書評 さる先生の「全部ギガでやろう!」
「書籍を出版しAmazon学校教育部門で一位になるためのアイディア」をChatGPTに聞いてみました。
坂本さんはご自身が多数のフォロワーを持つインフルエンサーなわけで、実際、この本もかなり売れているらしいです。だから、今更私がレビューを書く必要もないわけですが、それでも「この本についてちょっと書きたいな」と思ったのは、この本に通奏している坂本さんの信念が素晴らしいな、と思ったからでした。
あとがきから引用します。
この考え方には私も100%賛成です。しかし、「この考え方を貫いていくことはなかなか大変である」ことを認めないわけにはいきません。仕事の量が多すぎる、生活指導に関する対応が多すぎる、保護者対応が大変すぎる、それなのに新しい教育課題は山程ある等々。程度の差こそあれ、学校の先生を巡る環境がかつてない厳しい時代にあることは間違いないでしょう。
そんな中で「厳しい時代にあるけれど、ICTを活用すればそれのいくつかは改善できますよ」というアイディアがこの本には詰まっています。この本によって「いや、何だかんだでまあ楽しくやっている」と言えるようになる方も確実にいらっしゃるでしょう。
ただ、中にはこの本を読んで「『タブレット×クラウド時代の授業アイデア』って、うちの学校、そもそもネットワーク細くてクラウドなんて使い物にならないんだけど」「『タブレット×クラウドで保護者もハッピーに』って、持ち帰りダメなんだけどどうしろっていうの?」みたいに思われる方も現実的にはいらっしゃるでしょう。
「ああ、いいよね、『生産性爆上がり』になるんだろうね、でもそれ、うちは無理だから」と表紙だけ見て手に取ろうとしない方の気持ちはわからないではありません。わからないではありませんが、それでもちょっと読んでみましょうよ、と思います。
そう思うのは、「読んでおけばあなたの学校の環境が整ったり、環境が整った学校に移ったときに役立ちますから、その準備になりますよ」という理由からだけではありません。とても軽いタッチで書かれた読みやすい本なので、うっかりするとスーッと読み飛ばしてしまうのですが、よく読むと、この本には坂本先生の哲学がそこかしこに見え隠れしているからです。
例えば運動会の団体演技について書かれた項にこんな記載があります。
そう、坂本先生は「教育の本質」を模索しているのです。常に。「そこへ到達するための手段としてICTを活用しましょう、ICTを活用して教育の本質に到達できたらやり甲斐感じるでしょう? そうしたらこの仕事、なんだかんだで楽しくやれますよ」というのがこの本のテーマだと私は読みました。それを感じ取ることは環境が整っているか否かに関わらず全ての教師にとって大切な学びになります。
そういう意味で、この本は、現場の先生はもちろん、これから教師になろうかどうしようかと悩んでいる人にとっても非常に有用です。必読ですよ。
さて、私は坂本先生にはあらゆる面で全然、敵わないのですが、一つだけ「これは勝った(笑)」と思えることがあります。(まあ、歳を取っているだけの話なのですが。)
卒業生で学校の先生をやっているのが5人いるのです。そのうちの一人は、この春に教員になったばかりなのですが、何と大学4年のときに教職課程の私の授業を履修してくれたのです。彼が小学校卒業以来、実に10年ぶりに教室で教えることができたのでした。
こんなこともあり得るのですよ。だから、というわけではありませんが、最後に坂本先生の言葉を借りて断言しましょう。
「教員はいいぞ」。