【フィクション】復讐からはじまった【SS】


俺の名はICTべいびー、フリーのツイッタラーだ。
いわゆる「女叩き」を生業にしている。

インターネット上で揶揄されがちな女性像を仮想敵とし、
辛辣な発言をすることでインプレッションを稼いでいる。


俺自身は女に対して特段偏見はないが、俺の発言を支持してくれる男が一定数いる。ただ正直、俺は彼らのことの馬鹿だと思っている。
それどころか、俺自身はなんとも思っていない発言を祀り上げる様を見て、
哀しさすら覚えることがある。

だが、それ以上の馬鹿がこの世界にはいる。
そう、女だ。
中でも俺のツイートに賛同する女は、俺が槍玉にあげる「いわゆる女」を馬鹿にする一方で、自身はその対象に当てはまらないと心のどこかで思っている。
そして今日も……。

ー 20XX年1月 17時50分、都内某所 -

?「あの、べいびーさんですが?」


待ち合わせの時間ぴったりに声が掛かる。
声の方向に振り返ると、小柄な女性がいた。以降A子と呼ぶ。

化繊の割合の多そうな安物のダッフルコートを羽織り、インナーには立体感のないシャツ。
下はシルエットの野暮ったいスカートとマルイに売ってそうなパンプスという出で立ち。
髪は少し明るめでムラのある茶髪のショート。
なるほど、中の下といったころか。

A子は俺のフォロワーだ。
数か月前、俺の女叩きツイートに彼女からのいいねがつきはじめた。
そしてリプライでやりとりをするようになり、
その中で「話してみたいです」と声が掛かったことで会う運びとなった。

「はい、A子さんですか?」
俺がそう返すとA子は、「はい。てか、全然べいびーじゃないですね」と笑う。

挨拶もそこそに、はじめてオフで会う人のテンプレートのような会話を交わしながら、予約していた店まで向かう。


俺「18時からで予約していた〇〇(本名)です。あ、本名は〇〇といいます。」

店に着くと、店員に予約している旨を伝えながらA子に本名を明かす。
インターネットで散々毒を吐いている人物が堂々と本名を明かすと、自然と相手は安心するものだ。

席に案内され一杯目のドリンクを注文し、A子に向き直る。

A子「今日はありがとうございます。いきなり誘っちゃってすみません。」
俺「いえ、僕も丁度外で飲みたいと思っていたので。むしろ、こちらこそありがとうございます。」
俺「A子さんは、プログラマーの方……でしたよね?」

自信がないかのように語尾を濁しながら聞くが、彼女がプログラマーであることは把握済みだ。
SNSで他人と会う場合、事前に相手の投稿から近況や人となりを把握しておくのはプロならば基本中の基本だ。
そのため、彼女が郊外在住の31歳のプログラマーで、仕事がうまくいっていないことは知っている。
そしてもちろん、同性の友達が少なそうなことも。

A子「はい、そうですね。。。」
俺「時々TLで見かけますが、大変そうですね。上司がアレな方なんでしたっけ?」
A子「はい、そうなんです」
俺「なんだっけ、あのツイート見ましたよ。上司に相談したら〇〇だったって話。アレ見たときビックリしちゃいました。あれ、フィクションですよね?」
A子「いやいや、本当ですよ本当!!ありえないですよね」

相手から声が掛かった席だとしても、最初は相手にインタビューをすることを忘れてはならない。
特に、自身が所属する属性を揶揄されても平気どころか、積極的に声をかけてくる人間は承認欲求と自己肯定感の高低差が激しい。
そういう人間ほど、こちらからスポットライトを当ててやると堰を切ったように話が止まらなくなるものだ。

そこからは主にA子の仕事や休みの日の過ごし方など、ツイートの内容から察したものをテンポよく引き出しながら会話を進めていく。

そして、アルコールが4杯目に差し掛かり、自然とお互いが敬語をやめたころ、俺は自嘲気味にA子に質問を投げかける。

俺「そういえば、なんで声かけたの?こんなアカウントの人間に。」
A子「だって、面白かったから。周りの子とか見てて当て嵌まると思うこと多いし。」
俺「そうなんだ、ありがとう」
俺「でも確かに。少し話しただけだけど、A子さんはいわゆる女!!!ってのとは違う感じかも。なんというか、ネチネチしてない。」

もちろん嘘だ。
特定の誰かを指すわけでもない女性像を叩くツイートを楽しんでいるような女だ。ネチネチしていない訳がない。
この手の女は同性とのコミュニティにいられなかった女だ。
それどころか、自身がコミュニティにいられなかった理由を自身の社会適合のなさではなく、コミュニティが窮屈だったからと思っている傾向にある。
そんな彼女らにとって、ネチネチしていないというのはうってつけの褒め言葉なのだ。

A子「そうかな。でも、同性といるより異性といるほうが楽かも。」
彼女は少し得意げに自白する。
そこからは、ひたすら彼女の昔話を傾聴することになった。

そして……。

店員「ラストオーダーの時間になりますがご注文は大丈夫でしょうか?」
俺「俺はいいかな、A子さん大丈夫?」
A子「私も大丈夫。」
店員が去るのを目だけで見送ると、A子に話しかける。
俺「もう二時間経つのか、あっという間だったなー。」
A子「私も!」
俺「さっきの話の続きもう少し聞きたかったな。」
A子「確かに、私ももう少し話したいかなー。でもお酒はもういらないかも。」
俺「そっか、とりあえずお店出て歩こうか。」

こうして俺たちは、夜の闇に消えていった。


- 3時間後 -


俺「ふー、やっぱりこの時期の深夜は冷えるな……。今日はありがとね。」
A子「こちらこそありがと。」
俺「A子さんは〇〇線だったよね、俺は××線だから途中まで一緒だね。改札まで送るよ。」

そうしてA子を見送った後、帰りの電車内でTwitterを開く。
A子の匂わせツイートと、会う前よりも距離の近いDMを確認し、やれやれとため息をつく。

俺の名はICTべいびー、フリーのツイッタラーだ。

「いわゆる女」にすらなりきれない女たちを食らうのは、
かつて俺を裏切った彼女への筋違いな復讐なのか、それとも精神的な自傷行為なのか。

考えても答えの出ない……いや、出せない自問自答をやめ、画面右下の+アイコンをタップして綴る。


ー 女は馬鹿ばぶねえ(。・ε・。) -


続かない。

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