ドイツにおける非同居親の扶養義務と養育費立替法
この記事は国立国会図書館の許諾の下に、「ドイツにおける非同居親の扶養義務と養育費立替法―ひとり親家庭への養育手当支給制度―(執筆者:泉眞樹子)」『外国の立法』284号, 2020.6, pp.81-106. https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11499060_po_02840004.pdf?contentNo=1を転載したものです。
上記の前半81頁~96頁のドイツ養育費立替法に関する概説部となります。後半97頁~106頁の条文翻訳部については「単身の母及び父の子の扶養を養育費立替又は養育費不足給付によって確保する法律(養育費立替法)」をご覧下さい。
ドイツにおける非同居親の扶養義務と養育費立替法
―ひとり親家庭への養育手当支給制度―
国立国会図書館 調査及び立法考査局
専門調査員 海外立法情報調査室主任 泉 眞樹子
目次
はじめに
Ⅰ ドイツにおける扶養義務と養育費支払
1 民法典における扶養義務
2 非同居親による子の扶養
Ⅱ 養育費立替制度の経緯
1 養育費立替制度の導入と主な制度改革
2 2017 年法改正とその後の改正
Ⅲ 養育費立替法の概要
1 養育手当受給の要件(第1条)
2 給付額と他の手当等との関係(第2条)
3 支給手続(第9条)と遡及支給(第4条)
4 情報提供義務(第6条)と過料(第 10 条)
5 賠償・弁済義務(第5条)
6 州の求償(第7条・第7a 条)及び連邦との費用負担(第8条)
7 報告(第 12 条)
おわりに
翻訳:単身の母及び父の子の扶養を養育費立替又は養育費不足給付によって確保する法律(養育費立替法)
キーワード:養育費、養育費立替、扶養義務、非同居親、ひとり親家庭、シングルペアレント、 単親、離婚、未婚、死別、償還請求、社会保障、ドイツ
要 旨
ドイツでは、1980年に、子と同居していない親が、民法典に規定する扶養義務を遂行せずに養育費を支払わず、又はその額が十分ではない場合、ひとり親と子への経済的支援策として州が現金給付を行い、その額を非同居の親へ求償する「養育費立替制度」が、連邦法に基づき開始された。2017年には、対象となる子の年齢上限が12歳未満から18歳未満に引き上げられ、給付期間の制限(72か月)が撤廃されたことにより、全ての未成年者が要件を満たせば受給できる制度となった。12歳以上の子への養育費未払いについても州が求償できるようになった一方で、金銭的な扶養義務を負う親の支払能力が低い場合には、求償を停止できることが規定されるなど、業務の効率化・合理化も図られた。また、連邦と州の財政的分担割合については、連邦負担が40% に引き上げられて、連邦全体で財政基盤が強化された。この制度改革によって、受給者は 30万人増えて 71万人を超えた。
はじめに
ドイツでは、子と同居していない親(以下「非同居親」という。)が子に支払うべき養育費の最低水準(最低扶養料)が民法典⁽¹⁾で規定されており、非同居親がその額を支払わず、又は十分に支払うことができない場合、代わりに州が現金給付を支給する養育費立替制度が、1980年から連邦の制度として実施されている。費用は連邦と州で分担し、州は、原則として、養育費の支払義務を負う非同居親に対して、給付に関する償還を求める。
当初、給付期間3年を上限とする6歳未満の子への一時的な経済的支援策として始まった養育費立替制度は、その後、給付期間の延長や対象年齢上限の引上げによって重要性を増し、社会保障制度の一つに位置付けられてきた。2017年には、給付期間制限の撤廃と対象年齢上限の18歳未満への引上げが行われ、未成年である子は全て、要件を満たせば手当を受給できるようになり、12歳以上の子への養育費未払いについても、州が求償できるようになった。
本稿では、第Ⅰ章で養育費立替制度の根拠となる扶養義務と養育費支払を、第Ⅱ章で養育費立替制度と法改正の経緯を、第Ⅲ章で現行の養育費立替法⁽²⁾を概説し、併せて養育費立替法を翻訳する。
Ⅰ ドイツにおける扶養義務と養育費支払
ドイツでは、親の子に対する扶養義務は、両親の婚姻関係にかかわらず同一である。非同居親は、原則として、子が成人するまで金銭的な扶養義務(養育費支払義務)を負い、刑法典に罰則規定も置かれている。
1 民法典における扶養義務
親族間の扶養義務は、民法典第4編「家族法」第2章「親族」第3節「扶養義務」(第1601条から第1615n条まで)で規定されている。子に対する親の扶養に関しては1998年と2007年にかなりの部分が改正され⁽³⁾、これにより形成された扶養被扶養関係が現在に至っている。 まず、1998年の子供扶養法⁽⁴⁾によって、扶養に関して嫡出子と非嫡出子とで異なっていた民法典の規定が統一された(1998年7月施行)。これによって、親の子に対する扶養義務は、出生前の両親の婚姻関係にかかわらず、等しくなった⁽⁵⁾。
次いで、2007年の扶養法改正法⁽⁶⁾は、子の福祉を強化することを目的として、被扶養権者の順位を変更し、配偶者扶養よりも未成年子の扶養を優先させた(2008年1月施行)。その際、「未成年子の最低扶養料」(民法典第1612a 条⁽⁷⁾)の概念が導入され、子の需要を満たすために最低限必要な額(最低扶養料(Mindestunterhalt))の支払が求められるようになった⁽⁸⁾。その額は、所得税法⁽⁹⁾上の児童控除額⁽¹⁰⁾の2倍を基準として、年齢階層別で3段階のパーセンテージ(6歳未満は87%、6歳以上12歳未満は 100%、12歳以上は117%。)を乗じて算出するものとされた。
さらに、2015年の扶養法等改正法⁽¹¹⁾によって、2016年以降、未成年子の最低扶養料は連邦政府が発布する法規命令⁽¹²⁾によって規定され、当該法規命令は2年ごとに改正されることとなっ た。その際に算定の基準とされるのは、「最低生活水準(Existenzminimum)」という概念である。 この概念は、2010年の連邦憲法裁判所違憲判決⁽¹³⁾によって、人間の尊厳にふさわしい最低生活水準を求める基本権は、ドイツ連邦共和国基本法(憲法に相当)第20条第1項と結びついた基本法第1条第1項から生ずると認められたことを基盤とするものである。未成年子の最低扶養料は、従前同様に、3段階の年齢階層に応じたパーセンテージを最低生活水準に乗じて決定される。最近の未成年子の最低扶養料(月額)は、表1のとおりである。
2 非同居親による子の扶養
⑴ 子に対する扶養義務と非同居親の支払能力
民法典は、未成年子の扶養について、たとえ子に収入(労働収入や財産収益)があっても不十分な場合、子は親に扶養請求できると規定しており(民法典第1602条第2項)⁽¹⁴⁾、養育費の 額は、扶養義務を有する親の負担能力と子の需要によって決まることが定められている。 扶養義務は、扶養を行うことで自身の適切な生計維持が危うくならない場合に限り課される (民法典第1603条第1項)ものだが、親の子に対する扶養義務に関しては、自身の適切な生計維持が危うくなる場合であっても、親の収入は親と子で均等に使用することが規定されている (民法典第1603条第2項)⁽¹⁵⁾。ただし、子の扶養のために親の最低生活水準を犠牲にすること までは要求されず、親自身の生計維持を確保するための「自己留保分(Selbstbehalt)」が認めら れる⁽¹⁶⁾。
両親が別居している場合、親は原則としてそれぞれの資産及び収入の比率に応じて子の生活費を負担しなければならない。片親が単独で未成年子を世話し養育している場合、世話をしている親はその行為によって扶養義務を果たしているとされ(民法典第1606条第3項第2文)、これを「世話扶養(Betreungunterhalt)」という。非同居親には金銭によって扶養義務を果たすことが求められ⁽¹⁷⁾、これを「金銭的扶養(Barunterhalt)」という。世話扶養と金銭的扶養の価値は等しいものとされ、同居して世話をしている親が二重に負担を負うのは回避される⁽¹⁸⁾。
実際に支払われるべき養育費の算定については、デュッセルドルフ上級地方裁判所が、毎年、他の上級地方裁判所等と協議して、実務上の指針(いわゆる「デュッセルドルフ表」⁽¹⁹⁾)を公表している。その内容は、子の扶養に関する養育費算定表(非同居親の支払能力と子の需要額に応じたもの)とその他の特別な需要に関する金額等を示したものである。
⑵ 児童手当等と養育費
養育費は子の需要を満たすために必要な額として決められるため、児童手当⁽²⁰⁾が子の金銭的需要を満たす分だけ、非同居親が支払うべき養育費は減額される。片親により世話扶養が行われている場合には、児童手当の半額が扶養に充当されると考えられ、非同居親の養育費は児童手当の半額分が減額される。親による世話扶養がない場合には、児童手当の全額が養育費に充当される(民法典第1612b条)。なお、法定の災害保険や年金保険における児童関連給付が定期的に支給されることによって、児童手当の支給が停止される場合には、これらの児童関連給付は児童手当と同様に扱われる(民法典第 1612c条)。
⑶ 養育費請求手続と義務違反
扶養に関する司法手続は、家庭事件非訟事件手続法(FamFG)⁽²¹⁾第2編「家庭事件手続」第9章「扶養事件手続」(第231条から第260条まで)において規定されている。FamFG 第231条 に規定する扶養義務に関する手続(扶養事件)は、FamFG 第112条により家庭争訟事件とされ、 基本的に民事訴訟法⁽²²⁾の規定が適用される。 比較的低額の養育費に関しては、司法手続の迅速化・簡易化が図られ、簡易手続を申し立てることができる(FamFG 第249 条第1項)。この申立てがなされた場合、裁判所は、形式的審査の後に、申立ての相手方(扶養を請求された者)への申立ての送達又はその通知を命ずる(FamFG 第251条)。これに対し、申立ての相手方は、異議を主張することができるが、養育費の額について異議を主張する場合には、支払可能な額を表明しなければならず、その際、定められた書式を用いて自己の所得、資産その他個人的・経済的事情に関する情報を通知し、証明書類を提出しなければならない(FamFG 第252条)。これによって、申し立てた子の側は、相 手方の資力について正確な情報を得ることができる⁽²³⁾。 扶養義務の違反に関しては、刑法典⁽²⁴⁾に、「法律上の扶養義務を怠った者は、その結果、扶養権利者の生活上必要なものが危殆化され、又は、他の者の助力がなかったならば危殆化されたであろうときは、3年以下の自由刑又は罰金に処する。」(刑法典第170条第1項)が置かれ、また、裁判所による扶養義務履行の指示(Weisung)についての規定(刑法典第56c条第2項5号) が置かれている。
Ⅱ 養育費立替制度の経緯
民法典等には、養育費支払を確実に行わせるために様々な規定が置かれているが、さらに実際的な養育費確保を目的として、養育費立替制度が1980年から連邦の制度として開始された。養育費立替制度は、州が現金給付を行うことで、非同居親が支払うべき養育費を立て替え、又は不足分を補い、これにより子が両親からの扶養を受けられれば当然得られた最低生活水準を 保障する制度である。費用については連邦と州とで分担し、州は非同居親に対して求償する。当初、6歳未満、最長36か月の給付期間として始まった制度は、対象年齢の引上げや給付期間の延長を行い、その他、償還を増やすために、州の非同居親に関する情報収集権限を拡張するなどの制度拡充が行われてきた。さらに2017年には、①年齢上限を18歳未満に引き上げ、給付期間制限を撤廃する改革が実施された。同時に、②非同居親に資力がない場合には、州に償還請求の停止を認め、③連邦と州の財政負担について、連邦負担を40%に引き上げた。
1 養育費立替制度の導入と主な制度改革
1979年に、単身で子育てしている片親(以下「ひとり親」という。)と子の経済的困窮対策を目的として、「単身の母及び父の子の扶養を養育費立替又は養育費不足手当によって確保する法律(養育費立替法)」⁽²⁵⁾が制定され、翌1980年に施行された。同法により、養育費立替制度が開始され、ひとり親と暮らす子の非同居親への養育費請求権保障が図られ、また、片親が死亡している子や非同居の親が経済的な理由により扶養義務を果たせない子に対して経済的支援が行われるようになった。詳細は、次のとおりである。
ひとり親に育てられている6歳未満の子に対して非同居親からの養育費支払がない場合やその額が不十分である場合に、最長で26か月間、民法典が定める標準養育費⁽²⁶⁾の額を上限に、養育手当(養育費立替及び養育費不足手当)が支給されることとなった。費用は連邦と州で分担し、州の所管官庁が、養育費支払を行っていない扶養義務者である非同居親に対して、求償を 行う。
当初、養育費立替制度は、短期間の経済支援のための一時的給付と考えられていた⁽²⁷⁾が、その後、対象年齢や給付期間が延長された。主な改正は、次のとおりである。
1990年には、行政手続簡素化の一環として、養育手当受給のための証明が不要となり⁽²⁸⁾、 1993年には、給付年齢の上限が6歳から12歳へ、給付期間の制限が36か月から72か月へ引き上げられた⁽²⁹⁾。また、2007年には、前述のとおり民法典第1612a条に最低扶養料の考え方が導入されたのと併せて、養育手当を最低扶養料に関連付ける改正が行われた⁽³⁰⁾。
2013年には、扶養義務を負う非同居親からの償還を増やして償還率(全給付額に占める全償還額の割合)を引き上げることを目的として、扶養義務親に関する情報収集を行う州の権限が拡張された⁽³¹⁾。具体的には、扶養義務親の収入及び財産状況を明らかにするため、扶養義務親の勤務先企業、保険会社、税務署、銀行等から、扶養義務親の情報(勤務先、勤務期間、勤労所得等)を入手することが可能となった。
2015年には、第10回最低生活水準報告⁽³²⁾に従って所得税控除額と児童手当が引き上げられ、 それと調整するために、2015年中の養育手当の額を規定する第11a条が新設された⁽³³⁾。
2 2017年法改正とその後の改正
養育費立替制度は、現在、社会法典によって社会保障制度として位置付けられている⁽³⁴⁾。 2017年には、制度の対象を18歳未満の未成年子全てに広げ、給付期間の制限を撤廃する大きな制度改正が行われた。養育費立替法の改正法案は、連邦と州の間の財政調整制度改革の一 部⁽³⁵⁾として、2016年12月に連邦参議院に提出された。2017年6月1日には連邦議会で修正法案が議決され、翌2日に連邦参議院で成立し、8月14日に連邦大統領の認証を得て、8月17日に「2020年以降の財政調整制度再編及び財政法規定改正に関する法律」⁽³⁶⁾が公布された。同法による養育費立替法の改正部分のほとんどは、2017年7月1日に遡って施行された。
改正の主な内容は、①72か月の給付期間制限を撤廃し、年齢上限を12歳未満から18歳未満 へ引き上げ(養育費立替法第1a条)、②非同居親に資力がない場合には、州に償還請求の停止を認め(養育費立替法第7a条)、③連邦と州の財源負担配分を変更して、連邦の負担を従前の3分の1から40%に引き上げ、州の負担は3分の2から60%に引き下げる(養育費立替法第8条)ものである⁽³⁷⁾。
この改正によって、12歳以上の子への養育費支払を怠った非同居親に対しても、州が求償を行えるようになり、未成年子の扶養請求権の保障が強化された。同時に、徒労に終わることが明らかな求償は行わないこともできるようになり、行政業務の合理化も図られた。
2019年には、滞在法⁽³⁸⁾が改正されて滞在許可(Aufenthaltserlaubnisse)の規定が新たになった⁽³⁹⁾ことに併せて、自由移動権のない外国人の養育手当の請求権について規定する養育費立替法第1条第2a項が改正され、同項の適用期間を規定する第11条第2項が追加された⁽⁴⁰⁾。
2020年3月現在で、養育費立替法は、全13条から成る。各条の見出しと、2017年改正及び2019年改正部分は、表2のとおりである。
Ⅲ 養育費立替法の概要
1 養育手当受給の要件(第1条)
⑴ 養育手当を請求できる者(権利者)
養育費立替制度による養育手当を請求できる者(権利者)は、ひとり親と暮らし、非同居親からの養育費支払を受けておらず、又は十分には受けていない未成年子である(第1項及び第1a項)。片親が死亡している場合の様々な遺児給付類(法定年金保険、法定傷害保険等)の受給は、養育費支払と同様に扱われ、養育手当の減額又は停止が行われる(第1項第3号)。
ひとり親となった理由は、未婚、離別又は死別を問わず(第1項)、他方の親の傷病や裁判所命令に基づく入院・施設入所が6か月以上続くと見込まれる場合も恒常的な別居状態とみなされる(第2項)。
ひとり親に対しては、所得制限は課されない。ただし、2017年改正で新たに制度対象となった12歳以上18歳未満の子に関しては、子本人とひとり親に求職者基礎保障(失業手当Ⅱ)⁽⁴¹⁾の受給に関連した条件が置かれ、そのいずれかを満たせば受給可能とされる。
まず、子本人が失業手当Ⅱを受給しておらず、又は養育手当受給によって失業手当Ⅱの根拠 となる要扶助状態を回避できるのであれば、養育手当を受給することができる(第1a項第1文第1号)。子が失業手当Ⅱを受給していなくても、同居するひとり親が失業手当Ⅱを受給している場合には、当該ひとり親に雇用やボランティア活動等による月額600ユーロ以上の収入⁽⁴²⁾があることをジョブセンター⁽⁴³⁾が証明すれば、養育手当を受給することができる(同第2号)。この収入基準の設定は、子が成長して世話扶養に幼少期ほど手間がかからなくなったひとり親に稼得能力の向上を促し、将来的に求職者基礎保障制度から離脱できるインセンティブを与え ることを意図している⁽⁴⁴⁾。
また、ひとり親が、もう片方の親と同居したり、養育費立替制度の実施に必要な情報提供や協力を拒んだりした場合(第3項)や、事前に養育費が支払われていたり、児童青少年支援(社会法典第8編)⁽⁴⁵⁾による児童養護施設等への入居等が行われていたりする期間(第4項)にも、 養育手当は請求できない。
⑵ 外国人の権利者
自由移動権のない外国人は、次の滞在権がある場合にのみ、権利者となれる(第2a項)。
① 定住許可(滞在法第9条)⁽⁴⁶⁾又はEU継続滞在許可(滞在法第9a条)⁽⁴⁷⁾を保有する場合。
② 6か月以上の就業を認めるEUブルーカード(滞在法第18b条第2項)⁽⁴⁸⁾、ICTカード(滞在法第19条)⁽⁴⁹⁾、モバイルICTカード(滞在法第19b条)⁽⁵⁰⁾又は滞在許可(滞在法第7条) を保有する場合。ただし、滞在許可に関しては次の㋐、㋑又は㋒の場合は除く。
㋐ 滞在目的が、教育(滞在法第16c条)、オペア⁽⁵¹⁾雇用・季節雇用(滞在法第19c条第1項)、欧州ボランティアサービス⁽⁵²⁾参加(滞在法第19e条)又は専門職求職(滞在法第20条第1項及び第2項)である。
㋑ 研究目的(滞在法第16b条)、外国の職業資格認定措置(滞在法第16d条)又は専門職求職(滞在法第20条第3項)を目的とした滞在であり、かつ、就業せず、又は連邦親手当親時間法⁽⁵³⁾による親時間・親手当を請求していない。
㋒ 故国の戦争(滞在法第23条第1項)、過酷な場合(滞在法第23a条)、一時的保護(滞在法第24条)又は人道上の理由(滞在法第25条第3項から第5項まで)により認められた滞在である。
③ 故国の戦争等により認められた滞在許可(上記②㋒)であっても、許可を得て就業し、 若しくは連邦親手当親時間法による親時間・親手当を請求している場合又は15か月以上の滞在を許可・猶予⁽⁵⁴⁾等されている場合。
④ 雇用猶予(滞在法第60d条)⁽⁵⁵⁾を保有する場合。 なお、故国の戦争等により認められた滞在許可(上記②㋒)であっても、当該外国人が未成年の場合、就業に関わりなく権利者となれる。
2 給付額と他の手当等との関係(第2条)
養育手当は毎月支給され、その額は民法典第1612a条第1項の規定に基づく最低扶養料(表1参照)と等しい(第1項)。権利者である子のための児童手当がひとり親に支給される場合は、児童手当は養育手当に算入され、すなわち養育手当の支給額から減額される。ただし、減額さ れるのは児童手当の支給実額ではなく、最も少額である第1子のための額⁽⁵⁶⁾である(第2項)。一般に養育手当の額として示されるのは、児童手当減額後の額(表3参照)であることが多い。
その他、前述のとおり、非同居親から支払われた養育費、各種の遺児給付類は、養育手当に算入され、支給額から減額される(第3項)。一般学校教育修了後の子自身の収入(労働収入及び資産収益)は、本人の生計維持に必要な額を超える場合に限り、養育手当から減額される(第4項)。教育訓練中の研修生⁽⁵⁷⁾については、必要経費として100ユーロが収入から控除される(同)。
3 支給手続(第9条)と遡及支給(第4条)
ひとり親又は法定代理人は、書面で子の住所のある州の機関(州法によって定められる機関)に申請する(第9条第1項)⁽⁵⁸⁾。申請に際し、非同居親に対する裁判による養育費決定は必要ない⁽⁵⁹⁾。決定は、申請者に対し書面又は電子的手段で通知され、算定された額が明記される(同第2項)。養育手当は、前払いで毎月支給され、算定額が5ユーロ未満の場合は支給されない(同第3項)最低でも申請月の前月に遡って支給されるが、非同居親に養育費支払をさせるための権利者の妥当な努力が欠けていた場合には、その限りではない(第4条)。
4 情報提供義務(第6条)と過料(第10条)
⑴ 親の情報提供義務
非同居親は、要請により、養育費立替法の実施に必要な情報を所管機関に対し提供する義務を負い、また、未成年子への養育費支払義務を履行することを表明しなければならない(第6条第1項)。この規定により、基本的に養育費立替機関は、金銭的扶養義務を負う親に対し、幅広い情報提供を要求しなければならないことが明文化された⁽⁶⁰⁾。また、これまで判例によって 引き上げられてきた、非同居親の未成年子に対する養育費支払義務・稼得義務が、法律に明確に位置付けられた。特に重要なのは、非同居親による義務履行の意思表明の義務が明文化され たことである。これによって、効率的に行政手続を進めることができるようになった。
同居親と権利者の法定代理人は、養育手当の給付に大きく影響する状況変化が生じた場合や、給付に関する意思表示を行った際の状況がその後変化した場合には、所管機関に遅滞なく報告する義務を負う(同第4項)。ここでいう状況変化とは、例えば、子がそれまで同居していた親と一緒に暮らさなくなったことや、非同居親による定期的な養育費支払の開始などである⁽⁶¹⁾。
⑵ 関連諸機関の情報提供義務
非同居親の勤務先(雇用主)は、養育費立替法の実施に必要な場合に限り、要請により、非同居親の雇用の種類・期間、職場及び勤労報酬(賃金・手当)に関する情報を所管機関に提供する義務を負い、保険会社も、同様に、非同居親の住所及び収入の額について、所管機関に情報提供する義務を負う(第6条第2項)。
情報提供に関する権限を有する社会給付制度運営者等及び税務署は、養育費立替法の実施に必要な場合に限り、要請により、非同居親の住所、雇用主及び収入の額について、所管機関に提供する義務を負う(同第5項)。
所管機関は、非同居親に対して求償に必要な情報請求を行って成果が得られない場合に限り、連邦中央税務庁に対して、信用機関から金融関連データを取得するよう要求することが許される(同第6項)。また、所管機関は、同居親による申請に応じて、非同居親及び雇用主・保険会社から得た情報(同第1項及び第2項)並びに連邦中央税務庁を通じて信用機関から得た情報(同第6項)を、社会法典第10編第74条「扶養義務の不履行及び支払補償の際の送信」第1項第1文第2号aの規定による措置(社会データの送信の許可)により、同居親へ送信する義務を負う(同第7項)。
⑶ 過料規定
故意又は過失によって、第6条第1項又は第2項の規定に反し非同居親、非同居親の雇用主又は保険会社が適切な情報提供を行わないこと及び同第4項の規定に反し同居親等が給付に関連する権利者の状況変化に関して適切な報告を行わないことは、秩序違反⁽⁶²⁾と規定され、これらは過料に処され得る(第10条)。
5 賠償・弁済義務(第5条)
ひとり親又は権利者の代理人が、故意若しくは過失により誤った情報提供を行い若しくは権利者の状況変化を通知しなかったため、又は養育手当の受給要件を満たさないことを知っていた若しくは過失の結果それを知らずにいたため、要件を満たさずに養育手当を受給していた場合には、ひとり親又は権利者の代理人は受給額を賠償しなければならない(第1項)。養育手当を申請した後に権利者が収入等を得ていたため、認定に際してそれらが算入されていず、受給要件を満たしていなかった場合には、権利者はその限りにおいて受給額を弁済しなければならない(第2項)。
6 州の求償(第7条・第7a条)及び連邦との費用負担(第8条)
⑴ 扶養請求権の州への移転と求償回避
権利者に養育手当が支給された期間についての権利者の非同居親に対する扶養請求権は、養育手当の額の分だけ、扶養法に係る情報請求権とともに、州に移転する(第7条第1項)。州に移転された請求権は、適時にかつ完全に実施されなければならない(同第3項)。扶養請求権は、 州に移転された後も、法的性質は私法上の債権のままであり、請求権の存続及び行使は民法典に基づき行われ、一般的な消滅時効期間(3年)に服する⁽⁶³⁾。
非同居親が求職者基礎保障(失業手当Ⅱ)を受給しており、収入がない場合には、州に移転された扶養請求権の追及は行わない(第7a条)。これは 2017年改正によって新たに置かれた規定で、扶養義務を有する非同居親に養育費支払能力がないことが明らかな場合には、州が求償を行わないことを認め、無駄な行政コストの支出を回避するためのものである⁽⁶⁴⁾。
⑵ 州及び連邦の費用負担
養育手当の財源は、40%を連邦が負担し、残り60%を州が負担する。州及び地方自治体の負担配分は、州の権限によって決定される(第8条第1項)。州に移転された請求権に基づき、州が非同居親に求償して徴収した額は、その40%を連邦に引き渡す(同第2項)。
7 報告(第12条)
2017年制度改革の影響について、特に権利者に対する給付改善及び行政機関に対する実務上の影響について、施行から1年後の2018年7月31日までに、連邦政府は連邦議会に報告書を提出する⁽⁶⁵⁾。この規定に基づき、連邦家族高齢者女性青少年省(以下「連邦家族省」という。)が作成した報告書が、2018年8月22日に連邦政府により議決され、連邦議会及び連邦参議院に提出された⁽⁶⁶⁾。
おわりに
前述の連邦家族省の報告書によれば、2017年7月の養育費立替制度改革によって給付対象を18歳未満まで拡大し、給付期間の制限を撤廃した結果、同年6月に約414,000人であった権利者は、2018年3月には約 714,000人となり、30万人も増加したという⁽⁶⁷⁾。連邦家族高齢者女性青少年大臣フランツィスカ・ギファイ(Franziska Giffey)は、報告書提出時にこの数を示して、 ひとり親家庭の経済的支援策としての養育費立替制度の重要性を説くとともに、養育費を支払 えるのに支払わない非同居親への求償業務を改善するため、連邦及び州が共通の基準を策定す ると述べた⁽⁶⁸⁾。また、連邦家族省は、2018年10月に、求償業務の改善のために連邦と州が協 働し、養育費立替制度の業務統計を再編し、求償業務を集中管理する組織化を行い、人員配置、 監督及び債権管理の改善を行うことを表明した⁽⁶⁹⁾。これは、改正法成立時の2017年6月2日に、連邦議会監査委員会⁽⁷⁰⁾が連邦家族省に対し次の内容の制度改革を迅速に行うことを求めた決議⁽⁷¹⁾に応えたものである。この決議の内容は、①連邦家族省が州とともに求償業務の改善のための基準を策定し、運用の指針について連邦と州が合意すること(特に人員配置と養育費立替機関による債権管理の効率化)、②求償業務の改善のために、州及び地方自治体が金融を所管する中央官庁とともに一体的な機関を設立すること、また、③2018年10月1日まで進捗報告書を提出することである。
ただし、非同居親が低所得である場合や死別した場合には、そもそも求償は不可能であり、 養育費立替制度の償還率は一定限度にとどまらざるを得ない⁽⁷²⁾。一方で行政の管理業務合理化によって償還率の向上を目指しつつ、他方で徒労に終わることが明らかな償還手続について停止できる規定も加えられたことからわかるとおり、全ての給付について償還できる制度ではないことは許容されている。養育費立替制度は、児童手当等とも制度間調整が行われ、子の成長を支える家族給付の一つとして社会保障制度の中に既に位置付けられているが、給付期間制限が廃され、年齢上限が引き上げられたことによって、ひとり親家庭の経済的支援策としての普遍性が確保された。連邦による財政支援基盤も拡張され、今後も連邦と州によって、持続的にひとり親と子の生活水準の保障が図られていくことが期待される。
(67) Deutscher Bundestag, ibid., S.4.
(68) „Aktuelle Meldung. Positive Bilanz, 300.000 zusätzliche Kinder und Jugendliche bekommen Unterhaltsvorschuss,“ 22.08.2018. BMFSFJ website (69) Deutscher Bundestag, Drucksache, 19/5164 (Antwort der Bundesregierung auf die Kleine Anfrage der Abgeordneten Daniel Föst, Katja Suding, Grigorios Aggelidis, weiterer Abgeordneter und der Fraktion der FDP ‒ Drucksache 19/4742 ‒: Unterhaltsvorschuss ‒ Rückgriffsaktivitäten), 19.10.2018, S.11.
(70) Rechnungsprüfungsausschuss des Haushaltsausschusses des Deutschen Bundestages(RPA)は、連邦議会予算委員会 の構成委員又は代理委員を務める議員によって構成され、予算承認を担当する予算委員会とは別の組織体として、 連邦の予算執行及び経済運営を監査する等、歳出の調査を担当する。„Rechnungsprüfungsausschuss.“ Deutscher Bundestag website (71) Deutscher Bundestag, op.cit.(69), S.10. (72) 償還率は、2014年、2015年、2016年といずれも23%であったが、2017年には19%に低下した。Deutscher Bundestag, op.cit.(66), S.11.
(いずみ まきこ)
(了)