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【家族紹介】比較が無意味だと教えてくれた子育て
プン太(下の子、20代男子)は違う惑星から来た子だ、といつも思う。
180センチ越えの男子で手足が長く、ひょろりとした佇まいでどこか頼りなげ。起きているときはいつも耳に入れ込むタイプのイヤホンを付け、お気に入りの音楽を聴いている。
彼と話すときは厄介だ。聞こえていないと分かりつつ一度話すフリをして、その様子を見た彼がゆっくりと片耳からイヤホンを外し終わるのを待ってから話しかけなくてはいけない。
「片耳は常に外しておきなよ」
見かねた3歳上の姉が、呆れながら声を掛ける。
「ん。」
ボソッと返事し、いつものようにすぐ忘れて再び音の波間に漂う。
ちなみにプン太というのは家族間での愛称。
本名を呼んでいるうちにドンドン変化、行き着いた先の現在の名称である。(これから先もまだまだ変わり続ける可能性あり)
プン太はいま大学生。
普通ならば、友人たちとつるんでワイワイ遊びに行き、授業は適当に受け、空き時間にバイトしてお金を稼ぎ、人生の中で最も自由で貴重な時間をエンジョイしている年頃だ。
だが彼はそれとは全く異なった生活をしている。
まず、他者にはまったく興味を示さない。小さい頃からそうだった。いまも友だちなど誰とも付き合いをしていない。大学ではただひたすら真面目に授業を受けている。
欲しいものもさほどなく、お金に頓着しないので誰かに言われない限りアルバイトはしない。母親や姉が一般常識を身につけた方がいいからと心配し、なんとかバイトさせてはみたが、素直に言うことを聞く性格が災いしてか、今度はブラックバイトに捕まりそうになり大変だったことがある。
とにかく、さまざまな欲がない。
一生悟りが出来ない仙人みたいな子だ。
そんなプン太が好きなのは音楽。
小さい頃からリズムを刻むのが上手かった。
いまプン太はただひたすら音楽に耳を傾けている。呼吸をするのと同じ、というように。
あまりに自分の世界に閉じこもる彼を小さい時から心配し、将来困らないようにあれこれアドバイスやサポートをしてきた。少しずつできることは増えているが、なかなか身に付かない。
だが、最近はそれでもいいんじゃないかと思うようになってきた。
まあ正直、あきらめの気持ちも混じっているが。
イヤホンで音楽を聴きながら、時には外れた音程で口ずさみ、時にはリズムカルに身体を揺らす。側から見ていてカッコよくはないが、そんなことは本人は気にしない。人からどう思われようと関係ないのだ。
音楽の下ではひたすら自由。頭の中できっと音の間を自由に泳いでいるんだろうな、と思わせる空気が彼の周りに漂っている。
そんな彼を見ていると、これから就活どうするんだとか卒論進んでるのかとかの心配事が小さく思えてくる。親としてそれもどうかとも思うが…。
今日も「しょうがないなぁ…」と諦めがちに、そして微笑ましくそばで見ている。