precover捜索で確定番号をもぎ取ろう -COIAS Tip集補足2-
新しく見つかった仮符号を番号登録まで持ち込むには時間がかかります。恋アス作中では7年かかりました。番号登録の条件の目安として「よく観測された衝が4回で軌道不確実性がU=2以下」とされており、少なくとも4年分の観測がいるうえ、今まで見つかってこなかった暗い天体は軌道の関係の観測条件がそろわないと写らないので、毎年観測できるわけではありません。
この現状を打破できるカギがあります!
①発見者になるための条件は「報告が先ならよい」
つまり、いつの画像を使うかは無関係です。COIASだって2016年の画像を使っていても、解析と報告が2023年なら、2022年の報告には先を越されます。(PANSTARRSやMt.lemonnなどの他のサーベイは基本的に観測即解析即報告なので、観測日=報告日と解釈できます)なので、逆に過去の画像を今から開いて捜索・報告しても後追いの追観測として扱われるので発見者の地位に影響しません。
②世界有数の大望遠鏡のデータは公開され、ある程度自由に使える
そもそもCOIASが使っているすばるのデータも何年も前から公開されているものです。そして、口径2m未満のサーベイ用望遠鏡と異なり、4m級以上の大望遠鏡で観測された画像は大抵の場合、写っている小惑星をいちいち検出するということはされておらず、手つかずのままです。(だからCOIASで捜索がされています)
この記事では、大望遠鏡のアーカイブデータから自ら、COIASで見つけた天体の「追観測」をして報告する方法を紹介します。
こうした発見前の画像に実は写っていた、という観測を、発見前観測・pre-discovery、precoverと呼びます。
番号登録に向けprecoverを探しやすい天体
番号登録に持っていきたい天体を選んだとして、まず最初にその天体が写っている画像を探すことになります。これは、その天体のある時点での予報位置を少しずつ遡り、その位置をその時刻に撮影した画像を探すのですが、軌道誤差が大きいのに長い期間を遡ると、その位置に天体がいないという事態が起こります。
軌道誤差が大きい天体とはつまりはCOIAS以外に観測のない天体、以下のデータベースでuncertainty (U)が8とか9になっている天体です。
観測が1年分しかないので、あと3年分複数夜のある年を探すのも大変です。やってみるとわかりますが、そうそう上手く画像は揃いません。また、こうした天体は暗すぎてすばる以外の望遠鏡では写らないことも多いです。(rやi,z,yで25等、gで26より暗いとまず無理です)
そこでまずお勧めなのは、COIASで測定した観測以外の年にも1夜/年ずつほかの観測所の観測があり、軌道精度が良くなっている天体です。
なお、他の年に同じ年で2夜あったり、COIASで測定した年にもう1夜ある場合は、ほぼすべての場合でほかの観測所のほうが報告が早いので、番号登録にもっていってもCOIASが発見者にはなりません。
報告の先後を示すObsIDや、重複してプレカバーを探していた人が最近いた場合のまだMPSに載っていない観測については以下のページで探せます。
なお、報告順で1番を取るには2夜ともの報告が先行しないといけないので、COIASより早い報告の1夜観測がある年に、あとから2夜目を追加して報告してもその年が報告順で追い抜いて、最先の複数夜衝になることはありません。
したがって、2017年のCOIAS画像測定で得られた天体が、2011,13,21年に1夜ずつ観測報告があれば、もちろん2012,14,23年のプレカバーを2夜ずつ探してもいいのですが、11,13,21年のプレカバーをもう1夜ずつだけ探して追加するだけでも番号登録の目安を満たします。
なお、番号登録の条件はあくまで目安なので、1夜しかない年が6つも7つもあれば、2夜以上ある年は2回だけでも登録されたりしますし、TNOはU=4でも登録されたりします。
他にも、COIASで1か月以上観測されていてUが6やそれ未満まで軌道がよくなっている天体ならある程度精度良く扱えるので、2年目を探すと面白いです。(ただしフィッティングでの確認が必須です)こうした天体は、2年目を報告して、数日後に改良が反映された軌道で探せばさらに時期が離れたプレカバーにも届くという二段式での捜索も有効です。
方法1 全部自分で探すやり方
ある意味オーソドックスではありますが登場するツールが多く、何GBものデータを扱うことになるのでお勧めしません。本記事でも簡単に触れるに止めます。
画像の検索
探したい天体が写っている天文台の画像を探すといってもどうするんだと思うかもしれませんが、
SSOISというツールがあります。
天体名や期間などの条件で検索すれば、その天体が写っているであろう、大望遠鏡が撮影した画像ファイルのダウンロードリンクが出力されます。
画像ファイルを得るだけなら他にもいろんなサービスがあります。
NASA PDSだったり
日本だとSMOKA(以前は移動天体の検索もできたのですが・・・)
あと検索がうまく動かないこともありますがEURONEAR
http://www.euronear.org/tools/megaprecdes.php
ただしやっぱりssiosが使いやすいです。これ以上の説明は簡潔にまとめると
・報告時に必要な観測者の情報は検索結果のメタ情報にある
・大望遠鏡でよく引っかかるのはすばる、CTIO-DECam(4m)、CFHT-Megacam(3.6m)
・DECamは同じ画像に何種類かの画像があるがファイル名opiが一番リダクションが済んでいる良いデータ
・Megacamは検索ページからのリンクが機能しないときがあるので、ファイル名を控えてサイト内の別ページの、ファイル名を指定してダウンロードするページを使う
・すばるはダウンロードリンクがそのままsmokaに飛ぶのでsmoka登録必須。ファイル名と日時を控えてHSCSSPのデータリリースページから落としたほうがリダクション済で使いやすい
解析ソフト Astrometrica
広く普及しているソフトなので本記事で説明することはありません。
解説記事を探してみてください。(以下は工事中ページですが完成すれば非常にわかりやすいはずです)
解析ソフト Aladin
Aladin Sky AtlasはFITSビュアーですが、ブリンクをしたりgaiaとの位置合わせをしたり色々できますので、これで読み取った位置を自分でobs80形式などに書き起こすやり方もあります。Astrometricaと違いフリーウェアです。
MPCへの報告は以下を参照。
AstrometicaもAladinもですが、SSOISなどでヒットする画像はほとんどが多数のccdチップを並べたモザイクccdと呼ばれるカメラの、フルの画像です。扱うファイルサイズも数百MBを超えます。Aladinでこうした画像を開くにはRAMをスクリプトで拡張する必要があります。(以下参照)
方法2 ADAM precoverツールを使うやり方
ADAM Precoveryとは以下のウェブツールで
天体を入力するとその天体が写っているであろう天文台のアーカイブ画像を検索する、だけではなく実際にその画像に天体が写っているかを判別し、写っていた場合は切り出したサムネイル画像とともに天体の位置や明るさまで自動測定して出力するという、方法1とは何だったのかと言わんばかりのツールです。
一応SSOISは多種多様な大望遠鏡をカバーするのに対し、ADAMツールがカバーするデータは限られておりCOIAS発見天体をフォローできるような大望遠鏡はCTIO-DECamのみというのが唯一の欠点ですが、DECamの画像数は豊富なので十分実用的です。
ADAMの使い方
天体名を入力し検索をかけると、自動でNASA-JPLに問い合わせて軌道を出力するので、条件を設定してsubmitするだけです。
設定する条件は基本デフォルトでいいですが、軌道誤差が微妙に大きい(2か3を超えるくらい)場合はサーチ半径を5から15(最大)にしておきます。
submitしたジョブは個別のurlが割り当てられ、それを控えておけばブラウザを閉じて翌日結果を開くことも、そのあとに見返すことも可能です。結果が出るまで数分からヒット画像が多いと20分近くかかります。
結果はこのような感じ
十字が予想位置で円が検出・測定した位置です。軌道の誤差が少ないと両者は重なっているはずで、大きくずれている場合は恒星やノイズを拾っていることが多いです。
各画像の上に時刻の後に[I41]や[Q68],[W84]などの表示がありますが、これが使用した望遠鏡の観測者コードです。COIAS天体の場合はDECam=W84以外にはまず写らない(I41=ZTF Q68=SkyMapper、口径1mクラス)ので、W84以外の画像がヒットしても誤検出と思って大丈夫です。(ごくまれにキットピーク天文台の4mがヒットしますが)
その下に、ヒットした画像からの天体の測定結果が表示されますが、座標が度表記だったり観測時が時刻表記だったりと、COIASでなじみ深いobs80形式とは相性が悪いです。もちろん全部obs80で使える形式に変換してもいいですが、本記事ではこの記法に対応しているADES-psv形式での報告を解説します。
psv形式での報告
psvファイルと呼ばれるテキストファイル(普通にメモ帳で編集して拡張子だけ.psvにすればOK)に測定結果を書き、以下のフォームからファイルを送って提出します。
https://minorplanetcenter.net/submit_psv
psvの書き方は以下の通り。そのままコピペして必要部分を書き換えて使えます。
# version=2017
# observatory
! mpcCode W84
! name Cerro Tololo-DECam
# submitter
! name H. Itosaki
# observers
! name D. E. Survey
# measurers
! name H. Itosaki
! name K. Kiker
! name M. Juric
! name E. Lu
! name J. Moeyens
! name A. Posner
! name D. Remy
! name N. Tellis
! name A. Koumjian
! name S. Nelson
# telescope
! aperture 4.0
! design Reflector
! detector CCD
# software
! objectDetection Asteroid Institute, ADAM::Precovery
provID |mode|stn|obsTime | ra | dec | rmsRA | rmsDec |astCat|photCat|mag |rmsMag |band
2017 BX233|CCD |W84|2015-08-18T05:03:34.932Z| 325.68612 | 0.42860 | 0.00334 | 0.00332 |Gaia3 |Gaia3 |22.707 |0.00334|r
2017 BX233|CCD |W84|2015-08-18T05:03:43.932Z| 325.68619 | 0.42861 | 0.00331 | 0.00334 |Gaia3 |Gaia3 |22.507 |0.00332|r
自分の名前を入れるのはsubmitterとmeasurersの一番上です。measurersの残り9人はADAMの開発者で、このツールを使って行った測定を報告する際は含めておくようサイトに書かれています。
あとは見ての通りで結果の表からそのままコピペしていくだけです。(csv形式でダウンロードして変換するやり方もありますが結局コピペが簡単です)3か所rmsとあるのは表でいう3種の(RA Dec Magnitude)errorです。表にはPred(予想の位置)やd(予想とのずれ)など、psvには使わない項目があります。特にdRAとerrorRAを貼り間違えないようにしましょう。
予想位置と測定位置がずれていて本当にあっているか確かめる際は軌道フィットを試します。MPCデータベースから得たこれまで報告された座標位置と測定したpsvの中身を
に
K16Gb0O*4C2016 04 08.54109 14 07 27.74 +00 37 21.7 22.4 r1~8COUT09
K16Gb0O 4C2016 04 08.54746 14 07 27.45 +00 37 22.7 22.4 r1~8COUT09
K16Gb0O 4C2016 04 08.56247 14 07 26.75 +00 37 24.9 22.2 r1~8COUT09
provID |mode|stn|obsTime | ra | dec | rmsRA | rmsDec |astCat|photCat|mag |rmsMag |band
2016 GO370|CCD |W84|2016-07-06T00:07:39.890Z| 203.35844 | -2.53924 | 0.13451 | 0.13567 |Gaia3 |Gaia3 |23.294 |0.15923|g
2016 GO370|CCD |W84|2016-07-06T00:12:19.512Z| 203.35869 | -2.53949 | 0.13451 | 0.13567 |Gaia3 |Gaia3 |23.480 |0.15923|g
2016 GO370|CCD |W84|2016-07-06T00:16:57.219Z| 203.35901 | -2.53994 | 0.13451 | 0.13567 |Gaia3 |Gaia3 |23.637 |0.15923|g
のように入力してうまくフィットされるか試します。psvとobs80をこのように混ぜて使えます。
注意として、出力される時刻は露光開始時刻です。報告すべきは露光中央時刻なので、たとえば90秒露光(Δt=90s)であればコピペした時刻に45秒足して補正する必要があります。こうして1天体分の観測を書き込んだら、上のフォームから送ります。数分後にメールが届きます。
そして、MPCは一晩に1枚しかない観測については(限られた登録アーカイブサイエンティスト以外)認めていないので、1夜に2つ以上の観測のあるpsvしか受け付けられません。
(どうしても1image/nightをやりたければ、中央時刻に補正した時刻に加えて補正前の時刻の行を付け加え、90s露光であれば予想移動速度Pred. V RA/Decから計算して45秒分座標をずらした座標に書き換えて1imageから2観測をひねり出すやり方を おすすめはできませんがアーカイブ天文学の時代に1image/nightに厳しすぎるMPCがそもそも悪いので…. ちなみに0.01deg/day≒0.0001deg/100sで近似できます あとこのやり方は露光時間数十秒以下の画像でやるべきではありません。DECamのような大型モザイクカメラが十数秒ごとに撮像するなんてまずありえないので、そんな撮影時間のデータを送ったらMPCのスタッフに見つかります)
この1夜1点の制限はTNOにはかからないので、TNOに関しては枚数関係なく報告できます。(TNOの移動量だと1日2枚あったところで意味ないからという理由でしょうが、その程度の理由だったら尚更普通の小惑星だけ制限に従う意味がないんですよね)
まとめ
小惑星サーベイよりも大きな望遠鏡が撮りっぱなしにしている画像から小惑星を探すという取り組み自体がCOIASで新しいものだったので、まだまだ写っているのに気づかれていない天体は各地の大型望遠鏡に無数にあります。
別にCOIASで仮符号を取得した天体に限らなくても、COIASで既知天体として測定した、なんでまだ番号登録されていないのか不思議な古い仮符号天体(2000年代初頭など)、日本のプロジェクトが関係している仮符号天体などに番号を与える=軌道を確定させいろいろな研究に使われやすくする・もちろん命名権を呼び込むといった活動は、アマチュアができることの中でも非常に意義のある活動です。
COIAS外でも30年以上の観測期間があるのに仮符号のままの天体を全て番号化させようと取り組んでいる人がいたりします。
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