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『毎日あほうだんす』 トム・ギル/著

 著者のトム・ギルは、明治学院大学の文化人類学者。日本のホームレスについて、いくつかの著作を発表しています。
 この本で取り上げられている西川紀光氏は、そんな著者がインタビューしたひとりですが、たいへんな読書家だったようで、ギルによれば、「『読んだ本の数』では紀光に負けているだろう」とのこと。また蔵書家だったようで、紀光が泊っていたドヤの2畳半は「『現代思想』『世界』『理想』などのインテリ雑誌や古本屋で買った小説と学術書の山で畳が見えない」ほどだったとか。その一方で、図書館も使っていたようです。
 紀光はアメリカの思想家エリック・ホッファーについて語っていますが、ホッファーを知ったきっかけは図書館だったと語っています。三十数歳、川崎にいた時のこと、

 私は困っているとき、駆け込み寺のようなところを探す。昔、仏教のお寺は色々なボランティア活動をしていたが、いまは堕落しているから、遊んだり、飲んだり、食ったりしているばかり。だから私の場合、図書館が駆け込み寺のようなところになった。
 (中略)
 本を読むようになったのはオイルショックのいい結果でした。もし仕事がずっとあったとすれば、図書館に行かなかったでしょう。ずっと働く・稼ぐ・飲み・遊ぶと、dull(つまらない)ままで刑務所で終わったでしょう。Negligent(怠惰)でね。ホッファーが言う通り、「ものごとを考えぬくには暇が要る。成熟するには暇が必要だ」。図書館は無料だから、金がないときに最適。
 図書館で、ホッファーを読んだ。偶然に手に取ったよ。

『毎日あほうだんす完全版』 トム・ギル/著 キョートット出版 2020年10月 137~138p

 また仏教に学ぶようになったきっかけについて、こんなことも。

 50歳を過ぎてから、寿の労働センターの前に、図書室係はたくさんの要らない本を捨てていた。その中にヘルマン・ベックの本、『仏教』があった。文庫本上と下。労働センターの図書室から捨てられて。その日処分された本の中には3冊の読みたいやつがあった。シェイクスピアの研究とか。中国とアメリカの外交関係とか。そしてヘルマン・ベック。

『同』 148p

 また紀光自身も、「歩く百科事典」であり、ギルはその死を「図書館の消失」にならぞえていました。

 また読書だけでなく、図書館で音楽にも親しんでいたようです。横浜に来る前、自衛隊にいたときのこと、札幌の真駒内基地でも図書館を使っていたようです。

 基地の造りはとてもアメリカ風。ログハウスみたいな感じ。トイレは洋式。看板は英語だった。‘Library’ ‘Gymnasium’など。感覚が違います。図書館はでかい。しょっちゅうそこに行って、レコードを聴いたりしていましたよ。普通の日本の基地にも図書室はあるけど、乏しい。みみっちいものです。あまり予算を使わないからね。 

『同』 82p

 このLibraryはたぶん、いわゆるキャンプ・クロフォード(戦後、進駐軍によって真駒内に建設された米軍基地。のちに自衛隊の駐屯地となる)にあった図書館のことと思われます。

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