親による子どもの誘拐に対する刑事司法制度の対応
子どもの連れ去りが児童虐待の一形態であることは広く認知されており、連れ去り先が国外であろうと国内であろうと、虐待であることに変わりはありません。アメリカでは、1960年代後半から1970年代に今の日本と同様の事態が発生しましたが、連れ去りは児童虐待であるとの観点から、刑事事件として法整備を進めてきました。そこで、その知見を活かせるように、その取組みを纏めたアメリカ司法省の「The Criminal Justice System’s Response to Parental Abduction」を翻訳しました。
なお、アメリカの法制度の全体感やアメリカ以外の諸国の状況については、法務省の委託調査結果「子の連れ去りに関する各国法令の調査報告書」が参考になるので、興味のある方はそちらも参照下さい。
米国司法省
司法計画室
少年司法および非行防止室
2001年12月
少年司法および非行防止室・少年司法報
親による子どもの誘拐に対する刑事司法制度の対応
カティ・L・グラッソ、アンドレア・J・セドラック、ジャネット・L・キアンコーネ、
フランシス・グラッグ、ダナ・シュルツ、ジョセフ・F・ライアン
何百万人ものアメリカ人のもとに、行方不明の子どもと誘拐被疑者の写真が掲載された広告が郵送されてきます。多くの人は素早くその写真に目を通し、ある人はより注意深く観察し、またある人は全く見ない。多くの場合、このような子どもは親族、普通は親によって誘拐されたのです。
親による誘拐は、誘拐された子どもだけでなく、残された親にも壊滅的な影響を与える可能性があります。迅速な原状回復は、子どもと親の両方に対するトラウマを軽減するために非常に重要です。このようなケースでは、警察や刑事裁判所の関与が、如何に効果的に捜索を行うかの違いをもたらし、子どもをいかに早く取り戻すかに影響を与え得るのです。
親による子どもの誘拐に対する刑事司法制度の対応をよりよく理解するために、少年司法および非行防止室(OJJDP)は、アメリカ法曹協会・子どもと法律センターとウェスタット社が共同で実施した研究に資金を提供し、この問題を調査しました。
定義と法的枠組み
この紀要の目的上(およびこの問題について行われた多くの研究の目的上)、親による子どもの誘拐(「家族による子どもの誘拐」とも呼ばれる)は、「親、家族の別のメンバー、またはその代理人が、他の親または家族メンバーの訪問権を含む監護権を逸脱して、子どもまたは子どもたちを連れ去り、拘束し、隠匿すること」(Girdner, 1993:1-11)と定義されています。誘拐犯は、家族の別のメンバーやその代理人(例えば、ガールフレンド、ボーイフレンド、祖父母、あるいは私立探偵)の場合もありますが、殆どの場合、誘拐犯は子どもの親です(Girdner、1993年)。一部の州の刑法では、この犯罪に言及する際に(親による子どもの誘拐、家族による誘拐、または人さらいより寧ろ)「監護権侵害」という用語を使用しており、子どもを監護親から引き離したり、誘い出されたりする事件も含む場合があります。監護権侵害はまた、訪問または接触の裁判所命令への干渉を含むように定義することができます。
多くの人々が、その中には一部の法執行機関職員を含みますが、親による子どもの誘拐を「民事的なもの」であり、刑事司法制度の領域外で処理するのが最も良い私的な家族問題であると認識していますが、これは50州全てとコロンビア特別区では犯罪であり、殆どの場合は重罪を構成しています。
研究の背景
本研究の主な目的は、以下のデータを収集することにより、刑事司法制度が親による子どもの誘拐事件に介入しているかどうか、またどのように介入しているかについて、さらなる洞察を得ることです。
◆親による子どもの誘拐に関する法執行機関への報告、およびその結果としての逮捕の全国推定値
◆検察官によって起訴され、刑事訴追された親による子どもの誘拐事件の全国推計値
◆親による子どもの誘拐報告への対応における、法執行機関の管理情報システム(MIS)および文書化された方針と手続きの使用
◆職員の特性および管理資源
◆親による子どもの誘拐に対処するための正式な研修や特別プログラムへの職員の参加
◆刑事司法制度における親による子どもの誘拐事件の流れ
◆法執行機関が捜査かつ/または刑事告発によって介入した事件の特徴
◆親による子どもの誘拐事件の処理に関するモデルアプローチ
この研究は、3つの段階から構成されています。
◆第1段階:法執行機関と検察庁を対象とした全国規模の調査
◆第2段階:平均より多くの親による子どもの誘拐事件が起訴された6つの郡を査察
◆第3段階:訪問した6つの管轄区域のうち3つの法執行機関および検察庁における、個々の親による子どもの誘拐事件ファイルの調査
この研究では、出来事の報告、事件の捜査、子どもの居場所と連れ戻し、誘拐犯の刑事訴追など、刑事司法制度の対応のあらゆる面を調査しました。査察は、独自のプログラムの様々な側面についての洞察が得られ、全国調査と事件ファイルの調査では、システム応答の向上につながる特性を特定しようと試みました。これらの知見に基づき、研究者は、法令、政策、プログラムの変更に関する勧告を作成しました。
この紀要に記載されている研究は、1996年に終了し、1992年から1996年までの親による子どもの誘拐に関するデータに基づいています。とはいえ、研究結果と勧告は、現在の親による子どもの誘拐事件にも引き続き関連するものです。OJJDPがこの研究の結果を取り上げたのは、今日までのところ、親による子どもの誘拐という犯罪に対する全国の刑事司法制度の対応に関する最も包括的な研究の一つであるからです。
第1段階:全国調査からの知見
調査方法
全国を代表する400の郡を管轄する全ての法執行機関と検察当局が、1992年に発生した親による子どもの誘拐事件の処理について調査を受けました。合計で、400の検察庁、405の郡の法執行機関、3,625の自治体の法執行機関が調査対象となりました。調査票2通(法執行機関記入用と検察官記入用)を、選ばれた管轄区域の保安官、警察、検察官の事務所に郵送しました。
調査参加者に対して一連のフォローアップの郵送やその他の注意喚起を行ったため、郵送調査としては素晴らしい回答率となりました。全体として、76.6%の法執行機関が調査を完了し、4.7%は親による誘拐の犯罪調査を行う管轄権がないため不適格とされ、直接拒否したのは0.5%だけでした。サンプリングされた検察官の4分の3(75%)が調査を完了し、2.5%が参加を断り、22.5%が全く回答しませんでした。
報告、逮捕、検察庁の処理の全国推計
1992年の法執行機関と検察当局の発表によれば、以下の通りである。
◆推定30,500件の親による誘拐事件が法執行機関に報告されました。これらの事件の82%で、親が誘拐の責任を負っていました。12%は、親以外の家族のメンバーが誘拐犯でした。6%は家族以外が加害者でした。
◆親による誘拐事件で逮捕に至ったのは約4,500件で、全報告件数の15%に過ぎませんでした。
◆逮捕に至った4,500件よりも、検察に送致された件数の方が多かった。法執行機関は、約9,200件(全報告件数の30%)の親による誘拐事件を検察当局に送致しました。
◆検察庁が正式に受理した親子断絶事件は、推定15,000件です。これは、法執行機関からの検察庁への送致件数(9,200件)を大幅に上回っており、多くの親による誘拐事件が、裁判所や監護権を侵害された監護親からの直接送致など、他のルートで検察庁に到達していることを示唆しています。
◆検察官が受理した15,000件のうち、刑事訴追されたのは推定3、500件(23%)に過ぎませんでした。訴追された事件のうち、31%は棄却され、49%が有罪判決を受けていました。
◆調査対象となった400の郡のうち、1992年に検察庁が15件以上の刑事訴追を行ったと報告したのは僅か17郡でした。この17郡のうち、カリフォルニア州以外の郡は8郡のみでした。
NISMART見積りとの関係
親の連れ去りの範囲に関する最も包括的な研究は、「アメリカにおける失踪、誘拐、家出、捨てられた子どもに関する発生率調査(NISMART)」2 (Finkelhor, Hotaling, and Sedlak, 1990)です。1988年に実施されたこの全国規模の電話による世帯調査では、全国の家族による誘拐(行き先は国内と海外の両方)の件数を推定しました。NISMARTで特定された事件は、「広範な範囲」と「政策的焦点」のいずれかに分類されています。
◆広範なケース:⑴監護に関する取決め法令に違反して子どもを連れ去った、⑵法定または合意した訪問終了時に子どもを返さなかった、または引き渡さなかった(監護に関する取決めや法令に違反した)場合で、子どもが少なくとも一晩不在だった場合です。NISMARTの研究者は、この定義に基づくと354,100人の子どもが誘拐を経験したと推定しました。このカテゴリーには、最も広範な法律の下でも誘拐とみなされる殆どの事件を含み、法執行機関や検察が(より厳格な法的定義や裁量のために)関与しないであろう事件も多く含みます。
◆政策に焦点を当てたケース:「広範なケース」の定義に当てはまるものの、以下の特徴のうち少なくとも1つを備えている場合です。⑴子どもの連れ去りや所在を隠し、子どもとのコンタクトを防ごうとした。⑵子どもが移送された。⑶誘拐犯が子どもを無期限に拘束する、あるいは監護権に永久的な影響を与えることを意図している証拠が存在する。「広範なケース」の約46%(163,200件)は、この狭義の定義に当てはまります(Finkelhor, Hotaling, and Sedlak, 1990)。
本研究における法執行機関への親による誘拐の報告の全国推計は、法執行機関が公式に報告を受けたケース(30,500件)または検察庁が公式に事件を受理したケース(15,000件)だけを含んでいます。これらの数値は、1990年のNISMART調査で報告された家族による誘拐事件の推定よりかなり少ない数です。両調査の数値は、それ自体としては同等に有効であると思われます。両調査の相違を説明するものとして、以下が考えられます。
◆システム内での犯罪の分類が容易に識別できないこと。例えば、監護命令の違反は、システム上、他の裁判所命令の違反と区別できない場合があります。
◆他の犯罪と同時に発生した親による誘拐を報告しないこと。例えば、警察は、暴行や傷害、住居侵入などの他の犯罪を記録し、親による子どもの誘拐については報告書の説明の中でしか触れないかもしれない。
◆親による子どもの誘拐に関する犯罪捜査を行う管轄権が一部の警察当局にないこと。
◆監護親に子どもを返すために、警察と民事弁護人の両方が非公式に事件を処理すること。
法執行機関と検察の処理に影響を与える事件の特徴
次の3つの要因は、親による誘拐と推定される事件の報告を行う決定に影響を与えるものとして、法執行機関が最も頻繁に挙げていました。
◆監護命令の存在(60.1%)
◆子どもの生死にかかわる危険(52.1%)
◆共同監護の有無(50.3%)3
これらの要因のうちの2つ、具体的には、子どもの生死にかかわる危険と監護命令の存在は、調査の優先順位を決定する要因として最もよく挙げられる3つの要因でもありましたった(それぞれ70.9%と51.9%)。その他の要因として最も多く報告されたのは、子どもの障害状況で、65.7%の機関が挙げていました。
検察庁が事件を受理するかどうかに影響を与える最も一般的な要因は、監護命令の存在(70.6%)、共同監護(62.8%)、子どもの生死にかかわる危険(62.2%)でした。また、実際に起訴(即ち、刑事告訴を裁判所に提出)されたかどうかについては、「監護権命令の有無」(77.0%)、「子どもの行方不明期間」(68.0%)、「共同監護」(66.9%)が最も多い3要因でした。
機関の特性とリソース
法執行機関の大多数は、親による子どもの誘拐事件を規定する方針と手続きを書面で持っておらず(69%)、親による子どもの誘拐事件の処理に関する正式な研修を受けておらず(63%)、また自分たちの機関に報告された親による誘拐事件の数に関する情報を提供する際に、コンピュータ化されたMISによって支援されなかった(69%)と報告しました。法執行機関のうち、管轄区域で親による子どもの誘拐に対処するための特別なプログラムを持っていると回答したのは、僅か10%でした。
検察官を対象とした調査でも同様の結果が得られました。大多数は、調査情報を提供する際にコンピュータ化されたMISの助けを受けていない(85%)、親による子どもの誘拐事件の処理に関する方針または書面によるガイドラインを持っていない(86%)、職員が親による子どもの誘拐に関する正式な研修を受けていない(86%)と回答しました。また、検察庁の79%は、親による誘拐の専門的なプログラムを有していないと回答しました。
第2段階:現地視察から得られた知見
1994年、プロジェクトのスタッフは、規模も属性も異なる6つの郡で、刑事司法制度による親子奪取事件の処理に詳しい人物に広範な聞き取り調査を行いました。対象とした郡は、フロリダ州エスカンビア郡、ニュージャージー州ハドソン郡、アリゾナ州ピマ郡、ユタ州ソルトレーク郡、カリフォルニア州サンディエゴ郡、ワシントン州スノーホミッシュ郡です。現地視察の主な目的は、法執行機関がどのように親による子どもの誘拐の報告に対応しているかを調べ、独自のケース処理方法を確認することでした。
全国調査の結果に基づいて、現地が選ばれました。地理的な多様性から選ばれた場所は、以下の基準を満たしたものでした。
◆その郡の検察庁は、1992年に少なくとも15件の監護権侵害の刑事告訴事件を起訴していた。
◆郡内の機関は、個々の事件を追跡するためにMISを使用していた。
現地選定の際、比較的多くの刑事告訴事件の起訴(この場合は15件以上)を行うことが、親による子どもの誘拐という犯罪に対する法執行の対応を強化する一つの指標となると判断されました。
事件処理の優先順位としての親による子どもの誘拐
サンディエゴ郡地方検事局とハドソン郡保安官事務所を除く、全ての刑事司法機関は、親による子どもの誘拐事件が彼らの仕事量の推定1〜5%しか構成していないと報告しています。中には、機関の限られた人員と、扱うべき他の事件の多さから、親による子どもの誘拐事件を「優先度が低い」と認識している人もいました。しかし、これは、これらの事務所の職員が、親による子どもの誘拐事件の処理について、専門知識を身につけていなかったことを意味するわけではありませんでした。殆どの場合、これらの専門家は、児童虐待、親や他人による誘拐、家出少年の捜査を担当する部署に配属されている刑事でした。
ハドソン郡やサンディエゴ郡のように、機関の職員が親による子どもの誘拐に関する専門知識を身につけたり、専門部署を設けたりしているところでは、熟練した関心を持つ職員のイニシアチブが、刑事司法制度の対応強化に貢献していることが明らかでした。しかし、専門的な制度は必ずしも機関内で制度化されておらず、専門スタッフがその機関に雇用されなくなった場合は消滅することもあり得ます。連絡を取った12の保安官事務所と警察のうち、親による子どもの誘拐事件の処理を規定する文書による方針を持っていたのは5つだけでした。サンディエゴ郡は、特定の刑事司法機関である地方検事局が、親よる子どもの誘拐事件に介入することが法律で義務付けられている唯一の場所でした。
事件処理と裁判所命令が警察活動に与える影響
ユタ州を除き、訪問した州は、監護命令発令の前後で監護権の干渉を禁止すると解釈できる法律が適用されていました4。カリフォルニア州、フロリダ州、ワシントン州の法令は、監護命令発令前の監護権侵害を明示的に違法としていました。アリゾナ州の法令は、監護命令発令前の介入が認められるかどうかについては明確ではありませんでしたが、ピマ郡検察庁は、そのような場合の介入を認めると判例を解釈していました。ニュージャージー州ハドソン郡では、法令が明確でないにも拘わらず、法執行当局は、最低限、子どもの安全を確保するために親による子どもの誘拐の告訴を調査し、同時に、監護権命令を得るために、監護権を侵害された親を家庭裁判所に差し向けると報告しました。
一般に、これら6州の法執行機関職員は、監護を侵害された親に監護命令がない場合でも、親による子どもの誘拐の告訴にある程度対応していました。少なくとも訪問した3つの管轄区域では、裁判所命令の有無や子どもが危険にさらされているかどうかによって、対応(パトロール警官の派遣、関係者への接触フォローアップなど)の程度に差があることがわかりました。別の3つの郡では、監護命令を行使するからといっても、パトロール隊員が自動的に現場に派遣されたり、告訴の正当性を確認するための調査が行われたりすることは同じなので、対応の程度には影響がありませんでした。また、少なくとも、どの地域でも、裁判所命令がなくても、警察は、子どものウェルビーイングを評価するために告訴のあった現場に出向き、同時に、監護権を求める申立てをするための支援として、当事者に地元の民事裁判所、法律サービスや無料奉仕のプログラム、あるいは民間の弁護士に出向くよう伝えます。
訪問権の侵害
訪問の妨害、またはアクセスの拒否は、子どもの法的監護者が、親または裁判所命令の訪問権を行使するのを妨げる状況を包含しています。訪問したほぼ全ての法執行機関は、訪問妨害の告訴に対して、現場にパトロール警官を派遣したり、電話で調査を試みたりして対応すると回答しました。警察が訪問を強制するかどうかは、命令の具体性と明確性に左右されました。また、訪問の妨害の報告に対するすべての対応が即座に行われるわけではなく、妨害は「長引く」性質のものだろうと考える機関もありました。訪問した6つの州のうち5つの州の法令は、訪問命令またはアクセス命令に対する干渉を禁止していました。この5つの州のうち3つの州では、訪問命令に違反すると重罪となる可能性がありました。
犯罪報告書の作成
全ての管轄区域において、法執行官は親による子どもの誘拐の告訴を受理すると犯罪報告書を作成しました。監護権侵害事件を親による子どもの誘拐と呼ぶかどうかは、管轄区域によって異なります。場所によっては、監護権侵害罪を、「その他の犯罪」、「民事事件」、関連する犯罪(ドメスティックバイオレンス罪や暴行罪など)と呼ぶ可能性があります。
NCICデータベースへの登録
1990年の全米児童捜索援助法(合衆国法規集第42編第5780条)は、州および地方の法執行機関が、誘拐が犯罪行為であるかどうかにかかわらず、待機期間なしに行方不明の子どもに関する報告を受け、その子どもに関する記述的情報を全米犯罪情報センター(NCIC)データベースに登録することを義務づけています。1984年連邦失踪児童援助法(合衆国法規集第42編第5772⑴🄐及び🄑)は、NCIC登録の目的上、「失踪児童」を次のように定義すると規定しています。
以下の条件を満足する、法的監護者が、その所在が分からない18歳未満の子ども
🄐当該個人の失踪を取り巻く状況から、当該個人が、当該個人の法的監護者の同意なしに、他の者によって当該個人の法的監護者の管理下から連れ去られた可能性があることが示されている。
もしくは
🄑当該個人が虐待または性的搾取を受ける可能性があることを強く示唆する状況にある・・・。
当局の職員は、親に誘拐された子どもと加害者に関する情報のNCICデータベースへの登録に関して様々な慣行を報告しました。管轄区域によっては、子どもの所在が「不明」であるか、逮捕状が発行されているか、誘拐犯が州外に逃亡していない限り、親による子どもの誘拐事件の情報を入力しない慣行がありました。
連邦捜査局FBIとのコンタクト
1980年親による誘拐防止法(合衆国法規集第28編第1738A条)に従い、FBIは、親またはその代理人によって、子どもが州境を越えて、あるいは国外に誘拐された事件を捜査する権限を与えられています。このような事件において、州または地元の法執行機関は、FBIが逃亡中の親の所在を調査できるように、連邦逃亡重罪(UFAP)令状の発給を求めることになります。
法執行機関職員の大半は、FBIとのコンタクトは殆どないと回答していました。彼らは、FBIが関与するケースはごく僅かか、全くないと答え、そのコメントは、FBIのリソースが十分に活用されていない可能性を反映しています。ある回答者は、UFAP令状が発行されたら、FBIは事件捜査にもっと関与するよう勧告し、FBI側のフォローアップが不十分であることを指摘しました。他方、子どもが州外に連れ去られた場合、FBIはすぐに事件に「飛びつく」と認識している人もいました。また、FBIとの関係を「良好」と評価する人もいました。
州の失踪児童情報センターの利用
現在、全ての州、コロンビア特別区、プエルトリコには、州の失踪児童情報センターがあります。管轄区域にもよりますが、情報センターは、行方不明の子どもの問題について一般の人々を教育する役割を持ち、子どもの連れ戻しを目的とした機関のサービスの調整に役立ち、特定の事件では、子どもを連れ戻しにおいて法執行機関に援助を提供することが可能です。
3つの郡の職員を除いて、捜査官は州の失踪児童情報センターをあまり利用していないようでした。このような操作官は、自分の州に失踪児童情報センターが存在することを知らないか、あるいは知っていたとしても、失踪児童情報センターのサービスを利用したことを面接者に伝えていないようでした。
その他の支援サービス
捜査当局の職員は、他の支援サービスについて様々な経験を持っていました。殆どの人が、連邦親探索サービスを知らないか、利用したことがありませんでした。全米失踪・せ児童センター(NCMEC)の出版物については、大多数が知っていましたが、NCMECの研修プログラム、個々の事件における技術支援提供については、あまり知られていませんでした。
検察官へのアクセス
全ての法執行機関は、関連する法律問題に助言できる検察官に24時間アクセスすることができました。少なくとも3つの管轄区域では、捜査当局の職員は、監護権侵害事件を専門とする検察官と直接アクセスできました。
児童保護サービスの関与
全ての場所で、各機関は、子どもが危険にさらされている、あるいは危険を加えられる恐れがある親による誘拐において、地元の児童保護サービス機関に照会するという方針が維持していました。このような事件では、法執行機関の職員は、身を脅かす状況から子どもを連れ出す権限があります。
研修と専門知識
専門部隊を持つ郡(ハドソン郡、ピマ郡、サンディエゴ郡)を除き、親による子どもの誘拐問題に関する研修は「OJT」でした。正式な研修が行われた管轄区域では、その内容は、連邦および州の監護権侵害に関する法律、犯罪の心理社会的側面、事件処理に関する文書による方針と手順、効果的な介入、監護権侵害の紛争解決における刑事および民事制度の相互作用などでした。
面接した職員の殆どは、自分の州の監護権侵害の刑事法について知識がありました。移民が多い場所-ハドソン郡、ピマ郡、サンディエゴ郡-では、国際的な誘拐事件の取り扱いに詳しい職員もいました。これら3つの群の職員は、「国際的な奪取の民事上の側面に関するハーグ条約」について知識があり、米国国務省、米国税関、米国移民帰化局のサービスを利用して、誘拐犯の居場所を突き止め、誘拐された子供を取り戻すための支援を受ける方法を知っていました。ピマ郡とサンディエゴ郡の検事は、親による誘拐の分野で専門家になっており、全国的な専門家とみなされていました。他の4つの郡では、検察官は、監護権侵害の刑事法を扱う州法には精通していましたが、適用される州民事法については比較的限られた経験しかありませんでした。これは、検察官が民事裁判所や家庭裁判所で実務を行っておらず、監護権侵害を専門としていなかったことが主な理由でした。このような事件は、検察官にとってOJTが普通でした。
刑事告訴の基準
どの管轄区域でも、監護権侵害の刑事告訴はかなり少ない件数でした。例えば、サンディエゴ郡では、地方検事局に監護権侵害に関する通報が年間1,500件も寄せられましたが、正式に事件が受理されたのは約350件で、そのうち刑事起訴されたのは毎年推定30件に過ぎませんでした。全員ではないにせよ、殆どの検察官が、起訴は子どもや家族の利益にならない可能性があり、最も重要な優先事項は子どもを安全かつ迅速に連れ戻すことである、と報告しました。検察官が起訴に踏み切る前に、それぞれの事件を個別に評価する必要があることは、誰もが認めるところでした。
一般に、このような事件では監護権侵害のみが起訴されました。また、2つの管轄区域では、検察官が児童への危険行為、住居侵入窃盗、ドメスティックバイオレンスに関連した暴行を起訴していました。ピマ郡だけが、郡と市の弁護士事務所を通じて、軽犯罪である訪問権侵害事件を積極的に起訴していました。刑事事件の起訴基準は、管轄区域によって異なっていました。検察官が起訴の判断に影響を与える要因として挙げたのは、以下の項目でした。
◆子どもや誘拐犯の居場所がわからない、または誘拐犯が子どもを返すことを拒否した
◆監護権の干渉が永久的または長期的であった(例えば、2~3ヶ月)
◆誘拐犯が州境を越えたか、国外に逃亡した
◆監護命令もしくは訪問命令に違反した
◆加害者側が繰り返し犯罪行為を行っている証拠が存在する
犯罪者の引き渡し
多くの郡では、犯罪者が引き渡されることは殆どありませんでした。その理由の一つは、特に誘拐犯が遠方にいる場合、誘拐犯の引き渡しに費用がかかることでした。また、検察庁に親による子どもの誘拐事件を専門に扱う部署がある管轄区域では、引き渡しが行われる可能性は高くなっていました。
事件の処理
6つの管轄区域全てにおいて、告訴された事件の大半は、司法取引または棄却という結果になりました。監護権侵害で有罪判決を受けた者は、通常、条件付きで保護観察を受けていました(例えば、被害者への賠償金の支払い、子育てスキル教室の受講、被害児童から遠ざけるなど)。懲役になることは極めてまれでした。有罪判決を受ける前でも後でも、被告人が子どの居場所の開示を拒んだ場合のみ収監されるようです。
検察官によると、親による子どもの誘拐事件が陪審員や裁判官によって裁かれることは殆どありませんでした。陪審裁判は3件報告されており、3つの郡でそれぞれ1件ずつ事件簿が追跡されていました。裁判員裁判(裁判官が有罪か無罪かを判断する事件)は、訪問権侵害事件を積極的に起訴した1つの郡でのみ、ある程度の頻度で発生しました。検察は、親による子どもの誘拐事件を起訴するのは非常に難しいと認識しています。犯罪の要素を証明せねばならないだけでなく、誘拐犯がもう一方の親による虐待行為の疑いから子どもを守るために行動したという弁護に反論しなければなりません。
被害者擁護プログラムと再統合サービス
ピマ郡とサンディエゴ郡を除いて、被害者擁護団体は、子どもの連れ戻し前と連れ戻し後の親と子どもの支援において、最小限の役割しか担っていませんでした。ピマ郡検事局の被害者証人擁護者とサンディエゴ地方検事局の捜査専門家は、被害者が民事裁判や法的サービスを受けられるようにし、再統合の過程で支援を提供するのに役立っています。
第3段階:事件簿のレビューから得られた知見
研究の第3段階では、親による子どもの誘拐に対する刑事司法制度の対応を、第2段階で訪問した3つの管轄区域-ハドソン郡、ピマ郡、サンディエゴ郡―の個々の事件簿のレビューを通じて更に検討しました。個々の事件を追跡調査した結果、刑事司法制度による親による子どもの誘拐事件の処理、事件の特徴、それらが事件の結果に及ぼす影響について、重要な知見が得られました。また、この研究における現地視察の結果の多くも裏付けられました。
1995年に実施されたデータ収集では、各郡の法執行機関や検察庁にある既存の紙とコンピュータのファイルから情報を抽出しました。最終的なサンプルは、ハドソン郡の80件(保安官事務所から62件、検察庁から18件)、サンディエゴ郡の96件(全て地方検事事務所から)、ピマ郡の94件(ツーソン警察から80件、郡検事事務所から14件)でした。
図1~3は、3つの管轄区域におけるこれらの事件の特徴と処理の概要を示したものです。研究者たちは、事件の特徴が親による子どもの誘拐事件への対応とその結果に関連するかどうか-具体的には、逮捕されたか、逮捕状が発行されたか、刑事裁判所に起訴(重罪または軽罪)されたかどうか5、を判断するため、様々な特徴を検討しました。3つの郡全体で、親による子どもの誘拐に関する74件の告訴が、逮捕または逮捕状の発行につながりました。これらの告訴うち50件は重罪および軽犯罪の起訴につながりました。
調査した12の加害者特性のうち4つが、事件が逮捕に至ったかどうかと正の相関があることが判明しました。つまり、その特性がある事件は、特性がないケースよりも加害者が逮捕される確率が高いということです。これらの加害者特性を以下に挙げます。
◆人種/民族:アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系、「その他」とされた加害者は、白人の非ヒスパニック系加害者よりも逮捕される可能性が高かった。
◆犯罪歴:少なくとも1回の逮捕歴がある加害者は、逮捕歴のない加害者よりも逮捕される可能性が高かった。
◆加害者と告訴人の間で起きた過去の警察沙汰や告訴:法執行機関を巻き込んだ告訴の前歴があると、逮捕の可能性が高くなった。
◆薬物乱用やアルコール乱用の前歴:薬物やアルコール乱用の前歴がある加害者は、その情報源にかかわらず、逮捕される可能性が高かった。
9つの告訴人特性について、事件の結果との関係を調査しました。4つの告訴人特性は、逮捕または逮捕状の発行と(正または負に)関連していました。
◆子どもとの関係:児童保護サービスが告訴人である事件は、加害者の逮捕に至る可能性が高かった。
◆犯罪歴:告訴人に前科がある場合、加害者の逮捕に至る可能性は低かった。
◆ドメスティックバイオレンスの履歴:告訴人にドメスティックバイオレンスを行った履歴がある事件では、加害者の逮捕に至る可能性が低かった。
◆精神疾患の既往歴:告訴人が過去に精神疾患を患っていた形跡がある場合、加害者の逮捕に至る可能性が低かった。
加害者特性のひとつである、警察沙汰や告訴の前歴は、検察庁による起訴と関連することがわかりました。また、告訴人の児童虐待の犯歴も、刑事裁判に起訴されたか否かと関連していました。
誘拐された子どもに関連する特性(例えば、事件に巻き込まれた子どもの数や子どもの生活状況)は、いずれも事件の結果と有意な関連を認めませんでした。これは、3郡とも事件の大半(60~78%)が子ども1人だけを対象としていることが一因であると考えられます。
6つの事件特性について、事件の結果との関連性を調べました。その結果、3つが逮捕および逮捕状と有意に関連していることが判明しました。
◆武器または力の使用
◆置き去りにされた親に子どもを連れ戻す
◆管轄区域からの子どもの連れ去り
加害者が逮捕されたり、逮捕状が発行されたりする可能性は、誘拐事件中に武器や力が使われた場合、子どもが連れ戻された場合、子どもが管轄外に連れ出された場合に高くなることがわかりました。
本研究の意義
この調査から見えてくるのは、刑事司法制度が親による子ども誘拐という犯罪に比較的注意を払っていない、ということです。NISMARTで報告されているように、1年間に推定155,800人の子どもが深刻な親による誘拐の犠牲になっています(Finkelhor, Hotaling, and Sedlak, 1990)が、今回の研究によれば、公式に登録される警察へ届出は僅か30,500件で、親による子どもの誘拐で逮捕されるのは推定4,500件だけです。検察に寄せられた親による子どもの誘拐のうち、正式に事件が受理されるのは9,200件、実際に刑事事件として起訴されるのは3,500件に過ぎません。1つの事件が2人以上の子どもの誘拐に関係している可能性を考慮しても、これらの数字は全体として非常に低い対応率であることを意味します。
親による子どもの誘拐は全米50州とコロンビア特別区で犯罪とされていますが、この研究の結果、刑事司法機関は、監護権侵害について職員を教育し、より効果的に対応できるようにするための研修やその他のプログラムを実施していないことが明らかになりました。前述したように、この調査の結果、大多数の司法執行機関や検察庁は、親による子どもの誘拐事件の処理に関する方針と手続きを文書化しておらず、これらの事件への対応方法について職員を訓練しておらず、この犯罪に特に対処するために設計された特別プログラムも持っていないことが分かりました。
しかし、現地視察の際、親による子どもの誘拐事件の処理に有望なアプローチが、幾つかの管轄区域で開発されていた事実を確認したことに留意する必要があります。刑事司法対応の強化に貢献した、訪問した大半の管轄区域に特有の特徴は、以下の通りです。
◆介入するための法的権限
◆親による子どもの誘拐防止に取り組む機関の指導者や職員
◆親による子どもの誘拐事件を専門に取り扱う職員
◆組織的な対応
◆優れた機関運営の実践
◆機関職員と置き去りにされた親のための支援サービス(例えば、法律、家庭裁判所、メディエーション、再統合、監督付き訪問サービス)へのアクセス
このセクションの残りの部分では、親による子どもの誘拐に対する刑事司法制度の対応を強化するための法的、プログラム的、政策的改革についての戦略と勧告を示します。
法改正
モデル「親による誘拐犯罪法」のような、包括的な親による誘拐の刑事法を制定する:親による子どもの誘拐に対する法執行の強化を実施するための最初のステップは、管轄区域が、この犯罪に関連する現行の州刑法と判例を評価することです。刑事司法機関が親による子どもの誘拐という犯罪に効果的に対応するためには、法律がその努力を支援しなければなりません。親による子どもの誘拐は、法執行機関の介入を認め、その犯罪を重罪とする法律が制定されない限り、法執行機関の優先事項とはならないでしょう。
包括的で統一された親による子どもの誘拐に関する法律の一つのモデルは、親による誘拐犯罪法です6。親による子どもの誘拐に関する犯罪に対し、刑事司法制度が対応を強化することに関心のある人は、このモデル法を検討し、自分の州の既存の法律と慎重に対比させるべきです。その序文に示されているように、「この法律は[この法律で]扱われている問題をカバーする既存の法律の代わりとなることを意図している」のです。また、この法律は、既に殆どの部分がこの法律に適合している法律の有効性を高める役割も果たすことができます。この法律の第一の目標は、州間で法の統一を図ることです。
簡単に言えば、この法律は、子どもが特定の州から連れ去られたか、監護命令が出されているかにかかわらず、監護権または訪問権を他者から実質的に奪う親による子どもの誘拐を禁止しています。特に法執行官にとって重要なのは、子どもが行方不明または誘拐されたと「合理的に思われる」場合など、特定の状況下で子どもを保護拘束する権限を与える同法の規定です。また、これらの規定は、「法執行職員、検察官およびその代理人は、この法律の規定により行われた行為について、責任を負わない」と定めています。
誘拐された子どもの連れ戻しに必要な民事裁判所または家庭裁判所の手続きにおける答弁書の提出を含む、監護権妨害の訴えを調査し起訴する権限を検察官に与える、カリフォルニア州法および子の監護事件の管轄および執行に関する統一法をモデルとした州法を制定する:カリフォルニア家族法第3130条から3134条に加えて、監護権決定の執行を迅速化するための法律7の第2章では、監護命令を執行するために民事訴訟を起こす際の検察官と法執行機関の役割に対処しています。例えば、この法律は、法執行官が、誘拐された子どもを連れ戻すため、および/または犯人の引渡し手続き中に犯人を引き取るために州外に出なければならない場合、子どもの一時的な監護権を取得する権利を認める裁判所命令を求める権限があることを規定しています。
1997年に統一州法全国会議により承認された「子の監護事件の管轄および執行に関する統一法」は、非常に類似した規定を含んでいます。第315条は、検察官に、子どもの所在を確認し、子どもの連れ戻しを求め、または子どもの監護に関する決定を執行するために、本法に基づく手続を利用するなど、あらゆる合法的な行動をとる権限を法的に与えています。検察官は、既存の監護権決定、裁判所からの要請、刑法に違反したとの合理的な確信、または子どもがハーグ条約に違反して不当に連れ去られた、もしくは留置されているとの合理的な確信がある場合、行動を起こすことができます。316条は、法執行官が本法の下で検察官の責任を遂行することを支援する権限を与えています。各州は、このような革新的な条項を含む同法の採用を検討すべきです。
全ての親に誘拐された子どもの情報が、必ず法執行機関がその報告を受け取ると同時にNCICデータベースに入力されるよう、1984年失踪児童援助法を修正する:現地視察により、「失踪児童援助法(合衆国法規集第42編第5772⑴🄐および🄑条)」は、子どもの居場所を子どもの法的監護者が知っている場合、子どもと誘拐犯に関する情報をNCICデータベースに入力する必要がないことを意味すると一般的に解釈されていることが分かりました。しかし、法的監護者が子どもの居場所を知っている場合でも、場合によっては即座に誘拐した親が逃げ出す、子どもに虐待やネグレクトを行う、あるいはその他の犯罪行為に関与する、という重大なリスクが常に存在します。連邦法を明確化し(即ち、「失踪児童」の定義を明確化し)、親に誘拐された全ての子どもの情報がNCICデータベースに必ず登録されるようにすれば、これらの登録が州間でより均一に作成され、法執行機関間の州内および州間の連絡が容易になります。また、前述の「子の監護事件の管轄および執行に関する統一法」に基づき、誘拐された子どもを探し出し取り戻す民事上の権限を持つ、または権限を得る可能性のある検察官の能力も強化されることになります8。
プログラムチックおよび政策の改革
親による子どもの誘拐は、深刻な児童虐待の一形態であり、効果的に捜査および起訴をしれなければならない犯罪であることを認識する:刑事司法機関の指導者は、職員が親による誘拐の犯罪を優先的に捜査できるよう、十分な職員、コンピュータ技術の強化、その他の資源の投入を主張すべきです。この研究の現地視察で実施した面接では、刑事司法制度の職員が、深刻な暴力事件やその他の犯罪の処理に追われていることが明らかになりました。面接に応じた人々は、親による子どもの誘拐が重大な犯罪であると認識していたものの、スタッフの増員やその他のリソースの投入が提供されない限り、効果的な対応ができないだろうと懸念していました。数名の被面接者が、データ収集システム(例えば、エクスペリアン社クレジットチェックやデータクゥイックなど)に迅速に接続し、調査を迅速化するための十分なコンピュータ機器とアップグレードされたコンピュータ技術の導入が必要であると報告しました。
親による子どもの誘拐事件の処理に対処する書面による方針と手続きの策定し実施する:実務と手続きを制度化し、親による子どもの誘拐の報告に対する均一で効果的な対応を確保するために、州および地方の刑事司法機関は、これらの事件の処理に特化した方針と手続きを策定し、実施することが不可欠です。優れた管理実践の問題として、監督者やパトロール中の者を含む全ての職員は、機関の方針と手順について十分な訓練を受け、熟知している必要があります。各機関は、親による子どもの誘拐の問題が確実に処置されるよう、行方不明の子どもの事件の一般的な取り扱いに関する既存の方針と手続きを評価すべきです。加えて、法執行機関職員および検察官は、起訴を目的とした事件の適切な移送を管理する、正式な書面によるプロトコルの必要性を評価すべきです。
犯罪の心理社会的側面、および監護権侵害の紛争解決における刑事および民事フォーラムの相互関係を含む、親による子どもの誘拐事件の取り扱いについて、全ての刑事司法システム担当者のための初期および継続的な研修プログラムを開発する:親による子どもの誘拐は重大な犯罪ではないという思い込みを変えるには、パトロール警官や管理職を含む全ての刑事司法システム職員に親による子どもの誘拐と効果的な対応について教育することが不可欠です。この調査の結果、一握りの刑事司法機関を除いて、殆どの法執行機関職員と検察官は、親による誘拐に関連する問題、政策、手続きに関する専門的な研修を受けていないことがわかりました(この犯罪に対する現在の刑事司法制度の認識は、5~10年前のドメスティックバイオレンスに対する見方と非常によく似ています)。簡単に言えば、全ての機関の職員は、連邦および州の親による子どもの誘拐の刑法、この犯罪の心理社会的側面、事件処理に対処するあらゆる文書化された方針と手続き、効果的な介入、監護権侵害紛争を解決するための相互および民事制度、および法執行の介入を補完しうる地域およびその他の支援サービス(例えば、メディエーション、家庭裁判所、法律サービスプログラム)に精通していなければなりません9。加えて、NCICの使用における州間の統一性を確保するため、全ての法執行職員は、NCICデータベースへの誘拐報告の適切かつ迅速な入力について協調的な訓練を受けるべきです。職員研修の時間的制約と、カバーしなければならない主題の数を考えると、親による子どもの誘拐と訪問権侵害の懸念に関する専門的な研修を、既にあるドメスティックバイオレンスおよび児童虐待の研修に組み入れることが適切かもしれません。管理職と職員は、次の機関から技術支援を得る可能性を探るべきです。全米失踪・被搾取児童センター、児童虐待の訴追のための国立センター、少年司法および非行防止室、失踪・被搾取児童の研修・技術支援プログラム10。
親による子どもの誘拐と訪問権侵害という犯罪の捜査と起訴に長けた法執行機関職員と検察官で構成される専門部隊を設置する:事件捜査と連れ戻し努力の複雑さ、およびハドソン郡、ピマ郡、サンディエゴ郡の刑事司法関係者の経験を考えると、各機関は、親による子どもの誘拐の報告に対して協調的かつ専門的に対応できるように、十分な人員を配置した専門部隊の設置を真剣に検討するべきです。パトロール警官とラインスタッフは依然としてこの問題についての知識が必要ですが、スタッフの専門家は、必要な調査をより効果的にフォローアップし、法執行機関の介入の妥当性を評価し、適切な支援サービスを利用し、監護権侵害の告訴の解決におけるラインスタッフの負担を軽減することが可能です。このような専門家は、特に監護権侵害事件が多くない管轄区域において、取扱い業務を当該事件だけに限定する必要はありません。捜査機関は、親による子どもの誘拐事件の取り扱いの全ての側面について包括的な訓練を受け、同時に他の種類の事件を担当する2人以上のスタッフを任命することが推奨されます。監護権侵害だけでなく、児童虐待やドメスティックバイオレンス事件も扱うサンディエゴ地方検察庁の家族保護課のようなスタッフ配置が望まれます。
地元の法執行機関に失踪児童情報センターを設立することを検討する:地元の法執行機関は、州の失踪児童情報センターとより効果的に協力すべきです。これと同時に、親による子どもの誘拐の報告に対して専門的かつ組織的な対応を可能にするため、郡内に地元の失踪児童情報センターを設立することを検討すべきです。ハドソン郡では、多くの自治体の警察機関が、親による子どもの誘拐事件を、当該事件の処理を専門とする職員を雇用している郡内の機関である保安官事務所に照会しており、このようなアプローチの1つのモデルとなり得ます。各機関の優先順位や利害を考えると、この種の調整は容易ではないかもしれないことを認識しつつ、このような調整を追求することに関心のある人は、この方法が費用対効果が高く、親による子どもの誘拐事件の捜査における市警察の負担を軽減できることを念頭に置いておくべきです。
2つ以上の州または1つの州内の2つ以上の自治体における親による子どもの誘拐の捜査および/または起訴を含む事件を扱うための、州内および州外の書面によるプロトコルを作成し、実施する:刑事司法機関、特に近隣の管轄区域にある機関は、事件の捜査中や起訴中に機関の責任に関連する管轄権の争いが生じる可能性を減らすために、州内および州間の書面によるプロトコルを作成する必要があるかどうかを検討するべきです。例えば、幾つかの大都市圏からなる米国北東回廊では、親による誘拐は容易に州境を越えることになります。誘拐された子どもがコロンビア特別区からメリーランド州に連れて行かれた場合、メリーランド州の法執行機関は子供の所在調査を支援する責任があるのか、あるとすれば、どの程度の支援になるのだろうか。このような質問には、州内および州間の文書によるプロトコルで答えることができます。
親による子どもの誘拐事件の捜査におけるFBIの役割を明確にし、適切な事件では積極的にFBIの協力を仰ぐ:この研究では、誘拐犯の所在を特定する際に、FBIがそれほど積極的に関与していない可能性があることがわかりました11。刑事司法制度の担当者は、このような事件の捜査においてFBIが果たす役割を知らない可能性があり、州や地元の法執行機関職員は、捜査の責任を分担することに懸念を抱いている可能性があります。親による子どもの誘拐事件の処理におけるFBIの役割に関する情報は、研修やその他のプログラムを通じて、州や地元の法執行機関職員や一般市民に広める必要があります12。加えて、連邦法執行機関による親による子どもの誘拐事件の取り扱いは、「逃亡犯罪者法」に基づく誘拐の捜査や、「親による国際的拐取罪法」に基づく国際的な誘拐の捜査および起訴への関与の程度の評価を含め、更なる研究が必要です。
州の失踪児童情報センターについて学び、サービスの連携と利用を改善するために協力し、情報センターへの資金援助を強化するよう提唱する:殆どの法執行機関が親による子どもの誘拐事件の優先順位を低くしていること、この犯罪とその取り扱いに関する一般的な知識が不足していることを考えると、失踪児童情報センターが十分に利用されず、その結果、資金が不足していることは驚くことではありません。本研究によって、地元の法執行機関職員と州の情報センターの間のコミュニケーションを強化し、技術的支援を提供する情報センターの役割を法執行機関がよりよく理解できるようにする必要があることが明らかになりました。警察は、州の情報センターの運営についてよりよく知る必要があり、そのサービスを利用する方法を知っておく必要があります。情報センターが法執行機関にとって最も有用なサービスを提供するためには、情報センターと地元の法執行機関との協力が不可欠です。
監護権侵害紛争の予防と解決に役立ち、刑事司法制度の介入を補完する支援サービスの開発および継続を提唱する:支援サービスの強化を擁護する立場にある刑事司法制度職員は、誘拐を防止し、監護権侵害紛争を解決するための民事フォーラムを子どもとその家族がより多く利用できる、費用対効果に優れた支援サービスを開発し維持するように努めるべきです。この支援には、法律サービスや自助法的プログラム、家庭裁判所サービス、メディエーション、監視付き訪問プログラム、親による子どもの誘拐問題に関する教育フォーラムなどを含めることができます。更に、さらに、民事訴訟において子どものための独立した弁護士を任命すること、および子どもと親の再統合を支援するプログラムを開発することを真剣に考える必要があります。民事と刑事の両分野で提供される支援サービスは、刑事司法制度の介入の必要性と、誘拐された子供にトラウマを与える危険性を減らす上で、非常に有益です。
結論
この研究を通じて、プロジェクト・スタッフや現場の関係者を含む何人かが、親による子どもの誘拐問題に取り組む際に、被害者としての子どもに焦点が当てられなくなることが多いというコメントを寄せました。例えば、親による子どもの誘拐の刑法は、一方の親がもう一方の親から子どもを奪うという観点で語られています。結果として、子どもではなく、親が被害者となります。同様に、特に子どもの居場所がわからない場合、子どもの視点が見落とされることが多いのです。他のタイプの児童虐待事件と異なり、親による誘拐事件では、捜査官が子どもに直接接触することはないことが多いのです。結果として、意図的ではないにせよ、両親とは対照的に、子どもの利益は二の次になる可能性があります。
刑事司法の指導者、立法者、その他専門的な介入プログラムを支援し実施する立場にある人々は、親による子どもの誘拐が深刻な児童虐待の一形態であり、50州全てとコロンビア特別区で犯罪であることを再認識しなければなりません。刑事司法制度がこの研究結果と勧告を慎重に検討し、この犯罪が子どもとその家族のウェルビーイングにとって有害であると認識し始めれば、多くの子どもが恩恵を受けることになります。
更なる情報について
親による子どもの誘拐に関する追加情報は、以下の団体から入手可能です。また、各組織から入手可能な出版物の簡単な説明も掲載されています。
組織・団体
少年司法および非行防止室(OJJDP)児童保護課
202-616-3637
202-353-9093 (ファックス)
ojjdp.ncjrs.org
全米失踪・被搾取児童センター(NCMEC)
703-274-3900
703-274-2222 (ファックス)
missingkids.com
児童虐待の訴追のための全国センター(NCPCA)
703-739-0321
703-549-6259 (ファックス)
ndaa-apri.org/apri/NCPCA/Index.html
アメリカ法曹協会・子どもと法律センター(ABA CCL)
202-662-1720
202-662-1755 (ファックス)
abanet.org/chil
出版物
OJJDP:以下の文書は、OJJDP(ウェブサイトの出版物を参照するか、800-638-8736で少年司法情報センターに電話する)または国立刑事司法参照サービス(ncjrs.org を参照するか、800-851-3420に電話する)にて入手可能です。
「失踪児童の捜索における記録の機密性への対処(NCJ 155183)」:この報告書は、学校、病院、児童福祉機関、ドメスティックバイオレンス・シェルター、家出人シェルターが保持する記録に法執行機関がアクセスする際の対応に勧告を行っています。また、情報公開の手順や、サービス提供者の記録を最大限に活用するためのチェックリストも掲載されています。報告書の付録には、失踪児童の捜索における記録の機密性、失踪児童事件の記録の閲覧を許可したり報告義務を課している管轄区域、記録の閲覧に影響する州法に関する追加情報およびその他の関連統計データが掲載されています。
「親による子どもの誘拐に関する危険因子の早期発見(NCJ 185026)」:この紀要は、OJJDPが資金提供した家族による子どもの誘拐防止に関する4件の研究の計画と調査結果を公開しています。調査結果は、親による子どもの誘拐に関連する危険因子と、リスクのある家族への介入に使用できる戦略に関する情報を提供しています。
「家族の中の誘拐犯:記述的プロフィールと予防的介入(NCJ 182788)」:この紀要は、親による子どもの誘拐の危険があるとされた家族の監護権やアクセスに関する紛争を解決しようとする、カウンセリング、紛争解決、法的戦略などの予防的介入について記述しています。
「国際的な親による子どもの誘拐に関する家族リソースガイド(NCJ 190448)」:このガイドでは、国際的な誘拐を防止し、誘拐された子どもや不当に拘束された子どもが戻ってくる可能性を高めるための、実践的で詳細なアドバイスを紹介しています。国際的な親による誘拐事件で利用可能な民事および刑事上の救済措置についての説明と現実的な評価を提供し、適用される法律を説明し、国際的な誘拐が発生またはその恐れがある場合に求められる可能性のある公的および民間の資源を特定し、親が経験する可能性のある法的および精神的困難に備えるものです。
「国際的な親による誘拐:法執行ガイド(近日刊行予定)」:このガイドは、国際的な親による誘拐事件で法執行を支援するために利用できる公的および民間の資源やサービスに関する実用的な情報を提供します。適用される法律の説明、機関の役割と責任の定義、刑事および民事の救済措置の説明、予防と阻止の方法の検討、国際的な親による誘拐事件で対処すべき重要な問題と手続きについて論じています。
「国際的な子の奪取の事件を解決する上での問題点(NCJ 182790)」:この報告書は、ハーグ条約の適用が国によって統一されていないことを文書化したものです。事件の記録、置き去りにされた親に関する調査結果、国際的な親による誘拐事件における選択された実践、司法・法制度に対する勧告が含まれています。
「親による国際的な子の奪取の事件解決における問題点(NCJ 190105)」:この紀要は、報告書「国際的な子の奪取事件の解決における問題点」からの主な調査結果、優れた実践例の選定、および勧告の概要を提供しています。
「親による誘拐の立ち直りと連れ戻しの障害(報告書:NCJ144535、調査概要:NCJ143458)」:これらの出版物は、非監護親によって誘拐された子どもの居場所特定、立ち直り、連れ戻しに対する法的、政策的、手続き的、実際的な障害に関する2年間の研究の結果を公開しています。各障害を克服するための推奨事項や、監護命令を執行するための既存の法的手続きの長所と短所、既存の法的手続きで使用する書式のサンプル、民事と刑事両方の控訴審判決の要約を記載した豊富な付録を含んでいます。
「親による子どもの拉致:文献レビュー(オンラインのみ: ojjdp.ncjrs.org/pubs/missing.html#186160)):
このオンライン資料は、親による子どもの誘拐に関わる主要な問題に関連する現在の研究および文献を要約したものです。
「危険因子の早期発見による親または家族による子どもの誘拐の防止(NCJ 182791)」:この報告書は、非監護親による子どもの誘拐に関するカリフォルニア州の幾つかの研究データの分析に基づき、子どもを誘拐する親の特徴を概説し、誘拐された子どもの家族に関する社会人口学的および法的情報を詳細に公開しています。
「失踪児童を探すための機関記録の利用:法を行使するためのガイド(NCJ 154633)」:この要約は、失踪児童を見つけるために、ある種の福祉サービス提供者の記録を入手し利用する手順に焦点を当てています。学校、医療機関、家出人シェルター、ドメスティックバイオレンス・シェルターからの記録の使用、アクセス、障害、制限について検証しています。
「あなたの子どもが行方不明になったとき:家族のためのサバイバルガイド(NCJ 170022; スペイン語版: NCJ 178902)」:子どもの失踪を経験した親や家族によって書かれたこのガイドでは、行方不明の子どもの捜索に親がどのように参加するのが最善であるかを説明しています。親と法執行機関との関係、メディアに関する問題の検討、チラシや写真の配布、ボランティアの組織化、寄付金の管理に関する実用的な情報を紹介しています。
NCMEC:以下の文書はNCMECから入手可能です(ウェブサイトのEducation & Resourcesを参照、または800-843-5678に電話してください)。
「家族による子どもの誘拐」:このハンドブックは、民事と刑事の司法制度を通じて親を導き、親を助ける法律を説明し、予防法を概説し、誘拐後のアフターケアのための提案を提供するものです。捜索と連れ戻しの戦略を徹底的に説明し、このような事件を扱う弁護士、検察官、家庭裁判所の裁判官へのアドバイスが含まれています。
「親による子の奪取に関する国際フォーラム:ハーグ条約行動アジェンダ」:この報告書は、「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」を研究するために、1998年9月に開催されたフォーラムの結果を詳述したものです。ハーグ条約の履行を強化するための12の行動/アジェンダを提供しています。
「『子どもは親と一緒にいる、どれだけ悪いことができるの?』:家族による誘拐の危機」:この概要書では、家族による誘拐の問題の深刻さを論じ、この問題が拡大しているかどうかを検討し、この犯罪が政策立案者にもたらす課題と機会について考察しています。
「失踪した子どもと誘拐された子ども:法執行機関のための事件調査およびプログラム管理ガイド」:このガイドは、地方、州、連邦機関の38人の専門家チームによって執筆され、家出人、捨て子、家族や非家族による誘拐、状況が不明な失踪など、幾つかのタイプの子どもの行方不明事件を扱う法執行官のための実践基準を概説しています。
「あなたの子どもが行方不明になったとき:家族のためのサバイバルガイド」:OJJDPからも入手可能です。説明は上記を参照してください。
NCPCA:以下の資料がNCPCAから入手可能です(ウェブサイトの出版物を参照してください)。
「親による子どもの連れ去り事件の起訴」:この研究論文は、検察官が適切な起訴と求刑を決定するのに役立ちます。積極的な捜査と検察の取り組みは、親による子どもの誘拐が被害者と誘拐犯の両方に深刻な結果をもたらす重大な犯罪であるというメッセージを送るものであると指摘し、全ての親による子どもの誘拐事件において起訴を真剣に検討するよう勧告しています。
「2000年親による子どもの誘拐の捜査と起訴(研修会議ノート)」:このノートは、2000年NCPCA会議「親による子どもの誘拐の捜査と起訴」のために編集された研修資料です。
「親による子どもの連れ去り、ドメスティックバイオレンス、児童虐待:関連する暴力に対する法的対応の変化」:この研究論文は、捜査官や検察官が、親による子どもの連れ去り、ドメスティックバイオレンス、児童虐待という相互に関連する犯罪に対して適切な対応をとるための一助となるものです。
ABA CCL:以下の文書は、ABA CCLから入手可能です(ウェブサイト上の Issues/Parental Kidnappingを参照してください)。
「ハーグ子の奪取条約概要書」:この1997年の資料は、「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」に該当する事件を扱う弁護士の助けとなる4つの概要書で構成されています。
「ハーグ条約:アメリカの裁判官と弁護士のためのカリキュラム」:この1997年の出版物は、国際的な親による子の連れ去り事件において、ハーグ条約をアメリカ国内でいかに効果的に利用できるかを説明しています。
「親による子どもの連れ去り防止と救済策」:この1997年の資料は、親による誘拐事件と適用される法律について、弁護士がより良く理解するために作成されたものです。誘拐を防止に役立つ子どもの監護命令に加えることができる保護についての実践的なヒント、弁護士が親の依頼人に与えることができるヒント、親のために取ることができる法的措置の検討、このような事件に役立つ政府のリソースが含まれています
「親による子どもの連れ去りに関する法律改革パッケージ」:このパッケージは1996年に作成され、州議会が採択できる親による子どもの誘拐に関連する3つの州法案が含まれています。この法律は、「親による連れ去り罪法」、「行方不明の子どもの記録フラグ立て法」、「子どもの監護権と訪問権の不法な妨害に関する法律」です。
巻末注
1.この調査の結果と提言は、プロジェクトの最終報告書である「親による子どもの誘拐に対する刑事司法制度の対応:最終報告」で詳しく説明されています。この最終報告書は、少年司法情報センター(電話:800-638-8736、オンライン注文:www.ncjrs.org/puborder)から入手できます。特に断りのない限り、この紀要のための法的およびその他の調査は1996年半ばに終了しました。特定の法律文献に依拠したい読者は、法律そのものをチェックして、正確で最新の文言と引用情報を確認する必要があります。
2.現在進行中のNISMART2の詳細な議論は、Hanson, L、2000年、第2回失踪児童に関する包括的研究、紀要、ワシントンDC:アメリカ司法省、司法計画室、少年司法および非行防止室に掲載されています。
3.調査票では、「共同監護・・・かどうか」が報告を受ける際の要因となったか、あるいは事件に割り当てられた捜査の優先順位に影響を与えたかについて質問しています。「共同監護」を行うために裁判所命令が必要かどうかは、対応機関の解釈に委ねられました。
4.「第2段階:現地視察から得られた知見」のセクションで述べた法律は、現地視察当時施行されていた法律であり、1995年時点のものです。
5.30%以上のデータが欠損している特性は、カイ二乗分析の対象から除外しました。
6.Uthe(1996)を参照。同法は、「親による子どもの誘拐に対する刑事司法制度の対応:最終報告」の付録にも掲載されています(注1参照)。
7.同法の全文と解説は、Volenik and Uthe(1993)に掲載されています。
8.NCIC2000に基づき、技術的能力の向上が図られています。その改善努力の一環として、ガイドラインを作成、実施しています。この紀要のNCIC関連の知見に照らして、行方不明者に関するNCIC2000コードは、「非監護親による子どもの誘拐」ではなく、「親による子どもの誘拐」と記載すべきです。監護権を持つ親が、もう一方の親の訪問権を侵害し、子どもを隠匿することもあるため、現在のコードは狭すぎる構成となっています。また、監護者や犯罪者の有無にかかわらず、子どもが行方不明になっていれば、親による誘拐であろうとNCICデータベースに登録することを明示的に認めるべきです。親による子どもの誘拐(州間および国際間)に関するNCIC2000ガイドライン案を見直し、監護者、非監護者、その他の者のいずれが誘拐したかにかかわらず、誘拐された子どもの特定と連れ戻しを妨げるのではなく、促進することを確実にすることが肝要です。
9.これらのトピックの多くに関する更なる情報については、「親による子どもの拉致:文献のレビュー」(ojjdp.ncjrs.org/pubs/missing.html#186160)を参照して下さい。この文書の説明は、「更なる情報について」で見ることができます。
10.フォックス・バレー・テクニカル大学への助成金を受け、OJJDPの児童保護部門が監督する「行方不明および被搾取児童に関する研修と技術支援プログラム」は、現在、「行方不明および誘拐された子どもへの対応」プログラムを含む5種類の1週間の研修プログラムを提供しています。
11.FBIに加え、他の多くの連邦機関が、親による子どもの誘拐事件に取り組む刑事司法制度の担当者を支援することができます。この支援に関する優れたガイドは、「行方不明および非搾取児童に関する連邦資源:法執行機関およびその他の公的機関と民間機関のディレクトリ(第3版,2001年5月)」です。フォックス・バレー・テクニカル大学がOJJDPとの協力協定に基づき作成しました。この文書の入手に関する詳細は、少年司法情報センター(800-638-8736)に問い合わせてください。
12.2000年1月、FBIは、児童犯罪局を児童犯罪課(CACU)に拡大しました。CACUは、監督特別捜査官と支援専門家で構成され、FBIの管轄下にある、何らかの形で子どもの被害に関わる全ての犯罪に焦点を合わせています。CACUのスタッフは、これらの重要なFBIの業務について、プログラム管理と現場全体の捜査監督を行っています。CACUの使命は、管轄下にある全ての事件に迅速かつ効果的に対応し、それによって被害児童の連れ戻し数を増やし、子どもが被害に遭う犯罪の数を減らすことです。
[訳者註1]コロンビア特別区(District of Columbia)について
正式名称ワシントン・コロンビア特別区で、ワシントンDC(Washington, D. C.)と略される。いずれの州にも属さない、連邦直轄特別区である。現在、特別区の範囲は首都ワシントンと同じである。州に昇格する、メリーランド州に帰属するという動きが従来からあり、昨年2021年にも「ワシントン・ダグラス・コモンウェルス州」に昇格する法案が米議会に提出されているが実現していない。
[訳者註2]置き去りにされた親の監護権について
子どもを連れ去られた、置き去りにされた方の親は、裁判所に対して「緊急引き渡し命令申立」を行うことができるが、置き去りにされた親が法的監護権を有していることが申立の条件となっている。具体的には、別居中や離婚済であれば、監護権か訪問権を有していれば、申立ては認められる。しかし、同居状態から突然の連れ去られた場合、監護権を有しているにも拘らず、裁判所命令の形になっていない。そこで、裁判所に申立を行い、「暫定的監護権」を得なければならない。
(山口亮子教授の論文“子の監護権と転居”から要点を抜粋)
(了)