小学校入学前の私が猫を拾ってきた
「お世話するから、ちゃんとお世話するからこの猫飼っていい?お母さん」
なんていう、涙ぐましいやりとりなんてなかったけれど、小学校に入学する前の小さな私は猫を拾ってきたことがあった。
新築一戸建てに引っ越してきたばかり。いや、半年は経っていたかもしれない。
転園することはなかったが、家から1.5時間かけて公共交通機関を使って幼稚園に通っていた。幼稚園の友達は家の近くに住んでるはずもなく小さな私のぼっちライフが始まった。その頃ちょうど年長さんも半分はすぎていたころ。
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引っ越したばかりで、周辺の地理なんてわかるはずもないから小さな私は毎日外に行っては自分の遊び場となると公園を見つけて、遊んで帰ってくる日々だった。
春も到来しそうだけれど、やっぱりちょっと肌寒いかもという季節、私はいつも通りぼっちで小さな公園に遊びに来ていた。
全然知らない同い年くらいの女の子二人が公園のベンチで何かを覗き込んでいた。
「かわいいー」
「ねー、かわいいー」
こちとらぼっちであることを悟られては負けると変なプライドを持っていたのと、でもあの子たちとお友達にもなりたい!けど恥ずかしい無理、と色々拗らせていたせいで、最高に気になっていたとはいえ中々近寄って話かけるのに時間がかかった。
砂場から様子を見ていたけど、居ても立っても居られなくなり女の子達に近づいて話しかけてみた。
「ねーねー、どうしたの?なにかあるの?」
「あのねー」
振り向いた女の子達の間から何やらうねうね動くものが見えた。
子猫だ。
目も開いてない子猫が4匹小さく鳴いては手足を動かしていた。
「猫だ!!!!!」
ぼっちを極めし小さな私はご近所の犬全てとお友達になるくらいの無類の動物好きだったけれど、初めて間近で見る猫にびっくりしていた。
親猫はどこだろう
キョロキョロと周りを見渡しても猫一匹見つからない。
たしかにこの辺は猫が割と多い地域ではあったが今日私が公園にきてからは猫一匹見かけていない。いや、今目の前にいるものを除いて。
「親猫が迎えにくるかもしれないから、ちょっとこのままにしておこー」
女の子の片方がもっともなことを言ってくれて、小さな私と女の子達でブランコしたり滑り台で遊んだりした。
「お昼ご飯食べるからまたねー!」
お昼ご飯を食べに戻った小さな私と女の子たち。
書いてて気づいたけど、お昼ご飯食べるために家に帰る元気があるってすごい、いやほんとに。
話を戻そう。家に帰り興奮気味にお昼ご飯を食べた私はその足でまた公園に行ったのだ。
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猫は、ちゃんと親猫が迎えに来ただろうか...
私の期待は見事に裏切られた。
ひとっ子一人いなかったであろう公園のはずなのに、戻ってきても子猫は初めて会った時同様、みいみいと鳴いている。親猫はどこにいるの。
その周辺には同じくご飯を食べて戻ってきたであろう女の子二人がいた。
「子猫まだいるね」
「そうなの、親猫こないのかなぁ」
目の前の小さな4つの命を心配する私たち。
とりあえずこのままではダメだとなんとなく悟った私たちは公園のお向かいに住む全然知らない人の家にピンポンして猫拾いませんか運動を始めた。
断られること数件、あるお家には断られたけど段ボール箱をくれたので、公園に戻りそのまま子猫達を箱に入れた。
捨て猫感が増す。
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次どうしようか、と話をしていたら少し天気が悪くなってきた。
雨も降りそう、そんな天気だった。
「わかった、あたし飼うよ!この子可愛いし!」
「わたしも飼う!この子にする!」
女の子たちが突然提案してきて、小さな私は戸惑う。
みいみいと鳴く子猫は、
一匹は顔にだけ柄のある白いのと
一匹は牛柄で
一匹は、茶色と白で
一匹はグレーと白
だった。
女の子達が持ち上げた子猫は「顔にだけ柄のある白いの」「牛柄」だった。
さすがの小さな私でさえも思うところちょっとはあった。
ちょっと待って。自分で決められるの?お母さん、お父さんにちゃんと言ってからじゃなくていいの?
ぐっと堪えた。女の子達は私より1-2個上で小学生のお姉さんだったし、言ってどうにかなるとは思えなかった。
拾ってくれるならそのままきっと育ててくれるって思い込もうとしてた。
「じゃあねー」
「バイバイー」
茶色とグレーの子猫を残して、彼女たちは猫一匹抱えて家に帰っていった。
あの女の子たちどこ小なのか聞き忘れた。
残されたのはぼっちを極め動物を愛する小さな私と茶色とグレーの目も開かない箱に入った子猫。
しばらくじっと見ていた。
ポツ....ポツ....
え、まさか。どうしたお空。小さな私は焦った。
子猫の入った段ボール箱はフルオープンスタイル。屋根なんてありません、その予定もございません。
雨が次第に強くなり、とりあえず焦った小さな私は箱ごとベンチの下に移動させた。
無駄な抵抗だった。ベンチの座るところの隙間から雨が降り注ぐ。雨が強くなる。
滑り台の下だ!とひらめき箱を抱えてダッシュする。
すでに小さな私自身はびしょびしょである。滑り台の下に放置されてた新聞紙はまだ濡れてなかったから箱にかけた。
ふう、これで子猫は安心だ
雨が降る中、子猫の様子を見ていたが、困ったことに雨は強くなるし、小さな私は傘を持ってないし、そして寒くなってきたし、夕方に近づいていた。
この猫たちを置いて家に帰るのはどう考えても無理なので、とりあえずお家に避難させよう。
小さな私は、避難目的なら一時凌げるだろうこと、飼うとは言ってないけど、飼いたい気持ちがあったこと、頭の中でぐるぐるさせながら自転車のカゴに子猫の入った箱を置いて全力で家に帰った。
♦
「ただいま!!!!!」
お父さんが玄関まで来る。
「おかえり、ずぶぬれだ・・」
子猫の入った箱を持ち、ずぶ濡れになった私を見て色々悟ったような顔をしていた。
「綺麗な段ボールあるから持ってこようね。あとその子を入れていいかはママに聞いてみようね。」
ぐっしょりと濡れた靴と靴下を脱いで、玄関に敷かれた脚用のタオルで水気をぺたぺたと踏んで拭い、猫の箱を抱えたまま、2階に駆け上がりお母さんと呼びまくった。
お風呂場から音がする。脱衣場に侵入するとお母さんの着替えがあって確信した。
ぼっちを極め動物を愛する小さな私と茶色とグレーの目も開かない箱に入った子猫は、お風呂場に突入した。
「お母さん!!!ねこかっていい!!?!!?」
私に背を向けて頭を洗っていたお母さんが何事かとたいそう慌てる。状況が理解できてない。
けど、ドアを閉めて欲しい気持ち一心のお母さんからの渾身の一言
「飼っていいからドア閉めて!!!!」
小さな私、大喜びで猫を抱えてお父さんの元に走る。
さっき帰ってきたばかりの玄関の端っこにお父さんが用意してくれた段ボールがあった。とりあえず雨に濡れた箱よりマシだろうと、子猫達を移した。
「猫を置くのは今日だけだからね。1日だけ。」
お父さんから伝えられた一言。
そうか、飼っていいのは1日だけか...と肩を落としたけど、元々飼えるとは思っていなかったのですぐ切り替えられた。
猫達の下にしく新聞紙を探して取ってきたり、敷いたりしていたら、お母さんがお風呂を終えて一階に降りてきた。
「本当に猫がいる。しかも目も開いてないから、生まれたてかしら。とりあえず、洗ってからめやにを....」
みいみいと鳴く、茶色とグレーの子猫を抱えて洗面台に行き、ぬるま湯で汚れを落としていくお母さん。
小さな私は横で見ていた。
猫用タオル(人間のお下がり)で一匹ずつ包み寒くないように乾かしていく。小さな私も手伝う。
ぬるま湯に浸したティッシュで優しくめやにをとっていく。これがまた頑固。全て取り切れることはなく少しだけとって終わり。
お父さんが猫のご飯を調達しにペットショップへ。
小さな私はその間の記憶がない。そう、多分気を張りすぎて疲れて寝てしまっていた。
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起きたのは夜ご飯の頃、玄関に行くと清潔なバスタオル(猫用)を敷かれ、ご飯もたらふく食べたであろう茶色とグレーの子猫が爆睡していた。
夜ご飯中、お母さんもお父さんも猫について何も言わなかった。どこで拾ってきたのとか、拾う前はどうしてたのか、とかそういう話はしたけれど、捨ててきなさいとか、飼えないとかそんな話は出なかった。
1日だけ飼っていい
それだけが、私の頭には残っていて明日が来なければいいのになぁと考えていた。
小さな私はよく寝るので、そんな事考えつつも爆睡して明日がきた。
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「おはよう。」
「おはよう。」
お母さんが挨拶を返す。
「とりあえず動物病院に行こう」
朝一番にお母さんから言われて、いそいでお出かけの準備をする。
猫が健康な状態かを確かめてからの方が飼い主探すのにいいもんね!
と謎にやる気を出していたのは小さな私。
動物病院について猫を診察してもらって、概ね健康、ノミもいない。
お腹の虫はいるのでお薬出しましょうとだけ言われた。
お薬を飲みつつ、目やにも取りつつ、数日過ごした。
やがて子猫のめやにもとれて目がぱっちり開いて、いたずらっこな子猫たちに名前がついた。
お兄ちゃんがつけたのはグレーの猫に「サン」
女の子だ。
小さな私がつけたのは茶色の猫に「ラン」
男の子だ。
お兄ちゃんが「サン」って付けたからなんとなく「ラン」にしたけど、後付けで「月(luna)と太陽(sun)」だなんて大人の私は言っている。
あの後からサンもランも生涯猫生ずっと家族だった。
お父さんに言われた、あの「1日」がずっと続いていた。
ランは約13年、サンに至っては22年。
もうきょうだいも同然だった。一緒に育ってきた。
お父さんもお母さんも3人も子供がいるのにさらに、やんちゃでいたずらっ子なサンとランが増えて大変だったと思う。
新築の家に突然猫が来て壁紙やソファを爪とぎされたのも心底大丈夫じゃなかったと思う。
猫の身長測るために猫をびよーんと伸ばした小さな私は、お母さんの花嫁道具の食器棚の側面に油性マジックで「サンのしんちょう」「ランのしんちょう」って書いたのも心底大丈夫じゃなかったと思う。
ぼっちを極め動物を愛する小さな私は、猫と共に育ち、猫と寝食を共にして猫と喧嘩したり慰めてもらったりして猫をこよなく愛する大人になりました。
実は動物が好きじゃなかったお母さんも、後ろをついて回る猫らしからぬランの姿に簡単に籠絡され我が家の猫ラ部に早々に入部。
お兄ちゃん達も例に漏れず。
お父さんは顔に出ないけど猫達が自分の布団には入ってきてくれないという理由でしょんぼりしてたの小さな私は知っていた。
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そして今日3/6は、一番長く一緒に居たサンの命日です。
命日をGoogleカレンダーに登録していて、今日それをみつけて、
「あの頃を振り返ろう」と思い、noteに書きました。
振り返るだけでこんなにも涙がでるのは愛情深さの証なのか、悲しんでいるだけなのか分かりませんが、大きな私は花粉症のせいということにしたい。いや、絶対そうだ。
大人の私は賃貸の都合上、猫が飼えていないけど猫OK物件に引っ越してまたランやサンみたいな猫・家族と暮らしたい。
猫を飼うって綺麗事じゃ全然収まらないくらいいろいろあるけど、いや本当にあって猫と本気で喧嘩したことも数えきれないほどあったけれど、それでも好きだから猫とまた暮らしていきたい。
天国でサンもランもきっと元気なことでしょう。
改めて伝えたいのは、小さな私に見つけさせてくれてありがとう、私の家族・きょうだいになってくれてありがとう。
おばあちゃんな私がそっちに行くまで待ってるんやで。
ただそれが言いたくてnoteにかきました。
おわり。
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