・親子観は、現在の日本社会に根強く残っている。そのため、離婚後の子どもの監護者・親権者の八割以上が母親となった現在においても、離婚して別れた親と子どもを家族ととらえる観念が乏しく、政策の対象にならなかったのではないだろうか。このことは、離婚後の親子の面会交流が日本では進展していない、という状況にもあらわれている。

 下夷教授は、「家制度的な離婚観・親子観」が養育費の支払いや面会交流に悪影響を及ぼしているところまで辿り着いたが、残念なことに、その元凶が離婚後単独親権制度であることまでは思考が及ばなかったようである。
 家制度的な離婚観・親子観は、慣習として日本社会に根付いたから残り続けているのではなく、家制度の残滓である離婚後単独親権制度が維持されているがために、細々と燃え続け、未だに社会に悪影響を与えているのである。
 離婚による夫婦関係解消と同時に、親子関係をご破算にして、その後は当事者任せにし、言い訳程度に親子関係回復の申立てを許可する。このような法律の枠組みである以上、「夫婦の別れは親子の別れ」となるのは当然で、文化でも慣習でもなく、時代遅れの家制度により必然的に維持されている行動基準に過ぎない。
 離婚後共同親権制度が導入されれば、国民の行動の基準が「夫婦の別れは親子の別れ」から「夫婦は別れても父と母」に代わり、養育費受給率の改善に繋がることが予想される。

⑵面会交流の充実と充実に伴う養育費受給率の改善

 日本は未だに離婚後単独親権制度であるため、面会交流(海外では、「訪問」、「アクセス」、「コンタクト」と呼んでいたが、現在は名称変更し「養育時間」と呼ぶ国が多い)の意味合いが十分に理解されていない。離婚後共同親権の国では、離婚後の家庭は、「共同親権」か「同居親の単独親権+別居親の訪問権と養育費支払義務」のいずれかになり、単独親権家庭の非監護親には必ず子どもの交流(時間)が保証される。親権制度と面会交流は別物であるが、密接な関係にある。
 日本では月1回2時間の面会交流が相場となっているが、アメリカの「訪問」の場合、子どもは隔週末を別居親と丸々過ごし、学校の長期休暇中は相当な日数を別居親と過ごすのが一般的である。このようにアメリカの訪問が充実している理由は、離婚後共同親権の導入以前から訪問権が確立していたこともあろうが¹⁸⁾、交渉学の視点でみれば、子の親権を奪い合う必要がなくなり、親権に関する協議が、ゼロサム型(分配型)から非ゼロサム型(相互利益型,統合型)に移行した影響も大きいであろう¹⁹⁾。つまり、離婚後共同親権制度が導入されると、その家庭が単独親権の場合には、面会交流の実施が保証され、交流内容も充実する方向に進むと考えられる。これは個人的な予測ではなく、半世紀以上前にアメリカが体験した歴史的事実である²⁰⁾。
 また、養育費受給率と面会交流実施率について、心理学はその因果関係に決定的な答えを出せてないが²¹⁾、強い相関関係があることは誰もが認めるところである。「会えないから払わない」、「払わないから会わせない」、「会っても払わない」、「払っても会わせない」というケースが存在する以上、どちらが原因かを一律に決めることは不可能だろう。しかし、「会えたら払う」、「払ったら会わせる」という関係にある両親に限って言えば、それぞれの原因を解決すれば、結果が好転するのは明らかである。実際のところ、心理学における因果関係がどうであろうと、アメリカ²²⁾やドイツ²³⁾では良い影響が確認できたという事実から、積極的に面会交流促進を図っている。
 総括すると、離婚後共同親権制度を導入することで、「面会交流の実施不履行改善、交流内容の充実→養育費支払不履行の改善」というプラスのスパイラルが生まれると想定される。
 なお、海外は面会交流を積極的に促進し、養育費受給率を高めようとするのに対し、日本では親が養育費を交渉材料にするリスクを過大視し、海外に比べて面会交流促進に消極的な印象を受ける。長くなるが、再び下夷教授の論文を引用する。

 たしかに、養育費と面会交流を交換関係でとらえる当事者は少なくない。とすれば、養育費と面会交流が相乗効果で好転することも期待される。しかし、養育費制度において養育費の支払いと面会交流の実践をリンクさせると、「会えないから支払わない(父)」「会わせたくないから受け取らない(母)という親の意向で、子どもの権利の実現が阻まれることになりかねない。また、現在すでに、養育費を支払っている父親が、支払いを根拠に面会交流を要求する場合があるが、そのなかにはDVケースも含まれている。そうした父の主張の真意を審査する仕組みもないまま、しかも、DV被害者の保護体制も十分といえないなかで、養育費と面会交流を関連づけることになれば、被害女性と子どもはいっそう危険にさらされることになる。これらの点からみて、行政による養育費制度において、養育費と面会交流をセットで扱うことには問題がある。むしろ養育費制度は、扶養問題と切り離して、子どもの福祉の観点から面会交流をすすめるための基盤として、すなわち、面会交流に扶養問題の紛争を巻き込まないためのサービスとして整備すべきである。

 令和2年(2020)に開催された法務大臣養育費勉強会の取りまとめでも、同様の注意が喚起されている。

○大原則として、養育費と面会交流は法的に別問題であり、養育費の支払を求める代替として、面会交流を強制される関係にないことの確認が必要である。
○面会交流支援を実施して適切な面会交流を実施・継続することによって、養育費の履行が促されることがある。自治体の取組も進んでいるので、面会交流に対する公的支援の検討も必要である。

 養育費や面会交流を交渉材料にしない(リンクさせない)ためには、監護に関わる取決めに法的拘束力を持たせたうえで、ドイツ等と同様に「それぞれの」不履行に対して「独立して」サンクションを与えれば良い。例えば、養育費、面会交流ともに、不履行ならば制裁金を不履行者の雇用主に請求する、ホームページに氏名を掲載する等も考えられよう。監護に関する取決めの違反に対してサンクションを与えないのなら、当事者が自力救済に走ろうとするのは自然であり、当事者に自力救済の禁止を説くだけでなく、裁判所にサンクションを徹底させる方法を検討すべきであろう。

おわりに

 ひとり親家庭の養育費給付率を改善するには行政機関を利用すべきである。行政機関を利用した養育費制度を構築するには、法律上の正当性と一貫性を保証する必要がある。現行の離婚後単独親権制度は正当性、一貫性を損ねており、当該制度を廃し、代わりに原則共同親権制度を導入せねばならない。原則離婚後共同親権制度は、行政機関を利用する養育費制度設立の要件であるだけでなく、行為規範として、養育費支払の動機に対するドライブや面会交流の質と量の改善にも貢献する。これまで以上を述べてきた。
 要は、扶養には身体的扶養と経済的扶養があり、子が成人するまでの扶養が親の義務である以上、これらの義務を果たすためには、離婚や離婚時の両親の合意有無に拘らず、原則として両方の親が親権を維持し続けねばならないのは至極当然である。
 現在、法制審議会家族法制部会では、離婚後共同親権制度の導入を前提に検討を進めているが、「両親の合意が成立している場合」という限定条件を付す意見もあるという。両親の合意が成立した場合に例外として共同親権を認める法案は、本来の考え方とは原則と例外が逆転しており、骨抜きどころか現行保障の法案である。離婚をきっかけにして扶養義務を果たさない親、果たせない親、それを許容する法制度の存在が問題になっているからこそ、法制審議会が諮問されたのであって、そのような法案は諮問目的に適っていない。社会の最弱者である子どもに焦点を当て、その最善の利益に目を向ければ、ひとり親家庭が真に必要とする制度や法律は自ずと明らかになる。養育費不払い問題は離婚後の親権制度を切り離して論じたところで無意味であり、養育費の立替払い制度を創設するのであれば、離婚後の原則共同親権制度導入は必要にして不可欠である。法制審議会が同居親の最善の利益に焦点を当て、現行保障を目的とした粗雑な要綱案を答申しないことを切に願う。

脚注

1) 例えば、大石亜希子「ひとり親世帯の貧困と養育費」ジュリエストNo.1582(2023)26頁
2) 下夷美幸「養育費問題からみた日本の家族政策-国際比較の視点から-」比較家族史研究 第25号(2010)102頁;内閣府「平成28年度 子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究 報告書」第1章;畠山勝太「日本における子供の貧困を人的基本投資、共同親権の側面から考察する」SYNODOS(2017)
3) 平成24年(2012)4月に離婚届用紙の様式が改定され、面会交流や養育費の取決めの有無を尋ねるチェック欄が設けられた。しかし、それ自体に法的拘束力はないため、公証役場で公正証書を作成するか、裁判所で調停調書等を取得する必要がある。公正証書を作成する場合、5万円程度の公証人手数料、養育費調停を申立てる場合は、対象となる子どもの人数によって変わるが、2~4千円の費用が必要である。
4) 増田幸弘「生別母子家庭における子どもの生活保障と社会保障」慶応義塾大学産業研究所(1994);下夷美幸「養育費政策にみる国家と家族」勁草書房(2008);養育費相談支援センター「養育費確保の推進に関する制度的諸問題」(2012);野口康彦,高橋大輔「離婚後の子どもの貧困防止のための養育支援の必要性」(2017);増田幸弘「アイルランドにおける離婚後の養育費と社会保障給付」社会保障研究第4巻第1号(2019)62-78頁;宮下摩維子「実効力ある養育費の強制執行制度構築に関する予備的研究」駿河台法学第33巻第2号(2020)109-118頁
5) 周燕飛「なぜ離別父親から養育費を取れないのか」独立行政法人 労働政策研究・研修機構
6) 脚注4)「生別母子家庭における子どもの生活保障と社会保障」51頁。①扶養義務者・監護者・国家の三者間の法的関係、➁離婚当事者の自己決定権に関する配慮及び協議離婚制度と整合性、③当事者間の合意と裁判所の関与、④離婚後の子どもの監護権と扶養義務の法的関係の明確化、⑤父親の特定とプライヴァシー保護との関係、の5点の明確化が挙げられている。
7) 令和2年(2020)4月7日の法務委員会で森法務大臣は「私としては、養育費の支払確保の方策と離婚後の共同親権制度の導入の当否の問題は必ずしもリンクするものではないと認識しております」と答弁しているが、離婚と同時に「一律」一方の親から監護権を奪いながら金銭面の支援は継続することを合理的に説明できないであろう。
8)永井憲一、寺脇隆夫「解説・子どもの権利条約(第2版)」日本評論社(1990)20頁
9) フォルカー・リップ(野沢紀雅訳)「ドイツ扶養法の根拠 Die Grundlagen des deutschenUnterhaltsrechts」比較法雑誌第52巻第2号(2018)55-82頁
10) 棚村正行教授編「[第2版]面会交流と養育費の実務と展望 子どもの幸せのために」日本加除出版株式会社(2017)102頁
11) 脚注3)「養育費問題からみた日本の家族政策」(142頁)によれば、明治21年(西暦1888年)の民法第一草案では、離婚後も父母はその子に対し、育成・教育の権利を有し、父母はその資力に応じてその費用を負担すべきと明示。更に、協議離婚に関して、裁判所の審査を義務付け、離婚手続きを慎重に進めるための規定(6か月間の熟慮機関)が置かれていた。その後の修正により進歩的構想が消え、家父長的要素が強化されたが、それ以降、今日に至っても離婚時の取決めは義務化されていない。
12) 昭和31年(1956)の家事審判法による履行確保制度の創立以降、負担を軽減するため、以下の対策が講じられてきた。平成16年(2004)の民事執行法改正:、財産開示手続の創設、将来分の強制執行手続きの可能化、平成17年(2005)の民事執行法改正:制裁金を課す等の間接強制が可能になった、令和2年(2020)の民事執行法改正:財産開示手続の見直し(開示手続の申立権者の範囲拡大、手続違反に対する罰則強化)と第三者からの不動産/給与債権/預貯金債権に関する情報取得手続の創設。
13) 国立国会図書館「ドイツにおける非同居親の扶養義務と養育費立替法-ひとり親家庭への養育手当支給制度-」(2020)
14) 飯田高「法を守る動機と破る動機-規制と違法のいたちごっこに関する試論」日本労働研究雑誌(2015)
15) 日本は戦後に施行された新憲法に基づいて民法を改正して「家」制度を廃し、家長が唯一の親権者である単独親権制度を、婚姻中に限り共同親権制度とした。諸外国は単独親権制度を婚姻中共同親権制度に見直しただけに留まらず、離婚後も継続する見直しを数十年前に実施している。このような歴史的変遷から、離婚後単独親権制度は家父長制の残滓であるとがわかる。より詳しい経過については、二宮周平「子どもの権利保障と親の離婚」信山社(2023)310頁を参照。
16) 松嶋道夫「家族制度の変革と現代家族」富山大学紀要. 富大経済論集31巻第1号(1985)12-55頁
17) 脚注2)「養育費問題からみた日本の家族政策-国際比較の視点から-」比較家族史研究 第25号(2010)99頁
18) 山口亮子「日米親権法の比較研究」日本加除出版株式会社(2020)96頁
19) ロイ・J・レビスキー他「交渉力-最強のバイブル-」日本経済新聞出版社(2011)39頁。交渉においてゼロサム型は「目標達成に向けてネガティブな相互関係が発生する」とする一方、非ゼロサム型は「ポジティブな相互関係が存在する」とし、素晴らしい曲と素晴らしい詞が一緒になって一層素晴らしくなると評している。
20) Wallerstein, Kelly「Surviving the Breakup」(1977)pp.134-1388. アメリカが離婚後単独神経制度であった時代のウォラースタイン博士の調査によれば、両親が別居して5ヵ月後の時点で、研究に参加した60家族の子ども131人の3分の2が平均で少なくとも月2回の頻度で訪問をしていた。但し、訪問1回当りの所要時間は未就学児の4分の3、9~10歳の子どもの半数が数時間であった。
21) 大石亜希子「養育費制度の論点と海外の研究動向」週刊社会保障No.3086(2020)48頁
22) 国立国会図書館「離婚後面会交流及び養育費に係る法制度」(2015)4頁;商事法務研究会「父母の離婚に伴う子の養育・公的機関による犯罪被害者の損害賠償請求権の履行確保に係る各国の民事法制等に関する調査研究業務 報告書」(2020)31頁
23) 商事法務研究会「父母の離婚に伴う子の養育・公的機関による犯罪被害者の損害賠償請求権の履行確保に係る各国の民事法制等に関する調査研究業務 報告書」(2020)116頁

(了)

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