大正琴のドローン弦(開放弦)の調律
60年代ごろの大正琴の楽譜をめくっていると、その曲のスケール(調)ごとにドローン弦のチューニングを変えることが推奨されている場合があります。大正琴と似たような発想の楽器は世界中にあるのですが、ドローン弦の鳴りを活かすなら当然でてくる発想なのでしょう。ただ、大正琴ではほぼ忘れられたアイディアです。
これはやはり昭和末期の大正琴ブームのなかで大正琴の楽しまれ方がアンサンブル(=合奏)に進んだ結果なのでしょうか。特に流派の琴ではドローン弦を排した機種があるのもそういうことなのかもしれません。
さて、そのドローン弦の調律ですが、基本はその調の主音に合わせるのですね。しかし、今のソプラノ大正琴は全ての弦をハ調のソ(=G)に合わせるのが基本です。これはどう理解したら良いのでしょうか?
実はこれ、曲ごとに調弦を変える場合、主音に合わせようにもともと張っている弦では緩くなりすぎてうまく鳴らない場合はI度(主音)ではなくV度(属音)に合わせたらしいのです。そうすると今のソプラノ大正琴の調弦も全部G(=ソ)と考えるのはただしくなくて、ハ長調の演奏のためにドローン弦をV度に合わせたものと分けて考えるべきらしいのですね。ヤイリの一五一会などの発想に近いでしょう。
つまり、鍵盤の「1」をハ長調のド=Cにするために開放弦をGに調律した1~4弦と、ハ長調の主音に対してV度(=G)に調律したドローン弦がたまたま同じになってしまったのであって、本来は別の考えかたによるという訳なのです。
鍵盤の表記を無視して5の鍵盤をドとしてト長調(=G)で弾くときは、ドローン弦が主音と同じ調律になることになり、そのままの調律でよいわけです。
ハ長調の楽譜で弾く場合、ドローン弦をCにチューニングすると弦を張り替える必要がでてくるものの、もっと響きが変わってくるのかもしれません。
色んな調律があり得て発想がますますマウンテンダルシマー的になりますが、この手の大衆楽器は直接の影響関係にはなくとも(特に電気で音響を得られるようになる以前には)響きを求めて収斂進化していくということなのでしょうか。
大正時代の大正琴初期だとそれこそ周辺の楽器はむしろ邦楽器が多いので三味線などと合わせる調弦のやり方が載っているものがあるらしいのですが、まだ詳しいものを見つけられていません。このあたりは今後の課題ですね。