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エグゼクティブ・サマリー 離別家庭の子どもと若者

離別家庭の子どもと若者:家族法制度の経験とニーズ
最終レポート 2018年
レイチェル・カーソン、エドワード・ダンスタン、
ジェシー・ダンスタン、ディニカ・ルーパニ
オーストラリア家族研究所

 このレポートは、オーストラリア政府司法省(AGD)から委託され、資金提供を受けた質的研究である、「別離家庭の子どもと若者:家族法制度の経験とニーズ」プロジェクトの調査結果をまとめたものです。この研究の目的は、両親が別離し、家族法制度を利用したことのある若者の体験とニーズを調査することです。
 研究は、2017年5月から2018年4月にかけて実施された、10歳から17歳の子どもと若者61人への詳細な半構造化面接(これらの子どもの親47人への面接を補足したもの)で構成されています。子どもの親47人への面接は、子どもや若者から提供されたデータの背景となる人口統計学的情報を収集するために、電話で行いました。これらのデータにより、研究チームは、親が利用したサービスや、家族法の問題を解決するために利用した経路を理解することができました。このような背景のもと、子どもや若者との面接から得られたデータは、親が別居し、家族法制度を利用した子どもや若者の経験やニーズについて、豊かな洞察を与えてくれました。
このレポートでは、研究に参加した子どもや若者の声を直接伝えるために、直接的な引用を多用し、可能な限り彼らの言葉で視点を提供できるように配慮しています。これにより、このような状況において、子どもや若者がどのように自分の意見や経験を明確に表現するのかについて、より深く理解することができます。

主な調査結果
家族のサンプルと人口統計学的プロフィール
  ・この研究に参加した家族は、4つの州、具体的には、ビクトリア州(36%)、ニューサウスウェールズ州(34%)、クイーンズランド州(19%)、南オーストラリア州(11%)にまたがって住んでいて、平均2人の子どもがいました。
  ・調査対象の子どもと若者のうち、半数強が男子(56%)であり、参加者の平均年齢は13歳でした。殆どが中等学校を修了する過程にあり(74%)、残り27%が小学校4年生から6年生でした。

子どもと若者とその家族の特徴
子どもと若者は、過去6ヶ月間の全体的な健康とウェルビーイングについて、かなり肯定的な報告をしています。
  ・子どもと若者の半数以上が全体的な健康状態を「優れている」または「非常に良い」と評価し(55%)、更に32%が健康状態を「良い」と評価しました。
  ・また、84%が一般的に、または大抵、自分の生活に満足していると報告しています。

子育ての取決め
  ・殆どの子どもや若者は、「共同養育」を取決めて生活しているか(26%)、大半あるいは全ての夜を母親と一緒に過ごしています(64%)。研究に参加した子どもの約5人に1人が両親のどちらかに会ったことがありません(18%が父親に、3%が母親に会ったことがありません)。
  ・21%の若者が少なくとも週に一度、別居親に会っています。
注目すべきは、50%の親が、もう一方の親との継続的な接触によって、自分自身や子どもの安全に懸念を抱いていると回答していることです。主な懸念事項は、精神的虐待(64%)、メンタルヘルスの問題(61%)、暴力や危険行為(32%)、アルコールや薬物乱用(21%)でした。

家族法制度のサービスとの関わり
 別離中および別離後の家族法サービスとの接触について尋ねたところ、親は子育て問題を最終決定する際に平均8つのサービスを利用しており、主なサービスは以下のとおりでした。
  ・弁護士(96%)
  ・カウンセリング、家事紛争解決(FDR)および/またはメディエーション(94%)
  ・裁判所サービス(83%)
  ・家族コンサルタント/報告書作成者(60%)
  ・独立した子どもの弁護士(ICL)(36%)
親が子育ての取決めを最終的に決定するために使用した主な経路は以下の通りです。
  ・裁判所(62%)
  ・カウンセリング/FDR/メディエーション(21%)
  ・弁護士(11%)
  ・もう一方の親との話し合い(6%)

別離後の子育ての取決めを行う際に子供や若者にとって重要な問題
 別離の家庭を通して、子どもや若者の声に耳を傾け、支援すること
  ・殆どの子どもや若者(76%)は、親が子育ての取決めや別離に関して自分たちの意見をもっと聞いてくれること、出来事を処理するための空間と時間を与えてくれること、親が自分たちの意見に反対であっても自分たちの意見を尊重してくれることを望んでいます。
  ・「両親ともに自分の話を聞いてくれると思う」と回答した子どもと若者(研究参加者の21%)のうち、1人を除く全員が、両方の親とかなり親しい、または非常に親しいと感じていました。

別居前後の出来事が、子育ての取決めに関する意思決定への参加に影響を与えた
  ・別離の経験は、子どもや若者の子育ての取決めに関する考え方や、その過程を通しての支援の必要性を形成する上で重要でした。
  ・若い研究参加者は、生活環境や人間関係の変化を処理するために、親や他の人からの支援を求めていました。
  ・研究参加者は、特に安全上の懸念が生じた場合に、自分の意見を家族法や関連サービスに真剣に受け止めてもらいたいと考えていました。

コミュニケーションと人間関係の発展を促進する
  ・親子間のコミュニケーションは、子どもや若者が新しい生活環境を受け入れ、親と別居後の新しい関係を築き、別離の過程や子育ての取決めの作成にどのようなことが含まれているかをよりよく理解するために重要であることが明らかになりました。
  ・研究参加者は、別離後のそれぞれの親との関係を構築や再構築するための時間を必要としていました。このプロセスでは、両親が子どもの声に耳を傾け、子どもの個々の生活に興味を持ち、子どもとの充実した時間を過ごす必要がありました。

変化への柔軟性、継続的なコミュニケーション、子育ての取決めに対する有意義な発言を認める
  ・子どもと若者の3分の1以上(38%)が、別離後の状況で何が起こっているのかをより理解するために、親や他の人との継続的なコミュニケーションを望んでいると述べました。
  ・子どもや若者は、法的プロセスの様々な側面について、常に情報を得ることを望んでいると指摘しました。これには、誰が自分たちの親を代表していたかについてもっと知ることが含まれていました。具体的には、誰が(もしいれば)自分たちを代表していたのか、考えられる結果は何だったのか、誰が子育ての取決めを決定したのか、意思決定のプロセスにおいてどんな段階を踏んだのか、問題はいつ決定されるのか、いつ、どのような問題について自分たちの意見を述べることができるのか。
  ・長期的には、子どもや若者は自分たちの取決めの柔軟性を重視しました。
  ・子育ての取決めは、安全上の懸念を反映する必要があり、子どもや若者の最善の利益 をよりよく反映するために変更が必要な場合もあります。

子どもたちが経験した家族法制度のサービス
 この研究に参加した子どもと若者は、家族が別離する際に関わった法的サービス(裁判所、法的サービス(ICLを含む)、家族レポート/アセスメントなど)、非法的サービス(FDR、子どもコンタクトサービス、カウンセリングサービスなど)の経験について質問を受けました。

子どもや若者の反応は、彼らの声や経験に耳を傾け、それを認めたところでは、サービスが関与する程度によって異なる
 参加者からのサービス経験の質的記述とともに量的データによると、子どもと若者が自分たちの見解と経験をサービス提供者がどの程度認めているかに関して様々な経験があったことが窺えます。具体的には、
  ・ICLにアクセスしたことを記憶している研究に参加した子どもと若者の殆ど(n=14)が、ICLに会ったことを報告していて(n=11)、これらの参加者のほぼ半数が、ICLが自分の意見を認めてくれたと回答しています。
  ・家族コンサルタント/報告書作成者に関しては、これらの専門家との関わりを思い出せる子どもや若者(n=20)のうち、半数は自分の意見を認めてもらえなかったと回答しましたが(n=10)、中には認めてもらえた、あるいは多少認めてもらえたと回答した子どもや若者もいました(n=9)。
  ・FDRを利用した家族のうち、利用したことを思い出せる参加者はごく一部(n=12)であり、FDR実務者やメディエイターに会ったと答えたのは3人だけでしたが、これらの参加者はいずれも自分の意見をこれらの専門家に認めてもらえたと答えています。

一部の子どもや若者は家族法制度のサービスの直接的な受益者であると認識していますが、肯定的な経験は家族法関連以外のサービスとの関連で語られる傾向が強かった
  ・これらの家族法制の専門家との関わりについて語った子どもと若者の多くは、裁判所のプロセス(n=11)、家族コンサルタント/報告書作成者(n=11)、ICL(n=7)に対して否定的な感情を抱いていると述べました。また、殆どの子どもと若者は、意思決定プロセスや最終的な子育ての取決めに関する自分たちの意見のレベルや意識のいずれかに不満を持っていました。
  ・一方、研究に参加した子どもと若者は、別離後のカウンセリングの直接的な受益者であると表現する傾向が強く、カウンセラーから受けた支援を肯定的に評価する傾向が強かった。

家族法制度サービスへの参加に関する様々な見解と経験
  ・一部の研究参加者は、これらの家族法制度の専門家との関わりを、子育ての取決めに関する意思決定プロセスへの参加を促進すると説明しました。
  ・しかし、家族法制度の経験を持つ子どもと若者のかなりの割合の反応は、彼らが交流したサービス専門家によって採用されたアプローチが、彼らの実際的な影響を制限するか、または彼らの子育ての取決めに関する意思決定への関与を効果的に無視する方法で運営されたことを示唆しました。特に、子どもと若者は、彼らの事件で法律専門家や法廷職員と話をしたり会ったりする機会がなかった場合、家族法の手続きに従って行われた子育ての取決めから排除されたという感情を説明する傾向がありました。
  ・特に子どもと若者によって提起された安全上の懸念に対応して、家族法制度の専門家の側で認識された不作為が苦痛を引き起こしていると、家族法制度の専門家とのある程度の関与を報告した多くの研究参加者が特定しました。

子どもと若者が役に立ったと思うサービスやサポート
  ・殆どの研究参加者(n=43)は、両親の別離という状況に対処するために、家族(片方または両方の親、祖父母、兄弟姉妹、その他の親戚)が何らかの助けになると考えており、一方、半数強の研究参加者(n=33)は、両親の別離という状況において、友人や仲間を重要な支援構造の一部として認識していました。
  ・研究に参加した子どもと若者の約半数は、両親の別離中または別離後に学校から支援を受けたと述べていて(n=30)、その支援は主にカウンセラー(n =13)または教師(n =17)との交流によるものでした。
  ・研究参加者の大多数は、心理学者や精神科医、ヘッドスペース、キッズヘルプラインなど、メンタルヘルスの専門家やサービスと何らかの関わりを持っていました(n=38)。これらの若い研究参加者の4分の3以上(n=30)は、これらのサービスが何らかの形で役に立ったと述べました。

効果的な専門的実践を進める:「子どもたちにもっと大きな声を、もっと多くの時間を」
 研究に参加した子どもと若者の視点から見た、効果的な専門的実践の主な特徴は以下の通りです。
  ・話すための時間を確保し、子どもの意見や経験により効果的に耳を傾ける(64%)。
  ・専門家は、子どもと若者のニーズをよりよく理解するのは勿論、(忍耐、共感、尊敬などの資質を含む)交流を通じて子どもと若者と信頼関係を築くための対策を講じる(46%)。
  ・専門家は、子どもの事件の意思決定プロセスに関連したより多くの情報を提供することによって、オープンなコミュニケーションをとる(38%)。
  ・専門家が保護的に行動し、子どもの懸念に対処、反応し、子どもに影響を与える問題について子どもや若者の情報を提供し続ける。
この現在の研究データは、上記で概説した効果的な専門的実践の特徴を取り入れ、以下のようなアプローチで、子どもを包括するアプローチを採用することが示唆されました。
  ・関連する子どもと若者が意思決定プロセスに貢献し、正確に意見を聞き取ることができ、この意思決定プロセスの性質と進捗状況について独立して情報を得ることができる。
  ・決定事項について、明確かつ正確な説明を行う。
  ・必要に応じて、継続的な治療サポートや支援を受けることができる。
  ・子育ての取決め変更する柔軟性と継続的かつ有意義なコミュニケーションをとる柔軟性を備えた能力を有している。
更なる研究が、特定の司法、法律、法律以外の専門家、サービス提供者に特化した専門的実践とサービス提供の発展に役立つかもしれませんが、このアプローチへの取り組みは、「子どもたちにもっと大きな声を、もっと多くの時間を」という研究に参加した子どもと若者の大きく明確な声に応えるための重要な一歩となることでしょう。

(了)

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