スウェーデンの性交同意法セミナー@スウェーデン大使館 に行ってきた!


                      2020. 1. 20. MON

ICU PRISM さり

2020年1月20日、六本木のスウェーデン大使館で、スウェーデンの性暴力を裁く性交同意法の改正を記念して、改正後の法律の内容を説明しディスカッションするセミナーが行われました。そこに行ってみて学んだこと、皆さんに伝えたいと思ったことを記事にしました!

 目次
 ①そもそも性的同意とは?
 ②日本の状況
 ③スウェーデンの法律のここがすごい
 ④これから何ができるか?


①性的同意(性交同意)とは

性的同意の定義は、”性行為の際に、互いがその行為を積極的に望んでいることを確認すること”です。少しわかりずらいかもしれないので、ある動画を紹介します。

イギリスの警察は、性的同意についてセックスを紅茶に置き換えて説明しました。
 
「相手がいらないと答えたのなら、お茶を出すのをやめてください。」

「相手に無理やり飲ませない。」

「ほしくない人に紅茶を飲ませることがどれほど完全に馬鹿げたことか理解できて、相手が紅茶を飲みたくないことも理解できるのならば、セックスも同じです。紅茶もセックスも、Consent(同意・承諾・納得)が全てなのです」

(Thames Valley Police YouTubeより)

つまり、相手が嫌がっていたり、同意を示さなかったりする状態で性行為をすることはやってはいけないということです。当たり前だと思う人もいると思いますが、もし全ての人が当たり前のように性的同意が取れていたら、レイプや性暴行は起こりません。しかし、実際のシチュエーションになると、「ムードが壊れるから」「嫌われるのが怖いから」などという理由で、明確な同意がないこともあります。

そして、性的同意が大きな論点になるのが、性犯罪の裁判です。
今年一月に、伊藤詩織さんがレイプ被害における民事裁判で勝訴したニュースが取り上げられましたが、刑事裁判では「同意がなかったこと」を立証できず、不起訴となりました。つまり、刑事裁判で「同意のない性行為」が犯罪を構成するとしたら、その性行為に「同意がなかったこと」を立証しないといけなくなります。でも「ないことを証明」するのは、悪魔の証明とも呼ばれ、不可能に近い!(まいどなニュース)


②日本の状況

 日本の性暴力の被害者に対する状況は、一言で言うと「悲惨」です。

 まず、性被害(レイプ、痴漢、セクハラなど)を受けた時、まず警察に行くことが考えられます。しかし、警察庁の平成26年の「男女間における暴力に関する調査」によると、被害を誰にも相談しなかった割合は67.5%で、性暴力を受けた人のうち3人に2人以上が誰にも相談できない状況があります。
 そして、警察に行って相談できたとしても、門前払いされて被害届が受け取られず、加害者の起訴まで行ったとしても、性犯罪はほとんど起訴されず、起訴されても裁判で「死ぬ気で抵抗した」ことを立証できないと(爪痕など) 法的にレイプとは認められないので、加害者はほとんど執行猶予、無罪の判決になります。

 また、告訴プロセスにも問題があります。性暴力の被害者は、証拠も弁護士も自分で探さなければならず、お金、時間の面で多大な負担を負います。対して、訴えられた容疑者は、証拠は検察が集めてくれる他、弁護士を雇うお金がなければ、国の税金で国費弁護士がつきます。

 このように被害者にとことん冷たい制度が如実に表れている統計があります。
警察庁によると、平成28年の強姦の認知件数は989件。それに対して、内閣府による調査で、無理やり性交など(膣性交、肛門性交、口腔性交)をされた経験があると答えた女性の割合は7.8%で13人に1人、男性の割合は1.5%で67人に1人です。いかに警察によって認知される件数が少なく、暴力の定義が狭いかを表しています。

 もう一つとても嫌だなと思うのが、性被害者は声をあげた時に起こるバックラッシュ(反発)です。本来、人の意思に反して性的行為をしたとされる加害者に批判が行くべきところを、被害者の服装や行動に批判が集中してしまう現状があります。
 被害者の伊藤詩織さんに対して「発言は虚偽なのではないか」や、「明らかに女としての落ち度がありますよね。男性の前でそれだけ飲んで、記憶をなくしてっていう」(自民党 杉田水脈議員) などの批判がありましたが、こうした発言は「セカンドレイプ」と言われ、被害者を深く傷つけます。このセカンドレイプが、ツイッターを中心として当たり前のように存在し、被害者を傷つけていることは、非常に大きな問題です。

まとめると、日本の状況としてあげられるのは、1)性暴力の告訴・立証の難しさ 2)被害者に大きな注目が集まる風潮 です。このことが、性被害者を黙らせ、性犯罪の実態をわかりづらくしているのです。


③スウェーデンの法律のここがすごい

 ではなぜスウェーデンの法律が取り上げられているのか?その理由は、「レイプの定義を変え」、今まで性犯罪として裁けなかった範囲を、犯罪と明記したことにあります。

 日本のレイプの定義は、「一般に相手の意志に反し、暴力や脅迫、相手の心神喪失などに乗じ強要し人に対して性行為を行うこと」とされています。そして、強制性交(レイプ)や強制わいせつなどの行為が、性犯罪と認められる必要条件は、加害者が「暴行・脅迫」などを用いて被害者を「抗拒(こうきょ)(抵抗)不能」にさせることです。裏返せば、抵抗できたのに、しなかったのなら犯罪にならないという理屈です。
 それに対して、スウェーデンは「同意のない性行為は全てレイプ」としました。これによって、日本では犯罪になりにくい無意識、酩酊、睡眠の状態でのレイプが、「明確な同意が取れていない」または「加害者が同意を取るのを怠った」状態で性行為に及んだ、として裁けるようになったのです。

 スウェーデンのアンバサダーはセミナーの中で、性交法の改正によって、性的自己決定権、身体的完全性 (body integrity) を保障できるようになったと発言しました。身体的完全性とは、自らの肉体に対する不可侵性であり、個人の自主権と自分の体に対する自己決定権のことです。つまり、「自分の体は自分のものだから、さわられたくなければnoと言う権利がある」ということです。女性の権利の文脈で言えば、性暴力、望まない妊娠から自由であり、避妊へのアクセスがある状態を主にさしています。
 日本では聞き馴染みのない言葉ですが、考えてみれば当たり前なことです。人は、自分の持っているお金を守る権利があり、誰かが盗ったり、勝手に使ったりしたら、それは罪に問われます。身体の自由も同じで、自分の体を守る権利を誰かが侵害したら罪に問われるべきです。しかし複雑すぎる裁判プロセスや、知識の不足によって、とても困難になっているのです。


④これから何ができるか?

この状況を変えるために、何ができるのでしょうか。
 1)性教育
 2)被害者ケア
 3)法改正

1)性教育
まず、正しい性的同意の取り方や避妊方法、性における自己決定権についての知識を伝える、性教育の授業を充実させることです。保健体育でカリキュラムの一部となっていますが、今になって覚えているのは、生殖器の名前を覚えさせられたくらい...
とても初歩的ですが、ちゃんと「嫌なことは嫌と断っていい」のだと、また同意のない状態での性行為はしてはいけないことなのだと教えることが必要なのかもしれません。

同時に、男性と女性に限らず、多様な性のあり方や性別に縛られない選択の仕方を伝える必要性があります。

実際、フィンランドでは5歳から性教育が始まります。まず気持ちと向き合うことからスタートし、相手に同意を取ることの重要性、自分と他者との境界線を学ぶことで、基礎的なコミュニケーションや交渉のスキルを身につけるそうです。その後、性器や性的欲求との向き合い方について学びます。この最初のステップ、「感情にきづき、表現すること」が、性的同意を示したりさらなる人間関係の構築の根本となります。

日本で性暴力被害に声を上げにくいのは、学校や家で、「性にまつわること=恥」と植えつけられることが一つの原因かもしれません。日本は性について話さないことで存在を不可視化する傾向がありますが、性的欲求の存在は誰にも否定できません。人間の三大欲求(食欲・睡眠欲・性欲)の一つです。話すことをタブーとして存在を否定し、正しい知識を与えない(性に関する知識を多くの学生がアダルトビデオから得ています) のではなく、適切に向き合っていくことを教えていくべきなのかもしれません。そのために、多くの人が同意の概念や性の知識について正しい情報を得ることが必要で、学校での性教育は大きな影響力を持ちます。

2)被害者ケア

もし被害にあったら。
自分の関わっている人から裏切られたことや、その生々しさを何十年経っても忘れられない人もいます。
さらに、性暴力の75%は実は面識のある人から受けたという内閣府のデータがあります。そのため家族や親しい人に話すのが困難である場合もあります。
そんな時は、安心して話すことができる相談所に行くという選択肢があります。
ネットで検索してみると、様々な被害者救援ホットラインが出てきました。
NHKのハートネット福祉情報総合サイトにホットラインのまとめが載っているので、興味がある方は見てみてください。
https://www.nhk.or.jp/heart-net/topics/9/

そして、もしあなたの周りの人が被害にあったら、また被害の経験を告白したら。
一番してはいけないのは、被害者の行動や服装、いた場所に性被害の原因を探すこと、そしてなかったことにするだと思います。
前者は、(女性の場合)スカートの短さや着ていたトップスの胸の開き、またはクラブにいたから、1人で男性の家に行ったから、などと被害者が性暴力を受けた原因を作ったと責めることです。しかし、スカートが短いから痴漢していい、家に行ったから性行為を強要していいわけではありません。性行動には、必ず同意が必要です。加害者の行動が正当化されることはありませんし、被害者は「自分が悪かったんだ」と心の傷を一生抱えて生きていきます。
そして、後者は家族間や職場で、性暴力が起こったことがなかったことにされる、何事も無かったかのように振舞われることです。そうなると、加害者が生活の中にいることに大きなストレスを感じた被害者が去ることになります。例えば、組織の中でなされるべきなのは、その組織のトップの人(CEOなど)が、「性暴力は容認されることではない」と利益・不利益関係なく声明を出すことです。例えば、ミシガン州の州議会議事堂にて、議員が女性記者にセクハラとも取れる発言をした際、記者が記事にして声を上げると、州議会事務所への書簡の中で多数党共和党のリーダーと、少数党民主党のリーダーは、「セクシャルハラスメントはミシガン州議会では許されない」と述べました。
被害者ではなく加害者の非を公に認め、二度と起こらないように行動を起こすことが必要であると考えます。

3)法改正

性暴力の量刑があまりにも軽いこと、裁判へのプロセスが複雑で被害者に不利であることなどの問題を解決するために、法律や法令の側面からのプロセスが考えられます。しかし、法曹界や国会の男性中心主義を理由の一つとして、なかなか進まない現実があります。もちろん今回取り上げたスウェーデンの法律が完璧なわけではありません。完全に取り入れるのではなく、日本の状況を踏まえた着実な進歩が望まれます。

出典

まいどなニュース “伊藤詩織さん性的暴行訴訟 民事と刑事で異なる判決「真実は一つ」だが‘悪魔の証明‘のようなもの|まいどなニュース.” まいどなニュース, まいどなニュース, 25 Dec. 2019, maidonanews.jp/article/12987503?page=2.
生田綾 “必ず知っておきたい「性的同意」の話。紅茶におきかえた動画を見てみよう.” ハフポスト, ハフポスト, 21 Dec. 2019, www.huffingtonpost.jp/entry/content-its-simple-as-tea_jp_5dfd6ff1e4b05b08bab5b8fc.
Igaya, Chika. “なぜ沖縄では小学生が飲酒するのか?.” ハフポスト, ハフポスト, 20 Aug. 2017, www.huffingtonpost.jp/2017/05/02/hadashidenigeru2_n_16380234.html.
Sacks, Brianna. “「男子高校生たちは、君とたっぷり楽しむことができる」 若い女性に対して、米州議会議員が発言.” BuzzFeed, BuzzFeed, 25 Jan. 2020, www.buzzfeed.com/jp/briannasacks/michigan-senator-reporter-high-school-boys-1.
“女子大生が23年生きて来て初めて真の「性的同意」を知った瞬間(福田 和子).” FRaU | 講談社,
KODANSHA LTD., gendai.ismedia.jp/articles/-/64102.
“杉田水脈氏「恫喝に近い酷いコメントを...」 ツイッターでの批判に不満?過去に伊藤詩織氏の「落ち度」主張.” J, 20 Dec. 2019, www.j-cast.com/2019/12/20375608.html.
日本放送協会 . “性暴力被害 あまりに知られていないその実態 - 記事: NHK ハートネット.” NHKハートネット 福祉情報総合サイト, www.nhk.or.jp/heart-net/article/127/.

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