共同身上監護、親子関係、そして子どもの心身症について
この記事は、Lara Augustijnの「Joint physical custody, parent–child relationships, and children’s psychosomatic problems」クリエイティブ・コモンズ・表示4.0国際ライセンス(アドレスは下記)を翻訳したものです。
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ジャーナル・オブ・パブリックヘルス:理論から実践へ
https://doi.org/10.1007/s10389-021-01583-1
原著論文
共同身上監護、親子関係、そして子どもの心身症について
ララ・アウグスティン¹
受理日:2020年12月1日
掲載決定日:2021年4月27日
©著者(複数) 2021
要旨
目的 子どもや青少年における心身症の有病率は増加しているように思われる。同時に、欧米諸国では共同身上監護の家庭の数が増加している。本研究では、親子関係の媒介の可能性を考慮しつつ、別離後の子育ての取決め(共同身上監護 vs 単独身上親権)と子どもの心身症リスクとの関係を検討することを目的とした。
対象および方法 「ドイツにおける家族モデル(FAMOD)研究」のデータに基づき、単独身上監護家庭または共同身上監護家庭で暮らす7歳から14歳の子ども473人のサンプルについて、「ステップワイズ線形回帰モデル」および「一見無関係な回帰モデル」を推定した。
結果 共同身上監護家庭の子どもは、単独身上監護家庭の子どもに比べ、心身症が有意に少なかった。更に、共同身上監護の取決めのもとで生活していることは、より良い親子関係と関連していた。しかし、母子関係のみが子どもの身体的愁訴と有意に関連し、身体的監護の取決めと子どもの身体的愁訴との関連を部分的に媒介していた。父子関係については、それに対応する関連は見いだせなかった。
結論 心身症のリスクは別離家庭間で不均等に分布しており、共同身上監護の取決めのもとで生活している子どもは単独身上監護の取決めのもとで生活している子どもよりも心身症が少なかった。この関連性の一部は母子関係の質によって説明されることから、子どもの健康増進を図る上で、子どもの他の家族との関係は、別離後の養育の取決めにおいて考慮すべき重要な要因であると思われる。
キーワード 健康,共同身上監護,親子関係,別離後の過程,心身症,単独身上監護
はじめに
心身症の愁訴は子どもや青年にかなり多く見られ(ケリーら 2010)、近年その有病率は増加しているようである(ヒャーン 2006;オットヴァ・ヨルダンら 2015)。一般に、心身症は「心理社会的・生理的プロセスの相互作用によって生じる身体的症状や病気」と定義され(ハゲクルとボーリン 2004)、頭痛、背中の痛み、腹痛、睡眠障害など、幅広い様々な不定愁訴が含まれる(ヒャーン 2006;ヤンソン 2001)。心身症は、例えば、日常生活への参加を制限することにより、子どものウェルビーイング全般に影響を及ぼす可能性がある(ケリーら 2010)。その上、幼少期や青年期に心身症を経験すると、成人期の教育達成度が下がるなど、個人に長期的な影響を及ぼすことも研究で明らかになっている(フウレら 2005)。
核家族で暮らす子どもと比較して、別離後の家庭で暮らす子どもは、平均して様々な健康アウトカムでスコアが低くなっている(アマト 2010;カバナとフォンビー 2019;ハルコネンら 2017)。別離後の家庭の子どもの健康状態が悪いことを説明しようとする理論的アプローチは、通常、5つの要因に集中している。即ち、子どもの別居親との接触喪失、同居親による修正、経済的困難の経験、両親間葛藤の暴露、ストレスの多いライフイベントである(アマト 1993)。しかし、別離後の家庭の子どもについて詳しく調べたところ、親の婚姻解消に子どもがどの程度適応しているかにはかなりのばらつきがあることもわかった(アマト 1993;アマト 1994;ハーバーマンズら.2017)。
この観察された異質性を説明する要因の1つは、親の別離や離婚後の子どもの生活の取決めにばらつきがあることである(ハーバーマンズら 2017)。共同身上監護とは、家庭崩壊後、子どもが2つの親世帯で交互に暮らすることによって、両方の親とかなりの時間を過ごすという、新しい子育ての取決めである。この用語の公式な定義はないが、多くの実証研究では、子どもがそれぞれの親と過ごす時間が30%~50%の場合を共同身上監護と呼んでいる(シュタインバッハ 2019)。したがって、共同身上監護は、欧米の多くの国で未だ主流である単独身上監護と区別することができる(ジュビーら 2005)。単独身上監護とは、子どもが殆どまたは独占的に一方の親(多くの場合、母親)と暮らし、もう一方の親とは全くまたは限定的にしか接触しない養育の取決めと定義されている(カンシアンら 2014)。
共同身上監護の実践が子どもの健康にプラスの影響を与える理由の説明は、一般的に、家族崩壊後に両方の親と密接な関係を維持することの利点に言及している(フランソンら 2014)。例えば、研究者は、共同身上監護の取決めにおける頻繁な親子の接触によって、子どもは経験する喪失感が軽減し(トゥルネン 2017)、両親の経済的資源および精神的資源からより効果的に利益を得ることができるのかもしれないと主張してきた(バウザーマン 2002)。しかし、研究者は、共同身上監護が子どもの健康に及ぼす潜在的な悪影響についても注意を喚起している。不安定性が高く(スプライトとダインダム 2009;トゥルネン 2017)、両方の親への愛着が薄く(エミリー 2016)、激しい親同士の葛藤に晒される(トゥルネン 2017)ことで、2人の親の家庭で暮らすことは子どものストレスレベルを高め(バウサーマン 2002;フランソンら 2014)、ひいては、子どもの健康にマイナスの影響を与える可能性がある。
欧米諸国では別居率や離婚率が高く(ハルコネン 2014)、共同身上監護家庭が増加(メリとブラウン 2008;スプライトとデュインダム 2009)していることから、共同身上監護が別離後の家庭の子どもの健康に与える潜在的影響は、公衆衛生に関連するテーマとなっている(バーグストロムら 2019;フランソンら 2016;ハグキスト 2016;ラフトマンら 2014;ニルセンら 2020;トゥルネンら 2017)。この新しい身上監護の取決めは、増え続ける別居または離婚した親にとって重大な選択肢となるが、先行研究では、異なる身上監護の取決めが一定の健康上の利益と関連する可能性があることを示していることから(バウザーマン 2002;スタインバッハ 2019)、共同身上監護と子どもの心身症のリスクとの関係を検証することは、研究者にとって急務となっている。その上、この新しい子育ての取決めについての理解を広げるために、共同身上監護が子どもの健康上の訴えに影響を与える可能性のあるメカニズムを検証することが重要である。
しかし、実際には、別離後の養育の取決めと子どもの身体的健康との関連を調べた実証研究は、ごく僅かしかない。このテーマに関する数少ない既存研究の結果は、異なる身上監護の取決めで暮らす子どもたちの間で、身体的健康が不均等に分布していることを示唆している。これらの研究では、共同身上監護の家庭で暮らす子どもと核家族で暮らす子どもとの間で、心身症の問題に関して差がないか、比較的小さな差しかないことが明らかになった(ハグキスト 2016;ラフトマンら 2014)一方で、共同身上監護の家庭の子どもは、一般的に単独身上監護の家庭の子どもよりも心身症の問題が著しく少なかった(バーグストロムら 2015;フランソンら 2018b;ロフトマンら 2014;ニルセンら 2020。しかし、親子関係の役割に関する科学的根拠は、やや明確ではない。親子関係の質が子どもの心身症と強く関連していることは研究によって立証されている(バーグストロムら 2015;ハグキスト 2016)が、親子関係が身上監護の取決めと子どもの心身症の関連性を媒介するかどうかについては、様々な研究が相反する結論に達している。一方で、ハグキスト(2016)は、親子関係を統制した後に関連が弱まることを示すことで、親子関係が身上監護の取決めと子どもの心身症との関連を媒介することを示す幾つかの根拠を示した。もう一方で、バーグストロムら(2015)は、子どもの生活の取決めと心身症のレベルとの関連について、親子関係の媒介的役割を示す科学的根拠を見出せなかった。このように結論の出ない不完全な知見のため、別離後の子育ての取決め、親子関係と、子どもの心身症との関係をより明らかにするために、更なる実証研究が必要である。
本研究の目的
本研究は、ドイツに住む7歳から14歳の子ども473人を対象に、身上監護の取決めと子どもの心身症との関連について調査し、このテーマに関する一連の研究に貢献することを目的としている。第1の目的は、共同身上監護の取決めで暮らす子どもと単独身上監護権の取決めで暮らす子どもの間の心身症有病率の潜在的な差異を明らかにすることである。また、共同身上監護はしばしば親子の絆の強さと関連する(メリとブラウン 2008;スプライトとデュインダム 2009)ことから、第2の目的は、母子関係や父子関係が身上監護の取決めと子どもの心身症との関連性を媒介するかどうかを検証することである。加えて、本研究は、母子関係と父子関係の効果を区別した初めての実証研究として、この関連性に関する一連の文献に重要な貢献をするものである。更に、このテーマに関する全ての先行研究は、共同身上監護の普及率が比較的高い(ノルウェーでは全離婚後家庭の30%(キッターロッドとウィーク 2017)、スウェーデンでは40%(フランソンら.2018a))ノルウェーとスウェーデンの2カ国に限定されている。従って、本分析は、共同身上監護の家庭の数が比較的低いままで(スタインバッハら 2021)、この新しい身上監護の取決めを実践している別離後の家庭が全体の4~5%に過ぎない国のデータを用いて、共同身上監護と子どもの心身症の関連性を検討した最初の研究である(ウォルパー 2016;ワルペレットら 2020)。
研究方法
データ
統計解析は、15歳未満の子どもが少なくとも1人いる核家族および別離後の家族1554人を対象とした全国便宜的サンプル「ドイツにおける家族モデル(FAMOD)」研究のデータに基づいている (https://search.gesis. org/research_data/ZA6849)。本研究はドイツ研究財団(DFG)の資金援助を受けており、データは2019年に収集された。FAMOD研究の主な目的は、ドイツ全土の別離後の家庭における親と子どものウェルビーイングを、特に共同身上監護の取決めに焦点を当て、調査することである。ドイツでは共同身上監護の家庭はかなりまれであり、これらの家庭を公的統計では特定できないため、FAMOD調査では共同身上監護親の家庭をオーバーサンプリングしている。結果として、FAMODは十分な数の共同身上監護の家庭を含む唯一の全国調査であり、従って、ドイツでこの新しい身上監護の取決めを調査するために使用できる唯一のデータセットである。
FAMODのサンプルは、⒜家族モデル(核家族、単独身上監護の家庭、共同身上監護の家庭)と⒝選択された研究対象の子どもの年齢(0~6歳、7~14歳)で層別化された。FAMOD調査の対象となるもう一つの前提条件は、別離後の家庭の場合、対象の子どもが実の親の両方と接触していることであった。回答者は全て、共同身上監護を実践している家族を特定し、希少なサブグループ(例えば、幼い子どもがいる共同身上監護の家族)を特定するために雪だまる法を使用するカンター・パブリックのプロの面接者の助けを借りて募集した。
FAMODはマルチアクターデザインを採用しているため、研究者は4つの異なるグループの回答者から情報を得ることができる。即ち、同居親(アンカー)、7歳から14歳までの選ばれた子ども(対象児)、対象児の別居親、および同居親のパートナーからである。アンカーへのアンケートでは、同居親の社会人口統計学的特性、健康やウェルビーイング、対象となる子どものもう一方の実親との別居や離婚に関する情報などを含め、幅広いトピックに関する情報を収集した。子どもへのアンケートは、子どものウェルビーイングの様々な側面(例えば、心理的、社会的、認知的ウェルビーイング)、子どもと他の家族メンバーとの関係、家庭崩壊のさまざまな側面に焦点を当てた。本研究の目的のため、同居親と対象の子どもの両方からの情報を使用した。FAMOD調査のもう一つの特徴は、居住カレンダー(ソデルマンズら 2014)を用いることで、別離後の家庭の親が、家庭崩壊後に子どもがそれぞれの実親と暮らしていた時間について詳細な情報を提供できたことである。このような居住カレンダーの使用に関連する大きな利点は、研究者が両親の自己評価に頼ることなく、単独身上監護と共同身上監護の取決めを明確に区別できることである(カンター・パブリック 2020;スタインバッハら 2020)。
分析サンプル
ドイツにおける家族モデルの研究では、7歳から14歳までの670人の対象の子どもに面接を行った。核家族で暮らす全ての子ども(n=136)、身上監護の取決めが確定できない子ども(n=37)、実の両親がお互いに連絡を取り合っていない子ども(n=24)をサンプルから除外し、最終的に分析サンプルとなった子どもは合計473人であった。媒介変数と統制変数の全ての欠損値は,多重代入(50回の代入を伴う連鎖式手順を使用)により代入を行った。
測定方法
子どもの心身症 従属変数は、子どもの心身症で、対象である子どもの自己申告に基づくものである。心身症の訴えを幅広くカバーする8つの項目を用いて、子どもに⑴頭痛、⑵腹痛、⑶睡眠障害、が発生した頻度、⑷めまい、⑸倦怠感や疲労、⑹吐き気、⑺落ち着かない、あるいは緊張、を感じた頻度、⑻食欲減退や摂食障害、に陥った頻度を尋ねた。これらの項目は、1=「全くない」から5=「非常によくある」までの回答カテゴリーがあり、これらを組み合わせて平均尺度を作成した。これらの項目は、1=「全くない」から5=「とてもよくある」まであり、これらを組み合わせて平均尺度とし、数値が高いほど、子どもがより多く心身症の問題を抱えていることを示した(クロンバックのα係数=0.86)。
身上監護の取決め 独立変数は、ある別離後の家庭で実践している身上監護の取決めである。身上監護の取決めの種類を特定するために、本研究では、同居親から提供された、通常1カ月間の子どもの生活の取決めに関する居住カレンダーから情報を取り出した。一方の親との同居率が30%未満である場合、その家庭は単独身上監護であると判定した(0)。それに対して、子どもがそれぞれの親と30%以上一緒に暮らしている場合、その家庭は共同身上監護を実践していると判定した⑴(シュタインバッハ 2019も参照)。
母子関係と父子関係 母子関係と父子関係の質は、「母親との関係は良いか悪いか」、「父親との関係は良いか悪いか」という質問に対し、子どもが自己申告した回答を使用して評価した。両方の変数には、1=「非常に悪い」から5=「非常に良い」までの範囲の回答カテゴリーがあり、値が高いほど、子どもとそれぞれの親との関係が良好であることを示唆している。
統制変数 子どもの社会人口統計学的特性は、性別(0=男、1=女)、年齢(7~14歳)、継親の数(0=継親なし、1=継親1人、2=継親2人)であった。母親の教育水準と父親の教育水準は次のように測定した。0=「低学歴」(即ち、学校卒業証書なし、あるいはドイツの三部制中等教育制度の最低公式資格)、1=「中学歴」(即ち、中間の中等教育資格)、2=「高学歴」(即ち、少なくとも応用科学大学への入学資格を満たす資格)。親が別離している時間は、データを収集した年と両親の関係が終了した年を用いて測定した。合計すると、親が別離している時間は、0~15年の範囲だった。親同士の関係の質は、同居親に投げかけた、「あなたは[対象である子どもの名前]の実父[母]とどの程度仲が良いですか?」という質問で評価した。この項目の回答カテゴリーは、1=「非常に良い」から5=「非常に乏しい/非常に悪い」の間であった。統計解析のために、この尺度を再コード化し、値が高いほど母親と父親の関係が良好であることを示すようにした。子どもと仲間との関係を測定するために、マステンら(1985)が開発した、子どもが仲間から拒絶されたと感じる程度を評価する尺度に基づいた3つの項目、「意地悪される」、「仲間に入れてくれないことがよくある」、「私に関心を示してくれないことが多い」を使用した。これらの項目は、1=「全く正しくない」から5=「完全に正しい」までの回答カテゴリーを持ち、組み合わせて、得点が高いほど仲間との関係が良いことを示す平均尺度を作成した(クロンバックのα係数=0.77)。全ての変数の記述統計は表1に示すとおりである。
統計解析
データ分析は、STATAソフトウェアバージョン15.0を用いて行った。身体的監護の取決めと子どもの心身症との関係を明らかにするために、ステップワイズ線形回帰モデルを推定した(表2参照)。最初の回帰モデルは、子どもと親の社会人口統計学的特性を統制しながら、身上監護の取決めと子どもの心身症レベルの相関を示したものである。この統制変数のセットは、先行研究がこれらの変数が別離後の監護の取決めの分析に重要であると認定していることから選ばれたものである。2つ目のモデルは、更に、異なる家族関係や子どもの仲間との関係を測定する変数を考慮する。身上監護の取決めと子どもの心身症との関連が、親子関係によって媒介されるかどうかを検証するために、一見無関連な回帰モデルを推定した(図1参照)。
結果
身上監護の違いによる心身症
表1の記述結果は、別離後の家庭の子どもは、心身症の訴えのレベルが比較的低く、1〜5段階評価で平均値1.7であることが示した。また、単独身上監護の家庭で暮らす子ども(1.8)と共同身上監護の家庭で暮らす子ども(1.6)の心身症レベルの差も比較的小さかった(差は僅か0.2点であった)。両方の身上監護の取決めを通じて、最も一般的な心身症の訴えは、頭痛(1.9)、腹痛(2.0)、倦怠感または疲労(2.1)であることがわかった。対照的に、子どもが報告した中で最も少ない問題は、めまい(1.4)と食欲減退または摂食問題(1.4)だった。
表2の線形回帰モデルの結果から、モデル1において子どもおよび親の社会人口統計学的特性を調整した後、身上監護の取り決めと子どもの心身症との間には統計的に有意な関係があり、共同身上監護の取決めで暮らす子どもは単独身上監護の取決めで暮らす子どもより心身症が少なかった(β=-0.16; p < 0.001)。モデル2において、家族関係や子どもの仲間との関係を統制すると、身上監護の取決めの推定効果量は大きく減少したが、関連は有意に保たれた(β=-0.10; p < .05)。以上の結果から、心身症のリスクは別離後の養育の取決めの間で均等に分布しておらず、共同身上監護の家庭で暮らす子どもは単独身上監護の家庭で暮らす子どもに比べて心身症が有意に少なかったことが示唆された。
親子関係の媒介的役割
親子関係が身上監護の取決めと子どもの心身症との関連を媒介するかどうかを調べるために、媒介分析を行った。図1の一見無関連な回帰モデルの結果から、身上監護の取決めは、母子関係(B=0.14; p < .05)と父子関係(B=0.39; p < .001)の両方に有意に関連し、共同身身上監護はよりよい親子関係を予測することが示された。しかし、子どもの心身症に有意な影響を与えたのは母子関係のみであり(B=-0.18; p < .001)、父子関係は子どもの心身症レベルとは無関係であることも示された。更に計算すると、身上監護の取決めの総効果は-0.14(z=-2.82; p < .01)であり、母子関係を介した間接効果は-0.03(z=-2.16; p < .05)であった。その結果、子どもの心身症の訴えに及ぼす身上監護の取決めの総効果の18.3%が、部分的な媒介を示すものもある、母子関係の質によって説明された。
統制変数
分析で考慮した統制変数について、モデル2の結果は、社会人口学的特徴のうち、子どもの心身症レベルと統計的に有意な関係があるものは僅かであることを示唆している。例えば、女子は男子より明らかに多くの心身症の訴えを報告した(β=0.11; p < 0.01)。その上、子どもの年齢と心身症との間には負の相関があり、つまり、年齢が高いほど心身症が多く報告された(β=0.16; p < 0.001)。更に、子どもの仲間との関係は、子どもの心身症経験の強い予測因子であった。仲間との関係が良好であることは、心身症が少ないことと有意かつ強く関連していた(β=-0.42; p < 0.001)。最後に、子どもの心身症は、継親の有無、母親と父親の教育レベル、両親の別離期間、親同士の関係の質との間に有意な関連を認めなかった。
結論
欧米の殆どの国で離婚率や別居率が高水準で安定的に推移する中、ますます多くの親が子どもの成長に合わせて別離後の養育の取決めを選択する必要に直面している。共同身上監護は、子どもが両方の親と交互に暮らすことで、父親と母親と間でほぼ平等に子どもと過ごす時間を配分する新しい子育ての取決めであり、単独身上監護に代わる有力な選択肢として、増え続ける別離後の家族にとって重大な選択肢となっている。共同身上監護は子どもの健康に影響を与える可能性が高いため、研究者は公衆衛生の観点も含め、この新しい養育の取決めの研究にますます関心を示している(バーグストロムら 2015;フランソンら 2018b;ハグキスト 2016;ロフトマンら2014;ニルセンら 2020)。子どもの健康に対する共同身上監護の意味について理解を更に深めるために、本研究では、共同身上監護または単独身上監護のいずれかを実践している別離後の家庭で暮らす7歳から14歳のドイツの子ども473人のサンプルにおいて、身上監護の取決め、親子関係、子どもが心身症を経験するリスクの関連性を調査した。
統計解析の結果、心身症のリスクは別離家庭の間で不均等に分布しており、共同身上監護で暮らす子どもは単独身上監護で暮らす子どもよりも心身症が有意に少ないとする仮説の根拠が示された。この関連は、子どもや親の社会人口統計学的特性、子どもの家族関係、子どもの仲間との関係で統制しても有意であった。更に、共同身上監護はより良い母子関係と関連し、それが子どもの心身症レベルの低さを予測することが示され、身上監護の取決めと子どもの心身症との関連性の一部は、母子関係の質によって説明できることが分析から示唆された。しかし、父子関係については、子どもの心身症の訴えとの間に有意な関連は認められなかった。
本研究の結果は,単独身上監護の家庭の子どもは,共同身上監護の家庭の子どもよりも心身症が多いことを示した先行研究の結果と概ね一致する(バーグストロムら 2015;フランソンら 2018b;ラフトマンら 2014;ニルセンら 2020)。しかし、先行研究は、母子関係と父子関係の影響を区別していなかった(バーグストロムら 2015;ハグキスト2016)。その結果、本研究は、親子関係の関連性に関する先行研究の知見と矛盾し、身上監護の取決めと子どもの心身症の訴えとの関連性の一部を説明できるのは母子関係だけであることを示している。
本研究は、子どもの自己申告による心身症のレベルと、住宅カレンダーによる情報を用いていることが強みである。更に、本研究では、幅広い心身症を考慮し、母子関係と父子関係の影響を分離した。とはいえ、この研究の結果は、幾つかの制約を念頭に置いて解釈されなければならない。第一に、ドイツにおける家族モデル研究は便宜的なサンプルとして概念化されているため、本研究の結果は、ドイツの別離後の家族を代表するものではない。しかし、シュタインバッハら(2020)は、同居親の社会人口学的特性(例えば、年齢や教育レベル)の分布が、ドイツの親を代表する他の調査の回答者の分布と殆ど同等であることを実証している。第二に、FAMOD調査の横断的な設計に基づき、別離後の養育の取決めと子どもの心身症との因果関係を明らかにすることはできなかった。例えば、子どもの心身症のレベルが高い場合、2つの家で暮らす子育てに伴う高いストレスレベルから子どもを守るため、両親が共同身上監護を実践できない可能性がある。同様に、共同身上監護と親子関係の質との因果関係についても、本研究ではコメントすることができない。共同身上監護が親子関係-特に父子関係-の改善につながるとする根拠はあるが(バステとパステル 2019)、家庭崩壊前に子どもとの関係が良好であった親は、共同身上監護の取決めを選択する可能性が高いという可能性もある(特に、子どもが父親と密接な関係を持っていた場合)。
第三に、横断的なデータを用いたため、選択過程が共同身上監護の取決めで暮らす子どもの心身症の有病率の低さを説明できるかどうかを検証することができなかった。例えば、共同身上監護を実践する親は、子どもの健康に良い影響を与える可能性のある様々な特性の観点から、積極的に選択された集団であることが分かっている。これらの特性には、高い教育水準と所得水準(カンシアンら 2014;キッターロッドとリングスタッド 2012;ソデルマンズら 2013)、互いに協力する能力の高さ(トゥルネン 2017)、低い両親間葛藤レベル(キッターロッドとリングスタッド 2012;ソデルマンズら 2013)、などがある。第四に、本研究の対象である子どもの圧倒的多数は母親と同居していたため、本研究は父子関係と子どもの心身症のレベルとの関係が過小評価されている可能性がある。例えば、分析サンプルに含まれる子どものうち、父親の家に主たる住居を持つ子どもは5.7%に過ぎず、74.6%は主に母親と同居している。残りの19.7%の子どもは、対称型共同身上監護の取決め(例えば、子どもがそれぞれの親と暮らす時間を半分ずつにする取決め)であるため、主たる住居を持たない子どもであった。そのため、今後の研究では、子どものが主として共に暮らす親が父親である家庭をより多く取り上げ、父親が同居親である場合に、父子関係が子どもの心身症にとってより重要であるかどうかを検証する必要がある。
要約すると、本研究は、家庭崩壊後に両方の親と暮らすことが子どもの健康に及ぼす影響、即ち子どもの両親との関係性についての洞察は勿論のこと、共同身上監護が子どもの健康に及ぼす影響についての洞察を提供し、文献に顕著な貢献を果たした。更に、母子関係と父子関係を別々の要因として分析することで、本研究は特定のリサーチギャップを埋めた。また、本研究で得られた知見は、実践に重要な示唆を与えている。第一に、共同身上監護の取決めで暮らすことが、別離後の家庭の子どもの健康を害するとは考えられないことに留意すべきである。それどころか、本研究では、共同身上監護の取決めで暮らす子どもは、単独身上監護の取決めで暮らす子どもよりも心身症の訴えが少ないと報告されたことを示している。とはいえ、他の研究では、両親間の葛藤レベルが高い(アウグスティヌス 2021;エラムら 2016;カルミン 2016)、別離前に父親が育児に関与している(ポートマン 2018)といった要因が、共同身上監護と子どもの健康の間の別のポジティブな関係を変化させている可能性があることを念頭に置くことが重要である。
第二に、別離後の家庭における子どもの健康を改善することを目的とした法政策や介入プログラムは、親子関係の質を含め、子どもの生活の取決め以外の要因が子どもの健康に影響を与える可能性があることを考慮すべきである。良好な親子関係は、子どもが両親の別居や離婚に適応するための貴重な資源であり、ひいては子どもの健康を向上させる可能性がある。従って、介入策は、子どもと親が良好で親密な関係を築き、維持する機会を作ることを目指すべきである。なぜなら、このような関係は子どもの健康を保護する効果を持つ可能性があるからである。第三に、子どもの仲間との関係と心身症の訴えとの間に強い関連が見出されたことから、介入プログラムは、子どもの健康とウェルビーイングに対する肯定的な仲間との関係の関連性を無視してはならないことである。
研究助成 オープンアクセスの助成はProjekt DEALによって実現、運営されました。この研究は、ドイツ研究財団のプロジェクト番号394377103の支援を受けました。
データおよび資料の利用可能性 本研究の結果を裏付けるデータは、GESIS Data Archiveで公開されています。(https://search.gesis.org/research_data/ZA6849, DOI:https://doi.org/10.4232/1.13571)
宣言
利益相反 著者には、この記事の内容に関連して宣言すべき利益相反はありません。
倫理承認 ドイツ研究財団(DFG)がデータの匿名化と公開性のための承認を要求しなかったため、この研究は研究倫理委員会に提示しませんでした。
参加の同意 研究に関わる全ての個々の参加者からインフォームドコンセントを得ました。
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参考文献
省略します(訳者)