ピアノの上手な奏で方
ピアノの上手な奏で方
今日は上手なピアノの「弾き方」というか「扱い方」に付いて述べようと思う
そもそも「日本ピアノの上手な弾き方研究会」の主任研究員である私がこの論文を発表するにあたって、果たして無料で良いのか?
という葛藤があった事を先ず申しておきます。
前置きの長いのは嫌われるので、直ぐに本題に入る。
ピアノを鳴らす以前の問題として、何処でそれを鳴らすかという事で悩む人は多いだろう。
日本の住宅事情などを考慮した場合、
ピアノを家人と同居させるにも細心の注意を払わなければならない。
深夜に皆が寝静まったと思い、一心に鳴らしている所を、異様な気配を察知して起き出した子供に見られたという経験をした人も居るようである。
また、旦那の姑と同居している場合などは、寝たふりをした姑が襖の陰で聞き耳を立てている、などという事は良くある事なので、
親切な人は(襖の陰にネズミ捕りを仕掛けておく)等のきめ細やかな配慮も忘れない物である。
皆が寝たかどうかを確認するには、オーソドックスな手法として
子供の名前をそっと呼んでみるという手も有るが、この場合、あまり大きな声で呼ぶと寝た子を起こす結果に成り、
思わぬ災厄を引き起こす恐れが有るので十分な注意が必要である。
子供と違い姑の場合は、お菓子などの袋をワザとガサゴソと鳴らすと私を差し置いて自分らだけでお菓子を食べさせてなる物かと、
「オホン」とか「ゲホン」とか、中には「ニャオン」とかの発声でその存在を誇示する卑しい習性があるので、それを活用しよう。
以上の手順を踏まえた上で、覚醒している家人が居ない事を確認すればいよいよ次の段階へ移行する。
足音を立てないようにソット、ピアノの横たわる部屋の前に行くのだが、そのドアに手をかける前に軽く「コホン」と咳払いなどをして置く。
これは別に深い意味は無く、痰が絡んでいると不愉快だと言うだけなので任意で良いだろう。
ここで軽くドアをノックする。
私の若くてステキなピアノの先生は、
「ピアノという物はノックすれば大抵は返事をしてくれる」
と言っていたが、これはどうも嘘だと思う。
ドアをノックされたピアノは、恥じらいで身を硬くして息を殺し、
返事などする余裕が無いと言うのが、私の見解である。
したがって、返事を待たずにドアを開けて中に入っても差し支えは無い。
ここで特に注意をするべき事項として、
これからピアノを弾くと言う期待から、
眼をギラギラさせて、肩でゼイゼイと息などをしていると嫌われてしまう。
入室に際してはさり気なく、出来れば鼻歌などを唄いながら、
視線は45度上方に向けてスマートに行こう。
ただ、上ばかり見ていると、昼間から子供が置きっ放しにしているオモチャなどに足を取られ転倒するなどの事故も予想されるので、安全対策は十分に考慮すべきである。
横たわるピアノの傍におもむろに近寄り、イキナリ手を出すなどの行為はもっての他である。
以前に電車の中で、女子高校生にイキナリ手を出して騒がれたと言う貴重な経験を持つ私が言うのだから間違いない。
出来れば、ピアノのソバに密やかに寄って行き、
軽く微笑んで上げる位の余裕が欲しい物である。
しかし私の考察では、デパートなどの楽器売り場では止めた方が良いだろう。
売り物のピアノに向かってニンマリと微笑んでいる男性客を見かけた場合、大抵の女性が距離を置こうとして近くに有ったドラムセットなどを蹴飛ばし、けたたましい音をだしたりするとウルサイのだ。結果的に幾人もの店員や買い物客に取り囲まれ、売り場の主任が飛んでくるまでそのまま居なければ成らなくなる。
群集の中の孤独ほど己の存在の哀れさを感じさせるものは無いのである。
今は孤独を感じている暇が無いので続きに移ろう。
ピアノの前に静かに寄り添うと、
優しい手つきでその上掛けを剥がして上げなければ成らない。
上質の布地で出来た上掛けは、前開きになっている事が多いので、
その前を開いてソット押し上げてあげましょう。
するとピアノは抗いもせずに為されるままにしています。
現れたピアノのどちらかと言えば色黒ではあっても、滑らかさに思わず息を飲みます。しかし、息を食道の方にあまり多量に飲むとオナラの原料になるかも知れませんので、(私は芸術家なので、科学的にはどうなのか判りませんが)出来るだけ気管の方に飲むように努力しましょう。
ハラリと上掛けを落としたピアノの美しさに、暫し我を忘れて見入ったりするとヨダレを零す恐れも有るので、事前に手ぬぐい等を頭に巻いておくか、頭からかぶり鼻の下で結んで置くのも必要な処置と思われます。
ここまで来ると、ピアノに残されたものは最後の一枚です。
ここで焦らずに、いかにも余裕タップリという風情をみせながら
最後の一枚にそっと両手を添えて開きましょう。
どういう仕組みか判りませんが、下ろすよりも上げる方が開けやすくなっている物です。
さて・・・。
露になった白い肌は艶があり、そっと指を滑らせるとその滑らかさに魅入られます。
ピアノはその部分を押してあげるだけで反応してくれます。
強弱を織り交ぜ、変幻自在な手の動きにピアノは翻弄されたがっています。
数箇所に黒い突起がありますが、ここを軽く押してあげても良い音色を立てるものです。
準備は出来ましたね・・・・。
それではいよいよ佳境の「ピアノの上手な奏で方」です
これはもう一生懸命に練習してもらうしかありません