付属資料4 家庭内虐待事件 「私はどうなるの?」両親離別後の家族への支援を見詰め直す
「私はどうなるの?」
両親別離後の家族への支援を見詰め直す
家族問題解決グループの報告書
(私法作業部会のサブグループ)
2020年11月12日
1 この付属資料は、私たちの報告書の第4章セクションFにある家庭内虐待に関する幅広い意見と合わせてお読みください。私たちの勧告は、「スタッフォードシャー・ウーマンズ・エイド」のディッキー・ジェームス大英帝国勲章MBEと「家庭内暴力を終わらせるための支援と行動」(SATEDA)のライザ・トンプソン博士に協力を頂いて策定しました。また、6月に公表されたMoJのハーム・レポートの結果も考慮しました。
A.家庭内虐待のための安全スクリーニング
2 全てのメディエイターが家庭内虐待のスクリーニングに関する詳細な訓練を受けることが急務です。私たちは、家事メディエーション評議会(FMC)が昨年の夏の私法作業部会(PrLWG)のコンサルテーションに対する回答でこの必要性を認めていることに注目し、家事メディエーション基準委員会(FMSB)にその対応を依頼したと理解しています。
3 家族問題解決グループは、全てのメディエイターが、認定メディエイターであろうと認定を目指すメディエイターであろうと、家庭内虐待の安全スクリーニングに関する特別な訓練を受け、最新状態を保証するために毎年の継続的専門能力開発(CPD)要件にすべきだという明確な見解を持っています。
4 MoJのハーム・レポートでは、家庭内虐待のスクリーニングを行う人のための重要な知識の分野として、以下の項目が挙げられています。
・家庭内暴力に対する深い理解
・家庭内虐待の認識
・家庭内虐待と人種、宗教、文化、障害者問題、移民問題との交錯
・虚偽の申し立てに対する理解
・子どもへの影響と子どもが経験する家庭内虐待の内容
・幼児期の発達とアタッチメント理論
・子どもに対する性的虐待の性質と性的虐待の蔓延に関する理解
・トラウマとその影響
・リスクアセスメント
・虐待の類型を超えたリスク間の相互作用
・性犯罪に関する法律
・傷つきやすい被害者の特定
・無意識のバイアスと確証バイアス
・多様な顧客層に対する虐待の理解
・虐待を継続するためのコンタクト(接触)に対する認識
・加害者の行動変化を構成するもの
・地域的、全国的に利用可能な被害者支援に対する認識と、他の機関との効果的な調整
5 これらの重要な知識の分野の一部はトレーニングによって提供することができますが、知識は実践に応用されなければならず、これはスクリーニングツールの効果的な使用によって左右されます。
6 第一線の警察官向けの家庭内虐待リスク評価ツール(DARA)改訂版に関する警察大学の評価報告書(2018年)では、改訂されたリスク評価ツールは、それだけでは不十分であり、身体的な虐待事件以上に、威圧的で支配的な虐待およびこれらの虐待行為が被害者や虐待から逃れた人にもたらすリスクについての理解とともに使用されなければならないと述べています。私たちは、承認済リスク評価ツールの使用を補完するために、メディエイターのトレーニングにおいても、同様のアプローチをとることに同意し、推奨します。
7 強制的支配のケースでは、加害者が全く合理的であるかのように振舞うと、それを正しく識別することは、全ての家族専門家にとって特に困難です。私たちは、慈善団体「セイフ・ライブス」のDASHリスク・チェックリストや、(トンプソン博士と個別に)DARAと慈善団体「家庭内暴力、共に回復する」(DART, Domestic Abuse, Recovering Together)のチェックリストのようなタイプのチェックリストについて、その価値を検討しました。これらは有用なツールですが、他のリスクアセスメントと同様、単にチェックリストとして使用するのであれば、不完全なものです。メディエイターは、依頼者と関わり、信頼関係を築く必要があります。そうして初めて、メディエイターは依頼者の関係における力学について、自らの専門的判断を信頼することができるようになるのです。チェックリストは、単にリストとして使用するのであれば、限られたリソースですが、不可欠な出発点です。私たちは、メディエイターが、承認済リスク評価ツールを効果的に使用するためのトレーニングを行うことを勧告します。
[訳者注]DASHはDomestic Abuse, Stalking and Honour Based Violence(家庭内暴力、ストーカー行為、嫌がらせ、名誉に基づく暴力)の略語です。このリスク評価ツールは、最高警察官協会(ACPO, Association of Chief Police Officers)のローラ・リチャーズがCAADA(家庭内暴力に対する協調行動,現セイフ・ライブス)と共同で開発しました。
B.メディエイターに専門家認定?
8 研修が必要であるとの見解から、私たちは、高葛藤の事件の依頼者を担当するメディエイターを専門家認定するという「道を切り拓く」の勧告を検討しました。私たちは、家庭内虐待の研修を強化する必要性を支持しますが、高葛藤かつまた家庭内虐待の専門家認定は支持しません。
8.1 専門家認定は、全てのメディエイターが、適切な適合性の評価能力は勿論のこと、家庭内虐待と高葛藤(そして両者の区別)について十分な訓練と理解を身に着けるという義務を軽減することになります。
8.2 特別に認定されたメディエイターとのアポイントメントを確保するには、予約時点で依頼者の状況を把握する必要があります。しかし、依頼者がその時点で自分の状況を明確にしているとは限りません。
8.3 また、私たちはレイチェル・ブレイキー氏の論文も気に留めています173。彼女は、メディエイターの役割が、主に促進的なものから、より評価的なものへと変化していることを分析しています。虐待が立証されず、法律扶助の閾値を満たさない場合、依頼者はメディエーションと並行して法的助言と支援を受けることができなくなり、完全に促進的なまま、依頼者に法的助言を紹介するという、これまで培われてきたやり方は不可能になります。メディエイターはますます柔軟性を発揮せねばならず、依頼者のニーズを満たすために、時にはより強固で評価的なアプローチを採用する必要が出てきています。過去の家庭内虐待の事件を見て、私たちはこのようなメディエイターの役割の幅広い理解が重要だと考えています。
C.メディエーションを不適切と評価する~ノーと言うことの重要性
9 メディエイターは、たとえ依頼者がメディエーションに関与する意思がある、あるいは熱心でさえあるように見える場合でも、特定の事件ではメディエーションが不適切であると評価することの重要性を理解する必要があります。私たちは、これがMIAM標準として正式に認められることを勧告します。メディエーションに「いいえ」と答えるのは、次のように場合です。
・私たちは、依頼者に希望を与えることを目指すべきであり、依頼者を真っ向から拒絶するようなことはしてはいけません。
・私たちは、別の経路、つまり、適切な支援に通じる裁判所や幾つかの他の経路を提供しなければなりません。
・私たちは地域のサービスと十分に連携しなければなりません。地域の機関同士のコミュニケーションが重要です。
・私たちは、「管理された引継ぎ」の必要性について議論しましたが、これは、地域の様々な機関の間の強力な協力関係から生まれるでしょう。私たちは、地域の家庭内虐待サービスとメディエイターの両方が、脆弱な家族を支援するために、より協力的な仕事の方法を開発するために、お互いに関与することを強く勧告します。
D.他の経路を理解し、適切なサポートにアクセスする
10 代替経路を理解することは、メディエイターが賢く評価し、メディエーションに「ノー」と言うタイミングを明確にする自信を持つ上で重要です。メディエイターが依頼者の他の選択肢についてあまり理解していない場合、特に依頼者にその気があるようだと、(助けたいという気持ちから)メディエーションを提案する傾向が強くなるかもしれません。従って、依頼者が適切な支援にアクセスできるよう他の経路を提案することは、メディエーションが不適切であるいう評価の一部でなければなりません。
10.1 メディエイターは、家庭裁判所が依頼者のために、身体的、心理的、結果的に安全な裁判手続きを提供することを信じなければなりません。家族問題解決グループのメディエイターは、家庭内虐待の被害者が、メディエーションよりも裁判を恐れており、2つの害悪のうち害の少ない方としてメディエーションに同意するよう寄り沿った経験があります。私たちは、6月に発表されたMoJのハーム・レポートを歓迎し、これが家庭内虐待の全ての被害者にとって安全な裁判手続きにつながることを望んでいます。メディエイターは、被害者の事件が安全に処理されること、そしてそれが被害者にとってより安全なルートであることを被害者に安心してもらわねばなりません。
10.2 メディエイターは、地域の家庭内虐待サービスだけに限定せず、家庭内虐待の被害者に対する地域の支援源を理解する責任を負わねばなりません。これはFMSBが決定することですが、私たちは、家庭内虐待の被害者に支援を提供する人々と何らかの形で、地元で関わることを、毎年のCPDの要件とすることを勧告します。地域の家庭内虐待セクターとの連携は、大いに奨励されるべきです。
11 依頼者が適切な支援にアクセスすれば、後の段階で、依頼者が安全な場所にいるときにメディエーションの経路に戻ることがあり得ます。メディエーションは非常に大きな力を与えてくれますが、それは適切な時期に適切な方法で提供された場合に限られるというのが、ジェームス大英帝国勲章MBE女史の見解です。適切なタイミングと方法で提供されれば、人生を立て直し、回復の旅路において依頼者が自ら選択する力を与える能力があります174。私たちは、メディエーションが安全かつ適切に実施されるよう、様々なセーフガードとメディエーション手続きに関するトレーニングを行えるようにすることを勧告します。
E.実践声明
12 MoJのハーム・レポートは、家庭内虐待やその他の危害のリスクの問題を提起する事件について、実践声明を採用するよう勧告しています。家族部部長は、「実践声明」を推進し、実践声明が「子どもの取決めプログラム」に導入されるべきであると勧められています。私たちは、これと同じレベルの理解と安全実践が、法廷に行く前の期間や、家庭内虐待のスクリーニングを行うメディエイターにも適用されるべきであると考えています。
13 私たちは、MoJのハーム・レポートの「実践声明」をアレンジして、メディエイターの実務を反映させることを勧告しました。その内容は以下の重要な点を含みます。
・家庭内虐待の申立てや、親や子どもから寄せられるその他の保護に関する懸念を丁重に扱い、支援のための適切な指針を提供します。
・メディエーション手続きと意思決定は、ジェンダーバイアス、人種差別、ステレオタイプ、偏見に満ちた仮定を含む、いかなる形のバイアスからも制約を受けません。
・メディエーション前提と手続きそのものが、全ての依頼者に安全と安心を提供することを目的としています。
・メディエイターは、虐待的または支配的な方法でメディエーション手続きを利用しようとする者に注意を払います。そのような行動を積極的に特定し、メディエーションを中止します。
・メディエイターは、子どもへの危害やリスクの問題を抱える人々への協調的な方針提供と支援を確保するために、地域の諸機関との積極的な連携を維持します。
・子どもに影響がある事柄は、UNCRCに基づく子どもの権利に従って、その子どもの意見が求められるべきです。
勧告事項の要約
14 私たちは、家庭内虐待のスクリーニングについて、すべてのメディエイターに以下のような具体的なトレーニングを行うことを勧告します。
・メディエイターが承認済リスク評価ツールの使用を補完するために、威圧的、支配的な虐待を特に理解した上で、あらゆる形態の虐待に関するトレーニング
・承認済リスク評価ツールの効果的な使用方法に関するトレーニング
・家庭内虐待の被害者のための別経路を理解するためのトレーニング
・家庭内虐待の被害者に支援を提供する人々との地域的な関わりに関する毎年のCPD要件化
・メディエーションを安全かつ適切に実施することを保証するために使用される、様々なセーフガードとメディエーション手続きに関するトレーニング
・「高葛藤」事件と「家庭内虐待」事件との区別、およびそれぞれの事件への適切な対応に関するトレーニング
メディエイターに対する私たちのトレーニング勧告は、付属資料7に記載しています。
15 私たちは、虐待が要因となる家族に関わる際の基準や安全な実践を確認するために、MoJのハーム・レポートが裁判所に提案したように、メディエイターの「実践声明」の採用を勧告します。
16 私たちは、メディエーションを不適切と評価することを、FMSBが設定する基準の一部として、MIAM基準として正式に認めることを勧告します。
(了)