父母の離婚に伴う子の養育に係る各国の民事法制等に関する調査研究業務報告書の概要
この記事は、法務省HPの「法務省の概要>組織案内>内部部局>民事局>民事に関する法令の立案関係>父母の離婚に伴う子の養育・公的機関による犯罪被害者の損害賠償請求権の履行確保に係る各国の民事法制等に関する調査研究業務報告書の公表について」に掲載されている「調査研究業務報告書の概要【PDF】」を転載したものです。
本調査は,法務省が,令和2年度中に,面会交流,養育費を含む父母の離婚に伴う子の養育や,公的機関による犯罪被害者の損害賠償請求権の履行確保等に関して,①アメリカ(カリフォルニア州及びニューヨーク州),②イギリス(イングランド及びウェールズ),③ドイツ,④フランス, ⑤スウェーデン,⑥フィンランド,⑦韓国の7か国を対象に,各国の最新の民事法制や運用について,民事法等の研究者による調査研究を委託したものである。
本概要は,上記調査研究の結果のうち,父母の離婚に伴う子の養育に関係する部分について制度や運用の一部を紹介するものである。詳細については,報告書本文を確認されたい。
1-1 離婚後の子の養育に関する制度・運用例
⑴ アメリカでは,我が国の親権に類似する概念として監護権(custody)がある。監護権には,法的監護(子の教育,宗教,医療など重要な事項に関する決定を行う。)と身上監護(子の日常の養育を行い日常的な事項について決定を行う。)が含まれており,婚姻中は共同監護である。離婚する場合は,上記2つの監護を,それぞれ,共同又は単独で行使するかを裁判所が決 める(父母が合意している場合にも裁判所が確認し,合意判決を下す。)。共同監護のためには,両親が共同監護を理解し,協力することが不可欠であるとされる。この監護権は,一方の親のDVや薬物濫用等を理由として制限されることもある。
離婚後の子の養育内容を具体的に決めるのが養育計画(parenting plan)であり,①監護権行使の態様(監護権をどこまでシェアするか),②ペアレンティング・スケジュール(子が親と過ごす時間(休日・休暇,特別な日を含む。)に関する取決めなど),③子の受渡し方法,④その他の事項について詳細かつ具体的な取決めをすることが要求される。
⑵ イギリスでは,父母は原則として子に対して親責任(子の養育監護に関する法的な権利,責任及び義務。Parental Responsibility。以下,その頭文字を取って「PR」という。我が国の「親権」に対応する概念であるが,PRの保持者は親に限定されない。)を有し,離婚後もそれぞれがPRを保持する。PR保持者は,原則として単独でPRを行使できる。父母の離別後も共同して子の監護養育を行うことが,基本的な前提とされるが,父母の子に対する関与や責任の度合いについて,法は具体的に言及しておらず,個別に判断され,裁判所は,当事者間の話合いによる取決めや解決を推奨し,あえて裁判所が介入しないという原則をとっており,当事者間で共同養育について合意形成ができるのであれば,裁判所は全く関与しない。
以前は,離婚の際に,離婚後の子の養育に関する取決めである「子の処遇に関する陳述書」を裁判所に提出することが義務付けられていたが,2014年の法改正により提出は義務ではなくなった。父母双方による自律的かつ自由な話し合いで,子の養育に関する事項を取り決めれば足りるとされるが,ソリシタ(事務弁護士)の援助の下で合意書を作成し,裁判所の承認を得れば,合意内容に法的拘束力を持たせることができる。
⑶ ドイツでは,親配慮(elterliche Sorge.我が国の「親権」に対応する概念だが,「親配慮」と訳されることが多いため,以下では「親配慮」,「配慮」という語を用いる。)を「未成年者の世話をする親の義務であり,権利である」と定義しており,身上監護と財産管理からなる。子の出生時点に父母が婚姻していれば法律上当然に共同配慮となり,父母が別居又は離婚をしても,原則として共同配慮が継続する。「重要事項」(その決定が子の成長に重大かつ決定的な影響を与える事項。個別事案によって左右されるが,一般的には,子の学校の選択,重大な医療行為,子の名前の決定,居所指定等が含まれるとされる。)の行使については父母の合意が必要とされる。1997年の立法時には,別居又は離婚後に当然に共同配慮とするのではなく,両親が共同配慮を選択することを要件とすべきとの指摘もあったが採用されなかった。家庭裁判所は,別居又は離婚後に父母が協力して監護養育に当たる意思・能力がないと判断すれば,共同配慮を単独配慮に切り替え母を単独権限者とする傾向にあるとされる。
以前は,離婚に合意している父母が家庭裁判所に離婚の申立てをする際,離婚の合意や養育費に関する合意等のほかに,共同配慮の継続や面会交流について合意があって,これらに関する決定を申し立てない旨を明記するか,又は他方親の同意に基づいて配慮権の全部又は一部の移転の決定を求める旨の申立書を添付する必要があった。2009年に制定された現行法では,離婚申立書の必要的記載事項として,①未成年子の氏名,生年月日,常居所地,②親配慮,面会交流及び養育費についての取決めの有無,③父母が当事者となっている家事事件手続が係属している場合はその旨,を規定するにとどまり,未成年子に関する合意内容を記載する必要はないとされている。
⑷ フランスでは,親権(autorité parentale)は「子の利益を目的とする権利及び義務の総体」であり,身上監護権と財産管理権に大別される。父母の婚姻・離婚の有無にかかわらず,父母は原則として共同して親権を行使する。フランス民法典には,日常的行為について,一方親の権限行使に対する他方親の同意を推定する規定があるが,日常的行為の定義規定はない。他方で,「子の利益のために必要な場合には,家事事件裁判官は,親権の行使を両親の一方に委ねることができる」と規定されている(もっとも,裁判所は,単独行使とすることを例外的と考えているとも指摘されている。)。また,裁判官が関与しない離婚の場合,弁護士の関与の下,当事者が合意をすれば,単独行使にすることを定めることもできる。
離婚の際に未成年子がいる場合,父母は,親権行使の態様,子の居所,訪問権・宿泊権の態様,養育費の分担について当事者が合意する必要があるとされるが(当事者が合意できない場合は裁判官が決める。),2016年の法律により裁判官が関与しない離婚も認められており,その場合は,子に関する父母の合意が子の利益に反しないかについて,裁判官のチェックはない(ただし,双方の弁護士・公証人の関与がある。)。この改正を含め,近年,家族法の「脱裁判化」と呼ばれる動きがある。
⑸ スウェーデンでは,親権者ではなく「監護者(Vårdnadshavare)」という言葉が用いられ,監護は子の身上監護への責任を意味する。子の財産管理は,後見制度により行われる。原則として父母の共同監護であり,父母が離婚した場合も子は継続して双方の親の監護に服する。しかし,近年,単独監護が認められる範囲が法改正により拡大している。両親による共同監護は,子の最善の利益に適うと推定されるが,裁判所は,一方の親が共同監護に強く反対する場合には,それを考慮しなければならないとされている。共同監護の決定に際し重視される要素として,子に関する事項について協力する親の能力であると明文で規定されており,父母の対立が激しいために互いに協力できず,それが子に不利益を与える場合には,単独監護が認められる。 未成年子がいる場合であっても,離婚時に子の居所,面会交流,養育費等について必ず取り決めなければならないわけではないが,離婚の申立てにおいては,共同監護であるか単独監護であるかを明記しなければならないとされている。親子法では,子の監護,居所及び面会交流に関する全ての決定において子の最善の利益が至高の考慮事項でなければならないと定められている。父母が,子の最善の利益を考慮して,監護,居所及び面会交流に関して合意した場合,それが書面でされ,かつ社会福祉委員会の承認を得た場合は,当該合意は裁判所の決定と同様の強制力を伴う。
⑹ フィンランドでは,「監護権」に,日常的な世話や子の保護,教育,居所指定その他の子の身上に関する事柄を決定する権利が含まれ,財産管理も原則として監護権者が行う。父母の婚姻中に子が出生した場合には,当然に父母の共同監護となり,父母が離婚した場合でも,原則として共同監護が維持される。もっとも,当事者の合意や裁判によって,共同監護か単独監護かを決めることも可能である。共同監護の場合,日常的な事柄については,子の同居親が単独で決めることができるが,居所,教育,子の姓,旅券等の重要な事柄については,原則として父母が共同で決定しなければならない。父母は,離婚する場合,合意により,①共同監護とするか単独監護とするか,②子の居所,③面会交流,④養育費等について定めることができるが,書面によらなければならず,合意内容について社会福祉事務所による認可を得なければならない。認可により,確定判決と同様の法的効力及び執行力を有する。
⑺ 韓国において,親権とは,父母が子に対して有する身分・財産上の権利と義務をいい,身上監護と財産管理からなる。また,養育とは,子を父母の保護の下で養い育て,教育することを意味し,養育権とは,このような子の養育に必要な事項を決定できる父母の権利をいう。父母の婚姻中は双方が共同で親権を行使するが,離婚する場合には,親権者と養育者について,父母の合意又は家庭法院の審判により,子の福利を優先的に考慮して,父母の一方を親権者又は養育者と指定することができるほか,父母を共同親権者又は共同養育者として指定することもできる。親権者と養育者を分離して指定することもできる。なお,父母の離婚後は,実務上,父母の一方が親権者及び養育者となることが一般的であるとされている。
2007年民法改正により,協議離婚の際には,父母に,親権者及び養育者の決定,養育費の負担,面接交渉権行使の有無及びその方法について取り決めた「子の養育と親権者決定に関する協議書」を家庭法院に提出することが義務付けられた。家庭法院は,これらの取決め内容が子の福利に反する場合には,補正を命じるか,職権で養育に必要な事項を定める。裁判上の離婚の場合は,家庭法院は,上記の子の養育に関する事項について協議をするよう当事者に勧告することができる。
1-2 離婚後の子の養育における父母の対立の調整に関する制度・運用例
⑴ アメリカでは,養育計画において事前に取り決めておくべき事項の中に,父母間で争いが生じた場合の解決方法も含まれる。そのような取決めがなく,緊急性を要する事項について争いが生じた場合は,例えば,暫定的監護命令(ex parte order)を申し立てることが考えられるが,子の身に危険が迫っているという例外的な場合に限られる。緊急性を要しない事項について争いが生じた場合は,最終的には養育計画の変更や監護権変更の手続で調整する。なお,日常生活に関する事項についてまで裁判官に判断が委ねられるとすると,解決までに時間を要して適時適切な対処が困難になり,結果として子の利益を害する結果になるとの指摘もある。
⑵ イギリスでは,子を日常的に監護養育する親は,基本的には,他方親に相談することなく,子の養育に関するほとんどの事項を単独で決定することができるとされているが,PRの行使をめぐって父母間で意見が対立する場合には,まず「子に関する取決め決定」の裁判手続によって調整する。さらに,相手親のPR行使を差し止める場合には「禁止措置決定」を,また,例えば進学先の決定など特定の事項についてPR保持者間で意見の対立がある場合は,「特定事項決定」をそれぞれ裁判所に求めることができる。
⑶ ドイツでは,父母が共同配慮者の場合,重要事項については父母が合意する必要があるが,合意できない場合には,一方又は双方の親が家庭裁判所に申立てをし,当該事項に関する決定権を一方の親に付与するよう求めることができる。裁判所は,子の福祉に照らして判断し,例えば,父母が子に高等教育を受けさせるか否かを争うときは,子の才能と関心,家庭の経済状況等を勘案し,具体的な状況の下で妥当な意見を述べている親に決定権を付与する。裁判所は,父母のどちらかに決定権を付与しなければならず,第三の解決方法をとることはできないと解されている。また,いずれの親も,緊急時には単独で代理権を行使することができ,遅滞なく事後的に他方の親に通知すれば足りるとされている。
⑷ フランスでは,父母が合意に至らない場合には,父母の一方又は検察官が家事事件裁判官に申立てをすることができ,裁判官は,親権行使の態様について決定することができる。判断の際の考慮要素は,民法典に列挙されており,例えば,①両親が従っていた慣行,②子の感情,③両親それぞれにつき義務を引き受け又は他方の権利を尊重することについての適性,④両親の一方から他方の身上に対して行使される肉体的あるいは精神的な抑圧又は暴力,等が規定されている。裁判官は,親権行使の決定権者を定めるのではなく,当該紛争について子の利益を考慮した上で結論を出すとされ,第三の解決方法を選択することも可能である。また,医療については,手術をしなければ子の身上に重大な結果を引き起こす危険があれば,医師は必要不可欠な治療を行わなければならないとされている。
⑸ スウェーデンでは,共同監護の場合,子の私的事柄,例えば,子の居所,学校の選択,医療行為等の事柄について,子にとって最善の利益の確保の観点から共同で決定しなければならない。監護について合意できない場合,コミューン(日本の市町村にあたる基礎的自治体)における共同対話(対話の機会を提供するサービス)を利用することができ,共同対話の利用 は任意であるが,広く利用されている。父母が共同対話を行っても合意に至らない場合は,裁判所に申し立てることができる(裁判所への申立ては,最終的な手段として位置付けられる。)。なお,児童虐待の場合や子に必要な医療行為が拒否された場合は,社会福祉委員会の裁判所への申立てによって措置命令が発せられ得る。裁判所の決定を待つことができない緊急の場合は,社会福祉委員会が緊急措置命令を発することができる。
⑹ フィンランドでは,共同監護の場合,重要な事柄については,子の最善の利益の観点から明らかに異なる要請がない限り,監護権者が共同で決定しなければならないとされる。もっとも,父母間で合意に至らない場合,地方自治体が提供する無料のメディエーションサービス等を利用することができ,また,裁判所に監護に関する責任の分担の決定を求めることもできる。
⑺ 韓国では,家庭法院は,子の福利のために必要と認める場合には,父母や子,検察官の請求により,又は職権で,子の養育に関する事項について変更又は適当な処分をすることができるほか,親権者変更や養育者変更制度もある。また,共同親権の場合において,親権が濫用されることで子に不利益が生じることが社会問題となっており,そのような事態を改善するため,2014年民法改正により,従来の親権喪失制度に加え,親権者の同意に代わる裁判,親権停止,親権制限制度(子の居所指定その他の身上に関する決定等の特定の事項について, 具体的な範囲を定めて親権の一部制限をすることができる制度)が新設された。
2 子の養育に関する事項についての子の意思の考慮に関する制度・運用例
⑴ アメリカでは,監護権や面会交流など子どもを対象とした事件において子の意思を把握するための制度として,子どもの代理人制度と子どもの手続参加がある。
⑵ イギリスでは,家事事件手続における子の意見聴取や司法参加が推奨されているが,実務上,子の声を聴くことはあまり実践されていないとの指摘もある。親の離婚や別離に際し,子に関する取決めをめぐって紛争が生じた場合には,裁判手続外で子を第一に考えた合意形成ができるよう,支援するための実務指針が設けられている。
⑶ ドイツにおいては,子の監護事件及び面会交流事件について,子の意見を聴取する手続が置かれている。また,裁判所は,子の利益に鑑みて必要があると判断すれば,子の手続保佐人を選任する。
⑷ フランスでは,民法典において,「両親は,子に関する決定に,子の年齢及び成熟度に応じて,子を関与させる」との規定が置かれるなどしている。
⑸ スウェーデンでは,子の意思や意見の考慮については,親子法で明文化されており,監護,居所及び面会交流に関して,子の最善の利益を判断する際には,子の年齢及び成熟度に応じて,子の意見と希望も考慮しなければならないと定めている。
⑹ フィンランドでは,監護権者は,子の監護に関する事項の決定前に,子の年齢や成熟度,事項の性質に配慮して,可能である限り,子と話し合わなければならない旨が規定されている。
⑺ 韓国では,民法において,家庭法院が子の養育に関する事項を決定するに当たっては,子の意思等を参酌する旨が規定されている。家庭法院は,親権者の指定,養育に関する事項又は面接交渉権に関する事項等について,子が13歳以上であるときには,原則として子の意見を聞かなければならない。
3 子を連れた一方親の転居に関する制度・運用例
⑴ アメリカでは,監護命令によって監護権の行使態様が定まった後,一方の親が子を連れて転居しようとした場合に,他方親の監護権や面会交流権を侵害しないよう調整を図る司法手続(リロケーション)がある。転居差止めや監護権変更の申立てをすることもあり得る。
⑵ イギリスでは,原則としてPRを単独行使できるため,転居に他方親の同意は必要ないが,同居親の決定を含めて子の居所をめぐる争いがある場合には「子に関する取決め決定」を,他方親が同居親による子の転居を阻止しようとする場合は「禁止措置決定」を,裁判所に申し立てることができる。「子に関する取決め決定」で同居親となっている親が子を1か月以上国外へ連れていく場合は,PR保持者全員の同意を得るか,裁判所の決定を得る必要がある。
⑶ ドイツでは,子の転居は重要事項に該当し,原則として父母の合意がなければ認められない。子の転居について父母間で合意に至らない場合,少年局に助言や支援を求めることができる。それでも合意に至らない場合には,家庭裁判所に対し,当該転居の決定権限の付与や居所指定権の委譲を申し立てることができる。
⑷ フランスでは,民法典において,相手親の親権の行使態様が変化するような転居は,事前かつ適時に通知をしなくてはならないとされている。転居について合意できない場合,裁判所に申立てをすることができ,裁判官は,子の居所の形態,訪問権・宿泊権の内容を決定・変更することができる。相手親に通知せずに転居した場合,裁判官が親権行使の態様について判断する際に,不利な事情として考慮される可能性があるほか,刑事罰の対象ともなる。
⑸ スウェーデンでは,共同監護下にある場合,一方の親が他方の親の同意なく子を連れていくことは認められない。子の居所について合意できない場合,コミューンの共同対話を利用することができ,それでも合意できない場合は裁判所に申し立てることになる。
⑹ フィンランドでは,共同監護の場合,子の居所は原則として監護権者が共同で決定しなければならない。一方の親が他方の親の同意なく子の居所を変更した場合には,他方親は,監護権者の変更や居所命令を申し立てることによって子の居所の変更を実現することができる。
⑺ 韓国では,親権の内容に居所指定権が含まれているとされる。協議離婚における取決め又は離婚判決で養育者として指定されたにもかかわらず,相手親が子を返さないときは,家庭法院に幼児引渡審判を請求することができる。
4-1 面会交流の取決め等に関する制度・運用例
⑴ アメリカでは,最高裁判例により,面会交流は憲法上保障される親の権利であるとされ,離婚後の親子の交流は子の最善の利益に適うというコンセンサスがあり,離婚時において提出される養育計画において詳細に取り決められる。
例えば,カリフォルニア州では,裁判所は,共同監護の場合,子の最善の利益を害しない限り,主たる養育者でない他方の親に,相当な面会交流を認めなければならないとされている。
⑵ イギリスでは,面会交流について,子に関する取決め事項の一つとして当事者間の協議で取り決めることとされ,政府は,面会交流を含む子に関する取決めを形成するための手引きや参考となる各種情報をウェブサイトで提供している。裁判所は,従来,概して面会交流を認める判断をしてきたが,近年,DV被害者である監護親に与える影響が見落とされがちだったとして,家庭内の虐待を伴う子に関する事件に対する裁判所の取扱いについて批判的な見解が示されている。さらに,非常に困難で当事者間の葛藤が甚だしい事案においては,面会交流に関する問題を解決する場として,裁判所が適切なのかも問われ始めており,近年,裁判以外での様々な解決の試みがなされている。
⑶ ドイツでは,面会交流は,第一義的には子の権利であり,親の義務及び権利としても位置付けられている。できる限り面会交流を実現する方向で運用されているが,親の権利が中心となっていて子の福祉には十分に配慮しないまま面会交流の実施を重視している側面がある との指摘もされている。
⑷ フランスでは,別居親等に訪問権・宿泊権が認められており,「重大な理由がある場合」を除いて他方の親に拒否されることはない。当事者は面会交流に関して合意で定めることができ,その合意について家事事件裁判官に認可を申し立て,執行力を与えることも可能である。
⑸ スウェーデンでは,子は,同居していない親との面会交流権を有すると定められている。両親は,可能な限り,非同居親と子の必要な面会交流が実現されるようにする共同責任を負う。
⑹ フィンランドでは,子の面会交流権が保障されており,父母には,子の面会交流権を実現するための協力義務が課されている。父母は付添い付きの実施等を取り決めることも可能であり,社会福祉事務所は,面会交流の支援又は監督が子の福祉の観点から適切であると判断したときに,当該取決めを認可する。
⑺ 韓国では,子及び非養育親の面接交渉権が明文で規定されている。協議離婚をする場合,「子の養育と親権者決定に関する協議書」(親権者及び養育者の決定,養育費の負担,面接交渉権の行使の有無及び方法を内容とする。)を家庭法院に提出しなければならず,協議が調わない場合には家庭法院が職権又は請求により養育に関する事項を定める。
4-2 面会交流の不履行に対する救済
⑴ アメリカでは,裁判所の判決で命じられた面会交流を履行しなかった,あるいは違反した場合には,裁判所侮辱罪で拘禁(収監)する,高額の罰金を支払わせる,あるいは監護権の変更事由とする,損害賠償請求をするなど,履行を強制するための様々な方法がある。しかし,このような外部からの強制的な実現方法は,かえって当事者の反発を招き,子どもに悪影響を与え,問題の解決を一層困難にするなどの反省から,制裁や履行の強制ではなく,不履行を生じさせないメンタリティを養い,面会交流を再構築するという試みが行われている。
⑵ イギリスでは,裁判所は,不履行の親に対する罰金や収監の措置を執ることができるが,これによる子への悪影響が考慮され,実際は収監などの措置は控えられていたところ,2006年の法改正により,無償労働要求を課す「履行強制決定」を下すことができることになった。また,不履行により金銭的な損失が生じた場合は,裁判所は損害賠償を命ずることができる。ただし,実務上はこれらの「履行強制決定」がされることはあまりなく,履行強制の可能性が示唆されることで不履行の親に心理的な影響を及ぼし,その結果として履行確保につながることがあるという。
⑶ ドイツでは,面会交流の実施に関する執行方法としては,秩序金,秩序拘禁及び監護親に対する直接強制があるが,実務上はほとんど行われていない。むしろ家庭裁判所の仲介手続において監護親に面会交流命令の任意の履行を促すことが効果的であるとされ,違反すれば配慮権を失う可能性があることも任意の履行を後押しするようである。そのほか監護親による妨害のために面会交流が行われなかった場合には,面会交流権者は,無駄になった出捐について損害賠償を請求することができる。
⑷ フランスでは,訪問権・宿泊権についての司法上の決定を履行しない場合には,親権行使の態様の変更の際に考慮され得るほか,間接強制も可能である。また,監護親が,正当な理由がないのに,訪問権・宿泊権を有する者に対して子を引き渡さない行為等をした場合には,刑事手続により処罰される可能性もある。
⑸ スウェーデンでは,地方裁判所は,面会交流の強制執行の申立てがされた場合,できる限り任意の引渡しがされるよう求めている。強制執行を行うことが,子どもの最善の利益に反することが明らかである場合には,強制執行の申立てを却下しなければならない。また,地方裁判所は,同居親が判決に従わない合理的な理由がない場合には,罰金の支払を命じる。
⑹ フィンランドでは,面会交流の強制執行にあたっては,基本的に,間接強制の形がとられる。ただし,面会交流が他の形では実現される見込みがなく,子の最善の利益の観点から重大な理由があると認められる場合には,直接強制も認められる。さらに,事前措置命令として,同居親及び子の旅券を執行官に預けること等を命じることができる。
⑺ 韓国では,取決めが遵守されず,面接交渉を行うことができない親は,家庭法院に申立てをし,養育親に対する履行命令や過怠料の支払いを命ずる処分を求めることができる。ただし,履行命令が下され,養育親がそれに違反した場合にも,養育親を監置することで履行を強制するよう家庭法院に申し立てることはできない。
4-3 公的機関による面会交流の実施の確保・支援の例
⑴ アメリカでは,各州の面会交流の促進事業に対して連邦政府から助成金が支払われ,面会交流センターで親教育プログラムや監督付き面会交流支援等が提供されている。
⑵ イギリスでは,政府機関であるCAFCASS(子ども及び家族に関する裁判への助言及び支援サービス)が,離別した親に対する情報提供プログラムを提供しているが,国は公的機関による面会交流支援サービスの提供にかなり消極的であるとされる。もっとも,民間機関である「全国こども面会交流センター協会(NACCC)」により,面会交流センターの支援サービスの質を担保する認証評価システムが導入されており,民間の面会交流センターによる一定の水準以上の支援が全国的に行われているとされる。
⑶ ドイツでは,監護親が面会交流決定に従わない場合,家庭裁判の仲介手続を利用することができ,裁判所は,同手続において面会交流の重要性を説明するなどして任意の履行を促し,監護親もこれに従うことが多いという。また,父母は,少年局の助言や支援(取決めや実施の仲介,付添い等)を受けることなどができる。
⑷ フランスでは,裁判官は,子の利益のために必要な場合には,指定される面会場における面会等を命じることが可能である。
⑸ スウェーデンでは,コミューンが面会交流の支援を行っている。当事者が面会交流に関して 合意できない場合,コミューンによる共同対話を通じて,合意に到達するための支援を受ける ことができる。
⑹ フィンランドでは,地方自治体の社会福祉事務所において,無償で,面会交流の実施における支援や付添い等のサービスを受けることができる。
⑺ 韓国では,大法院の傘下にある父母教育共同研究会が面接交渉教育ビデオを制作し,法院の協議離婚手続において,同ビデオを活用している。離婚過程で父母の葛藤が深刻化した場合,示範面接交渉(法院に設置された面接交渉室で法院が直接行う面接交渉をいう。)を実施する。そのほか,法院では,調整措置命令で非養育親と子をキャンプに参加させるなどの集団相談を行っている。また,養育費履行管理院は,自発的な養育費の支払を促進するために, 面接交渉支援を行っている。
5-1 養育費の取決め等に関する制度・運用例
⑴ アメリカでは,養育費の算定根拠となるガイドラインの設定が連邦法により義務付けられている。カリフォルニア州では,このガイドラインの金額は正確であると推定され,裁判官は限られた場合にのみ,ガイドラインとは異なる金額を命令できる。そのほか,例えば,カリフォルニア州では,Family Law Facilitator(裁判所の手続を教示する弁護士であり,当事者の代理人でなく,両親双方にサービスを提供する。)が,養育費額の計算や,当事者が裁判所に提出する書類の作成援助等を無料で行っている。
⑵ イギリスでは,子ども扶養法において,非同居親の定期的な養育費支払義務について規定されている。養育費の取決め方法として,当事者による自主的な取決めと,CMS(Child 9 Maintenance Service)を利用する法定の取決めがあるが,当事者による取決めが推奨されている。養育費の算定について,関連規定が法定されているとともに,政府ホームページで養育費の金額の目安を知るための計算ツールが提供されている。
⑶ ドイツでは,親は,その婚姻関係の有無にかかわらず,子に対して扶養料(養育費)を支払う義務を負う。離婚訴訟において,少なくとも一方の親が一定期間内に養育費の決定を附帯処分として申し立てれば,併合されて審理及び裁判がされる。未成年子に対する最低扶養料の額が法定されているほか,この最低扶養料に合わせる形で,裁判所等が利用する算定表が作成されている。また,少年局において,養育費の金額決定や関係者間の合意形成を対象とする援助などのサービスを無料で受けることができる。
⑷ フランスでは,民法典に養育費の分担についての規定がある。当事者の合意により定めることもできるが,当事者が合意に至らない場合には,裁判官に申し立て,決定を求めることも可能である。養育費算定の参考資料として,司法省により扶養定期金算定基準表が作成され,公表されている。もっとも,同基準表を用いることは義務ではなく,あくまで裁判官の決定を助けるために役立つものである。
⑸ スウェーデンでは,別居親は,同居親に対して養育費を支払う義務を負う。父母は,協議により養育費に関する契約を締結することができるが,その契約は,社会福祉委員会の承認を得ることにより裁判上の決定と同じ効力を有する。社会保険事務所では,養育費算定のためのツールを提供している。
⑹ フィンランドでは,子が適切な扶養を受ける権利を有していることが定められており,両親は,その能力に応じて,子の扶養の責任(養育費の支払義務)を負う。養育費の金額や支払方法は父母の合意又は裁判所によって決定されるが,父母間の合意にも社会福祉事務所の認可が必要であり,認可を受けると,執行力を有する。養育費額については,司法省がガイドラインを定めており,法的拘束力はないが,参考とすることができる。
⑺ 韓国では,父母が離婚する場合には,養育費の負担を含む子の養育に関する事項を定めなければならず,協議が調わないときは,家庭法院が,職権又は当事者の請求により,養育に関する事項を決定する。家庭法院は,当事者が協議した養育費負担に関する内容を確認する「養育費負担調書」を作成しなければならず,同調書には執行力が認められる。また,養育費算定基準表が家庭法院のホームページで公表されている。
5-2 公的機関による養育費の履行の確保・支援の例
⑴ アメリカでは,州及び連邦の双方で,養育費支払命令や新規雇用者の登録のほか,自動的な給与天引き,租税還付金の差押え等の迅速な執行手続の充実が義務付けられている。
そのほか,例えばカリフォルニア州では,税金還付との相殺や宝くじの賞金の没収,運転免許やパスポートの一時停止,専門的・職業的免許の取消し等の措置がとられる。
⑵ イギリスでは,CMSを利用する回収方法があるが,利用料が発生し,履行強制はCMSの裁量に委ねられる。履行強制の例として,支払義務者の雇用主に対し,子の養育費を支払義務者の所得から直接又は銀行口座から差し引くことなどが規定されている。
⑶ ドイツでは,別居親が子に対して養育費を支払わない場合,生活保護を受給していないなどの要件を満たす18歳未満の子は,養育費立替払い制度によって社会保障給付を受けるこ とができる。
⑷ フランスでは,家族給付(社会保障給付の一つ)を支給する機関が,未払養育費の前払いとして,家族支援手当を債権者に支払い,債権者に代位して,債務者から養育費を取り立てることができる。
⑸ スウェーデンでは,他方の親が養育費を支払わないなどの場合は,国から養育費補助を受けることができる。社会保険事務所が養育費補助を支払うと,支払義務者は社会保険事務所にその金額を支払わなければならない。
⑹ フィンランドでは,支払義務者が養育費を支払わない場合等において,監護親等の請求に基づき,公的資金から養育費手当が支給される。フィンランド社会保険機関(Kela)が,養育費手当の支給及び支払義務者からの回収を担う。
⑺ 韓国では,支払義務者が養育費を支払わないために子の福利が危うくなる場合等には,権利者は,養育費履行管理院から最大1年の緊急支援を受けることができる。緊急支援後,養育費履行管理院の長が,支払義務者から徴収する。