アメリカ合衆国の共同監護について
法制審議会家族法制部会の参考人資料転載、第4弾です。アメリカの最新の状況を報告された山口亮子氏の資料を法務省ホームページの議事録と説明資料とを組み合わせて記載しています。
家族法制部会第5回会議(2021年7月27日)
アメリカ合衆国の共同監護について
関西学院大学 山口亮子
関西学院大学の山口亮子です。私からはアメリカ合衆国の共同監護について御報告いたします。
まず,アメリカ合衆国の子をめぐる概要を挙げております。日本法との違いを主に申し上げますと,アメリカで未婚で子が出生する割合は約40%,離婚率は約50%であり, これに対し日本での未婚による子の出生率は約2%,離婚率は約35%となっております。 アメリカ法で親権といいますとペアレンタル・ライツとカストディという言葉がありますが,親であれば婚姻の有無にかかわらず持っているのがペアレンタル・ライツで,権利とともに扶養義務を有します。実際,子に対して権利,義務をカストディと呼びまして,日本民法の親権はアメリカの監護権に近いです。
続きまして,共同監護法成立の背景に行きます。アメリカは州ごとに家族法が異なりますが,全米として見た場合,次のような変遷が見られます。1960年代から各州で離婚法の改革が行われまして,有責主義から破綻主義へ移行しました。これにより離婚数が上昇しまして,子の監護についての関心も高まりました。この時期に家族観,ジェンダー感の変化も現れ,父親の権利思潮も高まりました。また,従来の単独監護法制では限界も見えてきましたので,勝敗を作らない監護形態である共同監護が望まれましたし,父母双方から子に対する責任の共有が望まれていました。再婚率は70%ありますので,親たちは自分の新しい人生を出発させるためにも,また,両親とも有職者である場合が多いですので,離婚後も子の面倒は双方で見るという必要がありました。さらに,この時期,心理学,行動学等による追跡調査やインタビュー調査が行われまして,離婚後の親子の交流と子の利益の調査が盛んとなりました。従来の単独親権では憲法違反の可能性もありましたが, 憲法訴訟を待つまでもなく,各州法は法改正を行い,共同監護法を定めていきました。その皮切りとなりましたのがカリフォルニア州の共同法的監護と共同身上監護です。1990年代には全州で立法又は判例法で共同監護法が成立しています。現在はジョイント・カストディという言葉を用いないところが多く,ペアレンティング・プランの作成により共同監護を達成しています。アメリカの離婚は全て裁判離婚ですが,両親が別居,離婚時に協議で個別具体的に,養育費を含め,子どもに関する養育計画書を作成します。そして, それを裁判所へ提出し,それを裁判所が認めることで,裁判所命令となっていきます。
裁判規範として規定されている各州の共同監護法の種類をここに挙げました。各州の立法にはそれぞれ特徴がありますが,次のような形態が存在します。各州によって共同監護の優先性は異なりますが,当初の立法から後退するのではなく,共同監護を子の利益として推定している州が増えています。それは,子どもの心身の発達のために,子は両親双方との関係が重要であること,経済的にも親双方が責任を果たすことが求められているからでして,子の教育は親の権利であり,親の責任であることが親にも国家にも認識されております。親の教育権に関しましては,一連の憲法裁判がありますが,現在,連邦法で,親には子の学校の成績に関する情報を閲覧する権利というものが認められています。アメリカの家族観というものは,団体ではなく妻と夫,父と子,母と子という個人的な結び付きの関係性で成り立っていると捉えることができると思います。なお,アメリカ法は親の養育や面会交流につきまして,先ほどお話がありましたように,子どもの権利構成は採っておりません。子どもの利益を飽くまでも州が保障するという形を採っております。
続きまして,2ページにまいります。共同監護の現状としまして,各州で調査された数値を挙げました。おおよその傾向が分かると思います。共同法的監護が約6から8割,共同身上監護が2割から5割ほどだと思います。しかし,共同身上監護といいましても,大体1対2とか1対3の宿泊から共同身上監護とみなしているようでして,必ずしも1対1,フィフティ・フィフティが強いられているわけではありません。1週間置きの週末に親子が面会交流して別居親宅に宿泊したり,長期の休みのときに別居親宅で暮らすというパタ ーンが多いようです。ペアレンティング・プランの中で共同身上監護とはせずに養育時間として捉えられています。
共同監護の評価としまして,1980年代から2000年代まで,社会科学者によるインタビュー調査,資料調査が行われました。注にありますが,それら40個の調査をまとめたもの,また,そこに含まれる個別の文献を参考にしたものをここでは挙げております。 この調査では,未婚や離婚の違いなく無作為に抽出したサンプルだったり,離婚後のサンプルだったり,裁判所資料だったりしています。また,調査対象の数や期間も様々です。 個々の研究では親の年収や学歴,住居の距離,再婚の有無,子の性別,年齢等,多くの変数による細かい数値が出されていますが,取りあえず大まかにまとめてみました。
これらの調査としましては,共同身上監護を経験している子たちの方が単独監護の子どもたちよりも精神的,行動的,心理的,身体的健康が優れているという結果が出されております。また,父母の高葛藤にかかわらず,別居親宅の宿泊日数が長いほど,子は父とよい関係を保っているということです。母への調査に関しましては,共同監護と単独監護, それを経験している双方の母親へのインタビューでは,子の心身の健康状態に変わりはないという結論です。また,母の精神的不安や父母の高葛藤と子の精神状態には関連性があると言われております。裁判官への調査としまして,インディアナ州で1998年と20 11年の調査が行われました。2011年にはあらゆる年代の子に共同監護がふさわしいと考える裁判官の割合が増加しています。また,2011年には87%の裁判官が,両親が合意していなくとも共同法的監護を付与したいと答えています。
まとめますと,子どもの感覚としては別居親と頻繁に会いたいと思っており,交流の頻度と親の紛争状態が子の幸福感と関連しているようです。高葛藤両親のカウンセリング後に,共同身上監護の子どもたちはストレスや不安,問題行動が少なくなったと言われています。また,乳幼児期でも共同身上監護は悪い結果は出されていないということです。結論としまして,あらゆる年代で共同身上監護は子によってよい結果を得ている,ただし, 父の暴力があると子とよい関係は築けていないということです。しかし,先ほど菅原先生の報告にもありましたように,うまくいっているので共同身上監護はいい結果が出されているということは言えるとは思います。
3番目です。共同監護の実現を支えているものとして,以下,七つ挙げました。まず, 州の方針としまして,婚姻外でも子は両親と頻繁かつ継続して交流すること,両親から養育を受けることが子の最善の利益であると推定するという州の基本政策を州法に明示しているというのがアメリカ法の特徴です。これが行為規範となりまして,親は共同監護を前提として婚姻外の養育計画を立てることになります。そして,共同監護を達成するために社会資源が整えられていきます。共同監護が広がって40年以上がたっていますが,もはや共同監護は当然のこととして受け入れられており,それに向けて調整が図られているという現状です。
先ほど述べましたように,養育計画書というものを両親は数ページにわたり,個別具体的に子に関する法的決定の所在や子と過ごす時間を計画します。意見の対立,不履行が生じた場合の解決方法もあらかじめ取り決めておくということになっています。
親の合意がないのに,なぜ裁判所は共同監護を付与する場合があるのかといいますと, 裁判官は子と親,それぞれの関係性を重視すると言っています。ここでは,親が精神面で共同監護ができるか否かではなく,子どものためにいかに協力して,妥協して,子どものために暮らすかということが求められています。
また,無断転居の制限ですが,別居親による子の監護及び面会交流を阻害しないために, 同居親は転居前に別居親へ通知し,同意を得るか,養育計画書を作成し直さなければならないとされておりまして,これも養育計画に書かれることになります。州法はほとんどのところで定めておりますので,これも常識として認識されております。
情報発信の充実としまして,各州のホームページを見ると,共同監護がうまくいくための支援として,その充実度が分かります。例えば,養育計画書の案内や見本や作成援助などがありますし,コンピューターによる養育費の計算や,またDVなどの手続などが紹介されております。
民間支援の充実もあります。アメリカで有名なように離婚カウンセラーとか,法律以前に夫婦関係の問題にどう対処するか,そして,子どもをめぐる調整機関というものが,ここに挙げているように様々あります。養育コーディネーターやメディエーターなどは大学院を出て幾つかの資格を得る専門職として位置付けられております。
また,研究の充実は羨ましい限りで,法学研究や様々な社会科学,医学などの研究が進められておりまして,裁判所の指針なども詳細な資料が開示されておりますので,私たちはそれを見ることができます。
3番目の高葛藤事案に関してにいきます。紛争性の程度を調査したものによりますと,これはカリフォルニア州の例ですが,紛争性のない離婚が50%,争いはあったが解決したのが30%,メディエーションで解決が10%,調査後,これはエバリュエーションという監護評価を行って解決したものが5.2%,裁判中解決したのが2.2%,裁判官による判決が1.5%ということで,あまり日本の状況とは変わらないようです。
高葛藤の場合の手続としまして,DVや親密圏の暴力がある場合には,被害者はシェルターへ子を連れて避難することになります。裁判所で緊急保護命令を得て,被害者には子の監護権が通常付与されまして,加害者には養育費や生活費,治療費などの支払い命令が出されます。離婚時の養育計画作成は相手方と協議せず,それぞれが書いて裁判所に提出するというふうになっています。DVとともに今問題となっているのが,PAといわれる 片親疎外というものです。DVの被害者からは加害者のでっち上げと非難されることもありますが,DVの主張がなかなか裁判所で通らないという理由の一つに,まれにDVの被害者が他方の親を遠ざけるために虚偽の証言をしているということがありまして,これが PAといわれるものとなっています。しかし,真正のDVの加害者が相手の主張をPAと言って監護権を得るということもありますので,もう裁判所では精神科医の証言が必要となってきまして,かなりここの場面では精神科の研究が進んでいると言われているところ です。
高葛藤への対処としまして,まず,DV教育が必要とされています。アメリカでもまだまだ足りていないという認識です。専門家への教育,そして法学生,ロースクールの学生への教育が義務付けられています。立法におきましては,DV加害者への監護権の付与が制限されています。DV加害者への監護権付与は子の最善の利益にはならないと推定する州法が広がっています。しかしDVが認定されることがまず必要なのですが,それが第一の関門となっています。医的介入としましては,裁判所はDVや虐待加害者にDVや虐待治療終了まで面会交流を制限したり,PAによる引き離された親子の再統合のために治療的介入を命じたりすることもあります。DVやPAに関しては,もはや法律問題ではなく, 心理学や精神医学,脳科学による研究が進んでいる分野です。第三者による支援,これに関しましては,虐待加害者と子の面会交流に対して第三者機関の監視や送迎があることは既に我が国でも紹介されております。履行義務違反に対する法的措置としまして,メディ エーション,養育計画の再構成,裁判所侮辱,損害賠償,監護権変更などが用意されております。アメリカのほとんどの履行義務違反には民事的裁判侮辱,コンテンプト・オブ・コートが用いられまして,義務者は履行するまで過料か拘禁が科せられます。次に,子どもの代理人ですが,これは親が費用を負担しますが,これの制度も進んでおります。親が直接子どもに父母を選択させるということは子どもの利益にはならないとされておりますので,精神科医や裁判官及び弁護士による子に負担を掛けないヒアリングの方法も研究されております。
4番目,意見が対立した場合の調整方法や解決の実情。既に述べましたように,養育計画書に意見が対立した場合の解決方法を取り決めるようになっておりまして,弁護士を通じた調整やメディエーションがあります。養育計画書再作成の支援もその一つになっています。各自治体が提供するガイダンスや子どもの年齢別,両親宅の距離別の計画案,養育計画書コーディネーターやアドバイザー,マネジャーによる支援,そして,弁護士やメデ ィエーションなどの第三者による仲介というものが一般にあります。DVがある場合には, 養育計画書は協議せずに個別に記入して裁判所へ提出し,裁判所が定めるということになっております。
アメリカにつきましては以上です。
(了)