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開発途上国で仕事をする際のリスク管理
アイ・シー・ネットでは開発途上国での仕事が多く、こうした国では予期しない緊急事態に巻き込まれることがあります。今回は当社のコンサルティング事業本部長の池田に、緊急時の安全対策についてバングラデシュの事例をもとに話を聞きました。
池田 研造
大学卒業後、環境庁(当時)入庁。退職後、英国大学院留学を経て、2005年10月、アイ・シー・ネット株式会社に入社。アフリカ、東南アジア、南アジア、中東など計14カ国にて公共政策・ガバナンス、環境政策・環境影響評価などのコンサルティング業務に従事。2019年からコンサルティング事業本部長。
バングラデシュの騒乱
2024年7月、バングラデシュで騒乱が発生しました。この時、ちょうど私を含め、複数の社員が現地に滞在していました。騒乱の発端は、学生団体による政府への抗議でした。学生たちが、クオータ制度(公務員採用において自由の戦士(独立戦争時の市民戦士)の子孫に特別枠を割り当てる制度)の廃止を求めて抗議活動を展開していたのです。
抗議活動は、当初は平和的に進行していましたが、時が経つにつれて徐々に過激化していきました。7月初旬には抗議集会だったのですが、7月10日頃から学生団体による道路封鎖が始まり、封鎖区域が少しずつ広がっていきました。プロジェクト事務所の前の道路も封鎖される事態となり、急遽、現地スタッフも含め全員がホテルや自宅でのリモート勤務に切り替えました。その後、学生団体が大規模な道路封鎖や抗議活動を呼びかけ、この封鎖を排除しようとする治安部隊との衝突が起こり、そこに野党支持者なども入り込み、ほんの数日で治安がさらに悪化し、最終的には100人以上の死者を出す深刻な事態へと発展してしまいました。
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こうした治安の悪化に伴って、7月17日の夕刻からモバイルインターネット回線が不安定になり、翌18日にはインターネットが遮断されてしまいました。さらに、7月20日からは外出禁止令(curfew)が出され、市内の要所に軍隊や警官隊が配備される事態となりました。
緊急帰国
このような状況の中、私たちは緊急帰国を決断しました。政府による外出禁止令は、市民が最低限の買物などができるよう一日に数時間ほど解かれていたため、その間に空港に移動することにしました。インターネットが遮断されていたので、現地の航空会社の予約システムもダウンしており、日本の本社から航空券を変更してもらうことはできません。とにかく空港に行ってカウンターで手持ちのチケットをすぐに帰国できる便に変更する、もし満席で変更できなければホテルに戻る、という方針で空港に向かいました。幸いにも、カウンターでチケットを変更することができたため、7月22日に無事に帰国することができました。
今回のケースで最も対応を難しくしたのは、インターネットが遮断されてしまったことです。インターネットなしでは、オンライン会議はおろか、Eメールも送れませんし、現地メディアのウェブサイト等で情報収集もできません。現地の航空会社のシステムも使えなくなるため、航空会社によっては予約の変更もできなくなります。幸いなことに携帯電話回線は通じていましたので、今回は国際電話やSMSを通じて日本側と連絡を取ることはできましたし、現地で航空券の変更もすることができましたが、こうした事態も想定してあらかじめ対策を練っておくことが必要だと痛感しました。
現地の方々と良好な関係を築くことが最も重要な安全対策
現地スタッフや現地政府関係者など現地の方々からの情報提供にも大いに助けられました。インターネットが遮断され、道路封鎖により英字新聞も配達されないという状況だったため、現地のテレビニュース(ベンガル語)がほぼ唯一の情報源でした。外国人にとって情報が入手しづらい中、現地の方々が電話やSMSでこまめに最新の情報を届けてくれました。こうした情報提供があったからこそ、その時々で安全な判断ができたといえます。このように現地の方々と良好な関係を維持していることもアイ・シー・ネットの強みのひとつであり、今後もこうした関係を築いていくことが最大の安全対策のひとつであるとも考えています。
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開発のプロとしてリスク管理しながら成果を出す
振り返ってみれば、ここ数年だけでも、南スーダンの内戦、ブルキナファソのクーデター、グアテマラの反政府ゲリラによる活動、パキスタンの政変や爆破事件、バングラデシュのテロ事件などの滞在国の情勢変化のほか、新型コロナ禍に伴う緊急退避など、アイ・シー・ネット社員が影響を受けた事例は少なくありません。交通事故や怪我、病気によって現地で入院したり、より医療水準の高い近隣国に緊急搬送したりといった事例もあります。
このように、私たちのフィールドである開発途上国は、業務面だけでなく、安全面での不確実性も高い地域です。そのため、開発コンサルタントは、開発のプロであると同時に、変化し続ける状況を迅速に判断し、的確に対応する危機管理のプロでなければなりません。アイ・シー・ネット本社でも、常に安全対策を見直し、アップデートしていくことで、各国のプロジェクトの成功とチームの安全を確保するように努めています。リスクを恐れるのではなく管理しながら、不確実な環境下でも成果を出せるプロフェッショナルとして、これからも力を尽くしていきたいと思います。