徒歩の旅
徒歩の旅の良いところは何だろう?
九州に引っ越してきてから、徒歩の旅をすることが増えた。このGW中にも、宮崎と鹿児島を四日間で15万歩ほど歩き回った。宮崎神宮や平和台公園の森を歩き、南郷駅から道の駅に向かって海沿いの道を歩き、鹿児島では仙巌園まで桜島を眺めて歩き、早朝の桜島遊歩道で猫と戯れながら句碑を巡り、最南端の西大山駅からたまて箱温泉まで開聞岳を背に農道を歩いた。
徒歩だと知覚が鋭敏になるように感じる。車や自転車など乗り物の場合は、運転のために意識を向ける必要があるため、視覚優位になりやすい。同乗者がいる場合は、会話に意識を向けるなど高度なマルチタスクが無意識のうちに行われることになる。
一方で徒歩の場合は、視覚以外の情報も知覚しやすい。聞こえてくる波の音や鳥の囀り、ふと過ぎる潮の匂いや花の匂い、踏みしめる土の堅さや草の柔らかさ。寄り道しながら、美しい景色と共に、様々な知覚を味わうことができる。
徒歩だと歩き疲れることもある。疲れてくると知覚が緩慢になるのは運転と同じだ。ただ、歩き疲れた後に食べるものは何でも美味しく感じる。舌に感じる甘味、喉を潤す水分、食物で満たされる胃袋、回復していく身体。同じ食事をしても歩いた後の方が、満足度は高まっている。もちろん、歩いた後の温泉やアルコールも格別である。
徒歩の旅は車に比べて行けるところは限られている。登山のように登頂するという明確な目的がある訳でもない。それでも、人が生きている空間の中で、人は様々なモノ/コトと関わりながら生きていることを実感できる。知覚されたその瞬間が、やがて記憶に残り、人生の道標になれば良いと思う。